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絶望都市シャンバルディア  作者: 東メイト
第三章:奇跡への布石
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第8話:酒場

俺達がシャンバルディアを旅立ってから既に2ヶ月近くの歳月が流れていた。俺達は長い馬車の生活を経てようやく目的地である宿場に辿り着いた。


「こんなところで何をする気だ?」

「ここである物を手に入れておかないと研究所に入ることができんのでな」

「ある物?それはなんだ?」

「それは・・・許可証だ。それがなければ俺達のような流れ者は研究所へ入れてもらえないからな」

研究所に立ち入るには領主からの許可証がなければ入ることができない。ただし、研究員に多くの貢物をして顔馴染みになった者は許可証がなくても顔パスで研究所に入ることができるらしい。

闇商人達は必要になくなった許可証をそういう商人達から買い付けることでナノマシンの取引を行っていた。


「なるほど、それを手に入れるためにこの宿場に立ち寄ったのか」

「それもあるが、あとはここで研究所に引き渡すための生産品も用意しなければならない」

商人が科学者にナノマシンを作ってもらうにはそういった献上品も用意する必要があった。


「まぁ、お前さん達は宿の中でゆっくりと休んでいてくれ。俺は酒場で必要な物を手に入れてくるから」

「酒場だって?それなら俺も付いて行くぜっ」

ジャンゴは酒場と聞いて飛び起きた。

俺達のいた地下都市ではそういった飲み物は一切禁止されており、何か祝い事がない限りそのようなお酒を振る舞われることはなかった。


「あんな苦い物の何がいいんだ?」

俺には酒の味がわからなかったため、ジャンゴが飛び付く理由が理解できなかった。


「ふん、お子様め。その苦味がいいんじゃないか」

ジャンゴは鼻を鳴らすと俺のことを軽く嘲笑った。


「付いて来るのは構わんが、一杯しか奢らんぞ」

「そんなけちけちするなよ」

ジャンゴは馴れ馴れしい態度でボアに集った。


「酒に溺れて余計なことを口走られては叶わないからな」

ボアは俺達が酩酊して口を滑らせることを恐れていた。


「まぁ、一杯でも飲めるなら俺はあんたにどこまでも付いて行くぜっ」

「お前さんはどうする?」

「それじゃ・・・俺も社会勉強のために付いていくとしよう」

俺はジャンゴが暴走することを恐れて付いていくことにした。


「・・・仕方がないな。付いて来い」

ボアは手を招くと俺達を連れて酒場へと移動した。


「何だか随分と賑やかな所だな」

俺達が酒場の入り口に着くと店の中から賑やかな人の声が聞こえてきた。


「ほらよ。これで好きなものを頼むといい」

ボアは俺達にお酒1杯分の紙幣を手渡すと店の中で目的の人物を探しに行った。

入り口付近に残された俺達はカウンターでお酒を作っているマスターの所へと移動した。


「何にする?」

ジャンゴは目を輝かせながらカウンターの壁に並べられた酒を見回した。


「俺は・・・ミルクでいい」

「おいおい、のりが悪いな。ここは酒場だぜ。酒の一杯でも頼まなければ笑われちまうぜ」

ジャンゴの言うことは尤もであった。確かにこんな活気付いている場所でミルクなんて頼もうものならいい笑い者になるだろう。そうなれば否が応でも目立ってしまうことになる。

俺達はなるべく目立たないようにする必要があった。


「・・・わかった。ジャンゴに任せる」

俺はジャンゴの飲みたい物に合わせることにした。


「おう、親父。スコッチを2杯頼むぜっ」

ジャンゴは俺の金を奪い取ると自分の金と合わせて2杯分のウィスキーを頼んだ。


「ほらよ」

酒場のマスターは手際よく2杯のウィスキーをグラスに入れるとそのまま俺達のいる所までグラスを滑らせた。


「きたっ、きたっ」

ジャンゴはウィスキーの入ったグラスを手にするとテンションを上げて満面の笑みを浮かべた。


「いいか。乾杯したら一気に飲み干すんだぜ」

「おっ、おう」

俺はジャンゴに促されて言われるままグラスを手に取った。


「乾杯っ」×2

俺達はグラスとグラスを突き合わせて音を鳴らすと一気にウィスキーを飲み込んだ。


「うっ・・・」

俺は一気に目の前が揺れた。そして、胸の奥から一気に何かが駆け上げてくるような衝撃に襲われた。

まるで大量の唐辛子を口の中に押し込まれるような身体中の血管が一気に膨張し、全身から汗が噴出すような気分であった。


「どうした?もうキブアップか?」

俺とは対照的にジャンゴは全然堪えていない様子であった。


(よ・・・よくこんなものを平然と飲めるな・・・)

