転生令嬢は白タイツは断固お断りでございます。
昼食を終えると、私たちはお茶に誘われた。
城の一角にある当たりのいいテラス。王族専用だと言う特別な場所に、侍女が私たちのために席を用意してくれていた。
王様は執務をしてから来るらしい。私たちはお茶をしながら、ゆっくりと待つことにした。
紅茶の葉にたっぷりとミルクを注いで作るミルクティー。それに、シンプルな焼き菓子がお皿に山盛り用意してあって、イフリートはご満悦で取り皿の上に顔を突っ込んでいる。
私はミルクティーをひとくち飲みながら、斜め前に座ったオルバをまじまじと見つめた。
「……それにしても、オルバの亡くなった奥さんが王様の娘さんだったなんて」
「意外だったかい?」
「ただの変態眼鏡じゃなかったんだね!」
「あっはっは。僕の評価は最底辺だったんだね……」
私はがっくりと項垂れたオルバに、少しだけ言い淀むとぽつりと言った。
「わ、私……ちゃんと孫らしく出来たかしら」
「へっ?」
――ああもう! 察しが悪すぎる!
私は少しやきもきしながら、半ば自棄糞になってオルバに向かって言った。
「……亡くなったお姫様の希望通りに、孫らしく振る舞えたかしら……」
「ああ、大丈夫だったよ。少しばかり、竜愛が過熱しすぎた感はあったけれどね」
「うっ!! ……だって、好きなことを聞かれたから」
「いいんだよ。竜をこよなく愛するのが、アンジェリカなんだから。何も王の前だからって、取り繕う必要はないだろ?」
オルバはそう言って、私に向かって優しく微笑んだ。
「アンジェリカ。僕の可愛い娘。ありのままの君が僕が好きだよ。きっと、王もそう思ってくれるはずさ」
――そう、オルバが屈託もなく言うものだから。
私はなんだか気恥ずかしくなって、少し温くなったミルクティーをぐいと勢いよく飲んだ。
「……犯罪臭が致します」
その瞬間、怪しげなオーラを纏ったカーラがオルバの背後に立ち、その首元に手刀を落としたせいで、噴き出しそうになっちゃったけれどね!!
「おやあ? テラスにお客人がいるなんて、僕は聞いていないぞ」
――その時だ。
甲高い男の子の声が聞こえて、振り返る。
するとそこには、何人もの侍従を従えた、身分の高そうな私と同い年くらいの男の子が居た。
くるくるの金髪のくせっ毛に、男性ものの割にレースがたっぷりあしらわれたシャツ。かぼちゃパンツに、キラキラ光る石が沢山付いた、つま先が尖ったブーツ。
私はその姿を見た瞬間、ぽんと手を打った。
「――あ、ボンボンキャラ来たわ〜」
『おい、娘。初対面の相手に失礼すぎるだろう』
「だって、白いタイツを履いているのよ!? かぼちゃパンツに白タイツだなんて、坊ちゃま完全装備みたいなもんじゃない?」
『全国の白タイツにかぼちゃパンツの奴に謝れ』
「そもそもいるの?」
『……はっ! いないやもしれん!!』
「希少種や……」
『うむ。希少種だな……』
私とイフリートは頷き合うと、しみじみと頷いた。
すると、それが聞こえていたらしい男の子が「誰が希少種だ!」とこちらにズカズカと近づいてきた。
「俺は、この国の第一王子の息子、アカボドだ! 無礼な態度は許さな……」
「アボカド?」
「アカボドだ! アカボド!!」
けれども、男の子は私の顔を見た瞬間、カチンと固まってしまった。
すると男の子のすぐ後ろに控えていた、如何にも執事と言った風体をしたおじさまが、口ひげをするりと撫でながら言った。
「おや、アカボド王子。この娘が気に入りましたか」
「……き、気に入ったなどと!! ちょ、ちょっぴり可愛いなと思っただけだ!!」
アカボド王子は、顔を真っ赤にして執事に抗議している。
……おおい、全部丸聞こえだぞ。
そんなことを思いながら、ミルクティーを啜りつつ白けた目で二人を眺めていると、執事がとんでもないことを言い出した。
「ふむ。王子に見初められるとは……。幸運な娘だ。流石、私の王子。さっさと、王子の魅力であの娘を落としておしまいなさい」
「そんな……! 女を落とすだなんて」
