Sランク狩人の狩り飯事情 エピソード0
読み切りというか短編です。
今のところ連載予定はありません。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
※1
狩を生業とする職業。そのまま狩人。
近年増加する怪物・怪獣被害の減少へと貢献する、この職業を志す若者は少なくない。
なるのに試験があるわけでもない職業なだけに、荒くれや腕自慢などもその多くが狩人を名乗る。
上のクラスの仕事の報酬が、とてつもなくいいというのも人気の理由だろう。
当然、その分は危険が増すのは当たり前だが、それを差し引いても魅力的なのは確かだ。街の中にはないものが、普通では得られないものが、確かに街の外にはある。
かく言う私自身も狩人であり、そのランクは最上位のSランク。山ほどいる狩人の中で一握りしかいない人間である。
その私も、駆け出しの頃の理由としては被害うんぬんより、報酬と外への興味が主な理由だった……。
13歳で狩人となりもう10年が経った。だが、決して長くはなかった10年だ。
一度、街を離れ狩に出れば1週間。1ヶ月。下手するとそれ以上は街に戻れないのが、当たり前のような仕事だからだ。
そんな外での仕事は生きるか死ぬかにプラスして、時間の感覚も曖昧になる。街に帰ってきて、『──はっ!? 年越してる』となったことが、10年の間に数回ある。
おかげで街で毎年盛大に行われるクリスマスパーティに、参加できない年があったのを私は今だに悔やんでいる。
そんな生活なだけに住む家も借家で十分足りる。いくら金があろうと、ろくに住まない家に金をかける必要はない。
狩人として現役を続ける限り、家は必要ないだろう。
とはいえ協会という狩人の仕事を斡旋、サポートする場所が家と言えなくもないか……。家も家族もない私にとってはだが。
なに、これに大して特別な理由があるわけではない。よくあること。その結果の天涯孤独というだけだ。
しかし、天涯孤独で家族はなくても、それに類する者たちはいる。共に戦う仲間たちだ。
協会の人間。パーティを組む人間。彼ら彼女らは仲間であり、私の家族だと思っている。
そうだな、私は共に戦う仲間にも恵まれた。長くパーティを組んだ彼らには感謝しかない。男ばかりだが気のいい奴らだ。それに頼りになる。
己以外を信じない私だが彼らは別だ。長く苦楽を共にした彼らは、信用できる男たちだ。
だからこそ理解して欲しかった……。快く受け入れて欲しかった……。
『悪いが、今日でパーティを抜けさせてくれ。なに、私の抜けた穴は大したことない。代わりなんていくらでも見つかる。今や、腕のいい後衛職はごまんといる』
こう私は打ち上げの席で口にした。全員がいるところで、大きな仕事を終えたところでだ。
このことは最近ずっと考えていた。その区切りをつけるのに、今回の仕事の終わりはちょうど良かったのだ。
竜種を討伐し、多額の報酬を得て、近隣の被害の心配もなくなった。だから……いや本当は。ずっと以前から考えていたんだ。
『……何言ってんだよ。冗談だろ?』
『悪いな。冗談じゃない』
『お前ほどの男がパーティを抜けてどこにいくんだ。休みが欲しいって話なら、竜種もいない、金もある。1ヶ月でも2ヶ月でも──』
『それでは足りない。実はな、やりたい事があるんだ。それにはうんと時間がかかる。その間中、お前らに迷惑はかけられない。だから、』
『──納得できるか! ずっと一緒にやってきた仲間だろ、俺たちは! 大して話もせずに、理由も分からずに、納得できるわけないだろ!』
『……それは言えない。黙って送り出してくれ……』
『──できねぇって言ってんだよ! 納得のいく理由を説明してみろ!』
こいつは私たちのパーティのリーダー。熱い男だ。
熱苦しいくらいの男なのは分かってた。駆け出しの頃からずっと一緒だから。
残りの2人も、こいつほどではないが熱いものを持っている。その2人が口を出さなかったのは、一番付き合いの長いリーダーが、自分たちの分も代弁していたからだろう。
『分かった。説明しろと言うなら説明してやる。その代わり、聞いても後悔するなよ? いいか。オレは、─────────、───────────! ─────────、─────────!』
『『『──!?』』』
しかし、熱いものと言うなら私も同じだな。『オレ』なんて言ってしまうのは、親しい人間の前でだけだ。
何かしらの熱量がなければ、狩人なんて続かない。熱量は必要なものだ。
そして、私の熱は狩より別なことに向いている。それがパーティを抜ける理由である。
『──だからだ! 分かったか、このクソ野郎共が!』
『お、お前。ず、ずっとそんな事を思ってたのか?』
『あぁ、思ってた。逆に聞きたいが、何も思わなかったのか? 10年だぞ、10年! 我ながらよく我慢した。だが、もう限界だ。協会に直談判してもダメだった。となれば、自分でやるしかないだろうが!』
『わ、分かった。お前はそういう男だったよな。パーティは抜けてくれて構わない。お前らもいいよな? OK、全会一致だ。だが、忘れんな。何があろうと俺たちは仲間だ。戻るところは残しておくぞ』
『……いつになるか分からないぞ?』
『それでもだ』
こうして10年という時間を過ごしたパーティを抜けた。次の日からは必要な道具を揃えたり、拠点とするべき住むところを探した。
