第7話:出発
「うおおお」
俺は気合充分に穴を掘り進めた。
「やけに張り切っているな。何かあったのか?」
ジャンゴは異常にテンションの高い俺に首を傾げていた。
「べっ、別に何もないっ」
俺はジャンゴにセフィとの約束のことを知られたくなくて咄嗟に誤魔化した。
彼女と一緒に暮らす約束を交わしたなんて彼には申し訳なくて言い出せなかった。
「へぇ~何でもないねぇ」
ジャンゴは疑いの眼差しを向けたまま口許を緩めた。彼には俺が嘘を付いていることなどお見通しのようであった。
「お前が張り切るなんて、どうせ恋人絡みで何かあったとしか考えられないんだがな」
ジャンゴはそれだけ呟くとそれ以上のことは詮索してこなかった。
(集中だっ。集中っ)
俺は心を無にすると一心不乱につるはしを振るい続けた。そして、俺達はついに待望の瞬間を迎えた。
俺達が無我夢中で穴を掘っていると目の前の空間が崩れ落ち、その向こう側から眩い光が差し込んできた。
『びいいいっ!びいいいっ!』
俺達の手首と手足に取り付けられたセンサーがけたたましい音で鳴り響き始めた。
このセンサーは俺達の掘った穴が地上に繋がったことを警告するためのものであり、エルゾニアウィルスを検知した場合、直ちに鳴るように設定されていた。この音を鳴らした者はその場で見捨てられ、そのまま後ろの作業穴が塞がれる。
非常な行為ではあるが、そうしなければ地下都市全体にエルゾニアが入り込んでしまうからだ。こうして俺達は今まで生き延びてきたのである。
(身体には・・・何の変化もないな・・・)
俺達は前以てナノマシンを体内に注入していたため、エルゾニアに感染することはなかった。正直、内心はナノマシンが効くのか冷や冷やであった。
「うがあああ」
俺はナノマシンがエルゾニアに有効であることを確認すると雄叫びを上げた。
それは周囲の人間にエルゾニアが入り込んできていることを知らせるための合図であった。そして、周囲が注目すると俺はその場に倒れ込み、もがき苦しむ演技を見せた。
「うげえええ」
ジャンゴも俺と同様に首下を押さえるとエルゾニアに感染した如く苦しむ振りをした。
「やばいっ、逃げろおおお」
他の作業員達は俺達の姿を見て慌ててその場を逃げ出した。そして、コンクリートの壁の向こう側まで走ると直ぐにコンクリートの穴を土砂で塞いだ。
その後は更に奥の区間に戻ると手前の区間の天井を爆弾で破壊して完全に内側から遮断した。
(よし、上手くいったぞっ)
俺はコンクリートの穴が完全に塞がったのを確認するとジャンゴの傍に近寄った。
「もう起きても大丈夫だぞ」
「・・・」
ジャンゴは俺の声に反応しなかった。
「まさか・・・おいっ、ジャンゴしっかりしろっ」
(ジャンゴにはナノマシンが効かなかったのか?)
