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絶望都市シャンバルディア  作者: 東メイト
第一章:希望との出会い
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第4話:取引

次の日、俺は早速ジャンゴの名案を実行して大量に獲得した金を持ってボアの下を訪れた。


「今日は随分と多くの金を持ってきたようだな」

ボアは目聡く持っている金の袋の大きさを見極めると期待に満ちた眼差しで袋を見つめた。


「残念だが、今日は何時もの取引はなしだ」

「なんだとっ」

ボアはいきなり期待を裏切られて表情を険しくさせた。


「それならここに何をしにきたのいうのだ?まさかその金を見せびらかせにきた訳でもあるまい?」

ボアは目の前のご馳走を前にしてお預けを食らったことに不満の声を漏らした。


「別に自慢しに来たわけではない。これはお前と別の取引をするために持参した金だ」

「別の取引だと?」

ボアは訝しげに眉を吊り上げると疑いの眼差しを向けてきた。俺のことを何やら警戒しているようであった。


「そうだ。俺はお前とナノマシンの取引がしたいっ」

俺は大量の金が詰まった袋を豪快にテーブルの上に置くとボアにナノマシンの取引を持ち掛けた。


「ナノマシンの取引か・・・」

ボアはあまり驚いた表情を見せず、机の上に置かれた金の袋を見つめていた。

彼は俺がナノマシンの取引をしたいと言い出すことを薄々勘付いていたようであった。まぁ、これだけ毎日地上の情報について聞いておいて地上に出たいと考えないやつはいないだろう。


「この金で俺を買収するつもりなのか?」

ボアの表情は明らかに難色を示していた。

それは無理もない話であった。この地下都市においてナノマシンを持ち込むことは重罪であり、見つかればタダでは済まない。これだけの金ではリスクが高すぎるのである。


「勘違いするな。これは単なる手付金だ」

「手付金だと?」

ボアは目の前の金の袋が取引の全てではないと知ると表情を一変させた。


「それならお前さんは俺に幾らの金を提示するというのだ?」

ボアは興味津々な様子でナノマシンの提供価格について尋ねてきた。


「もし、お前がナノマシンを提供してくれるなら・・・俺は1キロ分の金を用意するっ」

「1キロ分だとっ」

ボアは破格の条件に驚きの声を上げた。


ボアに聞いた話だが、ナノマシンは10グラムあれば2回分の摂取が可能であり、1回分の効果はおおよそ3か月ほど保たれるらしい。つまり、1キロ分の金があれば、おおよそ半生分の自由を保証されるということであった。


「お前さんは本気でそんな大量の金を用意できるというのか?」

ボアは俺の本気度を見極めるように顔色を窺ってきた。


「大丈夫だっ。絶対に用意してみせるっ」

俺はボアの懸念を吹き飛ばすが如く自信満々な態度で答えた。ここで彼に不信感を懐かせてしまっては俺の苦労が全て泡となる。


「そうか・・・」

ボアは悩ましげな表情を浮かべると口を閉ざした。


彼は頭の中でかなり葛藤している様子であった。彼からしてみればこんなビックチャンスなど一生の内に一度あるかないかの出来事であり、この機を逃せば2度とそんな大金を手に入れる機会に恵まれることはないかもしれなかった。だが、ナノマシンの持込が発覚すれば一生を棒に振ることになる。彼にとってまさに苦渋の決断であった。


(かなり考えているようだな・・・もう一押し何かを条件付けるべきか?)

俺は葛藤するボアの背中を後押しするべきかを悩んだが、正直1キロの金を用意するだけでも相当に困難な条件であり、結局のところ今の俺には彼がこの条件で納得してくれることを心の中で祈るしかできなかった。


「・・・わかった。その条件で取引を認める」

ボアは散々に悩んだ末、俺の提示した条件でナノマシンの取引に応じることを承諾した。俺は心の中でガッツポーズを浮かべた。


「ただし・・・ナノマシンは入手してやるが、ここから地上に連れ出すことはできないぞ」

ボアは念を押すようにナノマシンを手に入れた後の行動について確認した。


この地下都市は外から入ることは容易ではあるが、地下から人を連れ出すことは一切できなかった。それは地下都市の人間を大量に連れ出すことで労働力が落ちると金の採掘量が減り、その結果、地上で警備している衛兵が地下へと落とされるためである。そのため、衛兵は人買いのような奴隷商人が地下の人間を地上に連れ出すことを固く禁じていた。