それだけで2ヶ月という時間がかかった。やはり、パーティを組んだままでは出来ないことなんだと、私は改めて自覚した。
※2
1人になり最初に考えたのは住むところ。
どうせなら拠点となるところがいいと、いい物件を探したがなかなか見つからなかった。
ようやく見つけた物件は一軒家で、口のうまい不動産屋に上手いこと乗せられてしまって、気づけば家を購入していた……。
確かにどのくらいの期間が必要なのかは自分でも分からないのだが、言われた事に納得し家を買ってしまった。ローンというのも嫌だったので一括で。
そのための現金を用意してくれと協会に連絡したところ、すぐに現金は嫌味と共に運ばれてきた。
『……キミはバカか。引退と新聞の一面にのったと思えばまたかい。パーティを抜けて家を買う。結婚でもするのかと誰もが思う。もう一度言おう。バカか! しかし、幸いなことに知っているのはマイホーム購入資金を持ってきたボクだけだ。これ以上の騒ぎは遠慮したいから、新聞にはのらないように情報操作はしておこう。せいぜい、したいこととやらをするといい!』
協会から現金を持って来た使いは知り合いというか、パーティを抜けたことを報告できないでいたヤツだった。
新聞で事態を知ったからか、やって来るなりだいぶお冠で、チクチク嫌味を言われた。
駆け出しの頃から一緒に駆け上がってきたヤツだから、パーティメンバーの次には言わないとと思ってたんだが、こうなるだろうと思ったから言えなかったのだ。
『いくら言っても言い足りないが、長居もできないし帰る。もう1つの頼み事は期待しないで待ってな。そんなヤツがいるとは思えないけど、権力にものを言わせて探すだけは探してやるよ』
私たちがSランクとなる間に、協会の下働きは人を使うまでに成り上がっていた。
昔は依頼を受けた私たちを心配してくれるヤツだったのだが、付き合いの長さからか、しだいに本性を現してきた。
昔なら思わなかったが、今は権力を与えてはいけないヤツではないかと私は内心思っている。
それを本人には口が裂けても言えやしないがね。
『──本棚はそこ。テーブルはそこ。ああ、ベッドは2階に頼むよ。食器類は置いておいてくれて構わない。ボクがやるから』
チクチク言われてから数日後。
朝起きたら家の中が騒がしいので、急いで1階に下りてくると、何故だか引越し業者が作業をしていた。何か大量の荷物を運び入れているようだ。
それを指示しているのはチクチク言っていた本人。
『待て。何をしている?』
『何って、荷物を運び込んでいるんだけど?』
『何故、私の買った家に?』
『1人暮らしには広すぎる家だろ、ここ。休みに羽を伸ばすにはいいかと思ってさ。心配しなくても邪魔はしないから。協会からのお目付役だと思ってくれ。家賃の代わりに女性のいる空間を提供するから』
『……』
こうして買った家は勝手に別荘にされた。
そして言った通り毎週末やって来ては、またチクチクと嫌味を言われることになってしまった。
しかし、拠点は手に入った。よしとしよう。余計なオマケが付いているが、邪魔はしないらしいのでよしとしよう。
※3
私が拠点としたのは駆け出しの狩人の集まる街。そこの外れにある一軒家。
元は誰かの別荘だったらしいが、ここが田舎過ぎたのか売りに出ていた。それを買った。
ようやく拠点は手に入り、道具も用意はできた。後は足りなければ街に行けば手に入る。
だが、協会のあるところと比べると道具の質は落ちる。それは見越していたので、予め用意に時間をかけたのだ。
その用意も完了し、いよいよ今日から行動を開始する。
その行動。最初に行う採取という仕事を、思えば私は一度も受けた事がない。
駆け出しの頃から、腕っぷしだけで稼いできたからだ。だから戦闘に必要な知識はあれど、その他の知識は欠落している。
それを今から学ぶために最初からやり直すというわけだ。とりあえず、街の近くの平原地帯を隅々まで歩いてみる。
その際。目的には下調べと採取が必要だから、回収できるものは持ち帰ることにする。
地図の類は全て頭の中にある。位置取りは後衛職には必須だし、何度も足を運んだ場所だから問題ない。
これまでとは違い生き物に目をやらず、草木や植物を重視していく。だが、無知たる己には見分けることができない。
そこで用意した図鑑だ。この図鑑も駆け出しの街では手に入らない物で、この辺りの生態系は網羅している。値ははるがその価値はある。
「これは毒性なし。これは毒性あり」
まずは植物から。野生という場所で初めての採取。背中のカゴがいっぱいになるくらいに、それらを取る。取り続ける。
植物の次は木の実に果物。調理、調合されたものはあれど。素材、生というのは初めて見た。
機会はいくらでもあったはずなのに、前を見るだけで精一杯だった。だから、10年もかかったのだろう……。
だが、行動を開始したのだからそんなことはもういい。今から学ぶでいいんだ。
「よし、この辺の図鑑の素材はコンプリートしたな。今日はこれを持ち帰って味見を……」
採取を初めて数時間。ようやく本日の目的を達成したから帰ろうかと思った時、そう遠くない場所で銃声が聞こえた。
何かに向けて乱射という音だ。
──口径の違う銃。ガンナーが2人。
──銃声に混じる金属音は剣。それも大剣か。
──3人。いや、パーティだとするならもう1人。
──後衛が2人なら残る1人も前衛か?
