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転生令嬢はブームを創り出すのもやぶさかではございません。

 馬車の中に戻った私は、鞄の中に人形を仕舞い込むと、途端に頭を抱えた。



「格好つけて、気前よく自分のお小遣いを全部あげてしまった件」

『考えなし』

「追加はあげないよ〜? 教育に良くないからね!」



 オルバが言い放った言葉に、私とイフリートは思わず顔を見合わせる。



「……オルバって、私にどこまでも甘いイメージだったのに」

『お前も一端の親だったんだな……』

「ちょ、どういうことかな……っ? 僕だって、アンジェリカの教育方針とか色々と考えていたんだよ。まあ、既に出来上がっている人間の魂を体に入れた時点で、その方針はあまり意味がなくなったけれどね」



 すると、カーラがさっと手を上げた。頬を上気させ、目をきらめかせている姿に、私はどことなく嫌な予感を覚えて身構える。



「かくなる上は、わたくしがこの体を張って稼いで参りましょう」

「……カーラ、自分の体を大事にして!?」

「問題ございません。適当に指名手配犯の首をこう……」

「そっち!? それと、手の動きが生々しい。捻り切らないで……!!」



 思わず凄惨な状況を想像して、ぞっとして自分の首を押さえる。そして、今すぐにでも馬車を飛び出して行きそうなカーラを必死に止めた。



「だ、大丈夫よ、お金はなくても過ごせるもの。買い物は出来ないかもしれないけれど、竜の鱗を模したアクセサリーとか欲しいとか思っていないもの。竜のタペストリーも、全然欲しくないもの。竜のぬいぐるみなんて、これっぽっちも」

「これは絶対に欲しいやつだね」

「お嬢様……!! やはり、わたくしが!!」



 すると、立ち上がろうとしたカーラをオルバが制した。オルバは丸眼鏡をキラリと光らせると、人差し指を立てて言った。



「なら、お金がないなら、自分で稼げばいいじゃないか。この町には、商人ギルドが複数ある。その中に、僕の馴染みのギルドがあるから、そこに行こうか。アンジェリカ、自分の作った薬を幾らか持って来ているだろう?」

「そりゃ、持ってきているけれど……」

「元々連れて行くつもりだったから、丁度いい。一緒に行こうじゃないか」



 そう言うと、オルバは柔らかく笑った。


 *


 商人ギルドは、王都の中でも商店の建ち並ぶ賑やかな場所にあった。

 他の建物と同じく、黄褐色の石で組まれたシンプルな造りをしていて、入ってすぐに大きなカウンターがある。窓際にはテーブルがずらりと並び、商人とギルドの職員が、真剣な表情で商談をしている姿が見える。


 すると、オルバは建物に入るなり、首を傾げた。どうしたのかと問うと、どうも随分と閑散としているらしい。確かに、商談をしている人も然程多くない。カウンターの奥に居る職員らしき人たちも、深刻そうな表情でボソボソと話し合っている。



「以前来た時は、商人と職員の掛け合いですごく賑やかだったんだけどなー」



 ボリボリと頭を掻いたオルバは、怪訝な表情を浮かべながらも、カウンターの女性に声を掛けた。



「やあ。こんにちは。ギルマスはいるかい?」

「あっ! いらっしゃいませ、オルバ様!」



 その女性はオルバを見るなり、ぱっと表情を輝かせた。

 オルバが慣れた様子で書類に何やら書き込んでその女性に渡すと、女性はすぐさまギルドマスターの下へと案内をすると言って、カウンターから出てきた。


 すると、その女性は私を見るなり固まってしまった。どうしたのかと、イフリートと顔を見合わせる。すると、その女性は周囲を気にするようなそぶりを見せたかと思うと、少し小声になって声を掛けてきた。



「あの、魔物の討伐報告でしたら、冒険者ギルドの方に……」

「討伐?」

「ええ。それ、魔物の討伐証明用の生首でしょう?」

『俺は死んでねえぞ!!』

「きゃあああ! 生きてるう!?」



 イフリートが怒りに任せて怒鳴ると、女性は悲鳴を上げてオルバの後ろに逃げ込んだ。すると、ギルド中の人間から視線が集まる。皆、私の手の中の生首を引きつった表情で見つめている。



『ふっふっふ……。俺様が偉大なる炎の魔人、イフリートだと気付いたか……地獄の業火に焼き払われたくなければ、敬意を示せよ』

「いや、単にしゃべる生首にビビってるだけでしょ」



 ……そういや、これ生首だったなあ。

 私は、自分の抱えているものを思い出して、苦笑した。生首が常にそこにある生活に慣れてしまって、なんとも思っていなかった。これはいけない。初めて会う人会う人に気味悪がられていたら、色々と不便だろう。



「カーラ、どうすればいいと思う?」



 隣に立っていたカーラに意見を求める。すると、彼女はにこりと微笑んで、徐にオルバのベルトを抜いた。



「ひゃん!? こんなところで……!? 出来れば、個室でふたりきりの時にしてほしいな……!!」

「ご主人様は、黙っていて下さいませんか。余計な誤解を招きかねません」



 カーラはオルバに侮蔑の視線を投げると、イフリートの両角にベルトを括り付けた。



「……これでよし。あとで、きちんとしたものを作りましょうね」



 そして、それを私の肩に斜めに掛ける。するとイフリートの生首が、まるで鞄の様に私の肩から下がった。カーラは最後に、イフリートの真っ赤な髪にどこからか取り出した白い花の髪留めを付けると、満足そうに頷いた。

 私はカーラの意図を読み取って頷き返すと、自信満々に女性に向かって言った。



「おねえちゃん、これは最新式のポーチなの。デザイン『羅刹』。私、今年はコレが来ると睨んでいるわ」

「……ら、羅刹!? 流石にこれは尖りすぎでは」

「確かに、鞄としては収容力はないわ。口の中に物を入れると、べたつくし」

『お前、俺に何を入れるつもりだ!?』



 私はにっこりと微笑むと、まるで愛おしいペットを愛でるように、イフリートの頭を優しく撫でた。



「けれど、彼には言語理解機能がある。いつだって、話し相手になってくれる。適度なボケには、最高のツッコミをしてくれる。このポーチがあれば、仕事から帰って、誰もいない部屋の孤独感に怯えることはなくなるでしょう。永遠の友、永遠の恋人、永遠のパートナー。新型ポーチ『羅刹』。カァミィィィングスゥゥゥゥン……」

「買います」

『食いつきが早え!!』



 見ると、女性は涙を浮かべて、イフリートに熱い視線を送っている。



「これがあれば、独りじゃなくなる……? いつ!? どこで発売されるの!!」



 私は「これはプロトタイプで、まだ開発途中でございます」と、血走った目で財布を取り出した女性を牽制した。周囲の人たちも、これは新型のポーチなのだと納得してくれたようだ。視線から不信感や恐怖感は拭われ、興味津々でこちらを見ている。


 すると、オルバが非常に気まずそうに声を上げた。



「ええと。ギルマスのところに案内してくれるんじゃなかったっけ……?」

「ああ、そうでございました! 失礼いたしました……!!」



 女性は慌てて財布を仕舞うと、私達を二階にあるというギルドマスターの部屋へと案内し始めた。



『……俺様、売られちゃうのか?』



 ――ちょっぴり不安そうなイフリートには、そんなことはしないとフォローをしておいたけれど。

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