俺はジャンゴの身体を激しく揺すった。
「なんてな・・・」
ジャンゴは俺の慌てる姿を見て厭らしい笑みを浮かべた。
「ふ・・・ふざけやがってっ」
俺は悪ふざけが過ぎるジャンゴを思いっ切り殴った。
「痛いな。何も本気で殴らなくても・・・」
「本気で心配したんだぞっ。こんな時くらい真面目にしろっ」
「悪かったって・・・そんなに目くじらを立てるなよ」
ジャンゴは怒り狂う俺に手を合わせて頭を下げた。
「それよりも俺達は本当に地上に来たのか?」
俺達は地上の世界を見たことがなかったため、本当に目の前の穴が外の世界に繋がっているのか自信が持てなかった。
「間違いなく地上に通じているはずだ・・・」
ここが地上に通じていることは凄い音で鳴り響く手首や手足のセンサーが証明していた。
「とりあえず、あの光の先を目指そう」
俺は手足に付けられたエルゾニアのセンサーを取り外すと光り輝く穴の先を指差した。そして、俺達は眩しい光が降り注ぐ地上の世界へと抜け出した。
「これが・・・地上の世界・・・なのか・・・」
俺はあまりの美しい光景に言葉を詰まらせた。実際に見るのと聞くのでは大違いであった。そして、しばらくの間、眼前に広がった煌びやかな景色に目を奪われていた。
だが、そんな初々しい気持ちも長くは続かなかった。なぜならば、俺達はずっと薄暗い穴の中で暮らしてきたため、太陽の光は刺激が強すぎたのである。
「ジャンゴ・・・一度穴の中に戻ろう・・・」
「そうだな。この日差しは俺達には強すぎる」
俺達は折角外の世界に出てきたのにそのまま穴の中へと戻ると日が落ちるのを待った。そして、夕暮れ時になると近くに落ちている木々を集めて焚き火を起こした。
「何かあっという間に時間が過ぎてしまったな。それで俺達は何時までここで足止めをしているつもりなんだ?」
ジャンゴはこれからの予定について確認してきた。
「とりあえず、夜が明けるまではこのままだな」
「夜が明けるまで?」
「そうだ。夜が明ければボアが馬車を引いてこの場所に来るはずだ」
俺は前以てボアと打ち合わせておいた計画についてジャンゴに説明した。
「なるほどな。確かに俺達だけでこの駄々広い世界を旅しても研究所は見つけられないだろうな」
「この世界を旅するためには絶対に商人であるボアの協力が必要なんだ」
「しかし、本当にその商人はやって来るのか?」
ジャンゴはボアとは直接面識がなかったため、彼のことをいまいち信用できずにいた。
「大丈夫だっ。ボアは必ず来るっ」
俺は自信満々な態度で不安そうなジャンゴに言い切った。そうボアを釣るための餌は充分に蒔いてきた。あとは彼のことを信じて待つだけであった。
「そうか・・・お前がそこまで言うならそいつはきっとやって来るんだろうな」
ジャンゴは俺の言うことを半信半疑で聞き流していた。そして、次の日の朝、ボアは俺達が起こした焚き火の煙を目印にして俺達の下へとやって来た。
「本当に来るとは・・・」
ジャンゴは俺の言うとおりにボアがやってきたことに驚きの声を漏らした。
「待たせたな」
「本当に・・・よく来てくれたっ」
俺はボアに握手を求めると強く握り締めた。彼が約束通りに来てくれたことを心の底から感謝していた。
「あんな美味しい条件出されては見捨てる訳にはいくまい?」
ボアは意味有り気な含み笑いを浮かべた。彼は俺の提示した条件に大変満足しているようであった。
「それにしても・・・お前さん達、本当にやりやがったな」
ボアは実際に地上まで穴を掘ったことを感心していた。
「それもこれも全てお前がお膳立てしてくれたおかげだ。ありがとう」
「いや、俺はお前さんに担がれて踊らされたに過ぎない。全てはお前さん達の努力の賜物だろう」
ボアは俺達の努力を労って称賛の声を上げた。俺はボアに褒められて背中が痒い思いがした。
「何時までもこんな所にいても仕方がねえ。さっさと目的地に向かうとしようぜ」
俺達が立ち話をしていると痺れを切らしたジャンゴが俺達を急かしてきた。
「そうだな。俺達の行動時間は限られているしな」
