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絶望都市シャンバルディア  作者: 東メイト
エピローグ:夢の終わりに…
17/17

最終話:真実

俺がシャンバルディアに革命をもたらしてから瞬く間に1ヶ月の月日が流れた。

俺は地下の人間の奴隷制度を廃止するとシャンバルディアの周辺に新たな街を形成させた。そして、その街の中でナノマシンや金を商品とした新たな市場を開いた。


俺の開いた市場には闇商人を始めとする地域周辺の生産者達が殺到して新たな商売体系を栄えさせた。ボアはその市場の中心で取締役に就任して殺到する商人達を取りまとめ、多忙な毎日を過ごしていた。


当然シャンバルディアの周辺の領主達は驚愕して俺達の貿易都市を乗っ取ろうと軍を派兵させてきたが、シャンバルディアの圧倒的多数の戦力差の前に成す術がなく撤退を余儀なくされていた。


俺達は言うなれば始めから奥の手を使っている状態でシャンバルディアを落とすにはそれ以上の戦力が必要であり、大量の金を消耗することになる。また、シャンバルディアでは金が湯水のように使用されている状態であったため、何時金がなくなるのか、誰にも全く予想ができなかった。


つまり、大量の金を消費してシャンバルディアを落としたとしてもそれに見合うだけの利益が得られるのか、不透明な状況であった。そのため、近隣都市の領主達にシャンバルディアに攻め込むことを躊躇させていた。


こうして俺達は平穏な日常を手に入れたのであった。そして、全ての役目を終えると俺はセフィが眠る墓前で静かに佇んでいた。


(結局のところ・・・俺は一体何のために戦ってきたんだろうか?)

俺はセフィの墓前で彼女が身に着けていた銀の指輪を握り締めながら答えの見えない問答を続けていた。

親友を失い、仲間を失い、恋人を失い、生きる目的を失い、俺にはもう何も残されていなかった。そんな悲壮感を漂わせながら俺は悶々とする日々を過ごしていた。


(ジャンゴ・・・クルツ・・・セフィ・・・)

俺は彼らと共に過ごした日々を思い出しながら失ってしまった彼らのことを考え続けていた。


「・・・ここにいたのね。やっと見つけたわ」

「なんだ・・・アルテか」

俺は死んだ魚のような目でアルテの方に振り返った。かつてのセフィと出会う前の自分に戻ったような気分であった。


「まだ研究所に帰っていなかったんだな・・・」

俺は以前アルテと交わした約束についてすっかりと忘れていた。


「随分な挨拶ね・・・」

アルテはすっかりと腑抜けになっている俺に呆れた表情を浮かべると落胆の溜息を吐いた。


「もうしばらくの間はこの都市に留まる予定よ。ちょっとした預かりものを受け取ったからね」

「そうか・・・」

俺はアルテの話に興味なさそうにセフィの墓の方に視線を戻した。


「とても地下都市に革命を起こした英雄には見えないわね」

アルテは皮肉を述べるように今の俺の状態を嘆いた。


「なぁ、アルテ。俺は何のために戦ってきたんだろうか?」

俺は自身に問い掛け続けてきた質問をアルテにぶつけてみた。


「・・・馬鹿ね。そんなこと、あたしにわかる訳がないでしょ?」

アルテは俺の質問を軽く受け流すと自分でその答えを見つけるように促してきた。


「物知りな科学者でも知らないことがあるんだな・・・」

俺は皮肉混じりにアルテのことを馬鹿にし返した。


「それで・・・俺に何か用か?」

俺は気を取り直すとアルテに用件を訊ねた。


「少しあたしに付き合ってくれないかしら?」

「どこに付き合えばいい?」

俺は表情を曇らせたままアルテに目的地を訊ねた。


「場所は・・・そうね。シャンバルディアの地下都市かしら」

「今さら・・・地下都市に戻ってどうしようというんだ?」

俺はアルテの意図が理解できずに困惑した表情を浮かべた。


「たくっ・・・つべこべ言わずにあたしに付いてきなさいっ」

アルテは煮え切らない態度の俺に声を荒げると文句を言わずに付いてくるように命令してきた。


「少なくともあんたにはそれを見る義務があると思うから・・・」

アルテは急に真面目な表情を浮かべると意味有り気な言葉を投げ掛けてきた。


「見る義務がある?」

俺は何かを企むアルテに対して首を傾げた。


「ほら、行くわよ。早く付いてきてっ」

アルテは馬の尻を鞭で叩くように重い足取りの俺を急かした。そして、俺を引き連れて地下都市のある場所へとやって来た。そこはかつてセフィの住んでいた娼婦街であった。


「懐かしいな・・・この淀んだ空気・・・」

俺は久しぶりに戻ってきた地下都市にどことなく懐かしさを感じていた。この場所にはもうほとんど人が住んでいなかった。正直、日の当たる場所の方がみんな良いようであった。