俺は遠のく意識の中、ジャンゴの顔を見ながらその場に伏した。


「あらら、初心者にはきつ過ぎたかな?」

ジャンゴは頭の後を掻きながらやりすぎたことを反省していた。


「親父、これで何杯かおかわりできるか?」

ジャンゴは腰に巻いていた袋の中から金の欠片を取り出すと酒場のマスターに見せた。

彼はシャンバルディアを抜け出す時にちゃっかりと幾つかの金の欠片をくすねていた。本当に抜け目のない奴であった。


「ほう?珍しいな。金の欠片か・・・お前さんが望むなら何杯でも奢ってやるぞ」

酒場のマスターは金の欠片を見ると明らかに態度を変えた。マスターはジャンゴが酔い潰れるのを狙って金を根こそぎ巻き上げることを考えているようであった。


「それじゃ、じゃんじゃんよろしく頼むぜっ」

ジャンゴは調子に乗って十数杯もウィスキーを飲みまくった。その結果、俺達は身包みを剥がされてパンツ1つで酒場の外に放り出されていた。


「馬鹿が・・・」

ボアは俺達が外に捨てられているのを見て呆れた表情を浮かべていた。そして、1人ずつ宿屋まで運ぶとベッドの上に放り投げた。


「要らぬ手間を掛けさせやがって・・・」

ボアはすっかりと息が上がっていた。俺達をベッドの上に寝かせると自分も布団の中へと潜って軽い睡眠を取った。


「痛ててて・・・」

次の日、俺は凄まじい頭痛と共に目を覚ました。初めての体験であった。まるで頭の中をつるはしで突かれているような気分だ。いわゆる『二日酔い』というものらしかった。


「あんな度数の高い酒を一気飲みなんかしたりするからだぞ」

ボアは説教をするように俺を叱った。


「あいててて・・・今は静かにしてくれ・・・」

俺は頭に響くボアの叱咤に思わず耳を塞いだ。


「とりあえず、こいつを飲んでおけ」

ボアは俺に頭痛薬と酔い止めを飲ませると頭痛が治まるまで静かに待っていてくれた。


「ところで・・・ジャンゴはどうなった?」

「そこで気持ち良さそうに寝ておるぞ」

ボアは俺の傍で寝ているジャンゴを親指で示した。ボアの言うとおり、彼は何とも気持ち良さそうに小さな鼾を掻いていた。


「って・・・何で俺はパンツ一丁になっているんだ???」

俺は酒を飲んだ後のことを綺麗さっぱりと忘れていた。


「お前さん達はあの酒場で良い鴨にされたのだ」

ボアは鞄から新しい服を取り出すと俺に手渡してきた。


「どういうことだ?」

俺はボアから服を受け取ると彼に質問をしながら服を身に着けた。


「俺も詳しくは知らないが・・・そこの馬鹿がっ。金の欠片を見せびらかして酒をせびったらしい」

ボアは暢気に寝ているジャンゴを指差すと馬鹿であることを強調した。そして、深い溜息を吐いた。


「金の欠片だって?そんなもん俺は持っていなかったが・・・」

「そいつはちゃっかりと持ち出していたみたいだぞ」

「抜け目のないやつ・・・」

俺はジャンゴの要領の良さに呆れを通り越して感心していた。


「尤も苦労して持ち出した金もあの酒場で綺麗さっぱり巻き上げられたようだがな・・・」

ボアは軽く首を横に振ると愚か者を見るような蔑んだ眼差しで気持ち良さそうに眠るジャンゴを見下ろしていた。本当に彼はとんでもない呑み助であった。

不幸中の幸いは彼が酔っ払った勢いで革命のことを口走らなかったことである。


「いいか?覚えておくといい。あんな場所で軽々しく金の欠片を見せれば『金を奪ってください』と言っているのと同じようなものだということを・・・」

ボアは迂闊な行動を取った俺に説教してきた。


(というか俺は一切そんなことをしていないのだが・・・)

