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閑話 メイドのモットーは可愛いは正義でございます。

 わたくし、メイドでございます。


 名はカーラ。23歳、むちむちピッチピチ。一時期は冒険者なんてものを嗜んでおりました。けれども現在はメイド。なんて完璧なのでしょう。それだけで、一定の性癖を持つ殿方から好かれそう。まあ、わたくしが勤めている屋敷には、そんな性癖を持つ殿方なんておりませんが。


 いるのは、ホムンクルス作成に情熱を注ぐ錬金術師。わたくしのご主人様でございます。

 以前は奥様がいらっしゃったようですが、今はおりません。ご主人様に長年仕えている母によると、ご主人様と同じ様に、奥様もホムンクルス研究の第一人者だったそうでございます。長患いの末、亡くなってしまったそうでございます。


 それ以来、ご主人様は独身を貫き通していらっしゃいます。

 お見合いの申込みも沢山来たようですよ? ご主人様はこう見えて、結構優良物件でございますからね。有象無象が集って来たらしいですが、ご主人様は「研究が忙しい」と全てお断りになりました。


 そんなご主人様。身の上だけ聞くと、メイドにハァハァしそうな要素がたっぷりでございますね! やもめご主人様とメイド……ねっとりぬっとりしそうなワードでございますが、残念ながらそんなことは一切ございません。


 ご主人様がハァハァするのは、お嬢さまだけでございます。

 

 長年の研究の末、ご自身が造り出したホムンクルス。そのご令嬢を溺愛されていらっしゃるのです。


 ご主人様は、今日も研究室に篭って、お嬢様の研究結果を纏めております。それだけなら、錬金術師として普通でございますが、研究用のレポートに描かれたお嬢様の絵が似すぎていて気持ち悪い。


 その自分が描いた絵を撫でながら「今日も可愛いよ……」なんて呟いた日には。


 ――メイドにハァハァするよりも危のうございますね!


 お嬢様のためにも、この男排除するべきか、と真剣に悩みたくなるくらい危ない!

 通報できるものなら通報したい、そんな案件でございます。



「……カーラ。どうして侮蔑の篭った視線を僕に寄越してくるんだい? まあ、若い子にそういう目で見られるのは悪くないけれどね!」

「そういう性癖もございましたか。今すぐ滅んでみますか?」

「ハハハ! ちょっとした発言が命取りだね!」



 笑っていたご主人様でございますが、わたくしが本気だとわかると、丸眼鏡の奥で若干怯えた眼差しを致しました。わたくしはそれには構わず、ご主人様の好きな銘柄の紅茶を淹れます。すると、何か思い出したのか、ご主人様がわたくしを見ました。



「ああ、カーラ。今度、王都に行くだろう? アンジェリカたんによく似合うドレスを新調しておいてくれないか」



 ご主人様は、お嬢様がいない時だけ「アンジェリカたん」と呼びます。正直なところ、それがお嬢様にバレたら、ものすごく嫌な顔をされるのではないでしょうか。あの綺麗なお顔から向けられる、蔑みの眼差し……わたくし、ゾクゾ……げふん。肝が冷える思いでございます。

 わたくしはご主人様に大きく頷くと、どんと胸を叩きました。



「承知いたしました。お嬢様のため――わたくし、カーラ。生命を懸けてでも最高の品をご用意いたします」

「決意が重いな!」



 わたくしは目を閉じると、決意を新たに致します。


 先程も申し上げましたが、お嬢様とは、ご主人様が作り出したホムンクルスでございます。


 穢れを知らない初雪のような白い御髪(おぐし)

 この世の真理を見通す、ピジョンブラッドよりも美しい紅を持つ瞳。

 妖精と見まごうばかりのツン、と尖ったお耳。

 血潮が透けるほどの白い肌は、不思議と病的には見えずに、清純な印象を与えます。

 小さな唇と頬はお揃いの桜色で染められて、笑顔を浮かべるとわたくし、昇天してしまいそうになるほどです。


 ――ああ、お嬢様。この世に舞い降りてきた天使。


 たとえ、お嬢様が竜に傾倒していようとも、このカーラ……可愛いは正義をモットーとしておりますので、然程気になりません。



「……お嬢様のドレス」



 お嬢様の肌に触れるもの、お嬢様を飾るものは、最上でないといけません。


 ――例えば、酸の沼地の最奥にしか生息しない、聖蚕の糸を使ったシルク。

 ミスリルを限界まで細く紡いで、それを使って刺繍をするのもいいでしょう。

 靴は、幻獣の皮を用いて、羽よりも軽く履き心地のいいものを。

 宝石も傷や濁りがひとつない大粒のものを用意しなくては。


 わたくしは、体内の血潮が滾るのを感じておりました。

 ――狩りに行きましょう。最上級の宝石は、ジュエルゴーレムの体から獲るのが手っ取り早いのです。Sランクモンスター? わたくしにとっては、赤子のようなもの。問題ありません。



「ゴーレムなぞ、狩り尽くしてやりましょう。数多の宝石の中から厳選しなくては」



 わたくしがそう呟くと、ご主人様が冷めた視線でこちらを見ているのに気が付きました。「君の愛は重い」とおっしゃっておりますが、一体なんのことでしょうか。

 お嬢様を愛するのに重いも軽いもございません。


 わたくしは愚直に――……ひたすら、あの方に尽くすのみ。


 さあ、急がねば。ジュエルゴーレムは少し離れたところに生息しているのです。わたくしは、すぐさまご主人様に退室を願い出ました。


 すると、ご主人様は若干呆れ気味にわたくしを見ると、小さく肩を竦めました。

 そして、また机に向かいます。これは、行ってもいいと言う意思表示でしょう。

 その時、わたくしはご主人様が机の上に置いてある写真立てを見つめているのに気が付きました。


 そこには、亡くなってしまった奥様の肖像画が入っておりました。

 奥様は、ご主人様には勿体無いくらいの美人な方。もしご存命であれば、わたくし一生ついていく決意をしていたかもしれません。可愛いは正義ですが、綺麗は力でございます。


 思わずその美しさに見惚れていると、ふとご主人様が呟きました。



「……僕たちの娘は、今日も元気に過ごしているよ」



 ……なんでしょう。なんだか、いい話っぽい雰囲気を醸し出しています。


 ご主人様のくせに。ご主人様のくせに。

 

 わたくしは、少し眉を顰めると、ご主人様の背後に立ちました。

 ご主人様は、わたくしがまだいることに驚いて、こちらを見上げております。



「ご主人様の大切な大切なお嬢様を、わたくしめがとても素敵なレディにしてみせますわ。可愛いは正義。お嬢様はこの世の誰よりも可愛らしい。つまりは、誰よりも幸せになるべきなのです」



 すると、ご主人様は困惑したように眉を下げると、くしゃりと少し泣きそうな顔になって言いました。



「僕の娘をよろしく頼むよ。カーラ」



 わたくしは無言で頷くと、急いで研究室を出ました。


 ……ジュエルゴーレム散々狩った結果、お嬢様の瞳と同じ色の大粒のルビーを手に入れることが出来ました。出来上がったドレスは、勿論最高品質。きっと、お嬢様を美しく、可愛らしく――それでいて、王都で一番幸せな少女に飾り立ててくれることでしょう。


 わたくしはドレスを眺めながら、うっとりとそれをお嬢様が纏った姿を想像して微笑んだのでした。



おまけ


カーラ レベル36(ジョブ:メイド・狂戦士)

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