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絶望都市シャンバルディア  作者: 東メイト
第二章:絶望からの旅立ち
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第5話:策略

闇商人のボアが地下都市シャンバルディアを旅立ってから1ヶ月の月日が流れた。


(そろそろ戻ってきてもいいはずだが・・・)

俺はボアが構えていた店の前に来ていた。ジャンゴの協力のおかげで俺はボアと約束した1キロの金を無事に用意できていたが、その肝心の本人がまだ戻ってきていなかった。


(まだ帰ってこないのか・・・)

俺はなかなか戻ってこないボアに痺れを切らせ始めていた。


「そんなところにぼーっと突っ立ってどうした?」

「その声は・・・ボアかっ」

俺は聞き覚えのある声に話しかけられて思わず語気を荒げた。


「おう、久しぶりだな」

俺が振り返るとそこには大きな荷物を抱えたボアの姿があった。


「首尾の方はどうだ?」

「まぁ、慌てるな。ここでは取り出しにくい」

ボアは逸る俺を落ち着かせると何時もの室内へと移動させた。


「まずは約束の物を見せてもらおうか?」

ボアは室内に入るなり約束の金について催促してきた。


「ばっちりだっ、ここにある」

俺は腰にぶら下げていた金の袋を取り外すとボアの目の前に置いた。


「ほう、大したものだな。とりあえず、その袋をこちらに置け」

ボアは大きな天秤を持ち出した。そして、そちらの片側に金の袋を置くように要求してきた。


「一応、お前さんがちゃんと1キロを持ってきたかを確認する」

ボアは自分の近くの秤に1キロ分の錘を乗せた。俺は彼の言うまま反対側の秤に金を乗せた。そうすると大きな天秤はぴったりと平行に釣り合った。

俺は念のために1キロよりも少し多めに用意していたのだが、ボアはちゃっかりと1キロ以上の錘を乗せていた。


「ちゃんと1キロ分あるようだな・・・」

ボアは金が1キロ以上あることを確認すると安心したように顔を綻ばせた。


「それでそっちの方はどうなんだ?」

今度は俺がボアにナノマシンの入手について確認した。


「安心しろ。ちゃんと用意している」

ボアは荷物の中から七面鳥の丸焼きを取り出した。

七面鳥の表面はカリカリの焦げ焦げの燻製になっており、水気は完全に飛ばされていた。


「なんだこれは?」

俺は目付きを鋭くさせるとボアのことを睨んだ。さすがに無知な俺でも目の前の七面鳥がナノマシンでないことくらいは容易に推測できた。


「これがお前さんの望んだナノマシン・・・」

「ふざけてんのかっ」

俺は目の前の七面鳥をナノマシンだというボアに噛み付いた。そして、彼の胸倉を掴むと拳を強く握り締めて振り上げた。


「まぁ、落ち着け・・・」

ボアは冷静に俺の腕を払い除けると席に戻るように促した。


「そう逸るな。話は最後まで聞くものだ」

ボアは素直に俺が席に腰を掛けると深い溜息を吐いた。


「これはお前さんの望んだナノマシンを隠すために用意した七面鳥だ」

「ナノマシンを隠す?」

「こうでもしなければ簡単にばれてしまうからな」

ボアはナイフを取り出すと七面鳥の胸から腹にかけて靴紐のように結ばれたタコ糸を切り裂いた。そして、七面鳥の心臓の部分に詰め込まれた小さな小瓶のような物を取り出した。

その小瓶の中には何らかの培養液と微生物のような小さい何かが詰め込まれていた。そして、その微生物のような小さい何かはキラキラと光を反射させながら微かな輝きを放っていた。


