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転生令嬢のお薬は大変優秀でございます。

 商人ギルドは、大きな街には必ずある商人たちの組合である。

 商売上の損害があったときに助け合ったり、取り扱っている商品をギルドを通して卸したり――商業活動に於いて、重要な意味を持っている。


 商人ギルドは、何もひとつだけと言うわけではない。

 商人たちの間にも、「派閥」と言われるものがあり、この小さな国の王都に於いても、複数の商人ギルドが存在していた。



「ハトハルには大きな商人ギルドがふたつあってな。そのうちのひとつがうちだ」



 日焼けした頭をつるりと撫でたギルドマスターは、オルバとがっちりと握手した後に、私にそう説明してくれた。ここのギルドの名は「(ホルス)」。そこのギルドマスターだからか、彼の榛色の瞳はまるで鷹のように鋭く、筋骨隆々な姿は、商人の筈なのに歴戦の勇士のような雰囲気を持っていた。



「オルバには、うちに薬を卸して貰っていてな。他の錬金術師のものよりも上質だもんで、貴族連中にもお得意様がいるんだ。うちも随分と助かっている」



 オルバの薬を買うついでに、他の商品――それも、高級な品々を買ってくれる貴族は、このギルドにとっては大きな顧客らしい。オルバの薬は、そういう意味でも重宝されているようだ。ギルドマスターは私を見るなり、顎髭を指で扱くと、オルバにちらりと視線を投げた。



「それで、このお嬢ちゃんが?」

「ああ。僕の娘さ。将来は後を継いでもらうつもりだよ」

「そうか、そうか。嬢ちゃんがなあ……。どうぞよろしくな、今後共うちのギルドと末永く付き合ってくれると助かる」



 ギルドマスターは私の前にしゃがみ込むと、目線を合わせて、白い歯を見せて笑った。

 彼はかなりの強面だ。更にはスキンヘッド。幼女的には、恐怖感を感じずにはいられない。別に何をされたという訳ではないけれども、思わず身構える。けれども、彼の目の奥には優しい光が宿っているのに気がついて、私は体の力を抜いた。



「あいつにどことなく似ているな。……なあ、アンジェリカだったか。なにか困ったら、おじさんに頼るんだぞ」

「……はあ」

「オルバは、錬金術に関しては一流だが、それ以外は適当だからな……」



「あいつ」って一体誰だろう。

 そんな疑問がよぎったけれど、私はギルドマスターににこりと微笑むと、スカートの裾を摘んで挨拶をした。



「ありがとう、ギルドマスター。なにかあったら、よろしくお願いするわ」

「可愛いお嬢さんだな、オルバの娘とは思えない。欲しいものはあるか? なにか一つプレゼントしよう」



 ギルドマスターの言葉に、私は一気にテンションが上がった。

 興奮気味に、両手で熱くなった頬を押さえて、欲しいものを指折り挙げていく。



「あのね、私――竜をこよなく愛しているの! 出来れば、竜に関するものがいいわ。竜の匂い袋、1分の1スケールの竜人形、竜の抱きまくら、竜の天井絵、竜なりきりグッズ、竜鑑賞ツアー……ああ。選  べ  な  い」

「やっぱり、お前は間違いなくオルバの娘だな」



 ギルドマスターは呆れたように大きく嘆息すると、「なにか気に入りそうなものを用意しよう」と苦笑いを浮かべた。そんなギルドマスターに、オルバが声を掛けた。



「ギルマス、すまないね。今日、来たのは娘の薬を幾つか買い取ってくれないかと思ってきたんだ。大丈夫かな」

「……ああ、そうなのか。そうだな……お前の娘の品であれば、買い取るのは吝かではないが、今は少し間が悪いな」

「何故だ?」



 するとギルドマスターは大きく首を振ると、しんどそうに顔をしかめて、自分の腰を擦った。



「最近、うちのギルドの扱いの品だと言って、粗悪な薬が王都で出回っているんだ。そのせいで、薬の売れ行きが芳しくなくてね。高値での買い取りはできないかも知れない。まったく……この間、腰をやっちまって辛いっちゅうのに。頭まで傷んできたぜ」

「それは『(バステト)』の連中かい?」

「いや、わからねえ……が、あいつらの仕業だとは思いたくはねえな。『鷹』と『猫』はお互いに競争し合ってここまででかくなったんだ。そのスタンスは、これからも変わらない。……そうあって欲しいと、俺は思ってる」