俺達はボアの馬車に素早く飛び乗った。
「いざ、出発っ」
ボアは馬の背に軽く手綱で鞭を打つと馬を走らせた。
「それにしても・・・日の光とはこんなにもきつい物なんだな」
俺は燦々と降り注ぐ太陽の光を手で遮りながら辛そうに目を細めていた。
「そうか。お前さん達は太陽を見たことがなかったのだな」
ボアは俺達が辛そうにしているのを見て一度馬車を止めた。そして、後ろの荷台に移動すると荷物の中から何かを取り出した。
「これを使え」
「これは?」
俺達はボアからサングラスを手渡された。
「これはいいな」
ジャンゴは早々にサングラスを掛けると気分良さげに口笛を吹いた。
「ボアは本当に何でも用意できるんだな」
「これでも歴とした商人だからな。必要な日用雑貨は何でも揃えているぞ」
ボアは自信満々な様子で胸を大きく張った。
こうして俺達はしばらくの間、彼と共に馬車の旅を楽しんだ。そして、旅が進むに連れて俺はこの馬車がボアの話していた研究所の方向に向かっていないことに気が付いた。
「なぁ、ボア。お前はどこに向かっているんだ?」
俺はボアから研究所の大体の位置を聞いていたため、彼が馬を走らせている方向に研究所がないことを知っていた。
「ほう、気が付いたのか」
ボアは悪びれもしない様子で普通に俺の質問に反応した。
「まさか・・・このまま俺達を奴隷商人などに引き渡したりしないよな?」
「ふっ・・・」
ボアは意味深な含み笑いを浮かべた。俺は彼の態度に思わず身構えた。
「安心しろ。そんなことはしない」
「それなら、どこに向かっているというんだ?」
「俺達は都心部に向かっている」
「どうして都心部なんかに?」
俺はボアの意図がわからずに首を傾げた。
「まさかお前さん達、素手で研究所を襲うつもりだったのか?」
「それじゃ、駄目なのか?」
「おいおい、いくら何でも無謀すぎるぞ」
ボアは半ば呆れた表情を浮かべながら溜息を吐いた。
「いくら地上の人間が研究所を襲わないと言っても科学者達もナノマシンの秘密を守るため、最低限の武装はしている。そんな所に素手で向かうなんて殺してくれと言っているようなものだ」
ボアは俺が如何に無謀なのかを説明してくれた。
「それならどうすれば?」
「だから・・・俺達は都心部で武器を調達する」
「武器を?」
俺はボアの提案に驚きの声を上げた。武器がそんな簡単に手に入るなんて思ってもみなかった。
「そうだ。あそこに行けばそんなもん幾らでも手に入る」
武器を生産する者達は他の生産者達と違って広い荒野よりも建築物が多く存在する都心部を好んで暮らしていた。
彼らがそうする理由は都心部には武器の素となる鉄や鋼などの資源が豊富に存在しているからである。
「それに研究所を目指すにしてもこの領地の研究所を狙うよりは隣の領地の研究所を襲った方がいいと思うぞ」
ボアは研究所を襲った後に起こるであろう警戒態勢について危惧していた。
仮に研究所を制圧してナノマシンの製造方法を手に入れたとしても領主に警戒されれば俺達が地下都市に入る前に地下への道を封鎖されてしまう可能性があった。それ故に彼は隣の領地の研究所を襲撃することを考えていた。
「確かにボアの言うとおりだな」
俺はボアの意見に納得した。
「まぁ、そのおかげで期間は大分延びてしまうが、仕方があるまい?」
本当であれば一刻でも早くシャンバルディアに帰還したかったが、ここで焦ってミスを犯せば全てが無駄となってしまう。
そう俺達に与えられたチャンスは本番の1回だけなのである。だから、何としてもその1回で成功させなければならなかった。
「・・・わかった。行き先についてはボアに全て任せる」
俺はボアの提案を受け入れると全ての判断を彼に委ねた。
俺達がシャンバルディアを旅立ってから3週間の月日が流れた頃、俺達はようやく最初の目的地である武器商人達が住むという都心部にやって来た。
「なんじゃこりゃ・・・」
「まるでコンクリートのジャングルだな」
俺達は目の前に聳え立つ巨大なコンクリートの建物に圧倒されていた。俺達が住んできた地下都市とはえらい違いであった。
