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転生令嬢は至高のものを求めるのです。

 ――竜に関わること以外はクソ……そうは言ったものの。



「……でもまあ、竜のための治療薬を作るのは、私のやりたいことのひとつだわ。竜に触りまくるため……ゲフン、病に冒された竜を癒やすなんて、最高の仕事だと思うし」

『小娘、ちょいちょい本音が漏れているぞ』

「私、竜のお医者さんになるの!」

『夢見る子どものような台詞だが、動機が不純すぎる』



 私は黒竜の照れ隠し(・・・・)に笑みを浮かべると、調合を始めるために、山積みになっている材料の前に立った。

 因みに、オルバはお客さんが来たとかで、屋敷に戻ってしまっている。



「お嬢様、わたくしがお手伝い致しますので、なんなりとお申し付けください」



 すると、普段からオルバの助手を努めているというカーラは、手慣れた様子で、白い手袋を嵌めて籠に幾つかの材料を入れた。



「今回の薬ですと、新月の夜に落ちた隕石の欠片、マンドラゴラの根、虹の橋の袂で採れた雫でしょうか」



 黒竜が患っている病気は、お腹の部分の鱗が割れてしまうと言うものだ。強い自己再生力を持つ竜であっても、永い時を生きるうちに、どこかしらエラーが起きてしまうものらしい。

 そんな竜にオルバが処方していたのは、新しい鱗が生えてくるように、細胞を活性化させるというものだ。



「待って、カーラ。確かにその材料でオルバの使っていた薬は作れるけれど、根本的な治療薬とは言えないわ。病の元を治さなければ、鱗はそのうちまた割れてしまうのに」



 この病は、死に至る病ではない。けれども、チクチクと小さな痛みを起こして竜を苛むのだそうだ。人間でも、常に痛みを感じるのは負担が大きいものだ。竜に、そんな苦痛を与える訳にはいかない。

 私は大きく嘆息すると、目の前にウィンドウを展開して眺めた。そして、そこにある情報を読み解いていく。すると、そんな私にカーラが不思議そうに声を掛けてきた。



「――お嬢様、何を見ていらっしゃるのです?」



 カーラからすれば、私はなにもない虚空を見ているようなものなのだろう。心配そうに眉を下げて、私をじっと見つめている。



「大丈夫。私には視えているのよ――この世のあらゆる知識がね」



 私は瞳を細めて、それを眺める。

 

 幾重にも重なるそれの中から、必要なものだけを選び、周囲に更に展開する。その中から、必要なものだけを絞って、いらないものはウィンドウに触れて横にずらす。そうやって、黙々と情報を選り分けていると、カーラが私をじっと見つめているのに気が付いた。怪訝に思って、カーラを見つめ返す。そして、どうしてそんなに見つめるのかと尋ねると、カーラはぽっと顔を赤らめて、両手で頬を押さえた。



「……なにもない虚空を操作するお嬢様は、思春期の子どもが患う戯れのようで、わたくしの羞恥心をとても刺激するのです……!!」

「厨二病っていいたいのかな!?」

「いいのです、いいのです。わたくしも若い頃は、いじめっこを縄で亀甲縛りにする妄想をしたり」

「怖い!!」

「人づてに聞いた方法で、村一番のイケメンと筋肉自慢が相思相愛になるように呪ってみたりしたものです」

「腐ってる!?」



 カーラは生ぬるい笑みを浮かべると、ぽん、と私の肩に手を置いた。



「たとえ、思春期特有の病を発病していようとも、お嬢様は可愛い。可愛いは正義。だから、全く問題はございません! 存分に、存分にやってくださいませ……! わたくしは思春期の黒き歴史を築いていくお嬢様を見守り、それを愛でるのみ! あっ、黒い炎を腕から出す時はご注意下さいませね、火事になったら大変ですから。うふふ!」

「慰めになってない気がするんだけど!?」



 私はぜいぜいと肩で息をしながら、顔を真っ赤にして悶えているカーラを睨みつけた。

 けれど、カーラは私に睨まれても「キャッ!」なんて言って、もじもじしている。


 ……うちのメイドの思い込みが激しい!


