月の夜に
ーー深夜の東京
高見謙吾は、銃撃による痛みに、額に汗を滲ませながら、六本木交差点から、赤坂へと歩いていた。
このあたりは、都心の中の都心であり、外人の黒服がいたり、芸能人も多く見受けられる。
この頃の彼は、まだ二十歳になったばかりだったが、超人的な直感力は研ぎ澄まされて、透視力となっていた。たとえば、こうなりたいと思うと、ビジョンが浮かび、そこへ行くことで願いが叶う。しばしばトラブルも一緒に来ることもあるのだが。
彼は、奇妙なことに虎に変身してしまう特異体質である。
優男であり、今は俳優になるためのトレーニングをしている。
そいつは、中年サラリーマンのように冴えないよれよれのスーツを着ていた。しきりにスマホで誰かと話しているフリをしている。
だが、直感力の冴えている彼には、時折見せる鋭い眼光から、サラリーマン男がただものではないことを、見切っていた。その証拠に、そいつは完璧に気配を消していたのだ。
高見謙吾は、後ろでサラリーマン男が目をそらす、一瞬の間隙を縫って、駆け出していた。野生の虎は決して焦らない。正面から、相手の度肝を抜く咆哮をあげるのだ。
だが、過去の経験から彼らの組織力が、いかに端倪すべからざるものかを痛いほど理解していた。
彼が、そのビルの地下にあるバーに逃げ込んだ時、彼はほとんど全身に銃弾を撃ち込まれていた。超人的な回復力を上回る出血で、体が重い。幸いにも銃弾は、心臓を逸れてはいたが………………。 いかな不死身の虎人間と言えども、出血多量では死んでしまう。意識が朦朧としてくる。 ーーいつかは、観念する時が来るだろが、今がそれなのか⁉ 彼は、脂汗が全身の毛孔から吹き出す不快感を、必死で耐えながら思った。
だが、彼にはまだやらなければならないことがあった。覇気は萎えてはいないのだが。
古くなったストゥールに身を預け、古武道に伝わる呼吸法で気息を調えようとするが、集中できず、気を失いそうになる。
いづれ暗殺者に見つけられるに違いない。そう時間はないだろう。目的を果たさずに死ぬわけにはいかなかった。そして、彼は痛みと出血に、とうとう気を失ったのである。
高見謙吾は、目覚めるとハッと飛び起きそうになった。
彼はいつの間にかベットに横たわり、清潔そうな一室にいた。妙齢の女性が婉然と微笑みながら、近づいて来た。
「安心して休みなさい。ここは、安全だから……」と静かに言った。
どうやら輸血されたらしい。この女性は?
彼は、どうやら彼女に救いだされたらしい。そして、彼女は……彼の透視力は、彼女もまた数奇な運命の星に生まれた獣人であることを示していた。
その時からだ。彼女が、たった一人の肉親のように守るべき存在となったのである。
不思議な感覚だった。強いて言えば、長い間別れていた姉か母に出会えたように、彼の胸を熱くしたのである。命の泉があるとしたらこのような感じだと思わせるように彼は、回復へと向かい、彼女の庇護者となったのである。
その後、彼は俳優となるのである。