……どちらにせよ、あまり良くはないな。
ガンナーが使っている銃が悪い。ここらは音に寄ってくるヤツも多かったはずだ。
それが分からないってことは初心者。駆け出しか。ここまで気づいて無視はできないな。仕方ない。
いっぱいになったカゴを背負ったまま出せる全速力で、銃声がしたところへ様子を見にいくことした。
※4
パーティというのは状況や相手に応じて変えるのが望ましい。前衛職なら後衛職をというふうに2人。後は戦う相手を見てメンバーを選ぶ。
しかし、この場合、連携というものは出来ないと思った方がいい。いきなり背中を任せるのも、任されるのもどちらも無理だから。
だから、私たちはパーティメンバーを入れ替える事なく、それぞれの職を極めた。
戦闘中、誰がどこにいて何をして、何をしようとするのかも把握できるほどに連携もあった。
だが、この連中は……。
パーティを組んだのは昨日今日。役割はおろか、自分の武器すらまともに扱えないとは。
連携はおろか意思疎通もままならない。
前衛が前に出過ぎるから、後衛は思ったように撃てず、威嚇にもならない無駄弾を撃つ。
前衛は前衛で援護が足りないから退がるに退がれない。盾持ちはどうしたらいいのか分からないと。
この悪循環に喜ぶのは怪獣だけだ。
駆け出したちが対峙しているのは、長く伸びた耳が特徴的な怪獣たち。
あの耳は広域に音を拾い、バネのような筋力をしている脚は、飛び跳ねるのに適している。ピョンピョン飛び跳ねるから狙いがつけにくいし、遅く大振りな攻撃など当たるわけがない。
まだ弾がある今のうちはいいが、なくなれば追い詰められ、あの怪獣たちの餌だ。
今の若い奴らは武器に頼りすぎだな……。
10年前と比べると武器の性能は比較にならないほど上昇したが、そのせいでこんな無茶をやる。
「──前衛は退がれ! 後衛は2人で狙いを合わせて撃って1匹でも数を減らせ。真ん中のお前は仲間の盾になりつつ後ろへだ!」
教えてくれる人間がいないのも問題か。手が回らないんだろうが、それで死人を増やしていてはな。
見に来てしまったからには、口も出すことにしよう。
「──聞こえないのか! 音に怪獣がさらに集まってくれば退路もないぞ!」
見ず知らずの人間の言葉に耳を貸す気はないらしく、駆け出しのパーティは一丸となって戦闘を続行する。
見ず知らずの人間より、付き合いの浅いパーティメンバーということらしい。
「……仕方ない」
戦闘は全部避けるつもりだったが一応持ってきた弓を構え、駆け出し組と怪獣とを分断するために矢を放つ。
放ったのは煙幕を起こす火薬の付いた矢。矢は寸分のくるいなく狙って位置に着弾した。
続けて二射、三射と弓を引き、辺りを煙でうめ尽くす。
「──こっちだ!」
これなら両者戦闘の継続は困難であり、退路はこちら側にしかないとなる。「余計なことしやがって!」だの「あの怪しい人は?」だの聞こえるが、今は撤退だ。
※5
耳の長い怪獣たちから、ある程度の距離を取り。私が安全と判断したところまで後退した。
ここら辺でいいだろうと足を止め、後ろをついてきていた駆け出したちの方を振り返ると、もれなく全員が息を切らし、全力疾走でもしたような有様だった。
いくら装備があるとはいえ情けない。
こっちはカゴを背負っての移動だが、息切れすらないというのに、まったくもって情けない。
「……はぁ……はぁ……余計なことしやがって……」
情けなく息を切らして言うのは大剣の男。
その剣が重いなら大剣など持つべきではない。
「余計なことか。なら聞くが、後衛の残弾は? あと何分もった。その時間で怪獣を全滅させられたか? その重そうな剣で」
「何を……」
「見たところお前がリーダーだな。仲間の命すら考えず、好き勝手するのがリーダーなら、リーダーなどやめてしまえ」
私は本当のことしか言ってないが、カッとなったらしい大剣男は掴みかかろうとしてくる。
無論、息切れしているような奴に掴まれる私ではない。大剣男を採取用の道具で軽くあしらってやる。
「どうした? これ、採取用の道具だぞ」
「くそ、変な格好のくせに」
「変な格好だと? 私のどこが変だと言うんだ」
「自覚ねーのか! ガスマスクに全身防護服。背中にはどこにいても目立つバカでかいカゴ。なんなんだ、冷蔵庫かそれ!? これで何をもって変じゃないって言うつもりだ!」
確かに、私はこの男の言う通りの装いだが、これはあらゆる環境に適応するための装備。
カゴも含め少し重いのが欠点だが、性能を考えると当然だ。何も恥ずべきことなどない。
「でも、指示も弓の腕前もすごかったです!」
ガンナーの女の子は分かっている。「でも」という部分が引っかかるが、この際よしとしよう。
あと、この子も武器が重そうだ。重いならやはり持つべきではない。
「あのままだったら1分としないで弾切れでした。助けられたんだよ? お礼言わないと」
「礼はいい。たまたまだからな。次からは気をつけて仕事をするように。金はかかるが協会に言って、サポートを付けてもらうことをオススメするよ。では失礼」
目的は達成しているし、あまり馴れ合うつもりもないので、話を切り帰ることにする。
駆け出しの面倒を見るつもりもないし、そんな時間もない。採取は終わったのだから次は調理だ。
※6
仕事のために一度街から出れば、野宿が狩人の基本だ。怪獣の脅威がある街の外に、宿屋などありはしないからだ。
まあ、狩人になろうという輩は、野宿くらいでは何も感じない。私自身も野宿に異論はないが、その中にどうしても許せないことがあった。
それは食事。街にいる期間より街の外にいる方が長い職業ゆえの問題点。狩人の仕事の友である保存食というヤツは、保存できる期間が長いほど……不味い。
そして怪獣は強いほど長い期間ずっと戦わなければならず、その間ずっと不味い保存食を食べ続けなくてはいけない。
この苦行に私は我慢できなくなった。いや、10年は我慢したんだ。違うな、10年も我慢したんだ。
他の奴らはこれを気にもしない。
奴らは仕事で街から出る前にしこたま遊び、旨いものを食べ、旨い酒を飲み、満足して仕事に出る。また、街に帰ったら旨いものを食べられるからだ。
私は頭おかしいのではないかと思う。でなければ、あの味に満足できる輩がいるわけがない。
保存食の改善を協会に何度訴えても、改善されるのは栄養価と保存期間。頭がおかしいだろ?