俺は単にジャンゴの巻き添えを食らって身包みを剥がされただけなのである。

むしろ叱られるべきはそこで気持ち良さそうに鼾を掻いて寝ている彼の方であった。ジャンゴはそんなことを露知らず暢気な様子で寝むり続けていた。


「とりあえず、そこの馬鹿が起きたら出発するぞ。何時までもこの宿場にいては何時また金を狙われるかわかったものじゃないからな」

ボアはジャンゴの金を見た他の物取りが奪いに来ることを警戒していた。


「俺は食料や必要な生産品を買い出してくる」

「それなら俺も付き合う」

俺達は宿屋を出ると市場の方へと足を運んだ。そして、必要な物を全て荷馬車の中に詰め込むと再び部屋の中へと戻ってきた。


「ううう・・・」

俺達が部屋に戻るとベッドの上では頭を抱えたジャンゴが目を覚ましていた。


「ほらよっ」

俺はジャンゴに頭痛薬と酔い止めを渡すと水を飲ませた。


「すまねえな・・・って何でパンツ一丁なんだ???」

ジャンゴは俺と同じような反応を示すと今更ながらに身包み剥がされていることに気が付いた。そして、慌てて布団のシーツを身にまとった。


「自業自得だ、馬鹿者っ。調子に乗って酒を飲みまくるからだっ」

ボアは表情を険しくさせるとジャンゴのことを叱責した。


「それじゃ、そろそろ出発するぞ」

ボアはジャンゴに新しい服を渡すと急ぐように促した。


「ちょ・・・ちょっと待ってくれ」

ジャンゴは慌てて新しい服に袖を通した。


「ところでそっちの首尾はどうだったんだ?」

俺は馬車に乗り込むとボアに許可証の入手について確認した。


「当然、用意はできているぞ」

ボアは自信満々な態度で領主の許可証を見せた。彼はきちんとあの酒場で顔馴染みの商人から領主の許可証を手に入れていた。


「何から何まですまない」

俺はボアに頭が上がらなかった。正直、彼がいなければ俺達は何もすることができないまま研究所の前で佇んでいただろう。


「気にするな。出発するぞ」

ボアは手綱で馬を打つと宿場を後にした。そして、俺達は最後の目的地である研究所の手前までやって来た。


「とりあえず、今日はここで野宿して最後の作戦会議を行うぞ」

ボアはその場を取り仕切ると作戦会議を始めた。


「まずは正規のナノマシンの取引方法について説明する」

ボアは簡単に研究所の間取りについて描くと木の棒で俺達の行動を示した。


「最初にお前さん達は研究室の門を叩き中から研究員を呼び出すのだ」

ボアは木の棒で研究所の入り口を指し示しながら研究員を呼ぶように命令した。


「研究員は許可証の提出するように求めてくるからお前さん達はこれを研究員に渡せ」

ボアは領主の許可証を取り出すとそれを渡すように説明した。


「それを確認したら研究員が研究所内に入れてくれるだろうからお前さん達はこの箱を持って研究所に入れ」

ボアは荷台に積んである大きな木箱を見せるとそれを研究所内に運ぶように指示を出した。


「次に研究員が金と生産品の確認を求めてくるから金はこの袋を渡して生産品に関してはこの木箱の蓋を開けて中を見せろ」

ボアは木箱の蓋を開けると俺達に中身を見せた。

木箱の中にはたくさんの食料や薬品の器具、それに幾つかの白衣などの服が詰め込まれていた。


「この箱の端の方にある白い包みは何なんだ?」

俺は箱の端っこの方に詰め込まれている白いシーツに包まれた物が気になっていた。


「それについては後で説明する」

ボアは俺の質問を後回しにすると取引内容の説明を続けた。


「研究員は中身を確認したら金を持って奥の部屋に入っていく。そして、15分くらいしたらナノマシンを持って帰ってくる。あとはそれを受け取れば正規の取引は終了だ」

「なるほど・・・」

俺はボアの説明を聞きながら研究所内での自分達の行動についてイメージを膨らませた。


「まぁ、その手順通りに行動したら何事もなく取引が終了してしまうから俺が研究所の外から問題を発生させる」

「そんなことができるのか?」

俺はボアの作戦について訊ねた。


