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絶望都市シャンバルディア  作者: 東メイト
第四章:革命の始まり
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第12話:絶望

「この店だ・・・」

俺はセフィの働いている店の前に立つと急激に感情が込み上げてきて呼吸を困難にさせた。俺の心臓は今にも張り裂けそうなほど高鳴っていた。


「どうしたの?入らないの?」

アルテは店の前で呆然としている俺を見て不思議そうに首を傾げていた。


「よっ・・・よしっ。行くぞっ」

俺は大きく深呼吸して気持ちを整えると重い一歩を踏み出した。


(もうすぐ・・・もうすぐセフィに会えるんだっ)

俺は胸一杯に期待を膨らませて店の扉を開いた。


「いらっしゃいませ」

「???」

俺は勇んで店の中に入ったが、そこにはセフィの姿はなかった。彼女の代わりにその店にいたのは見慣れぬ初老の女性であった。


「どうかなさいましたか?」

俺がその場で立ち尽くしていると老婆は不思議そうに話し掛けてきた。


「えっ、えっと・・・」

俺は混乱する頭で精一杯考えた。


「・・・ここで働いていた娘は・・・どっ、どうしたんだ?」

俺は言葉を詰まらせながらセフィのことについて懸命に尋ねた。


「ここで働いていた?」

老婆は眉間にしわを寄せると困惑した表情を浮かべた。


「もしかして・・・セフィさんのこと?」

「そうだっ。その娘だっ」

俺は老婆の口からセフィの名前が出たことに興奮して思わず彼女に飛びついた。


「ちょっ、ちょっと落ちいてください・・・」

老婆は慌てた様子で俺を引き離した。


「すまない。取り乱した・・・」

俺は焦りすぎていた自分のことを恥じると改めて老婆にセフィのことを尋ねた。


「それで・・・その娘はどうなったんだ?」

「セフィさんなら・・・今は体調を崩されて自宅で療養されていますよ」

「なっ、なんだってっ」

俺はセフィが自宅療養していると聞いて思わず顔面を蒼白にさせた。まさに身体から一気に血の気が引いているようであった。


(そんな・・・セフィが・・・療養しているだってっ)

俺は老婆の言うことが信じられなくて何度も自分の耳を疑った。


「・・・大丈夫かい?」

俺が呆然としていると老婆は心配そうに俺の顔を見つめていた。


(そうだ・・・こんな所で呆けている場合じゃないっ)

俺は我に返ると慌ててセフィの自宅のある娼婦街に向かって足を走らせた。


「ちょっ、ちょっと待って・・・どこに行くつもりなのよっ」

アルテは全速力で走り出した俺の後に続いて必死で追いかけてきた。


「・・・セフィっ」

俺はセフィの自宅の扉を開くと慌てて部屋の中に駆け込んだ。


部屋の中では変わり果てた姿の彼女がベッドの上で横たわっていた。彼女の顔も手も骸骨のように痩せ細り、俺が知っていた頃とはまるで違う状態であった。その姿は彼女が男性恐怖症になった時よりもさらに酷かった。


(本当に・・・これがセフィなのか?)

俺は目の前にいるセフィのことを疑っていた。


それだけ彼女の姿が変わり果てているということであった。だが、痩せ細った薬指には俺が以前に贈った結婚指輪がしっかりと握り締められていた。その人物は紛れもなくセフィ本人であった。


「・・・」

俺は静かに眠るセフィの姿を見て言葉を失っていた。


(まさか・・・死んでいるのか・・・)

俺は恐る恐るセフィの傍へと近づいた。すると微かではあるが、彼女の呼吸音が聞こえてきた。


(良かった・・・まだ生きている・・・)

俺は少しだけ胸を撫で下ろした。


「セフィ・・・」

俺はセフィの名前を呟くと優しく彼女の手を握った。


「その声は・・・デュアル???」

セフィは閉じていた目をゆっくりと開くと俺の方に顔を向けてきた。


「本当に・・・デュアルだ・・・」

セフィは身体を小刻みに震わせながら顔の横の方へと弱々しく手を伸ばしてきた。


「俺だよ、セフィっ。俺は約束通り戻ってきたんだっ」

「もう一度会えて・・・良かった・・・」

セフィはやつれた頬で精一杯の笑顔を浮かべてみせた。


「『もう一度』ってなんだ。これからは何時だって・・・何度でも俺は君に会うことができるんだっ」

俺はセフィの手を強く握り締めると弱気な彼女の発言を必死で否定した。


「嬉しい・・・」

セフィは笑顔のまま再び深い眠りに就いた。


(どうしてこんなことに・・・)