だから、自分でやることにした。保存食の改善ではなく、街の外での食事の改善を。
これが私がやりたい事であり、やらなければならない事でもある。何としても美味しい食事をだ。
「……草は草味」
「……花は花味」
「果物はまあ甘いか。うっ、これはシブい……」
まずは、このように採取してきた物をそのまま食べる。図鑑には味までは記載されていないからだ。
食べたものはノートにその味を書き込む。
図鑑と照らし合わせることで、素材の味を確認できるようにする。
「次は加熱して各種食べてみよう。味に変化があるだろうからな」
台所に立ったことなど人生の中で一度もないが、火をつけフライパンで炒めるくらいはできるだろう。
よく酒場やらで調理しているところは見ているんだ。何も難しいことなどない。
「ただいまー」
「──外に出ろ、爆発する!」
どこがいけないのか分からないが、変な臭いがしたと思ったら、フライパンから火が出た。
その火を消火しようとフライパンから離れたところ、火は天井付近まで上がり、爆発するに至る。長年の勘だがまず間違いなく爆発する。
「──はっ!? なっ──」
そんな場面にタイミング悪く、休みだからとやって来たヤツを押し倒し、爆発から身を守る。
予想通り爆発は起き、台所は大破し真っ黒に焦げてしまった。
「ふう、間一髪だった」
「なななななな、何が間一髪だ! どうやったら台所が爆発するんだ!? 火はキミの専門だろう。じゃなくて、コレクションが!」
台所には運び入れられた食器棚があり、中にはコレクションだという食器があった。
食器棚はもれなく今の爆発に巻き込まれたから、あったという表現があっているだろう。
「あーーっ、コ、コレクションが……」
「ごめんなさい」
「──ごめんですむか! 一生かかっても弁償してもらうからな!」
一生かかっても言われた時は恐怖を感じたが、買い直したところで大した額ではなかった。台所も完璧に修理してもらったが、こちらも大した額ではなかった。
※7
「見つかった。明日来るらしいから……」
「何の話だ?」
土曜日の午後にやって来るなり、何を言い出したのかと思った。いつも以上に不機嫌で関わりたくないのが本音だが、それはそれで不機嫌になるから、私には聞き返すしかなかった。
「御所望の料理人だよ! そんなヤツいないと思って探したのにいたんだよ! ……で、明日ここに来るから」
「そうか! それはあれだな。明日までに採取しておかないとだな! これから出かけてくる。明日までは戻ってくるが、先に来てしまったら対応を頼む」
「お好きにどうぞ。ボクは来客なんだから、来客への対応はしないから。来る前に帰ってきて勝手にやるんだねーー」
それだけ言うと持ってきた本と飲み物を持ち、自分で勝手に作成した庭にいき、勝手に取り付けたハンモックに寝っ転がる。
今週はご自慢の庭で読書をして過ごすらしい。
休日の過ごし方にどうこう言うつもりもないが、ここが私の家だと分かっているのだろうかと思ってしまう。もちろん、それを口には出せない。
「……しかし、あの様子では本当に何もしないな」
自分で呼んだのだから追い返しはしないだろうが、何をするつもりもないなアレ。留守だったら待っていてほしいと、書き残していくしかないか。
アレにはがされないようにドアの前がいいな。
食料は買い込んできたから買い物になど出ないし、来客の対応もしないとなれば外にはまず出ない。
「──これでよし。後は採取だ」
繰り返す成果の出ない1人調理のせいで素材は尽きてきていて、そろそろ採取にいかないとと思っていたからちょうどいい。
時間がないからいつものようにはいかないだろうが、最低限のものは用意したい。
明日来るという念願の料理人。果たしてどんな人物だろうか?