「基本的に研究室の電力は領主の発電施設から供給されている。だから、その電源ケーブルを俺がダイナマイトで破壊することで一時的に停電を引き起こす」

「そんなことしたら俺達も研究所内に閉じ込められてしまうじゃないのか?」

俺は停電により自分達の身動きが取れなくなることを心配した。


「まぁ、一時的にはそうなるかもしれないが、心配する必要はない。研究所内では内部電源が存在しているから直ぐに電源は復旧する」

「それじゃ、外の電源ケーブルを切断しても意味ないじゃないか?」

俺はボアの行動の意味がわからなかった。


「いや、充分に意味はあるぞ。電源を落とすことで一時的に監視カメラの映像を遮断することができるからな。その間にお前さん達が研究員に成りすませばいい」

「研究員に成りすます?」

俺はボアの言っている意味がわからずに首を傾げた。


「そうだ。電気が消えたら研究員を気絶させて摩り替わるのだ」

「電気が消えたら俺達も動くことができないじゃないか?」

俺は停電時に起こるであろう問題について質問した。


「そこでお前さん達は停電直前までサングラスを掛けておき、闇に目を充分に慣らしておくのだ。そして、電気が消えたらサングラスを外して木箱の中からこれを取り出せ」

ボアは木箱の四隅にある三角形の部分に手を突っ込むと奥の方から何やら不思議な装置を取り出してきた。

それは暗闇の中でも身動きができる暗視ゴーグルであった。地下都市が停電した際には衛兵達がそれを使って俺達を監視していた。


「これがあれば暗闇の中でも充分に自由に動くことができる。そして、相手が戸惑っている内に気絶させるのだ」

ボアは研究員の後襟首を拳銃の底で強く叩いて気絶させるようにジェスチャーを出してきた。


「それで研究員が気絶したらこのテープを取り出して口を塞いで手足を縛り上げろ」

ボアは暗視ゴーグルと同じ箇所から粘着テープを取り出した。


「それが完了したら木箱の左右に詰められているこの白いシーツの中身を取り出して部屋の隅の方に並べておくのだ」

そこまで説明するとボアはようやく俺が最初に質問した物について説明を始めた。


「その白いシーツの中身は何なんだ?」

「これは・・・マネキンだ」

「マネキン?」

俺は初めて聞く言葉に首を傾げた。


「昔の人間が服などを飾る際に使っていた等身大の人形のことだ。こいつを部屋の隅に並べてお前さん達の身代わりにさせるのだ」

「そんなもので騙せるのか?」

俺はそんな人形に俺達の身代わりが務まるのか不安であった。


「まぁ、ちゃんと服さえ着せていれば遠目にはわからないはずだ」

ボアは部屋の隅で相談しているように配置させることで警備員の目を掻い潜ることを考えていた。


「そして、マネキンの入っていた部分に縛り上げた研究員を詰めて木箱の蓋を閉めろ」

「なるほど・・・それで作戦は全部か?」

俺はボアに言われたことを頭の中に叩き込みながら残りの作業について確認した。


「あとは研究員達が身に着けているようなこの白衣を着て研究所の内部に潜り込んでナノマシンを製造している部屋まで移動するのだ」

ボアは木箱の中に収められている科学者用の白衣を取り出して見せた。


「そうであった。蓋を閉める前にちゃんと研究員からセキュリティカードを奪っておくんだぞ。そのカードがなければ研究所内を移動することができないからな」

ボアは思い出したように追加でセキュリティカードのことを注意した。


「なんか行き当たりばったりな作戦のような気がするが・・・本当に大丈夫か?」

「確かに危うい作戦であるが、この方法でも充分に通用すると思うぞ」

ボアは自信なさそうな様子ではあったが、充分に成功する確証はあるようであった。そもそも科学者達は自分達が襲われることなど微塵も想定していなかった。


彼らを襲うことは地上の人間達にとってマイナスにしかならない。そのため、セキュリティ対策については万が一に起こる大地震くらいにしか考えていないようであった。実際に研究所を立ち上げてから研究所を襲いにきた馬鹿な人間はほとんど見られなかったそうだ。


