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第78話:逃亡戦線02

 二分後――


「……よし、防壁で結構使っちゃったけど、二十六粒集められた。あと、一つか二つの木を巡れば、脱出できそう……」

「ぜったぁぁぁぁぁいに、逃さねぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

「……ひっ!」


 何度目だろうか。

 急接近してきたハナが、私に爪を向けて攻撃を仕掛けてくる。


「しつこい! 超循環素材……中指の……」

「おっと、そうはいかねえ!」

「……えっ」


 私が薬指を前に構えて迎撃しようとしたところ……


「う、上っ!!!!?」

「俺だって学習するんだよっ! いちいちテメエと、あの女のボコスカを喰らうわけねえだろ!」

「くっ……」


 ハナは私の防御の構えを先取って、回転しながら空中へと上がる。

 そして両手を前に出し、十本の爪が私に当たるように突き刺そうとしてくる。


「フィンガーシールドは生成に時間がかかる……だから、この攻撃に対して迎撃は出来な……」

「お前の脳みそみぃぃぃぃぃぃせろっ!!!」


 あまり趣味としては宜しくないが。


「なら素早く迎撃をするまで」

「ほぅ……どうするって?」

「こうするって」


 再び空圧の実を素材にすると、今度はその力を親指に注いでいく。


「私、本業は狩りだからさ、近接で戦うのが得意なんだよね」

「……あぁ? 何だって?」


 ズバァッ!!!


「……っ、ぐっ、この野郎……!」


 上空から落ちてくるハナを瞬間的に横に回避し、そこからジャンプ、回転しながらの親指フィンガーソードでハナの左腕を斬りつける。


「……腕を本気で斬り落とすつもりだったんだけど……随分と頑丈で筋肉質な腕なこと」


 まるで人の爪で軽くひっかいたように赤いアザが残っているだけで、斬るどころか、皮膚を切断することも叶わないでいる。


「雑魚が斬りつけたところで、俺に叶う要素は無いんだよ。ばぁぁぁぁぁぁぁか!!!」

「だけど、私を狙う爪の軌道だけは逸らすことが出来た。私自身が血を流さなかっただけでも、今は十分上出来と言えるんだよね」


 空圧の実を一粒使い、ハナから距離を取って安全を確保する。

 見えない速度で攻撃をしてくるハナのことだから、連激を警戒してのことだ。


「こんな雑魚をそこまで生かしたいなんて、随分とお前は、こいつにお熱のようだな」

「そりゃあ、あなたよりは生きる価値が数億倍ありますからね。あ★な★た★よ★り★は」

「へっ、そりゃあ随分安く見られたもんだ」


 地面に突き刺さった爪を抜き上げ、イライラの一つでも解消するように、後ろにある木を一本斬り倒す。


「なぁ、お前、分かるぞ。空圧の実を目標の数までそろえたな?」

「…………さあてね、言うと思う?」


 ハナの唐突な問いかけ。

 唐突でありつつも、私は汗を一つ掻かず、目を泳がせること無く、冷静に肯定も否定もしない返答をする。


「(……どうして分かったんだろう。私がハナから距離を取った場所に、たまたま多めに空圧の実が落ちていたから、それで目標に達成したのだけれど……)」


 状況が状況だけに、わざわざ目標達成を顔に出して喜ぶなんて事はしない。

 脱出直前に、ハナが何か悪いことを仕掛けてくる意地の悪い性格なのは、ここ数分のやりとりを通じて十分理解している。


 だからこそ、表情を変えずに動いていた。

 今この場でやるべき事――脱出を最優先とするために。


「表情や仕草を殺しても分かる。お前の心臓の鼓動に大きな変化があった」

「…………」

「さっきまでは恐怖の鼓動が。しかし今は、緊張の鼓動へと変化した。この意味が分かるか……?」


 ハナは私の返答にかかわらず語っていく。


「逃げる準備は完了した。あとは、どうやって最適に脱出を図れるか。違うか?」

「……だから、私が言うと思っているの?」


 心臓の鼓動を聞き分けるとは思ってもいなかった。

 というか、そんな聴力をハナは持ち合わせているのか。

 悪魔であるとはいえ、人外な特技を持ち合わせすぎな様な気がする。


「かまをかけるなんて、ハナにしては随分と賢い事をするじゃない?」

「……かまをかける? なんだそりゃ?」


 かまをかけるの意味を知らないのだろうか。

 それとも、知らずにかまをかけていたのか。

 はたまた……私を騙すためのパフォーマンスをまだ続けているとか……?


「何故だか知らねぇが……最近、俺自身も知らないうちにスゲー力を手に入れている気がするんだ……」

「……ん?」


 さらりと恐ろしいことを呟かれた気がするのは気のせいだろうか。


「心臓の鼓動や汗の色、そして人を引きずり出す力……全部、俺じゃない何かの力によって、俺自身が拡張されている感覚があるんだ」

「年を取って培われたんじゃないの?」 

「俗に言う、テメエらの超循環みたいなものさ。自分じゃない力を上手に利用でき始めている。他の悪魔達にはない、俺だけの力がな」


 睨み付けながら言うハナの右腕は、白色のオーラがぐるぐるとまとわりついている。

 漆黒の姿をしたハナとは対照的に、純白とも呼べるレベルで真っ白なホワイトだ。


「(その発言の真意は分からないけれど、下手に隙を見せてしまうのも、ハナにとっては純粋な有益になるということに……)」


 ジィン……


「…………っ!」


 一瞬、右側の耳元に針が刺さるような痛みを感じた。

 思わずパッと手を当てて、痛みの部分を確認するが、何かが刺さっていたり、血が出ているわけではなかった。


 では、この突拍子でやってきた痛みの理由は何だろうか。

 答えを疑い始める前に、答えを知ることとなる。


「…………」


 何だったのか。

 それは、後で解説をすることにしよう。


 ……

 ……

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