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転生令嬢は自分の残念さには気付いておりません。

 商人ギルドを後にした私たちは、今日泊まる宿に行くことになった。ガタゴトとゆっくりと進む馬車に揺られて、私は窓の外をぼうっと眺める。

 そんな私に、オルバは気遣うような視線を向けながら言った。



「今日は一日盛り沢山な日だったね。もう日も暮れるし、王への謁見は明日にしよう」

「そうね。流石に、私も疲れちゃったわ。ギルマスも、私の薬を結構なお値段で買ってくれたし……やりきった感が凄い」



 私はイフリートの頭に顎を乗せて、眠気でしょぼしょぼする目を擦る。

 あの後、全裸で戻ってきたギルマスは、別の意味で興奮していた。自身の肌のぴかぴか加減に、これは貴族の女性にヒットするに違いないといい出したのだ。


 結果、私は薬と引き換えに、大量の金貨を手に入れる事が出来た。

 オルバの館に帰った後も、同じ薬を定期的に納品する約束をしている。薬がヒットすれば、暫くはお金に苦労しないだけの収入がありそうだ。


 ――まあ、それはいいのだけれど。


 私は、イフリートをぎゅっと強く抱きしめると、小さく溜息を吐いた。



「……この小さな体、体力なさすぎだわ。もう、くたくたよ。賢者の石を飲んで不老不死になったとしても、疲労までは拭えないのね。誤算だったわ……。ああ、肉体派に路線変更しちゃおうかしら。体力・筋力増強剤を使って」

「絶対におやめください。疲れたのであれば、わたくしにおっしゃってくだされば、なんとか致しますので。ムキムキ美幼女なんて……。ニッチ過ぎて、わたくし看過できません」



 すると、カーラが私にひざ掛けを掛けてくれた。その途端、急激に眠気が襲ってきて、隣に座っているカーラに寄りかかる。



「――筋肉錬金術師幼女。新しいジャンルを開拓しようと思ったのに……」

「残念ながら、どこにも需要はございません。諦めてくださいませ」

「カーラは厳しいわね」



 私は今にも眠りそうになりながらも、遠くにぼんやりと見える白い建物を見つめた。



「……王城って、エンシェントドラゴンの頭蓋骨の部分なのよね」

「ああそうさ。磨き上げられた竜の骨で作られた城は、それはそれは見事なものだよ」

「そう。……ふふ、楽しみ」



 私はそう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。

 そうこうしているうちに、知らぬ間に宿に到着していたらしい。私はふかふかのベッドの中で、巨大なドラゴンとお腹いっぱいケーキを食べる幸せな夢を見ていた。


 *


 翌日、昼前に宿を出発した私たちは、程なく王城に到着した。



「……ふわあ」



 私は城を間近で見るなり、ぽかんと口を開けて見上げることしか出来なかった。


 その城は、骨の集合体だった。

 土台といえるものは、巨大なエンシェントドラゴンの頭蓋骨だ。エンシェントドラゴンの骨はどれもこれもが巨大で、圧倒的な迫力がある。


 けれども、柱や装飾に使われている骨は小さく細かい骨だった。

 経年劣化のせいで、若干黄ばんでしまっている骨。嘗ては何かの一部であったそれが、本来の形を活かしたまま、まるでパズルのように複雑に組み合わさっている。



「この小さな骨は、エンシェントドラゴンと同じく、神話時代の生物のものだと言われています。この土地は、嘗て竜の棲まう地でした。エンシェントドラゴンの庇護を得ていた人間たちは、当時から竜の食べ残し(・・・・)を使って、道具や住まいを作っていたのです。彼らが竜の死後、亡骸を使って城を作ったのは、当時の生活様式から考えると、自然なことだったんですよ」



 城内を移動がてら、先導してくれた兵士さんは自慢げに城の成り立ちを説明してくれた。骨なんて、経年劣化でもろくなりそうなものだけれど、ひとつひとつを特別な油に浸してから磨いているそうで、滅多に崩れ落ちたりはしないのだそうだ。