「それを監視カメラの映像が回復するまでの間に済ませるのだ」

「本当にそんな時間があるのか?」

俺はあまりに工程の多い作業にボアに言われたことを全て実行する自信がなかった。


「基本的に内部電源は重要な施設から供給されていく。つまり、お前さん達のいる出入り口付近の電気の供給は最後になるため、それまでの時間は2、3分程度掛かるはずだ」

「2、3分か・・・果たして間に合うかどうか・・・」

俺は眉間を狭めると難しそうな表情を浮かべた。


「どの道それをこなさなければ俺達がナノマシンの製造方法を手に入れるなんて夢のまた夢ということだ。難しく考えずに前向きにいこうぜっ」

ジャンゴは悩む俺とは対照的に暢気に構えていた。


「確かにジャンゴの言うとおりなんだが・・・」

「ここまで来たらできることを信じてやりきるしかねぇんだ。失敗なんて恐れるな」

ジャンゴは一抹の不安を飛ばすように明るい笑顔で励ました。


「お前は・・・本当に図太い神経の持ち主だな」

俺はジャンゴのポジティブさに感心して彼のことを微妙に褒めた。


「・・・そうだったっ。大切なことを忘れていたぞっ」

「なんだ?」

俺は急に声を荒げたボアの方を振り向いた。


「ナノマシンを作っている施設に辿り着いたら研究員の1人は確保しろ。ナノマシンの製造方法を手に入れたとしても多分俺達ではその機械を動かすことができないだろうからな」

ボアはナノマシンの製造員の1人を確保することを提案してきた。


「確かに作り方だけ知っても機械が扱えなければナノマシンを作製することができないかもしれないな」

俺はボアの意見に納得した。


「あとの研究員の対処については殺すなり気絶させるなりお前さん達の判断に任せるぞ」

「まぁ、無駄な殺生はできる限り避けたいから気絶させる方向で頑張ろう」

俺はジャンゴに無闇に人を殺さないように注意した。


本来であればそんな悠長なことを言ってられる立場ではないのだが、俺達の都合で襲われる研究所の人間のことを考えるとやはり気が引けていた。こんな風に他人のことを考えるようになったのはセフィの影響であった。


「・・・わかった。デュアルがそう言うなら俺もできる限り人を殺さないぜ」

ジャンゴは俺の考えに賛成してくれた。


「最後に1つ聞いてもいいか?」

俺はボアの方に振り返ると真面目な表情を浮かべた。


「なんだ?」

「もしかしてボアは以前に研究所を襲おうと考えたことがあったんじゃないのか?」

俺はあまりに手際が良すぎるボアの作戦に疑問を感じていた。

彼が考えた作戦はとても1日、2日で考えられるようなものではなかった。


「まぁ、若気の至りと言うやつだ」

ボアはむず痒そうに頭の後ろを掻くと頬の筋肉を微かに緩ませた。


実際に若い頃の彼は研究所を襲撃してナノマシンの製造方法を手に入れることを考えていたことがあったらしいが、実行には移さなかったようだ。なぜならば、彼にとって研究所を襲撃することはあまりにもリスクが高すぎるからである。


研究所を襲えば当然領主に目を付けられる。そうなれば地下都市へは行けなくなり、金を入手する方法がなくなってしまう。しかも他の商人伝いに金を取引しようにも研究所を襲った時点で領主から指名手配されるため、何時他人に裏切られるのかと疑心暗鬼な状態に陥り、まともに商売することができなくなる。


その情報は次第に周辺の領主にも伝わるため、その他の地域でも商売できる場所がなくなってしまうのである。それが彼に研究所を襲撃するのを断念させた理由であった。


「とりあえず、作戦の成功を祈って一致団結しようぜっ」

ジャンゴは徐に手を前にかざすと気持ちを合わせることを求めてきた。俺達はジャンゴに同調するようにお互いの手を重ね合わせると掛け声を発した。


「絶対に・・・成功させるぞっ」

「おおお」×3

こうして俺達は気持ちを1つにした。あとは本番を迎えるのみであった。


(セフィ・・・待っていてくれっ。必ずナノマシンを手に入れて帰るからな・・・)

俺は昂る気持ちの中で薬指に嵌めた指輪を見ながら静かに眠りに就いた。

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