第42話:狩猟祭への参加条件
「ルーミルは取り憑かれたように悪魔殺しに夢中になっているからな。せっかくご褒美に狩猟コインを渡しても全然祭りに来やしない。何十枚余らせていやがるんだ?」
「タンスの一つが全部埋まってしまうくらいですかね? 国がバカスカ私にくれるものだから、溜まって溜まってしょうがないんです」
「お前……このメダルが欲しくて欲しくて躍起になっている超循環士もたくさんいるってのに、随分と贅沢な事を言うもんだ」
「てへ♡ でも、こうして私のメダルを使ってくれる人も、そばにいてくれるようになりましたし」
「おーおー熱いね。とうとうルーミルも落ち着くようになるのか? ジジイが死ぬ前にそんな場面に出くわすことになるとは驚きだ」
「あ、あの~……なんか変な意味合いで解釈されているようで、微妙に心地が悪いのは気のせいでしょうか……」
今後、この人に妙な解釈で接されるような気もしないでもない。
今この場で私が変に弁明を入れたとしても、 照れ隠しとかなんとか言われそうな気もするので、ひとまず何も言わずにことの茶番が終わるのを待つことにする。
「それより、ルーミルは参加しないのか? せっかくここまで来たんだし、一回くらいサンドボア狩っていけよ」
「ふふ、私は結構。今回は、リヌリラが私のためにサンドボアを狩ってくれると約束してくれましたので」
「この女の子が……? まだ新人と聞いているが、いけるのか?」
「悪魔を殺すのは新人ですが、彼女は狩猟生活が長かったこともあって、イノシシを狩るのは私よりもずっと上手なはずです」
「ど、ども。一応はイノシシ狩って十六年のベテランです。特技は急襲と心臓突きです」
「へぇ、随分と田舎の方で暮らしていたんだな」
「ま、まあ……集落的なところに住んでいましたし」
ルーミル以外は私が過去からやってきたことを知らないでいる。
別にメルボルンにいる人たちの中に敵がいることもないので、いろいろな人にバラしても良いといったら良いのだが、流石に混乱を招く可能性も少なからずあるので、あまり大っぴらに私が過去から来たことを宣言しないように控えている。
私は遠くの国からやってきた、孤独に旅する超循環士という設定だ。
「リヌリラちゃん。自信があるなら、いっちょ最高の腕前をジジイに見せてくれ。体が鈍った老人はな、若い世代が一所懸命に駆け回る姿を見るのが好きなんだ」
「マイケルマンさんは、アメリカ大陸というところで悪魔殺しをしていたらしいけど、訳あってオーストラリアにやってきたの。年をとっても野心は衰えないようで、こうして狩猟祭の運営を担っているのよ」
マイケルマンさんは、腕をまくって私に見せる。
明らかに老体であるというのに、筋肉がムキムキで、今でも現役で戦えそうなくらい逞しい肉体を持ち合わせている。
いやいや、私にこの肉体以上の動きをって、何を求めているんだ。
動けるだろ、多分大体の一般市民より活発的に。
「ははは、老人は意外と暇なものでね。刺激的な光景でも見ないと脳が鈍っちまう」
「だから私にもグイグイ狩猟祭に参加するようにアプローチしてくるんです。私の戦い方が、グロくて逞しいからって」
なるほど、狩猟メダルをガンガン渡し続ける理由がわかった気がする。
「ルーミル、本当に参加しねえのか? お前ならタダで参加させてやっても良いんだぞ」
「さっきも言ったでしょう? 今日の主役はこの子。私は保護者として温かく見守ってあげることにします」
「……全く、釣れねえやつだぜ」
「ふふ、ごめんなさいね♪」
マイケルマンさんはがっくりした様子で。
「まあいい。リヌリラちゃんがいいとこ見せてくれるってなら、ジジイ楽しみにしてるわ。このゲートをくぐった先が、今回サンドボアが移動する南南西の砂漠地帯だ。中には既に他の超循環士もいるから、狩猟する際には、動きも参考にしてみると良いぞ」
「ああ、はい。わかりました」
「私は超循環士たちが狩猟している姿をよく見られる観客席へと移動します。リヌリラがサンドボアを一体しか捕まえられずにつまみ食いしないように監視しなくてはいけないですからね」
「そ、そんなことっ……あるわけないじゃにゃい……!!!!!!!」
私が考えていることは既にお見通しということか。
つまり、本気でサンドボアを捕まえにかからないと、私の夕食はもやしになってしまう。
「ふふふ、なら楽しみですね。リヌリラが颯爽にサンドボアを狩り尽くしてくれる様を見せてくれるとは……」
「うぅ……なんというか、プレッシャーの詳細が謎すぎて本気で怖い」
「まあまあ、もやしだって美味いんだぞ。ジジイのおすすめは、唐辛子とマヨネーズを付けてだな――」
もやしの話は今してねえよっ!!!
……
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