「大丈夫ですぞ。王子はとても聡明で可愛らしく、愛らしい。しかもご両親の見目も整っていらっしゃる。つまりは、将来を約束されたイケメン。そして、王族の一員でいらっしゃる。この国で一番将来有望なのは王子に間違いございません。これに飛びつかない娘はおりますまい」
……あ、この執事。カーラと同じ匂いがする。しかも、駄目な方向に冗長させる奴。
途端に憂鬱になってしまった私は、こっそりと溜息を吐いた。すると、私を慰めるかのように、イフリートが声を掛けてくれた。
『面倒な奴に目を付けられたな。娘』
「本当ね。美しいって罪ね」
『お前も似たようなものだな……面倒くさい……』
イフリートとふたりで、動揺している王子と一生懸命焚きつけようとしている執事を、チベットスナギツネ・アイで眺める。すると、手刀で気絶していたオルバを介抱していたカーラが、徐に立ち上がった。
「――失礼いたします。わたくしのお嬢様を、そこらへんの娘と一緒にしないで頂きたい。たとえ将来有望だとしても、そんなものに飛びつくような人間ではありません。それに、何の疑問を持たずに、白タイツを着用するような凡庸な王子……わたくしは聡明だとは思いません」
「くっ! 貴様、白タイツは私の趣味だ! 王子を愚弄するのは許さないぞ!」
……あっ、出会っちゃ駄目なふたりが出会った感。
私は椅子をじりじりと下げて、いつでも逃げられるように態勢を整える。
頼りの父は、意識を失ってテーブルに突っ伏している。ああ、嫌な予感がする。いざというときは、脱出だ!!
そんな私を他所に、執事とメイドの論争は益々ヒートアップしていく。
「白タイツが趣味? ふふふ、悪趣味でいらっしゃること! 少年の生足は何ものにも代えがたい、至宝のひとつ……!! それをわざわざ隠してしまうなんて、愚の骨頂!!」
「ククク、貴様は何もわかっていないな。白タイツは期間限定なのだよ」
「……なに?」
カーラが執事の言葉にたじろぐと、彼は口ひげを手で漉きつつ、不敵な笑みを浮かべた。
「王子とて、もうすこし成長すれば、白タイツなんて絶対に履いてくれなくなるでしょう。それに、実際問題白タイツが似合わなくなります。生足も確かに素晴らしい。けれども、私は敢えて宣言します! 幼児期にしか履けない白タイツは尊いと……!!」
「な、なんですって……!?」
カーラは上半身をぐらりと傾ぐと、胸を押さえて目を見開いている。
執事はそんなカーラを満足気に眺めると、畳み掛けるように言葉を続けた。
「期間限定……。ふふふ、唆るでしょう。ほうら、あなたのお嬢様も白タイツを履くべきだと思いませんか。白地に苺柄のゴシックなドレス。レースをたっぷりとあしらったドレスから伸びる白タイツで包まれた御御足……」
「ごくり」
「靴は真っ赤な靴がいいでしょうな。瞳と一緒の色が良いでしょう。それはまさに奇跡のような愛らしさでしょうな……」
「……ああああ」
「私は絶対に白タイツなんて履かないからね!?」
カーラが、カーラが「白タイツ教」に洗脳されようとしている……!!
身の危険を感じた私は、勢いよく椅子から立ち上がった。
けれども、カーラが恐ろしいスピードで私の手を掴み、はあはあと息を荒げながら顔を近寄らせて来た。
「お嬢様……わたくしめに、白タイツの奇跡を!!」
「奇跡ってなにィィィィィ!!」
私は紅茶のカップを必死で掴むと、思い切りカーラにぶっかけた。
「……はっ!! お嬢様に無理強いをした挙句、紅茶をかけられてしまった……!!」
その瞬間、カーラの顔から熱が引いていき、私はほっと胸をなでおろす。けれども、すぐにカーラの頬が熱を帯びて、私はどうしようもなくこの場から逃げたくなった。
「それもまた……良きかな……!!」
「くくく、計算通り」
「そこの執事、覚えておきなさいよ!!」
私は邪悪な笑みを浮かべている執事に、空のティーカップを投げつけたのだった。
ブクマ、評価ありがとうございます〜
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