アレが見つけたのだから間違いはないはずだ。なんだか、いつになく期待してしまう。
どうせこれでは今日は寝付けなかっただろうから、外にいるというのもちょうどいい。
「あっ、ガスマスクのひと!」
「……ああ、キミはいつぞやのガンナーか。大剣が重そうな男がリーダーのパーティの。それとこれはガスマスクだけではなく──」
街から外に出るところで、いつだったか世話を焼いた駆け出したちに遭遇した。
正直言ってこの女の子の顔しか覚えていない。後ろの2人はあの時いたようないなかったような……。あと、重そうな大剣の男か。
私はとても忙しいのだが、話しかけられて無視もできない。この格好は目立つようだから、対応があれではアレのように思われてしまう。
変な評判が立って、街に行きにくくなっても困るからな。
「──重くねぇ! 相変わらずふざけた格好しやがって!」
呼んだわけでもないのに大剣男が出てきた。
私は忙しいのだが、出てくる必要はないのだが、出てきた。
「なんだいたのか。相変わらず剣は重そうに見えるが? 鉱石系の剣は強力だが重いだろ。身の丈にあった武器を選ぶべきだと私は思うがな」
「はっ、サポートの人が選んだ装備だ。文句つけんなら先生に言うんだな。なぁ、先生」
その上、先生とやらまで出てきた……。
ちゃんと私が言ったことを聞いてサポートを付けたのはいいが、別に呼ばなくてもいいのに……。
「オレのセンスにケチつけるとはいい度胸だな。このオレ、Cクラスの紅い弾丸の名を知らねーな?」
全身真っ赤な装備に身を包んだ先生が現れた。
目立ってナンボというのが前面に押し出されたセンス。特注なのか武器まで赤い。
見るからに暑苦しく、見るからに趣味が悪い。
「すまない。その二つ名に聞き覚えはない」
「だろうなぁ、こんな田舎じゃ無理もねぇ」
「では、失礼」
しかし、二つ名を持っているとは中々いい人選だな。安くはない費用がかかっているはずだ。
指導方法も武器のセンスも含めてサポートの一環だろう。口は出すまい。あと、私は忙しいのだ。
「そうだよなぁ、田舎じゃCなんてクラスの人間にお目にかかることすらねぇよなぁ。なんならサインしてやってもいいんだぜ、──ってスルー!?」
語り出した先生の横を通り抜けようとしたら、振り向きざまに腕を掴まれた。
……見た目はこんなんだが私を掴むとはな。実力は確かなようだ。
「なぁ、ふざけたヤツだろ?」
「あぁ、人が喋ってんのに横を通り抜けようとするとはふざけたヤツだ! 紅い弾丸の名を覚えさせてやる。そのマスクにサインしてやるよ!」
だが、こんなのに構ってはいられないのだ。来客が来るまでに戻ってこないといけないのだから。
先生がどこかからペンを取り出しその手を動かす前に、採取の道具で足を突き刺し、背中のカゴで先生をはじき飛ばす。
「いて、痛っ──!?」
「せ、先生ーーーーっ!」
サポートに生徒の前であまり無様な真似をさせたくはなかったが、私の邪魔をするなら仕方ない。
適当にあしらって転がしておこう。
「では失礼。夜の仕事は不測の事態に陥ることが多いから、気をつけるように」
こうして昼とは全く異なる街の外。
夜の平原地帯に、私は足を踏み入れた。
※8
夜というだけで、街の外はその様子を昼間とは逆転する。これが砂漠なら気温がひっくり返り、ここ平原なら生き物が入れ替わる。
昼間行動する生き物は皆住処に身を隠し、その姿は1匹たりとも確認できない。夜にいる生き物は夜にしか現れないが、それが意味するのは静寂。
──誰も、──何もいない。
こんな時間に出歩くのは怪物と怪獣。
あと、それを狩る狩人だけだ。
「昼間と違い余計な生き物がいないというのはいいな。採取が捗る」
しかし、採取するにはいい環境だ。
気をつけるべきは大型の怪獣に、ゾンビのような怪物。どちらも接近しなければ問題ない。
夜に採取に来たのは初めてだが、これからはこうするべきか?
「……」
そんなことを考えながら採取をしていると、こちらに真っ直ぐ足音が近づいてくることに気がついた。
念のため採取をやめ、武器を構えられるようにしたが、近づいてくるのは怪獣ではなく人型。それもゾンビのような動きの鈍いものではなく人間だった。
「キミは──」
現れたのはガンナーの女の子。先ほど街を出るところで会ったパーティの女の子だった。
彼女は涙目で、装備はあちこち壊れ、息も激しく乱れている。血が出ているところもある。
ただ事ではない様子だが、呼吸がおかしい彼女は言葉を発することができずにいる。この状況で、落ち着いてくれと言ったところで無理だろう。
「頷くだけでいい。何かあったな?」
その問いに頷く彼女からは事態の深刻さを感じた。
採取に忙しい私だが、わざわざ助けを求められて見て見ぬふりはできない。
彼女は街に連絡をつけるのではなく、私を頼ってきたのだから。
「よし、行こう」
女の子をヒョイと持ち上げそのまま移動してもいいが、手がふさがっていては弓が持てない。
よって、背中のカゴに彼女を放り込み移動することにする。もちろん優しくカゴへと放り込んだ。
「!?」
「傷薬も水も持ち合わせがない。何もしてやれなくてすまない。では、移動を開始する。揺れるだろうが我慢してほしい。落ち着いたら事態の説明も頼む。では、行くぞ──」
「──!?」
幸いまだ採取量は大したことない。カゴの中身が女の子1人分重くなったところで支障はない。真っ暗闇の移動も問題ない。