俺は枯れた木のように痩せ細ったセフィの体を見てどうして彼女がこのような状況に陥ったのか、その理由を必死で考えた。


確かに彼女は身体が弱く普通の人間に比べると長くは生きられない状態ではあったが、こんな急激に体調が変化するような病気ではなかったはずである。それなのに・・・なぜか彼女は今にも死にそうな状態に陥っていた。


(こんなはずじゃなかったのに・・・)

俺は必死で彼女の病気の原因について思考を張り巡らせたが、その理由はさっぱりと見当が付かなかった。


「・・・ここに・・・いたのね」

俺がセフィの傍で頭を悩ませていると俺の後を追っていたアルテが息を切らせて追いついてきた。


「アルテ・・・セフィが死にそうなんだ。・・・なんとかならないか?」

俺はわらにも縋る気持ちでアルテに救いの手を求めた。


「ちょっ、ちょっと待って・・・」

アルテはいきなり相談事を振られて状況を飲み込めずに困惑していた。そして、ベッドの上で横たわっているセフィを見て少しずつ状況を理解していった。


「・・・そうだっ。ナノマシンを使えばセフィは元の状態に戻せるんじゃないかっ」

俺はナノマシンのことを思い出してアルテに質問した。


「それは・・・残念だけど無理ね」

アルテは淡々とした様子できっぱりと俺の意見を否定した。


「どうしてだっ。ナノマシンはエルゾニアウィルスをも死滅させることができる夢の薬なんだろ。それなら病気のセフィだって治せるはずだっ」

俺はアルテの両肩を掴むと必死で訴えた。


「ナノマシンは・・・病気を何でも治せる万能薬ではないわ」

アルテはナノマシンに希望を求める俺の気持ちをあっさりと打ち砕いた。


「ナノマシンは血液内の病原体を死滅させることはできても体細胞の変異による病気は取り除くことはできないの。ナノマシンにはそこまでの複雑な判断能力は備わっていないわ」

ナノマシンは血液中に流れる変異物に対しては反応することができるが、癌細胞のように身体の細胞の一部が変異して正常な働きを奪うような病気に対しては取り除くことができないようであった。その事を科学者であるアルテが一番よく知っていた。


「本当に・・・どうにもならないのか・・・」

俺は絶望した表情でアルテの両肩から静かに手を下ろした。


「あたしは科学者であって医者ではないわ」

アルテも辛そうな表情を浮かべると奥歯を噛み締めていた。


「そんな・・・馬鹿な・・・」

(俺は一体なのために・・・シャンバルディアに戻ってきたんだ・・・)

俺は絶望しすぎて本来の目的すら忘れかけていた。


「デュアル・・・」

アルテは俺のことを懸命に励まそうと声を掛けていたが、俺にはもはやその声に反応する元気すら残されていなかった。俺は完全に絶望していた。


「しょうがないか・・・」

アルテは溜息を吐くとそれ以上俺に話し掛けてこなかった。そして、セフィの部屋にナノマシンを製造する機械の部品を持ち込むと部屋の隅っこでそれらの機械を再び組み立て始めた。俺が目標を見失っても彼女は自分の成すべきことをしっかりと理解していた。


俺達が地下都市へ降りてきてから既に2日間の日数が経とうとしていたが、俺は未だにセフィの傍で蹲っているだけであった。


「これは・・・一体どういうことだ?」

ボアは娼婦街に置いてあった自分の荷車を目印にして俺達の所までやって来ていた。そして、彼は魂の抜けた俺の姿を見て驚きの声を漏らした。


彼の予定では既に俺がある程度有志を募り、革命を起こすべく行動を起こしていると思っていたのだ。それなのに当の本人は全くやる気がない様子でベッドの上で横たわるセフィの傍らでただただ沈黙している状態であった。


