少年
少年は道を歩いていた。
ふと、前を見た。
前には、闇があった。
一寸先も見えない、漆黒の闇。
自分の行く道はどんなものか、皆目見当もつかない。
少年は恐怖を覚えた。
仕方なく、後ろを見た。
後ろには、崖があった。
底の見えない断崖絶壁。
さっきまで通った道はどこにいってしまったのだろう。
これでは戻ることもできないではないか。
少年は絶望を覚えた。
次に右を見てみた。
右には、宝石があった。
光り輝く、美しい宝石。
少年は宝石に触れようとするが、手がすり抜けてしまった。
何度試しても、一向に手は空を切るばかりだ。
こんなに近くにあるのに、とても遠くに感じられた。
少年は虚しさを覚えた。
諦めた少年は左を見た。
そこには覇王樹が生えていた。
棘の長い、大きな覇王樹。
これもどうせすり抜けるのだろう、と触れてみた。
覇王樹の棘は容赦なく少年の手に突き刺さり、手に血が滲む。
少年は痛みを覚えた。
痛みに悶え倒れ込んだ少年は、暫くして仰向けになり、空を仰いだ。
空には月があった。
太陽の光を受けてのみ輝くことのできる月。
少年はもう一度、辺りを見回した。
しかし、自分を輝かせてくれるものはなかった。
少年は嫉妬を覚えた。
少年は立ち上がったが、自分には何もできない、と
項垂れた。
足元の地面が見えた。
何もない、平らな地面。
少年は、地面を思い切り踏みつけた。
何度も何度も、踏みつけた。
少年は、悔しさを覚えた。
いっぱいになった心は耳を刺すような破裂音とともに弾け、少年は倒れた。