その建物はすっかりと寂れて外壁にはたくさんの植物の蔦や蔓などが張り付いていた。まるで人が住んでいる気配を感じさせなかったが、残された建物の存在感だけは充分に伝わってきた。
「昔の人間はこんなにも高い建物の中に住んでいたのか・・・」
俺はかつての文明の栄光に思いを馳せながら興味津々な様子で辺りの街並みを見渡した。
「こっちだぞ」
ボアはコンクリートジャングルの中を慣れた様子で進んでいった。俺達は彼に導かれるまま後を追いかけた。そして、彼は地下鉄の入り口の前まで俺達を案内した。
「何だ、この階段は?まさか都心部にも地下都市があるのか?」
「いや、これは地下都市とは違う。昔は地面の中にも電車というものが走っていたらしい。その名残の穴だ」
ボアは俺達にランプを持たせると明かりを灯した。そして、地下鉄の中をしばらく移動すると目の前にぼんやりとした光が見え始めてきた。
「着いたぞ」
「ここが・・・」
俺は初めて見る光景に固唾を飲み込んだ。
「武器などの加工品を売っている闇市だ」
闇市は娼婦街で年に一度開かれるお祭りの屋台のように狭い通路の両端に別れており、各店舗の前に様々な商品が並べられていた。
「電気が付いていないか?」
俺はボアから生産者は電気を使用していないと聞いていたので不思議に感じていた。
「ああ、ここの電気はソーラーパネルなどの自家発電機を利用して賄われている」
都心部ではそういった発電施設が多少なりとも残されており、鉄や鋼を加工する際や通路の明かりなどに使用されていた。
「みんな利用できるものは何でも利用して生きているんだな」
俺はどんな状況に置いても生き抜いていく人の逞しさに感心を示した。
「ここの商品も領主の元に届けられているのか?」
「当然そうだ。どんなに自給できる状況であっても根本的に食糧もナノマシンもなければ生きていくことはできないからな」
ボアは闇市を歩きながらここの暮らしぶりについて説明してくれた。
闇市の人間は週一の割合で自分達の作った加工品を代表の商人に預けるとその見返りとしてナノマシンや食料の供給などを受けている。この街そのものが1つの商会のような役割を果たしていた。
「それにしても・・・わざわざこんな地下の中に住まなくても地上で暮らせるだろうに」
俺は地上で暮らせるにもかかわらずわざわざ地下の中で暮らす住人の気持ちが理解できなかった。
「それはこうする方が何かと効率がいいからな」
「効率がいい?」
「地下鉄の中は至る所に電気の配線が引かれているから好きな場所で商売ができる。それに雨風も凌げるし、あとは時折現われる野党や物取りからも身を守りやすいからな」
ボアはなぜ闇市の人間が地下を好んで生活しているのか、その利点について説明してくれた。
他にも地下鉄構内では鉄道のレールや手摺りなど至る所で金属が使用されているため、何かと加工品を作るのに都合が良いからだそうだ。
「それで武器はどの店から買うんだ?」
俺達が闇市のことについて話をしているとジャンゴは半ば飽きた様子で話し掛けてきた。
彼からすればこんな見慣れた風景を見るよりも外に聳え立つ高いビルやマンションの方が余程興味深いようであった。
「もう少し先の店だ。もう少し我慢しろ」
ボアはジャンゴを宥めると闇市の中を突き進んだ。
「・・・あった。あの店だ」
ボアはとある店の前で足を止めると店の扉を開いた。
「おい、親父生きているか?」
「その声は・・・ボアか?なんだ、まだ生きていたのか?」
ボアに呼ばれて店の奥から筋肉をムキムキにさせた店主が顔を出してきた。
「相変わらず、減らず口は達者のようだな」
「それはお互い様だろ」
武器屋の店主は口許を緩めると不敵な笑みを浮かべた。
「それでお前がこの店に来るなんて随分と珍しいな。また、武器でも必要になったか?」
「ああ、今度の取引相手は革命を起こすことをご所望でな」
ボアは武器屋の店主に革命を起こすことをあっさりとばらした。
「ほう?革命とな・・・ということは大量の武器が必要となるな」