「これが・・・ナノマシンなのか・・・」

俺は初めて見るナノマシンに興味津々な様子を示した。


「どうだ?これで交渉は成立だな」

ボアは俺が納得するのを見届けると秤の上に置かれた金の袋に手を伸ばしてきた。


「待てっ」

俺は慌てて伸ばしたボアの腕を力一杯掴んだ。


「なっ、何をするっ」

ボアはいきなりの俺の行動に目を白黒させた。


「悪いな。もうしばらくの間、俺達に付き合ってもらう」

「付き合ってもらうだとっ?」

ボアは大きく目を見開くと表情を険しくさせた。


「そうだっ、俺はこの地下都市に革命を起こそうと考えている」

「革命だと・・・なんと愚かなっ」

ボアは俺の意見を馬鹿にするように蔑んだ表情を浮かべた。

確かに彼の言うとおり、この地下都市で革命を起こそうなんてまともな奴が考えることではなかった。だが、俺はセフィのため、それを本気で起こそうと考えていた。


「確かに愚かかもしれない。けどな・・・このまま虫けらのように使われる人生なんて真っ平ごめんなんだよっ」

俺は奥歯を噛み締めるとボアを鋭い目付きで睨み返した。


「その革命に俺を巻き込もうというのか?」

「俺の革命にはお前の力が必要なんだっ」

俺はボアの腕を掴んだまま頭を下げた。


「ふざけるなっ、寝言は寝て言うのだな。自殺志願なら1人で勝手にやっていやがれっ」

ボアは問答無用で俺の申し出を断った。

当然の反応だろう。地下の人間がいくら革命を起こそうとも地上の人間である彼には全く係わり合いのないことである。


「・・・どうしても駄目か?」

俺は顔を上げるとボアの顔を一心に見つめた。


「くどいぞっ。貴様の頼みなど聞けるものかっ」

ボアは断固として俺の願いを拒絶した。


「そうか・・・どうしても駄目だと言うんだな・・・」

俺はボアが俺の話に耳を傾けないので最終手段に訴えることにした。


「・・・わかった。もういいっ」

俺は素直にボアの腕を離した。俺が手を話すと彼は安心したように頬の筋肉を緩めた。


「それなら俺はこれを持ってお前のことを衛兵に密告する」

俺は手に握り締めたナノマシンをボアに見せると彼が地下都市にナノマシンを持ち込んだことをばらすと脅した。


「なっ、なっ、なんだとおおお」

ボアは再び頬の筋肉を引き締めると一瞬で表情を凍り付かせた。


そんなことされれば、彼はこの地下都市から一生抜け出すことができない。それどころか衛兵に取り押さえられれば問答無用で処刑される恐れすらあった。ナノマシンを地下都市に持ち込むことはそれだけ重大な罪なのである。


「そんなことしたら貴様だってタダじゃすまないぞっ」

ボアは暴走する俺に落ち着くように促した。


「・・・構わない。俺は元々このシャンバルディアに革命を起こそうとしている自殺志願者だ。ここでお前の協力を得られなければ、どの道・・・俺の希望は叶えられないっ」

俺は腹を据えた態度でボアの脅しを受け流した。


「ぐっ・・・」

ボアは苦虫を噛み潰したような苦悶の表情で俺のことを睨んだ。


まさか葱を背負った鴨に噛み付かれるなど思ってもみなかったのだろう。俺達はしばらくの間、沈黙したままお互いを牽制し合った。彼はこの状況を脱するためにどうするべきなのかを必死で考えているようであった。


「とりあえず・・・お前さんの計画とやら聞かせてくれないか?俺が協力するかどうかはその計画の内容次第だな」

ボアは観念したような溜息を吐くと渋々席に座った。

彼が席に戻ったのを見届けると俺は胸を撫で下ろした。何はともあれこれで彼に聞く耳を持ってもらえたのである。


(勝負は・・・ここからだっ)

そう全てはここからであった。あとは俺がボアを説得することができれば革命への第一歩を踏み出すことができるのである。


「まずは・・・お前さんはどうやってこの地下都市から地上に抜け出すつもりなのだ?」

ボアは何時もとは反対に質問する立場にまわった。


「地上に繋がる道を密かに掘り進めている。あと1週間もすればその穴は地上に通じるはずだ」

俺はボアから貰った地図を元に都合よく地上に繋がりそうな場所を選んで金を掘り進めていることを彼に伝えた。そして、穴の傾斜角度を微妙に地上方向にずらしてきたことを説明した。


「なるほど・・・そうやって地上に出るつもりだったのか」

ボアは脱出計画を聞いて俺の計画に興味を思ったようであった。


「それで地上を抜け出した後はどうする気だ?」

「まずは研究所を目指す。そして、そこからナノマシンの製造方法について盗み出す」

「ふむ・・・」

ボアはそこまで話を聞くと質問するのを止めた。その後の展開は彼にも容易に想像ができたようであった。


「それでお前さんは俺にどんな協力をしてほしいというのだ?」

「お前に協力してもらいたいのは・・・研究所までの案内と革命を起こした際に必要となる武器の調達をお願いしたい」

俺達の力だけでは研究所まで辿り着くことは不可能に近かったため、その案内役としてボアに協力を仰ぐことにした。そして、革命時に必要な武器を揃えられるのも商人である彼だけであった。


「確かにそれくらいのことならば俺も協力はしてやれるが・・・」

ボアは急に表情を険しくさせた。


「それをして俺に一体何の利益があるというのだ?」

ボアは革命に手を貸すメリットについて訊ねてきた。


当然といえば当然の質問である。彼にとって俺達が革命を起こすことは安全に金を手に入れられる場所を失うことであり、何の利益も生み出さない。それならば俺の計画を阻止する方がまだ得であった。