 私は自分のことをはるか高みにある棚に置いて、カーラを放置することにした。

 今度からは、情報を探す時は誰も見ていないところでやろう……そんな風に思いながら、作業を進める。そして、集まった情報をもとに、錬金のための準備を始めた。


 ――まずは、地面に魔法陣(・・・)を引くところからだ。



『……娘よ』

「なあに、黒竜たん」

『勝手に、我をたん付けで呼ぶな。それよりも、何の魔法陣を引くつもりだ。いやに複雑な魔法陣だが……』

「ああ、これ? なんかね、錬金術に使う炎はね、精霊の炎がいいんだって」

『ほう?』



 黒竜は、興味深そうに魔法陣を眺めている。

 私は、木の枝を使ってガリガリと地面に文様を書きながら、同時に上質なルビーを砕いた粉を撒いていく。そして、乾燥させた柘榴の実に、山羊の生き血を生贄の祭壇に並べる。そして、周囲に上等な葡萄酒を撒き散らす。



「薬の効能が強くなるんですって。だから、精霊を喚び出そうと思って――よっし、後はこれを書けば完成!」



 そして、最後に一番複雑な文様を書き上げる。そして、魔法陣の真ん中に立って、真っ直ぐに前を見据えた。初めての召喚だ。なんだか、胸がどきどきする。


 ――さあ、魔法陣に魔力を流そう!


 やり方は私の中にある。なんとかなるだろーと、軽い気持ちで魔法陣を発動しようとした瞬間、酷く慌てた様子で黒竜が私を止めた。



『……お、おい! ちょっと待て……その魔法陣の文様。我の見間違えでなければ――炎の魔人、イフリートのものでは』

「そうだよー」



 私は黒竜の言葉に、コクリと頷いた。



『S級精霊を喚ぶつもりなのか、馬鹿! 薬を錬金する炎なぞ、下級の精霊で充分……』

「下級?」



 私は黒竜の言葉にくわ、と目を見開くと、瞬きひとつせずに黒竜を見つめて言った。



「何を言っているのかしら。竜のための薬を作るのよ……? 何度も言っているけれど、竜は私にとって、至高の存在。そんな尊いもののために用意する薬ならば、最高の材料を使わなくっちゃ」

『いや、だから……そんなに気負わなくても』



 私は黒竜の言葉を丸々無視して、天に向かって拳を掲げ、叫んだ。



「前世の父が言っていたの。……人間、やるならとことんやれ! 貢ぐ時は、生活費を削るくらいの勢いで、最高の品を贈れ! 躊躇うな! 入れるのはボトルはボトルでも、ドン・ペリニヨンだ……!!」



 因みに、そんな父はキャバクラの女に入れ込んで、私が中学生の時に蒸発している。私は全身に魔力を迸らせると、魔法陣に一気に流し込んだ。そして、力の言葉を紡いだ。



「竜に貢ぐ薬はエリクサー以外にあるか……? いや、ない! そのためにはお前が必要だ! いでよ、イフリート! 私のために……果ては竜のために顕現せよ!!」

『や、やめろ……! 今のお前の魔力じゃあ』



 黒竜の必死な声が聞こえたけれど、時は既に遅し。

 魔法陣は私の体から、次々と魔力を引き出して行く。やがて、魔法陣から赤い光が放たれると、地面から何かが姿を現し始めた。けれども、全身から何かを引き絞られるような感覚がして、意識は徐々に薄れて行き――。



「……あっ、なんだか川の向こうで全裸の黒竜が踊っているのが見える」

『なんてもんを見ているんだ、小娘ェェェェェ!!』

「竜はいつでも全裸でございます、お嬢様ァァァァァ!!」



 黒竜の泣きそうな叫び声と、カーラの悲鳴が聞こえたと思った瞬間、私の意識は暗転した。

推しが全裸

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