武器屋の店主は革命のことを聞いても全く驚く様子を見せなかった。
それどころか嬉しそうに薄ら笑いを浮かべていた。彼らからすれば大きな戦いが起こることはそんなに珍しいことではなく、むしろ稼ぎ時のようであった。
「とりあえず、今回はそんなには必要ない。まずはそこの2人に必要となる武器を見繕ってくれないか?」
ボアは武器屋の店主に俺達のことを紹介した。
「随分と若い革命者様だな?」
武器屋の店主は俺達を品定めするような目付きで舐め回すように見つめてきた。
「こう見えても頭の方は中々の切れ者だ」
ボアはこれまでの俺達の行動を認めて称賛してくれた。
「計算高いお前さんがそこまでべた褒めするということは相当なものだな」
武器屋の店主は感心した様子で目を見開いた。
「ちょっと掌を開いてもらっていいか?」
武器屋の店主は俺達に掌を見せるように求めてきた。
俺達は武器屋の店主に言われるまま手を開くと店主に掌を見せた。
「ふむふむ・・・なるほどな。ほとんど拳銃は扱ったことはないようだな」
武器屋の店主は手にできている胼胝の状態から俺達が武器の扱いが素人であることを見抜いた。
「これならサブマシンガンあたりがしっくりくると思うが?」
「いや、できることならばハンドガンを用意してもらいたい」
ボアは首を横に振ると武器屋の店主の提案を断った。
「ハンドガンか・・・用意できなくはないが、ゲリラ戦や銃撃戦ならばサブマシンガンやライフル銃の方が有効じゃないか?」
武器屋の店主は首を傾げると眼鏡に手を掛けて軽く持ち上げた。
「今回は騙し討ちに近い接近戦を行う予定だ。だから、できる限り目立たない武器の方が助かる」
ボアには何やら考えがあるようであった。
「・・・わかった。それならば、素人でも扱いやすいトカレフあたりを用意するとしよう」
武器屋の店主は店の奥の方に戻ると幾つかの銃を持って戻ってきた。
「これが銃か・・・」
俺は初めて握る銃の感触に少し戸惑っていた。俺が手にしている銃は見た目以上に重く扱うには少々骨を折りそうであった。流石は鋼鉄の塊である。
「折角だから試し撃ちでもさせてもらったらどうだ?」
ボアは俺が戸惑っているのを察すると試し撃ちをさせてもらうように提案してきた。
「そんなことができるのか?」
「まぁ、こちらとしても納得してお買い上げいただいた方が後で文句を言われなくて済むからな。別に構わんぞ」
武器屋の店主はボアの申し出を快く引き受けた。
「それならば体験させてもらうとしよう」
俺はボアに勧められるまま試し撃ちをすることを決めた。
「それじゃ、俺は他にも色々と準備があるから一旦ここを離れるぞ」
ボアは俺達を武器屋の店主に任せるとその場を立ち去った。
「こっちだ。付いて来い」
武器屋の店主は俺達を引き連れて射撃場へと案内した。そして、ハンドガンの撃ち方を一通り説明すると実際にハンドガンを的に向けて撃ってみせた。
「おお」×2
俺達はハンドガンの威力を目の当りにして思わず感心の声を漏らした。
「凄い威力だな」
ジャンゴは興奮した様子でハンドガンを構えると見様見真似で引き金を引いた。
「うおっ」
ジャンゴの撃った弾は余裕で的の外へと跳んでいった。ハンドガンを撃った反動は想像以上に大きく片手ではとても支えきれなかったようである。
「的を狙う時は両手でしっかりと押さえた上で少し下の方を狙って撃った方が的に当たるぞ」
武器屋の店主は正しい銃の撃ち方について説明してくれた。
俺は店主のアドバイスを頭の中で詠唱しながらゆっくりと的の下を狙った。
(・・・いけっ)
俺は心の中で合図すると一気に引き金を引いた。俺は手に伝わるハンドガンの衝撃で一瞬放心状態になった。まるで脳が痺れるような感覚であった。俺は鼻に付く硝煙の匂いで我に返った。
「どうなった?」
「ちゃんと的に当たっているぜ」
ジャンゴは穴の開いた的を指差した。
「これが銃を撃つという感覚なんだな」
俺は穴の開いた的を見ながらようやく銃を撃ったという実感が湧いてきた。
「本当に凄いな、これ」
「なぁ、もっと撃ってみたいんだが・・・駄目か?」