「早くこっちよ」

アルテは足早に俺の前を歩くと手招きをしながら俺を導いた。


「こんな所に連れて来てどうするつもりだ?」

俺は娼婦街の建物を見ながらセフィのことを思い浮かべていた。


「口では少々説明しづらいからあんたの目で実際に確認して・・・」

アルテは俺の質問をはぐらかすと口よりも足を動かすように急かしてきた。


(アルテは一体俺に何を見せるつもりなんだ?)

俺はアルテの行動に困惑しながらも彼女の後に黙って付いていった。


「・・・着いたわよ」

アルテはナノマシンを製造していたセフィの部屋の中へと案内した。


「これは一体・・・」

俺が部屋の中に入るとそこにはナノマシンの動作を確認するための大きなカプセル型のガラスケースが設置されており、その中には人のような形を成した何らかの生物が浮かべられていた。


「こいつは何の生物なんだ?」

俺はガラスケースの中に入れられたその生物を見つめながらアルテに質問した。


「これは・・・人間の胎児よ」

「人間の胎児・・・お前は一体何を作り出そうとしているんだ?」

俺はアルテの人智を超えた行いに思わず疑問の声をぶつけた。


「これはあたしが作ったものじゃないわ」

「それじゃ、一体誰が?」

「・・・セフィよ」

「なっ・・・何だってっ」

俺は思わぬところからセフィの名前が飛び出して驚きの声を上げた。


「実は・・・彼女はね。妊娠していたのよ」

「何だってっ」

俺は驚きのあまり同じ言葉を繰り返した。セフィの身体はすっかりと痩せ細っていたため、俺は彼女が妊娠していたことなど微塵も気が付いていなかった。


「彼女の身体を検査していてわかったのよ」

「そんな馬鹿なっ・・・セフィは子供を産めるような身体じゃなかったはずだっ」

俺はアルテの言葉に自分の耳を疑った。なぜならば、セフィは子供を産めない身体だったからこそ飲食街で働いていたのである。そんな彼女が妊娠していたなど信じられることではなかった。


「そう・・・彼女が突然体調を崩したのはその子供ができたのが原因だったようね」

セフィはお腹の中に宿った子供のために栄養を提供し続けた結果、彼女の体を蝕んでいた病気の免疫力が低下して衰弱していたのである。つまり、彼女の命を大幅に縮めたのは彼女のお腹にできた子供であった。


