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転生令嬢の作るお薬はヌルヌルぷにぷにでございます。

 どうやら、私の作り出したものは、薬効を持つスライムだったらしい。

 私の意のままに動き、患部に貼り付いて治療することが出来る。



「うっわ。なんかぬるぬるするけど、気持ちいいかも」

「本当? あっ、小さな傷が消えた」



 私はオルバを実験だ……ゲフン、被験者として薬効スライムの効果を確認した。興味深くスライムに纏わり付かれているオルバを観察していると、イフリートが顰めっ面をしているのに気がついた。



『気持ち悪ィ……』

「おやおや……。イフリート殿は、ぬるぬる攻めはお嫌いかな?」

『お前のその口調も、最高に気持ち悪ィ』

「酷い。幼気な美幼女にその言い草! ピュアっピュアな笑顔と共に、煮立った油でカラリと揚げてやろうか」

『ほんと、お前酷いのな。色々と』



 私はイフリートの生首を抱っこしながら、自分の作った薬効スライム入りの瓶を並べる。

 あれからものは試しと、色々な薬を作ってみた。すると、私特製のポーションは、何故か皆動き出してしまう。適当に入れたレア素材のせいかとも思ったけれど、そうでもないらしい。もしかしたら、ホムンクルスは本来液状の生き物だと言うこともあるのかもしれない。作成者の特性に、制作物が影響されるのだろうか。今度、調べてみる必要があるだろう。


 その時、私は自分の作った薬効スライムたちを眺めて、あることに気がついた。薬効スライムには、材料によって様々な色が着いている。

 赤、青、黄色、桃、黒……こ、これは!!



「ポーションレンジャー!」

「「「「「ぴゃー!!」」」」」

「推参……!!」

「「「「「みゃー!!」」」」」



 私が掛け声を掛けると、薬効スライムたちは瓶から飛び出し、綺麗な陣形を取った。素晴らしい、流石私の子!



「これは背景に爆薬を仕込んで、爆発させるべき」

『お前は一体、何を目指しているんだ……』

「煙にも着色しなくっちゃ」

『どこへ行くつもりだ、どこへ!!』



 私はイフリートのツッコミで我に返り、ふうと額の汗を拭いた。



「ごめんごめん、日曜の朝の呪いが……」

『日曜の朝に一体なにがあるんだ……』

「変身する女の子、改造されてバッタ男に変身、全身タイツに変身して戦う集団」

『……変身の呪い……?』



 私はガクブルと震え始めたイフリートを生暖かく見守りつつ、自分のレベルを確認する。

 今の所、私のレベルは3まで上がっていた。かなりの数の薬を作ったはずなのだけれど、中々レベルが上がらない。魔力の上昇もわずかだ。それもそのはず、レベル3というと、そこら辺にいる少年少女と同等。ここから、更に必要な経験値が増えていき、レベルが上がるのが難しくなっていく。


 ――もっと、楽にレベルが上がらないものかしら。


 これでは、いつまで経ってもイフリートを還せないし、それどころか竜のための治療薬(エリクサー)を作ることさえままならない。エリクサーを作るには、長時間大量の魔力を注ぎ続けなければならない。こんなことでは、いつになったらエリクサーが出来るものやら、わかったものではない。


 さて、どうしたものかと、薬効スライムをぷにぷにむにむにして考えていると、そんな私を見たオルバが声を掛けてきた。



「どうしたんだい? 何か悩み事かな?」



 オルバは、頭の上や腕に薬効スライムを乗せて、嬉しそうにしている。



「あー。これいいねえ、触り心地が最高」



 程よい弾力があり、ひんやりしている薬効スライムは、触っているだけで癒やされるような気がする。オルバは随分とその感触が気に入ったらしく、うっとりと頬ずりしていた。するとその時、一匹(?)の薬効スライムがオルバの服の中に滑り込んでしまった。



「……あふん!?」



 オルバは、体をくねらせ、顔を真っ赤にして悶えている。どうやら、肌着の隙間に入り込んでしまった薬効スライムは、服の中でぬるぬるべちょべちょ動き回っているらしい。



「ひ、いやああああ! アンジェリカ、たすけ……ふわあ!?」

「……うえええ」



 私はいい歳したオッサン……それも、今生の父が悶える姿を見て、思わず顔を顰めた。

 こういうのは、シチュエーション的に美少女やら妖艶な美女がやるから、見ている側が楽しいのだ。オッサンが「スライムがぁ!」なんて悶えたとして、一体誰が喜ぶのか。少なくとも、ここにはいないはずだ。