ジャンゴは武器屋の店主に強請るようにお願いした。
「その銃には全部で8発の弾が装填されている。残りの弾も好きに使うがいい」
「よしっ」
ジャンゴは新しい玩具を手に入れた子供のように無我夢中で銃を撃ち出した。俺もジャンゴにつられるように試し撃ちを続けた。
「なぁ、親父。他の銃はないのか?」
ジャンゴは半ば興奮気味に他のタイプの銃について求めた。
「やれやれ本当ならこんなサービスは認めないが・・・お前達はもしかしたら大口の顧客になるかもしれないからな」
武器屋の店主はハンドガンの他に様々なタイプの銃を持ってきた。
「好きなだけ試し撃つがいい」
武器屋の店主はボアの言うことをかなり本気にしていたため、店主は快く俺達の要求を受け入れてくれた。俺達は店主から用意された銃を思う存分に撃ちまくった。
「なんだ?まだ試し撃ちをしていたのか?」
ボアは何時までも戻ってこない俺達に痺れを切らして射撃場までやって来た。
「すまないな。なかなか銃を撃つのが面白くてな・・・」
俺は申し訳なさそうに頭を下げた。
「それで結局気に入ったハンドガンはあったのか?」
「俺はこれにしようと思う」
俺は引金を引いて打つと回転する銃を見せた。
「リボルバー式の銃か・・・まぁ、使い勝手は悪くないな」
「俺はこいつにするぜ」
ジャンゴは打つと前後にずれるタイプの銃を手にした。
「本当ならこのサブマシンガンとかいう銃でもいいんだが・・・」
ジャンゴは子供のように眼を輝かせると壁に掛けてあったサブマシンガンを指差した。
「それはまた今度だな。とりあえず、今回の目的ではそんな目立つ武器を持っていっては研究所内には入れてもらえないからな」
ボアはジャンゴを宥めてサブマシンガンを諦めさせた。
「そっちの買い物の方はもう済んだのか?」
「ああ、ひと通りの物は揃えたぞ。あとは研究所の近くの宿場で買い揃える」
ボアは親指を立てると問題ないことをアピールした。
「それなら、さっさと目的地に出発するとしよう」
「まぁ、そう慌てるな」
ボアは武器屋の店主に近づくと腰に巻いていた袋の中からたくさんの金の塊を取り出した。
「支払いはこれでいいか?」
「こんなに・・・本当によいのか?」
武器屋の店主はたくさんの金の塊を目の前にして生唾を飲み込んだ。
「構わない・・・これは契約金として受け取っといてくれ。いずれもっと大量の武器が必要になるかもしれないからな。その時のために武器を揃えておいてくれないか?」
ボアは今後のことを考えてかなり大目の代金を武器屋の店主に支払った。
「へへへ、毎度あり・・・」
武器屋の店主は含み笑いを浮かべると嬉しそうに手を擦り合わせた。なお、ボアが払った金は俺達がボアに支払った1キロの金の一部であった。
「そうだった・・・ついでに予備の弾をそれぞれ300個ずつ付けてくれ」
「300発か・・・まぁ、いいだろ。持っていくがいい」
武器屋の店主は渋い顔をしていたが、貰った代金を考えると余裕でお釣りが返ってくる金額であったため、彼は弾の詰まった箱を店の奥から持ってくるとその中身を袋に詰めて俺達に手渡してきた。
「おっ・・・重い」
300個の予備の弾は1つにまとめるとかなりの重さで今にも手が抜けてしまいそうであったが、普段からつるはしを振るい続けてきた俺達には辛うじて持ち運ぶことができた。
「こんなに弾が必要なのか?」
「研究所に着くまでに少しでも銃を撃つ練習をしておいた方がいいだろ?」
ボアは俺達の練習用のために予備の弾を多めに買っていた。
「それじゃ、行くぞ」
ボアは武器屋の前に置いてある手押し車に手を掛けると馬車の方を目指して歩いた。
「ボアも随分と色々な物を買い込んだんだな」
「いずれ必要になる物ばかりだ」
ボアは意味有り気な含み笑みを浮かべると詳しくは教えてくれなかった。
(一体何に使うつもりなんだ?)
俺はボアの考えがわからずに首を傾げた。
こうして俺達は都心部で武器や必需品を買い揃えると次の目的地である隣の領地の研究所近くの宿場を目指した。