「もし、俺達の革命が成功したら・・・その時はボアが必要なだけ金を提供することを約束するっ」

「ほう・・・」

ボアは目を細めると興味津々な様子で話に耳を傾けた。放浪の身である彼にとって好きなだけ金を得られることは願ってもいない申し出であった。


「それで俺達に協力してくれないか?」

「う~む・・・」

ボアは革命に加担するリスクと革命の成功時に得られるメリットを天秤に掛けながら考えを巡らせていた。

彼にとって大量の金を保証されるだけでは充分に納得できない様子であった。


(あと一押しは必要なようだな・・・)

俺は葛藤するボアの様子を見ながら次の条件を提示することを考えていた。


ここで彼に拒絶されれば俺の計画は全て絵に描いた餅に終わってしまう。そのため、何としても彼には充分に納得してもらう必要があった。そうしなければ俺達が地上に出た際に彼の協力を得られずにそのまま逃げられてしまう可能性が高いからだ。


「・・・革命後はこの都市を自由貿易都市にしようと考えている」

俺は徐に革命後の展望についてボアに話をした。俺はより多くの人間を巻き込んでこの都市に新たな生活形態を確立することを考えていた。


「その時にこの街に集まる商人達を統括する取り纏め役としてお前を選任したいと思っている」

「本当にかっ」

ボアは目を大きく見開くと興奮したように俺の肩を力強く掴んだ。


彼にとって商人の取り纏め役に選ばれることは大きな商会を持つことに等しく商人としてこれほどの栄光は考えられないようであった。俺はボアの話を聞きながら彼が協力してくれるような条件を考えていた。


「革命が成功した暁には必ずそうするっ」

俺はボアが快く協力してくれるように彼にとって最高の条件を提示した。


「・・・わかった。俺も協力するぞ」

ボアは取り纏め役の話を聞くと満足した様子で革命に参加することを引き受けた。


「これで交渉成立だな」

「ああ、成立だ」

ボアは俺の手を強く握り締めると満面の笑みを浮かべた。


「それで具体的に俺はどう行動すればいい?」

ボアは今後の計画について詳細を求めた。


「とりあえず、俺達が地上への抜け道を掘るまでの間はここで今までどおりの生活をしていてくれないか?」

「それは構わないが、お前さん達が地上に出たことはどうやって確認すればいい?」

俺達が地上への道を繋げた時点で俺達は退路を失うため、ボアに地上への抜け道が繋がったことを知らせる手段が存在しなかった。


「それは・・・」

俺はその方法について何も考えていなかったため、すぐには答えられなかったが、戻ってこられないことを逆に利用することを思い付いた。


「それならこうしよう。俺は穴が繋がるまでの間、毎日ここに顔を出す。だから、もし俺がここに顔を出せない日が来たら、待ち合わせの場所に来るようにしてくれ」

俺はボアに地上に出るタイミングを示唆した。


「それで俺は地上に出た後、どこに向かえばいい?」

「待ち合わせ場所は・・・ここから南東にある山の南側の麓でどうだ?」

俺は地上に抜け出すために選び出した場所を指定した。


「ここから南東の山というと・・・カルデナ山か?」

ボアは手早く地上の地図を開くと待ち合わせ地点を指差した。


「俺達はその山の南側の麓に穴が通じるように掘り進めている」

「わかった。それじゃ、もし地上に出たら狼煙を上げて待っていてくれ。それを目印にしてお前さん達を回収しよう」

俺達は地上に出た後のことについて入念に打ち合わせをした。


「それじゃ、その手筈でよろしく頼む」

「任せておけっ。必ずお前さん達を研究所に送り届けてやる」

ボアは自信満々な様子で大きく胸を張った。


「それじゃ、また明日な」

「そういえば・・・」

俺が居住空間に戻ろうとした瞬間、ボアは俺を呼び止めた。


「なんだ?」

「明日以降の取引はどうするのだ?」

ボアは何時もの取引の継続について確認してきた。

彼は商人として少しでも多く利益を獲得しようと考えていた。まさに商人の鑑であった。


「そうだな・・・。お前にはこれからも色々と俺達に協力してもらう必要があるからな。これまで通りの関係を続けよう」

俺はボアとの取引を続けることを申し出た。少しでも彼との信頼関係を保つためには必要な作業であった。


「わかった。楽しみに待っているぞ」

ボアは嬉しそうに不敵な笑みを浮かべていた。

こうして俺は見事にボアの抱き込みに成功した。これで残された課題は地上への抜け道を開通させるだけであった。

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