大剣男はガスマスクとこのマスクを言っていたがそれだけではない。これはガスマスクとしてだけでなく、暗視も可能という高性能な代物だからだ。
彼女の足跡を辿れば残りのパーティメンバーがいるところまで移動も可能というわけだ。
※9
駆け出しのパーティとサポートの先生一行は、昼ではなく夜に獲物を仕留めるべく、街を夕方に出発した。
昼間では今の彼らには手に余るとサポートが判断したためだ。それは間違っていない。
だが、ここを田舎と言っていたサポートは侮ったのだ。ゴリアテという怪獣を。
「……ゴリアテ?」
私はガンナーの女の子を背中のカゴにいれ、割と全速力で移動している。時間が経ち彼女が落ち着いてきたので、何があったのかを聞き始めた。
なお、移動中に喋ったところで特に問題はない。
「ゴリアテは私たち人間と同じ祖先を持つ。それが進化の過程で枝分かれすることで、生き物はその種類を増やす。我々人間の祖先はサルと呼ばれるものだ。そのサルもかつては相当種が存在していたらしい。その中で環境に適応し、生存競争に打ち勝ち、残るのはわずかな種類だがな。人とは違う進化の過程を得て、今なお存在するサルが怪獣ゴリアテだ。ヒト上科サル目……なんだったか……。気になるなら図書館に行くといい。最も、図書館にはAクラスからしか入れないのだが」
「はぁ……」
「一般的に大きい奴はゴリアテ。小さい奴はゴリラという。覚えたまえ。奴らは発達した腕で掴み握り潰す。パワーという点ではここらではナンバーワンだな。弱点は額。と、そのくらいはサポートは知っていたはずなんだがな……」
標的の動きの鈍い夜に仕掛けたわけだから、そのくらいのことは知っていたはずだ。
あの大剣男も先生とサポートを慕っていたようだし、連携ミスや単独プレーが原因とも思えない。
彼女はゴリアテに弾き飛ばされ真っ先に気を失い、次に気が付いたら誰もいなかったと言った。
彼女はそうして気を失い目覚めて、辺りを探し回るも誰もいないことにとり乱したが、ふとあることを思い出した。
行きに遠目から見た採取中の私の位置を思い出して、そこから私がいるだろうところを予測して助けを求めにきた。
街に連絡をつけるより早く、その方が確かだと彼女は思ったらしい。彼女は私をそう見ていたわけだ。
「そういえば今日は何の仕事だったんだ?」
「ゴライアス。ゴリラの討伐です」
確かに、ゴリラはゴライアスとも呼ばれるな。
ゴライアスはゴリアテの別称であると聞いたことがあるが、同じものだし特にこだわりもないが……。
「──何? ゴリアテは討伐に含まれないのか?」
「はい。だから、あれを見たときは腰を抜かしてしまいました。あんな大きな生き物がいるだなんて、この目で見ても信じられないくらいです」
「徒党を組むのは普通なことだが、それならゴリアテこそが討伐の対象になるはずだがな。仕事として出ていたなら下調べはあっただろうし、その辺の協会の体制はちゃんとしている。ゴリアテこそが原因なのか?」
彼女が顛末を見ていないと聞いた時点で、彼女から手に入る情報には限りがあると思ったが、討伐対象外のゴリアテの出現が事の次第ということでいいのか?
対象しきれずにパーティが散り散りにだろうか。
「この辺りだな。戦った痕跡がある。大きな生き物がいたのは確かだな。しかし、キミは仲間がどっちに行ったのかが分からず、出来ることをしたわけだ」
「はい……」
彼女の行動を1人で逃げたと非難する者もいるだろう。パーティメンバーを見捨て、自分だけは逃げようとしたと。
パーティが全滅でもすれば非難だけでは済まない。
だが、1人逃げるようなヤツならば私のところにはこない。仲間を見捨てたのならその場所に戻りはしない。
「心配するな。逃げたなどと私は言いはしない。キミの判断は間違っていない。私が保証しよう」
しかし、ゴリアテは派手に暴れたらしく、平原ではどちらに行ったか判断しにくい。
私たちが来た方は除外していいが、それでも広い。
サポートは後衛職。ならば遮蔽物を求めるか。
弾変えにも立ち回りにも、遮蔽物は有効。なら、岩の多い東側か。
「パーティは前衛2人の後衛2人。盾持ちが抜けて前とは1人変更。そこにサポートのあの男も後衛。そこから後衛が1人抜けて、パーティの配分は変わらず……分からないな」
「──えぇ!? わ、わからないんですか?」
「こう暗くてはな。だが、それならそれでやり方を変えるだけだ」
「何を──」
私は矢を3本空に向かって放つ。
放った時点ではただの矢だが、それは途中から姿を変える。
「──えっ、矢が鳥になった?」
彼女が言うように矢であったものが、赤に鳥に姿を変え3方向に飛んでいく。
「これで少し待とう。反応があるはずだ」
「はい……じゃなくて! 今のなんですか!?」
背中から今のを見ていた彼女には、タネも仕掛けもないことがバレている。
驚かれようと普通なら誤魔化すところだが……。
「技能と他には説明しているが、この場でそう偽ってキミが私を不審がるのは下策か。今のは俗に魔法と呼ばれるものだ。かつては多くの人が扱えたものだが、今や使えるのはわずか。私はそのわずかのうちの1人」
「魔法。魔法を使う弓使い……魔弾?」
「必中の魔弾とはよく言ったもので、その実は魔法による弾道操作が必中のわけだ。ああ、勘違いしないでもらいたいが、普通に弓を使う分には普通に撃っている。魔弾は魔弾。弓は弓ということなので──」