「それじゃ・・・アルテはそのことを知っていてセフィを見殺しにしたというのかっ」

俺はアルテの冷静な態度に怒りが込み上げてきて思わず語気を荒げてしまった。


「落ち着きなさい」

アルテは取り乱す俺に対して冷静になるように注意してきた。


「当然彼女には子供を中絶するように何度も忠告はしたわ。だけど・・・それを拒んだのは彼女自身だった」

「どうして・・・どうして、セフィは子供を堕ろすことを拒絶したんだ?」

俺にはセフィが自分の命を削ってまで子供を産もうとしていた気持ちが全くわからなかった。


「彼女は言っていたわ・・・」

アルテは徐に視線を上の方に向けるとセフィと過ごした日々について思い返していた。そして、正確に彼女の言葉を口にした。


『私の命はもう長くない・・・それなら、これから生まれてくる新しい命に自分の思いを託したい』

セフィは自分の命が長くないことを自覚していたため、自分に宿った新たな生命を奪ってまで生き長らえることを望んでいなかったようであった。


『デュアルならきっと本物の空を見せてくれる。だから、この子には私の代わりにその自由な空の下で生きてほしいの』

セフィは最後の最後まで俺との約束を信じていたそうだ。そして、自分の願いをお腹の中に宿った子供に託したようであった。


「自分の代わりに・・・」

俺はカプセルの中で眠る未成熟児を見つめながら心静かにセフィの思いを噛み締めていた。


「それに・・・」

アルテは再び重い唇を開くとセフィの言葉を続けた。


『私はひと目見られればそれだけで充分だから・・・』


「そう言いながらセフィは時折柔らかな笑みを浮かべていたわ」

アルテはセフィと共に過ごした時間について説明してくれた。彼女の僅かな命の灯火を繋ぎ止めていたのは俺と交わした約束のようであった。


「あたしはそんなセフィのその切実な思いを聞いて、これから生まれてくる彼女の子供を彼女の代わりに育てていくことを決意したの」

それがこのシャンバルディアにアルテを留まらせていた理由であった。


彼女は俺からセフィの遺体を預かった後、セフィとの約束を果たすために急いで彼女をこの施設へと運び込んだ。そして、機械の腕を使って未成熟児が死ぬ前に彼女の胎内から取り出していた。その後、アルテはその未成熟児をナノマシンの動作を確認するための培養液の中で育て続けた。


「それで・・・あんたはどうするの?」

アルテはセフィとの遣り取りについて一通り説明を終えると唐突に質問を振ってきた。


「どうするとは・・・どういう意味だ?」

俺はいきなりの話で頭が整理しきれていなかったため、アルテの質問の意味について全く理解できていなかった。


「彼女が残したこの最後の希望を受け止めるか、受け止めないかということよ」

「どうして・・・そんなことを俺に聞くんだ?」

俺は重すぎる事実の前に戸惑いを隠せずにいた。


「瀕死寸前だった彼女に希望を与え続けたあんただからこそ・・・この子供の未来を託せると判断したからよ」

アルテは真面目な表情で俺の顔をしっかりと見つめてきた。


「それに・・・この子の父親はあんただから」

「なっ・・・」

俺は更なる衝撃に言葉を詰まらせた。


「・・・それは本当のことなのか?」

「間違いないわ」

アルテは自信満々な様子でそう断言してきた。


彼女は密かに採取していた俺の髪の毛などを使ってセフィに宿った子供の父親が俺であることを特定していた。


「この胎児は生後9ヶ月と言ったところね・・・身に覚えはないかしら?」

アルテは俺の心の内を探るように目を見つめてきた。


「9ヶ月前・・・」

俺には思い当たる節があった。それは俺が地下都市を出てくる直前の出来事である。


「この子供の父親は・・・本当に俺なのか?」

俺には目の前にいる胎児が自分の子供だとはとても信じられなかった。というか、信じたくなかった。

もし、目の前の胎児が自分の子供であると認めてしまえば、セフィの短い寿命を奪ったのは他ならぬ俺ということになるからだ。


「あんたに身に覚えがあると言うならばその可能性が高いわね」

「そんな・・・」

俺は驚愕な事実を目の当りにして愕然としていた。


「呆けている場合じゃないわよ。あんたはこの子をどうしたいの?」

アルテは煮え切らない態度の俺に業を煮やして俺を現実へと引き戻した。


「俺は・・・」

俺はセフィと過ごした日々を思い出しながらこの子供をどうするべきなのかを真剣に考えた。そして、彼女から受け継いだ銀の指輪を強く握り締めるとカプセルの中の胎児を自分の子供として育てていくことを決心した。


「・・・俺に・・・俺に育てさせてくれっ」

俺はアルテに未成熟児を自分の子供として育てることを申し出た。


「あんたなら・・・あんたなら絶対にそう言ってくれると信じていたわ」

アルテは表情を明るくさせると嬉しそうに声を弾ませた。


「俺達の行動にも・・・ちゃんと意味があったんだな・・・」

俺はセフィの残した最後の希望を見つめながら自分のしてきたことに意味があったことを改めて実感していた。


俺がナノマシンを手に入れてこなければ、この子は決して生まれてくることはできなかっただろう。そして、シャンバルディアを解放しなければ、この子に自由な空を与えてやることもできなかっただろう。


全てはセフィが残したこの子供の未来のためにあったのかもしれない。そう思うと俺はとても救われた気分になっていた。


「それで・・・あんたはこの子に何という名前を名づけるの?」

アルテは最後にこの子供の名前について訊ねてきた。


「そうだな・・・」

俺はセフィの残した最後の希望に『シエル』という空を意味する言葉を名前として授けた。

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