第75話:絶望的戦場
――再びリヌリラの視点へ
ザッザッザッザッザッザッ……
「はぁ……はぁ……はぁ……」
折れた左腕を押さえながら、森の中を走り抜ける。
道中で拾った治癒に使えそうな素材を拾い、超循環で力に変えて、折れた腕に当てていく。
腕が折れようが、ちぎれてしまおうが、素材があれば、いくらでも元に戻せるという点では、精神的な危機は無いけれど、怪我はやはり絶望的に痛いという事実は回避できようもないので、苦痛であることに変わりは無い。
止血済みとは言え、骨がむき出しになった自分の腕なんて、可能な限り、見たくはないだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
イデンシゲートの内側へと駆け込み、膝をついて倒れ込む。
ものの数十メートルを走っただけなのに、異様に呼吸が乱れてやまない。
精神的苦痛なのか、ハナに逢えたことが理由なのか、今ははっきりと分からないが、今までに無いような肉体的疲労を感じる。
「ふぅぅ……ふぅ……はぁ……」
頭の中がぐるぐると回って思考がまともに機能しない。
今更ながら、ハナの強い殺欲に本能がおびえを感じ、混乱を引き起こしている。
「逃げなきゃ……もっと遠くに……」
脂汗を拭いながら、背中の方で戦っている二人の姿を見ると。
「……俺から逃げられると思っているのか?」
「……えっ!!!?」
グイッ……!!!!
「ああああああああああああ!!!!!」
「言っただろう? 俺とお前は運命で結ばれているんだよ。俺の視界に入る内は、絶対に逃げられねぇ」
「ぎゃんっ!!!!!!!」
「リヌリラッ!!!!!」
再び左腕を何かの力で強引に捕まれて、イデンシゲートの外、ハナの目の前へと吹き飛ばされてしまう。
「左腕……まだ修復中だって言っているでしょう。捕まれると痛いのよ!」
「いたぶるのが趣味だと言ったことを忘れたのか? ええ?」
ケラケラと笑いながら、私の右袖から流れる血を見て喜んでいる悪魔。
その姿を見ると、思わず恐怖が一転し、私自身もハナに対する怒りのような殺欲が、心の中から生まれ出してしまいそうになる。
「……おい、リヌリラに触ったら殺す」
「へぇ、こいつ『リヌリラ』っていうのか。珍しい名前だな。主にイントネーションが」
「侮辱しても殺す」
「出会いの徴に花束を差し出したら?」
「目玉を抉って五回殺す」
ガギィィィィィィィィィィィィン…………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ひぃっ……!」
再び二人の殺し合いが始まる。
殺意と殺意がぶつかり合う、一切躊躇の無い殺し合い。
少なくとも、私なんかが混じり合えるようなレベルのスピードでは無い。
今までの悪魔を狩る感覚とはベクトルが全然違う。
ガッ……!
「グァァァァッ!!!!!!!」
ドォォォォォォン!!!!!!!
見えないスピードの戦いの中で、ルーミルがハナの腹部にケリを入れて数十メートル十くっへと吹き飛ばす。
そして、その一瞬の隙をみて、膝をついて倒れる私に近づいてきて言う。
「リヌリラ! ハナはイデンシゲートの百メートル圏内なら、人を強引に引き寄せられる力を持っています!」
「ど、どういう原理で……?」
「その理由は後で。今は、逃げることだけに専念をしてください」
「で、でも……私にはそんなすぐに逃げられる力は……」
超循環の力さえあれば、なんとか逃げ切れないことも無いだろうけど。
そんなことを思っているうちに、ルーミルは数粒の木の実を差し出してくる。
「……これは?」
「空圧の実。中には質量の割合を大きく超えた二酸化炭素が詰まっていて、それを堅い実が押さえつけているという特殊な構造の実です」
どんぐりのようなサイズ感。
だけど、爪で突くと鋼鉄のように堅牢。
見たことの無い初めての素材だ。