「──魔弾の射手!? アナタ、魔弾の射手なんですか!?」
「自ら名乗った覚えはないが、その二つ名で呼ばれる事が多いな。それがなんだ?」
「えぇーーーーーーーーーーっ!?」
※10
私は知らなかったのだが、魔弾の射手といえば超がつく有名人らしい。いま後衛職を志す者は皆、魔弾の射手に憧れてその道を選ぶらしいのだ。
成功者であるSランクの狩人にして、万人に憧れられるのが魔弾の射手。なんと、この私の事らしい。
し、知らなかった……。自分が世間で、そんな事になっていようとは思いもしなかった。
やたら取材とかが多いとは思っていたが、それは狩人として貢献しているからだと思っていた。
まさか、自分がそんな事になっていようとは……。
「あわわわわっ──」
ひとしきり魔弾の射手について語った、背中のカゴの中のガンナーの女の子は『あわわわわっ』しか発しなくなってしまった。
放った鳥が彼女の仲間を見つけたというのに『あわわわわっ』しか発しない。
「もう着くぞ。『あわわわわっ』をやめなさい。どうしたのかと聞かれたら、なんて言っていいのか分からないから」
「あわわわわっ──」
「ダメか……。ゴリアテが先か」
子分を失い怒りにかられるゴリアテに、満身創痍ながらも全員無事な『あわわわわっ』しか発しない彼女の仲間たち。
これにはサポートの……ナントカという二つ名の赤い男が奮起したのだろう。その頑張りは見て取れる。
ご自慢の装備はボロボロで、後衛職なのに生徒を守るためだろう前衛に出た。バカだとは思えど、それがあったから全員が無事なのだ。
「背後からで申し訳ないが、我が魔弾は必中。その額を射抜いて終わりにさせてもらう。私は忙しいのだ」
魔弾となった矢を放つも、まだ誰もこちらに気づいていない。その間にも必中の魔弾はゴリアテに迫る。
矢はゴリアテの真横を通り過ぎたところで直角に曲がり、弱点である眉間に突き刺さった。
直角に曲がる矢を初見で避けられるはずもなく、狙い通りにいった。
「きゃーーーー!!」
「うるさいぞ。今度はどうした……いや、突き刺さった? 馬鹿な、間違いなく頭を貫いたはずだが──」
今度は謎の奇声を発した彼女を注意した瞬間、おかしな事に気がついた。
確実に貫いたはずなのに矢は刺さっただけ。何かがおかしいと気づいた。
「──何?」
そして、その原因はすぐに判明した。奇声で位置をつかんだのか、こちらに振り返りったゴリアテは何かを頭に被っている。
ゴリアテは他の怪獣の頭蓋だろうものを頭から被り、自分の額の弱点をカバーしていたのだ。
知恵がない怪獣はいないがこれは初めてだ。
──そしてマズい。
ゴリアテの近くにいた、一番重症であったサポートの男がこちらに向かってぶん投げられた。
ゴリアテ自身もその後に突っ込んでくる。
あのナントカと言う二つ名の男を受け止めないと、重症では済まなくなる。
無論、受け止めることは可能だが、その間のゴリアテの接近はマズい。次の魔弾も間に合わない。
「しかし──、人命が優先だ」
背中にはすでに1人いるからカゴも下ろすわけにはいかず、このままで受け止めるしかないとは……。
壊れているとはいえ軽くはない装備に、馬鹿力で投げられて加わった力。これは相当重いな。
「ぐぉ──、やはり中々に堪えるな……」
飛んできた男の受け止めには成功したが、やはり重い。こちらもかなり重いはずだが、数メートルは後ろに押された。
まさか後衛職の私がこんなことをすることになろうとは、夢にも思わなかった。
「きゃーーーー!!」
「だから、キミはどうしたんだ!?」
彼女の反応は恐怖からくる叫びではなく、歓喜の叫びに聞こえるのは気のせいだと思いたい。
とにかく、受け止めたのならこの男もカゴに入れ、ゴリアテに対応しないとだ。
「ほら、キミたちの先生だ。カゴに2人は窮屈だろうが我慢しなさい。それと足元から赤い草と青い草を探して、赤2青1で矢に結んでほしい。おそらくっ──」
最後まで言い切る前に、接近するゴリアテに勢いのままの重い一撃もらう。
腕でガードはしたが骨はいったかもしれない。馬鹿力をモロに真正面から受けるとは……。
しかし、掴まれるという最悪の事態は起きなかった。一撃もらったが弓を引く右腕も無事だ。
「──急げ! 普通にやってもこの弓と矢では、ヤツの頭蓋を割れない。山ほど撃つほど矢もない。それが必要だ!」
「私が必要……──そんなの急に困ります! でも、どうしてもおっしゃるなら私……」
「何の話だ!? わりとピンチなんだぞ!」
様子がおかしい彼女にはピンチが理解できないらしく、急げと言っているにも関わらず、頼んだ事が実行される気配がない。
そんなことをしている間にも、こちらに狙いを付けたゴリアテは再び接近してくる。
「もういい。ナントカという二つ名のキミ。聞いていたな、彼女の代わりに今のをやれ。早急に頼む」
「すまねぇ……紅い弾丸自慢の炸裂弾も効果がなくてよ……。赤に草に青い草だな。任せろ」
「一撃で半端な火力では無理だ。キミの銃は単発式だったし、これは流石の私も初めてだ。その中で良くやった。あと、早急に頼む」
左腕が痛むが弓を構え、頭蓋ではなく脚に狙いを付けて放つ。突進しているゴリアテは避ける動作は出来ずに、矢は狙い通りに突き刺さる。
6本目でゴリアテの体勢が傾き、そのままゴリアテは右に逸れていく。そして、7本目はワイヤー付きの矢。8本目も同じものを。