「わかっている。地上へ出る方法については自分達で何とかする」

「そうか。それならば・・・」

ボアは面倒事に巻き込まれないことを確認すると胸を撫で下ろした。そして、静かにテーブルの上に置かれた金の袋に手を伸ばした。


「交渉成立だ」

ボアが金の袋を懐に収めると俺はすかさず手を差し伸べた。


「よろしく頼んだ」

「任せておけっ」

ボアは俺の手を力強く握り返した。

これで地上に存在するエルゾニアの問題については解決する糸口が見えてきた。残された課題はボアと約束した金を集めることと地上に繋がる穴を掘ることであった。


金の収集についてはジャンゴと2人で協力して1日40グラムを目標とし、作業区から持ち出すように計画を立てた。そして、昼と夜毎に20グラムずつ作業区から生活区へと持ち出した。この目標で金を集め続ければ1ヵ月後にはボアに要求された金を集めることは充分可能であった。


地上に通じる穴については以前にボアから周辺の様子を聞いた時に彼から貰ったシャンバルディア周辺の詳細な地図を元に俺達が都合良く地上へと抜け出せる場所を探し出した。そして、その方角の作業場を選んで金の採掘作業を行うようにした。


俺達は金を掘り出す時に好きな方角の作業場を選ぶことができるため、掘るべき方角さえしっかりと定まっていれば地図上で選び出した場所へ行くことは充分に可能であった。ちなみに俺達は金の採掘をする際にコンパスを持っていく。


『なぜ金の採掘にコンパスが必要なのか?』

それは作業区には無数のハニカム構造の通路が存在しており、方角がわからなければ俺達が中心部にある生活区に戻ってくることがとても困難だからである。そのため、俺達は採掘現場にいく際は常にコンパスを所持していた。そして、そのコンパスを使って俺達は目標の場所を目指していた。


「そろそろ遮断壁と通路を作る頃合だな・・・」

俺達はある程度金を掘り出すと掘削機を用いて大きな穴を作る。そして、安全に掘り進められた場所まで掘削機を動して巨大な穴を作るとその周辺をコンクリートで塗り固める。それからコンクリートが固まるとその一部に穴を開けて再び人の手で好きな方角へと穴を掘り進める。


そのように穴を掘っていたため、作業区には無数のハニカム構造の通路ができてしまっていた。そのように予防線を張りながら穴を掘らなければ、俺達の内の誰かが地上に繋がる穴を掘った際にその作業場を簡単に塞げなくなってしまうからだ。


地下の人間達は長い経験を重ねてその方法が一番安全に穴を掘れることを知っていた。


「大分奥の方に掘り進めてきたが・・・あとどれ位で地上に通じそうなんだ?」

ジャンゴは俺の隣に立つと小さな声で呟いた。


「とりあえず、ボアの情報だとここは既に山の麓の近くの場所らしいんだが・・・」

さすがに穴の内部からでは正確な位置まではわからなかったが、大体の位置については足の歩幅を用いた計測方法により把握していた。これも地下の人間達が長い穴掘り経験を経て獲得した知恵の1つであった。


「まぁ、簡単に地上へ通じてもらっては困るけど・・・あと1ヵ月半も掘り進めれば必ず地上に繋がるはずだ」

俺は毎日掘り進められる穴の距離から山の反対側の麓の距離までに掛かる大凡の日数を計算して地上に到達するまでの期間を割り出していた。あとはボアからナノマシンを受け取れば地上へ出られる手筈であった。


「闇商人が戻るまでは慌てずにゆっくりと構えていればいいさ」

ジャンゴは気楽な顔で暢気に構えていた。


「・・・お前のお気楽さが時々羨ましくなる」

俺は心の底からジャンゴのポジティブな性格に感心していた。


「俺の気楽さは筋金入りだぜ」

ジャンゴは歯を輝かせると親指で自らを指し示した。まるで苦労を感じさせない笑顔であった。


(本当に・・・なんて頼もしいやつだ・・・)

俺はお気楽なジャンゴを横目にしながら不敵な笑みを浮かべた。


こうして俺達はボアがナノマシンを手に入れて戻ってくるまでの間、着々と地上に出るための下準備を進めていった。

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