「おいっ、どうしたというのだっ」

ボアは俺の胸倉を掴むと身体を引っ張り起こした。


「・・・」

俺は死んだ魚のような目で怒るボアの瞳を見つめ返した。


「何か言ったらどうなのだ?」

「・・・」

「おいっ」

ボアは俺に返事をさせようと身体を前後に揺すった。だが、いくら彼が俺のことを揺さぶろううとも俺が反応することはなかった。

俺は完全に自分の殻の中に閉じ篭り、現実逃避を決め込んでいた。


「・・・無駄よ」

ボアが大声を出すとアルテが口を挟んできた。


「それは一体どういうことだ?」

ボアは俺から手を離すとアルテの方へと振り返った。


「彼は彼女が死にそうな状態に絶望して完全に自分の世界へと閉じ篭っている」

アルテはボアにこれまでの経緯について説明した。


「なるほどな・・・」

ボアはアルテの話を聞いて大体の状況を理解したようであった。


「・・・それで?お前さんは本当にこのまま革命を諦めるというのか?」

ボアは再び俺の胸倉を掴むと身体を引っ張り起こした。


「・・・」

「何か言ったらどうだ?」

俺はボアにいくら話しかけられても答える気にはなれなかった。


「ふっ・・・ふっざけるなっ」

「うっ」

ボアの怒りは頂点に達して俺を壁へと叩き付けた。


「・・・でもいい・・・」

「なんだ?言いたいことがあるならはっきり言えっ」

「もう・・・どうでもいい・・・」

俺は投げ遣りな態度でボアから目を逸らした。


「どうでもいいだと?お前さん・・・まさか『もう全てがどうでもいい』と言ったのか?」

ボアは俺の言葉を確認するように言葉を繰り返してきた。

俺はボアの質問に静かに頷いた。


「そうか・・・そうか・・・」

ボアは俺の言葉を理解するように首を縦に振ると口許を緩めて不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ・・・ざけんじゃねぞおおお、このクソガキがあああああ」

ボアは腑抜けた俺に大激怒した。そして、俺の頬を力一杯殴り飛ばした。


「ぐうっ」

俺はボアに殴られた反動で床の上に転がった。


「こっちは全財産を叩いて貴様に協力してきたんだぞっ」

ボアは再び俺の胸倉を掴むと身体を引っ張り上げた。


「それなのに・・・今さらそんな腑抜けたことをぬかしているんじゃねえぞおおお」

ボアの怒りは尤もであった。ここで革命を諦めれば全ての努力が水の泡となり、彼の人生も俺の人生も全て破綻する。


「そんな調子でジャンゴにどう言い訳するつもりだ?」

俺はジャンゴの名前を出されて微かに眉を動かした。


「『彼女が死にそうだからもう全てどうでもよくなりました』っと・・・そんな腑抜けた報告をするつもりなのか、貴様はっ」

ボアは俺を挑発するようにジャンゴのことを持ち出してきた。


「ジャンゴもさぞあの世で後悔しているだろうな。まさかこんな腑抜けのために命を落としたなんて・・・」

ボアは愚か者を見るような目で俺のことを見下していた。


「そんなこと・・・そんなこと言うんじゃねえええ」

俺はボアに痛い所を突かれて思わず怒りを噴出させた。そして、彼の胸倉に掴み掛かった。


「図星を突かれて悔しいか?悔しいならば革命を起こしてみろっ。貴様が今一番やらなければならないことは革命を起こすことだろっ」

ボアは俺の怒りを利用して再びやる気を起こさせようとしていた。


「革命を・・・起こすこと?」

「そして、彼女のために空を見せてやるのだろ。その夢は・・・まだ間に合うはずだっ」

ボアはセフィの方を指差すと俺に彼女の夢について思い出させた。


「セフィのために空を・・・」

無気力になった俺の中で沸々と何かが込み上げてきた。


(そうだったっ。俺はセフィのために長い旅をして多くの人間達を巻き込んできたんだった・・・)