 ギルドマスターは、はあ、とため息を吐くと、また腰を擦った。

 そして、「じゃあ、買い取ってほしい薬を出しな」と投げやりに言った。私がオルバの方を見ると、彼は苦笑しつつも頷いてくれた。私はカーラに鞄を持ってきて貰うと、その中からひとつの瓶を取り出した。



「……? 飲み薬か?」



 ギルドマスターは、薬を見て怪訝な表情を浮かべている。

 私は小さく首を振ると、徐に瓶の蓋を開けた。その瞬間、瓶の中身がぬらりと蠢いた。



「――いいえ、これは塗り薬(・・・)よ」



 私の言葉と共に、青い薬効スライムが瓶から溢れ出す。薄く広く体を伸ばしたスライムは、ギルドマスターを包むように襲いかかった。



「むごっ……! むうー! ぐうーっ!!」

「ちょ……アンジェリカ! 大丈夫なのか!?」



 オルバは青いネバネバに覆われているギルドマスターを見て、大いに慌てている。

 私はまるでB級のホラー映画のようになっているギルドマスターを指さして、「問題ない」と笑った。



「大丈夫よ。見ていればわかるわ」

「ほ、本当に……?」

「ご主人様、お嬢様の作ったお薬に間違いがあるはずがございません」

「カーラのそういう盲目なところ、私時々怖いわ」

『そもそも、こんな薬を作り出すお前の方が怖えよ……』

「ポーチ風情が、なにか言っておるわ……」

『くっそ、人を勝手にポーチにしたくせに、何なんだ、くっそ!』



 それからおよそ三分後。

 青い薬効スライムは、ギルドマスターの肌に染み込み、姿を消した。



「……はあ。はあ。はあ」



 ギルドマスターは、床に這いつくばって、荒い息を吐いている。



「お、オイ……なんだったんだ、コレ。はあ……死ぬかと思ったぜ」

「ふふふ。どうかしら、私の薬の力……」

「一体何なん……はっ!! これは」



 ギルドマスターは自分の体の変化に気がつくと、驚愕の表情を浮かべた。



「……肌がモッチモチ……!! キメが細かくなってる。しかも、若干白くなっているように見える……!! そこら辺の商売女よりも、よっぽど綺麗な肌になってらあ! それに、俺の腕に生えていたジャングルみたいな腕毛がねえ……!! 綺麗に除毛されてやがる!」



 ギルドマスターは勢いよく立ち上がると、自分の体を確認して喜色満面で言った。



「全身の毛がさっきのスライムに喰われたってことか? ……おいおいおい、それに腰もなんともねえぞ……! 古傷も消えてる。これはエリクサーか!? すげえ!」

「本物のエリクサーになんて、到底及ばない劣化品よ。私、エリクサーを研究しているのだけれど、これはその過程で完成した副産物」

「劣化品でこれかよ! 最高だな!!」



 ギルドマスターは大笑いすると、私に向かって歩いてきた。

 するとその時、丁度ギルドマスターの部屋がノックされた。そして、間髪あけずに扉が開いた。


 扉から、ひょいと顔を覗かせたのは、受付にいた女性だ。



「ギルドマスター……そろそろ、会議のじか……」



 すると、女性は「ひっ!」と顔を引き攣らせると、口を手で覆った。



「変態……!! ギルドマスターの露出狂〜!!」

「んん? あ?? ちょっと待て、オイ!!」



 バタバタと激しい足音を立てて去っていく女性を、ギルドマスターが慌てて追っていく。

 私は、ギルドマスターの真っ白なお尻が扉の向こうに消えるのを眺めながら、眉をぎゅっと顰めた。



「……プロトタイプ薬効スライム『BIHAKU(美白)』。肌の老廃物を取り除き、肌を蘇らせる。細かい傷くらいなら消える。腰痛、打撲等の痛みにも効く……今後の課題としては、興奮作用を抑えることと、どうやって服を溶かさないようにするかよね」

『……ギルドマスター……可哀想に』



 ……遠くで、女性たちの悲鳴が聞こえる。



「……後で滅茶苦茶謝ろう」



 オルバの決意の籠もった声が、ギルドマスターの部屋に響いていった。

ちょっと色々と忙しいので、連載が不定期になります〜申し訳ございません!

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