『……オイ、娘。早く、あのスライムを服から出してやれ……』

「そうね。オッサンの痴態なんて見ていられないわ! 竜なら兎も角ね。竜なら……ハッ!」

『……ん? 娘、どうした。オッサンの痴態を見て、新しい扉でも開いたか』

「開くわけないじゃない! ……それよりも、私凄いことに気がついてしまったわ」

『聞きたくないが、一応聞こう。果てしなく嫌な予感しかしないが、どうした』



 私は一匹の薬効スライムを手に乗せると、それを天に向かって掲げた。



「竜用の薬を、薬効スライムで用意したら……竜のあられもない姿が見れるんじゃない!?」

『その考えを、一刻も早く捨てろ娘ェ!!』

「ぬるぬる動くエリクサー……エリクサーまみれの竜……これはあくまで治療ですからァ!」

『竜、逃げてぇぇぇぇぇぇぇ!!』



 私は生首のイフリートを抱きしめると、研究室に向かって一目散に駆け出した。



「あふん!? アンジェリカ……どこへ!? あっ、スライムがパンツの中に」



 背後でオルバの辛そうな声が聞こえるけれど、それどころじゃない。

 私は自分の中でやる気が満ち溢れてくるのを感じていた。

 ――人生の目標を見つけた……! まさしく、そんな気分だ。



「そうよね。楽にレベルアップしようだなんて、甘い考えだったんだわ。私、努力する! そして、エリクサーを作れるようになる! ゴー! ヌルヌルー! イェス! スライムプレイー!」

『爽やかな目標に聞こえるが、掛け声で本音がダダ漏れだぞ、娘ェ!!』



 ――私はそれから、日々研究室に籠もるようになった。

 水を得た魚のように、朝から晩まで体力が続く限りエリクサーの研究とレベルアップのための薬の調合をする毎日。


 けれども、全てを識っているとは言え、すぐに成果を出すのは難しかった。素材の乾燥具合や質、その日の気象条件……ほんの僅かな誤差が、違う結果を生み出してしまうのだ。


 けれども、オルバが用意してくれた錬金術の設備、レアな素材の数々。それは確実に私を手助けしてくれた。それに、私の知識のなかには、本人の素質を引き上げる、反則技のような薬のレシピもあった。私はそれを躊躇なく作成して、使用した。


 そんな私を、傍で常に見守っている存在があった。

 それは生首だけのイフリートだ。


 

『……おい、お前無理しているんじゃないか』

「全然! 少しずつ完成に近づいているのよ。めきめきレベルも上がっている。私の中に『答えはある』の。ああ、まるで私のなかの知識の答え合わせをしている気分」

『休む時は休め、馬鹿野郎』

「今日はあとちょっとだけ……!!」



 本来ならば、私に返還されるのが目的だったはずのイフリートは、「お前を放っておくと何をしでかすかわからん」と、ずっと私に付き合ってくれた。なんとも律儀なやつだ。勿論、イフリートの精霊の炎もエリクサーの研究に十二分に役に立った。

 

 ――私は、時を忘れて研究に没頭した。気がつけば、恐ろしいほどレベルが上がっていた。

 

 私は幼いながらも、イフリートをも凌駕する、レベル60に到達していた。


 勿論、錬金術で上昇したレベルだ。「ジョブ」は錬金術師となり、肉体的な点では普通の子どもと然程変わりない。

 けれども、私の中に渦巻く魔力は、恐ろしいほどの量となっていた。ほんの少し前まで、たかが(・・・)S級精霊を喚び出すのに倒れていたのが馬鹿らしいと思える程に。ただの子どもが持つには、桁違いの魔力――私はそれを最大限に活用して、エリクサーの研究を続けた。



『まったく。お前は本当に規格外だな』

「愛の力って偉大ね」

『一方的な偏愛を純粋な愛と一緒にするな』



 そうして、私は恵まれた環境の中、二年掛けてあるものを作り出すことに成功した。



「……ふふ……」

『娘、お前まさか……』

「ふはははははは!!」



 それは、轟音とともに雷が鳴り響いた夏の日。

 あの日から丸二年――フラスコの中には、鮮紅色をした粘着質の液体があった。

 触れた卑金属を全て金に変え、大量の魔力を内包している。そして、触れた水を不老不死の霊薬に変える――。


 ――賢者の石。錬金術の極地……私は、それを完成させるに至っていた。

 私はフラスコを持ち上げると、暫くそれを眺めていた。そして、徐にフラスコを振り上げると――。



「これじゃあ竜をヌルヌル出来ないでしょうが!!」

『賢者の石を投げるな、バチ当たりがァァァァァ!!』



 私は、苛立ち混じりに賢者の石を壁に投げつけると、毛布に包まってふて寝した。


 *


 アンジェリカさんの現在のレベル 60(ジョブ:錬金術師)

やったね! 賢者の石が出来たよ!(ぶん投げました

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