俺はボアの言葉で希望を取り戻し始めていた。


「そうだ・・・まだセフィは死んではいないっ」

俺はセフィの方に振り返ると彼女の手を力一杯握り締めた。そして、今にも切れそうだった希望の綱を必死で手繰り寄せた。


「・・・すまなかったな、ボア。俺が間違っていた」

俺はボアに諭されてようやく立ち直れた。


「わかればいいんだ」

ボアは俺が正気に戻ると安心したように胸を撫で下ろした。


「それでアルテ・・・彼女は本当にもうどうにもならないのか?」

ボアは唐突にアルテの方に視線を向けるとセフィの容態について話を振った。


「ええ、どうやっても死は免れないわね。こんな状態の人間を元に戻せるのは神様くらいのものでしょうね」

アルテは冷静な様子でボアの質問に答えた。


「命を引き伸ばすことも無理なのか?」

ボアは狙いの方向を変えるとセフィの延命について確認した。


「それなら・・・ある程度は可能かもしれないわ」

「本当にかっ」

俺はアルテの思いも寄らない言葉を聞いて大きく目を見開いた。


「ええ、ナノマシンを使えば病気そのものは治せなくても多少の延命措置はできるわよ」

「それでどれくらいの延命が可能なんだ?」

ボアはアルテにセフィの余命について尋ねた。


「正確ではないけれど・・・3ヶ月くらいは何とか持ち堪えさせることができると思うわよ」

「3ヵ月か・・・」

俺はアルテの言葉に僅かな希望を見出した。

3ヶ月もあれば同志を募り、反乱を起こして外の世界に抜け出すことは決して不可能なことではなかった。そうすればセフィに地上の空を見せてやれるのである。


「こんな所で・・・腑抜けている場合じゃないなっ」

俺は再び革命の炎に火を灯すと身体中からやる気を漲らせた。


「そうだっ。それでいい。お前さんが今成すべきことは戦うことだ」

「それで・・・具体的に俺はどう行動をすればいいんだ?」

俺はこれからの行動についてボアの指示を仰いだ。


「そうだな・・・まずは仲間にできそうな人間を数人集めろ」

「どうやって集めればいい?」

俺は同志の募り方についてボアに尋ねた。


「それはお前さんの頭で考えな」

ボアは同志の募り方については教えてくれなかった。彼は商売ができても仲間を集めることはできないようであった。


(一体どうすればいいんだろうか?)

俺は仲間を集める方法について思考を張り巡らせた。


「もし、数人の仲間ができたらそいつらを連れて地上に向かえ」

俺が悩んでいるとボアは会話を続けた。


「地上に?なぜ地上に行くんだ?」

俺はボアの作戦の意図がわからずに首を傾げた。


「そうすれば俺達がナノマシンを自由に使えることを証明できるからな」

「なるほど・・・」

俺はボアの説明でようやく地下の人間を地上に連れて行く意味を理解した。


「そして、今度は地上に連れて行った全員で他のやつらを説得するんだ。そうすることで仲間の数を倍々に増やしていけば、あっという間に革命軍を集めることができるはずだ」

ボアはそのようにして有志の数を増やしていくことを提案してきた。


「・・・わかった」

俺はボアの計画に乗ることを承諾した。


「ところで・・・ナノマシンは今どれくらい作れている?」

ボアはアルテの方に話を振るとナノマシンの保有数について確認した。


「とりあえず、今は20本ってところね」

アルテは俺が落ち込んでいる最中も自分のやるべきことをきちんと行っていた。


「それで手持ちの金の欠片や必要な部品は全て使い切ってしまったわ」

アルテは手持ちの材料がなくなったことをボアに告げた。


「そうか・・・そこら辺の資材の調達は俺が何とかするとしよう。だから、アルテはナノマシンを作ることに専念するのだ。デュアル、お前さんはこの16本のナノマシンを使って有志を集めろ」

ボアは各自の分担をはっきりさせるとそれぞれの作業に専念するように指示を出してきた。


「残りの4本はどうするんだ?」

俺は現在保有しているナノマシンの数とボアの指示した数が一致していないことに疑問を感じた。


「それは俺達自身が使用する分だ。ここで全部使い切ってしまってはいざという時に困るかもしれないだろう?」

ボアは念のためにセフィの分を含めた自分達用のナノマシンを確保することを考えていた。


「ボアは本当に用心深いな」

「常に最悪の事態を想定しておくことに越したことはないからな」

ボアはこれまでにいくつもの災難に見舞われてきたため、常に最悪な状況を想定しながら生き延びてきたのである。その経験により彼は何事においても人一倍警戒心を強く抱くようになっていた。


「アルテ・・・セフィのことを頼んだ」

俺はアルテにセフィのことを任せると部屋の外へと繰り出した。

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