「そのワイヤーはここらでは手に入らない代物でね。竜種でさえ引きちぎるのには時間を要す。力自慢のお前でも効果は同じだろう。しばし大人しくしていてくれ」
見事にワイヤーにひっ絡まったゴリアテは、それを解こうと無理矢理にもがくが、ワイヤーのあの強度なら少しはもつ。その間に撃ち抜く。
「きゃーーーー!!」
……もう何も言うまい。彼女は恐怖と仲間の無事に、おかしくなっているに違いない。
……というかだ。もう明るくなってきているのだが。まだ採取は終わっていないし、街まで帰らないといけないのだが。どう考えても帰るのは昼過ぎになるのだが……。
「できたぜ……」
「良くやった。すぐによこせ!」
手渡された矢にはきちんと言った通りに草が巻きつけてある。それも3本も綺麗に仕上がっている。
流石は二つ名持ちのCクラス。仕事は早いし、後衛職らしく手先も器用だ。
「では、今度こそ終わりにさせてもらう。私は忙しいのだ」
赤い草と青い草。この2つは合わさり、そこに熱が加わると大爆発する。それこそ、台所が大破するくらいの威力はある。
草の配分は気づいていてから何度か試行したが、2対1がベスト。それを3連射。プラス残りの矢もくれてやろう。
未だもがくゴリアテは、爆撃のような大爆発に呑まれていく。その爆発で被り物は砕け散り、その頭を矢が貫いた。
※11
無事にゴリアテを倒し、大剣男と残るパーティメンバーの無事を確認。ようやく正気にもどっ……安堵した様子のガンナーの女の子に、彼らが手当てされるのを見届けた。
1人急いで採取に戻り採取して、ダッシュで帰ろうかとも思ったのだが、満身創痍の彼らを放ってはおけず、私も一緒に街に帰ることにした。
「すいません。私がせっかくの採取したものを台無しにしてしまって……」
大剣男とその仲間のもう1人がサポートの、彼らにしたら先生に肩を貸し、仲間のもう1人は背後を警戒して移動している。
先頭を歩く私の横にはガンナーの女の子。何故だか彼女は横にいる。
「まあ、仕方ない。人をカゴに入れたまま動けばああなる。人命優先だ。採取はまたできるしな」
ガンナーの女の子とナントカと言う二つ名男を、カゴに入れて暴れたら中身が無残な状態になっていた。
私の採取はゴミと化してしまったのだ……。
「カッコいい。さすがSランク。さすが魔弾の射手」
「そのキラキラした目をやめてくれないか。なんというか反応に困る」
どうにも、名乗ったのがいけなかったようだ。今さら違うと言っても信じられないだろうし。
マスクがあるから表情までは見られてないが、反応に困るのは確かだ。
こんな時、どんな顔をすればいいのか。
「そんなところもカッコいい。あっ、サイン貰っていいですか?」
「構わないが街に着いたらな。左腕は痛むし、右腕は塞がっているのでな」
「……重くないんですか?」
「これならカゴの方が重いぞ。ゴリアテなんぞカゴ以下だ」
採取したものが全滅したので、討ち取ったゴリアテをせめて持ち帰ることにした。絡まったワイヤーごと引っ張っている。
コイツが食べられるのかは分からないが、来るという料理人には何かしら調理を披露してもらいたい。何かしら素材は必要なのだ。
「カゴというか冷蔵庫ですよね、それ。中涼しかったですし」
「温度管理が必要な素材もあるだろうからな。実は上も閉まるぞ。温度調節も可能だ」
「まんま冷蔵庫じゃないですか。 ……あのっ、」
ふと、彼女は口を閉じた。
何か聞きたいことがあるようだが、言葉は続かない。チラチラとこちらを伺っている。
「なんだ?」
「どうして引退したんですか?」
「別に引退したわけではない。こうして街の外に出ているし、採取もしているだろう。パーティを抜けたのは間違いないが引退とは違う。私はやりたい事があるのだ」
「やりたい事ですか」
彼女はどうなんだろう?
女性の狩人もいるにはいるが、どれも女性らしくはない。あれは男と大差ない生き物だ。
しかし、この子は女の子らしい。その彼女はどう思っているのか?
「保存食があるだろう。あれをどう思う?」
「美味しくないです……。でも、お弁当ってわけにもいかないから我慢してますけど。正直辛いです」
「──その通りだ! 保存食の改善を訴えても改善されるのは栄養価と保存期間。そんな頭がおかしい協会に嫌気がさし、私はそれを自分でやることにしたのだ。採取に始まり味見までは実行しているが、その先はまだ始まってもいない。全てはこれからだ! 待っていなさい。私が不味い保存食ではなく美味しいものを、街の外でも食べられるようにするから!」
──終わり──
食べるところまではいきませんでした。
ヒロインである料理人を出してしまうと、もう短編ではなくなって文字数がとんでもないことになるからです。
それに主人公に調理スキルはないので、今のところ素材のまま食べるのが精一杯ですしね。
火を通すですら爆発するんですから、まあ調理は無理です。
フィールドにあるものを食べたり、倒したモンスターを食べたりしたら面白そうだなという、思いつきから書き始めましたが、やり始めたらキリがない。
Sランクの彼はスゴい装備を持っていたりとか、新たに現れる竜種とか、実は彼は有名人でモテモテだったりするんですが、何も出せませんでした……。
ここまでお読みくださった方がおりましたら、お読みいただきありがとうございました。