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第60話:夢想戦04

 唐突に顔面を蹴られた。

 その勢いは強く、そのまま五十メートル程吹き飛んだのではなかろうか。

 壁岩のような場所に叩きつけられ仰向けに倒れ込む私。


「おい、二人いる。忘れるな」


 AIのロボアは冷めた声で言ってくる。

 いつの間に氷の足止めから抜け出したんだ。


「こんなもの、少し踏ん張ればすぐに壊せる。そこらの雑魚悪魔と同じに見るな」

「ちっ……」


 夢の中のAIだと、こうも性格が乖離してしまうのか。

 暑苦しい男達が、別次元でクールになるとか、相当特殊な性癖の人たちに需要がありそうな設定だ。


「くっ、いった……」


 軌道をずらして攻撃がおでこにくるようにしたから、なんとか急所は免れたけど、それでも鋼のように重たい蹴りは、私の頭蓋骨にヒビを入れるには十分なほどの威力だ。


「ああ、嫌だわ。連携プレーで片方が不意をついてくるって。『二兎追う者は一兎も得ず』を強制させられている気分」


 口の中に含まれた血をペッと吐き出して、鉄の味をリセットする。

 顔面は特に人間の急所だから、ある程度のパワーでも威力は異様に拡張される。


「悪魔も人も顔が痛いのは同じ。さすが、精鋭クラスは戦い方が違う」

「やり合う必要は無い。一方的に勝つのが狩りだ」


 その言葉に苛つきを覚え、ギロリと睨みを入れて威嚇するも、眉すら動くこと無く平然とこちらへ威嚇し返してくる。


「一方的にというのは非常に合理的。ターン制で相手に攻撃を譲るなんていうのは、心が優しすぎるバカがやることね」

「つまり、お前はこれから俺たちに一方的にやられて死ぬと?」

「私がお前たちを残虐に殺して勝つ……!!」


 地面にケリを入れて一気に二人のいる方向へと近づく。

 二人は右手を構えて超循環で対抗しようとしてきている。

 ……が、少々判断を見誤っている。


「誰が私の攻撃に気をつけろと言った?」

「……なに?」

「…………」


 私は囮。

 殴りたければ殴れば良い。

 だが、そんなむやみに攻撃を仕掛けて良いのかな?


「フン……」

「強がるな」


 片方が右手に紫色の力を、もう片方が左手に赤い力を込めている。

 何か組み合わさったらヤバそうだなとか、そういえば、片方は左利きだったのかということを考えながら、私は二人の前に右手をかざす。


「メヌリ樹液のフィンガーシールド!! お前らの攻撃をゼロ至近距離で反射する!!」

「な……」

「……なんだと?」


 ゲンコツの構えであたかも私が攻撃を仕掛けて来るように見えたというなら、演技賞をもらうべき功績だったと言えよう。

 演技の仕事はしたことはないが、ナンチャラ賞をもらえるというのも悪くはない。

 そういう人間がたまにいたっていいでしょう?


 ぱしゅぅぅぅぅ……!!!!


「うぐっ……!!!! ちっ……」

「あぁっ……!!! か、身体が……!!!!」


 二人がそれぞれ放とうとしていた素材が混じり合い、私のシールドに弾き返される。

 黄色と紫が混じったような、傍から見てもヤバそうな素材を受けてしまい、とても苦しそうに悶ながら倒れ込んでいる。


 これを私に使おうだなんて、随分と洒落の効かせていない戦いじゃないか。

 おかげで、こちらも容赦なく残虐的な気持ちでお前たちを倒しにかかれる。


「舐めた方が先に負ける。さて、お前達は私のことをどう思ってた?」

「ちっ、これだからずる賢い奴は嫌いだ」

「バカはバカらしく、イノシシを狩っていればいいのにな」


 これは私の夢の中。

 その言葉は私が私自身にに言っているのか、それとも昼間見た彼らは私のことをそう思っている風に見えたのだろうか。


 煽りなんて今更気にすることでもないけど、今のはほんのりグサリときた。


「私は私のことをそんな風に思っていたのかな?」


 不満な毎日を過ごしつつも、それでも程々に暮らしていける毎日を受け入れていたのか拒否していたのか私には分からない。


『リヌリラは狩りをするときだけは、ちょっとお馬鹿じゃ無くなるよね』


「ハナ……」


 どうしてこんな状況の中で、ハナのことを思い浮かべるのだろう。

 あいつは悪魔で、そして私を殺そうとした当本人だというのに。


 思考が巡る。

 そして道が途切れて行き場を失う。


 迷いがある。

 ハナを殺さなくてはいけないという使命に対する戸惑いが。

 これは私が弱いのか、それとも悪魔に犯されたのか。


 ……いや、そんなことは知らない。

 知らなくていい。

 私の使命を思い出せ。

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