 骨の優しい乳白色は、亡骸の一部であるのにも関わらず、おどろおどろしい印象は与えずに、芸術作品として昇華されているように思えた。

 私はほうと熱い吐息を吐くと、昂ぶる己の体をぎゅっと抱きしめた。



「本当に素敵な城! それにしても……竜の食べ残しって……つまりは、これ全部、竜のお口に一回入ったのよね……!?」

「はいはい。アンジェリカ、落ち着いて〜」

「うっ、唾液……咀嚼……ううっ! ペロペロ……ペロペロしたのかしら!?」

「どうどう。きっと、ペロペロしたねー。ちゃんと息をするんだよ。はい、ヒッヒッフー」

「ヒッヒッフー」

『そこの変態親子、なんか違わねえか?』



 竜を愛する私が、こんな城の中をまともに歩けるはずがなく。

 私は、不本意ながらもオルバに抱っこされたまま、王様の待つ謁見室へと通されることになった。



「よくぞ来た! オルバ!」

「お久しぶりでございます」



 王は私たちが謁見室に入るなり立ち上がって、満面の笑みを浮かべてこちらに近寄ってきた。そして、オルバと固い握手を交わすと、私の前にしゃがみ込んだ。



「おうおう。可愛い子だな。人工生命体ホムンクルス……オルバは本当に成し遂げたのか」

「僕はやると言ったらやる男ですよ、王よ」



 すると、王様は優しげに目を細めて、私の頭を撫でた。



「我が娘の幼い頃にそっくりだ。オルバの理想の美少女像は、今も昔も変わらぬようだ」

「……我が娘?」



 私が首を傾げると、王様は少し悪戯っぽく笑った。



「そうさ。この錬金術師は、昔々我が娘の家庭教師をしていた。我が娘が成人した途端、嫁にくれといい出してな。……こいつと娘が出会ったのは、娘が5歳の頃だ。当時の娘の姿が、理想の美少女のイメージそのものだったんだそうだ。どうだ、変態だろう」

「ちょ、王よ。それは、アンジェリカには……」

「しかも、私の知らないところで、我が最愛の娘を錬金術かぶれにしてくれおった。この男とふたりでホムンクルスを作るのだと、目をキラキラさせている娘を見たときは、本当にどうしてくれようかと頭が痛かったよ」

「王……お義父さん、やめてください!!」



 オルバが泣きそうな声を上げると、にんまりと笑った王様は私をぎゅっと抱きしめた。



「私の娘な、生まれつき病弱だった。その娘が、私のために孫を見せてやるんだと、この男との結婚を望んだんだ。オルバとなら、可愛い孫を……私に……見せられると」



 一瞬だけ言葉を詰まらせた王様は、目元にじわりと涙を浮かべて、しみじみと言った。



「なんて可愛い子だろう。いつでも遊びに来なさい。私はいつでも君を歓迎する」

「……は、はい……」

「ああ、可愛い! 声まで娘にそっくりだ! ようし、昼食を共にしよう!」

「う、うわっ!!」



 私を抱き上げた王様は、嬉しそうに侍従に指示を飛ばしている。そして、どこまでも優しい瞳で私をじっと見つめて言った。



「アンジェリカだったか。お前の好きなものの話を聞かせておくれ。孫の話を聞きながら食事をするのが夢だったんだ」

「……じゃ、じゃあ……竜の話を」

「「『――王よ、少々お待ち下さい!!』」」



 私が「竜」と口にした瞬間、オルバを始めとした皆が大慌てで叫んだ。

 そして、部屋の隅に連れて行かれ「ペロペロ」と「ハスハス」は禁句だと重々言い含められたのだった。


 ――なんで、普通に「竜愛」を語ったら駄目なのかしら。


 私はひとり首を傾げながら、王様との昼食会で思う存分熱弁を振るったのだった。



「……可愛い孫が……」



 ――昼食後。

 何故か王は頭を抱えて泣いていた。オルバは怖い顔をした近衛兵に、どこかへ連れて行かれてしまった。

 きっと、私が可愛くて賢すぎたからだろう。うーん。孫パワーって凄いね!

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