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絶望都市シャンバルディア  作者: 東メイト
第四章:革命の始まり
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第11話:帰還

思えば長い道のりであった。ジャンゴと共にシャンバルディアを抜けてボアの手引きにより研究所まで旅をしてアルテの協力を得て遂にナノマシンの製造方法を手に入れたのである。

まさかシャンバルディアを出た時はこんなにも長い旅をする破目になろうとは思ってもみなかった。


「セフィは元気にしているだろうか・・・」

俺はぼんやりとセフィのことを頭に思い浮かべた。俺がシャンバルディアを出てから既に半年の期間が流れようとしていた。


「間もなく領地に入るぞ」

俺がセフィのことに思いを馳せていると馬車の外からボアが話し掛けてきた。


「いよいよだな・・・」

俺は胸に手を当てると力強く拳を握り締めた。


「準備はいいか?」

「当たり前だっ。俺はずっと・・・この日を夢見て待っていたんだからなっ」

俺は高鳴る気持ちを抑えながら口許を緩めて歯を剥き出しにした。


(もうすぐだっ・・・もうすぐセフィにこの青空を見せてやれるんだっ)

俺の感情は爆発寸前であった。


「お前さんの方はどうだ?」

ボアはアルテの方を見ると話を振った。


「あたし?あたしは別に何もないわよ。必要な物はそこに全部摘んであるし・・・」

アルテは俺とは対照的に落ち着いた様子であった。それから間もなくして俺達は何事もなく無事にシャンバルディアへと到着した。


「ここが地上のシャンバルディアなのか・・・」

俺は初めて見るシャンバルディアの地上部分の景色に言葉を詰まらせた。


ボアから大体の話は聞いていたが、実際に自分の目で見てみると違った気持ちが込み上げてきた。シャンバルディアの四方は大きな鉄筋コンクリートの壁に囲まれており、まるで何者もを拒んでいるような圧迫感を感じさせていた。


(本当にこんなところを俺達が制圧できるのか?)

俺はその巨大な壁を前にして急に不安が込み上げてきた。


「どうした?緊張しているのか?」

俺が表情を強張らせているとボアは心配そうな眼差しで俺の顔を覗き込んでいた。


彼からしてみればこんな所で臆病風に吹かれていてもらっては困るのであろう。彼は既に自分の財産を全部投げ打っている。もう後に引くことはできなかった。既に匙は投げられている。


「・・・すまない。少し気持ちが昂ぶっていただけだ」

俺は大きく深呼吸すると全身の力を抜いた。


(今さらこんな壁如きで諦めるわけにはいかないっ。俺達は暗い穴の中を抜けて希望の光を手に入れてきたんだっ)

俺は自分自身に言い聞かせるように強く念じると力一杯自分の両頬を叩いて気合を込めた。


「それじゃ、まずは地下都市に入る前に食事を済ませるぞ」

ボアは王都の中に馬車を止めると食事所を目指した。

基本的に地上から地下に潜る人間は地下都市内ではまともな食事ができないため、食べられる時に充分に栄養を補給しておく必要があった。


「地上のご飯は随分と贅沢な物を食べられるんだな・・・」

俺は地上で食事をしながら地下都市との食べ物の違いについて不満を漏らした。


「まぁ、地下都市じゃ水気のある物は食べられないからな。これ位の差があるのは仕方ないことだ」

ボアは愚痴を溢す俺を宥めると静かに食事を進めた。


「研究所ではどんな物を食べていたんだ?」

俺はあまり食の進んでいないアルテに話題を振ってみた。


「あたし達は基本的にビタミン剤やカプセル剤など生きていくのに必要最低限の栄養が取れる物を摂取して済ませているわ。こんなに無駄な栄養源は必要ないの」

アルテは懐から栄養剤を取り出すとそれを口の中に含んだ。

贅沢の限りを尽くしてきた科学者にとって食事はもはや栄養を摂取するための行為でしかなく、地上の人間達のように贅沢な食事を楽しむ習慣は既に存在しなかった。そのため、科学者は地下の人間よりも更に質素な食事形態をしていた。


基本的に科学者は一日でも長く生きることが仕事のようであった。


「そうなのか・・・」

俺はアルテとの食事の概念の違いについて唖然としていた。


「さてと食う物も食ったし・・・」

「いよいよ地下都市に潜るのか?」

俺は期待に満ちた眼差しでボアを見つめた。


「まぁ、慌てるな。その前に地下に降りるためにやることについて簡単に説明しておくぞ」

ボアは周囲の様子を探ると俺達に顔を近づけて小さな声で話し始めた。


「地下都市に降りるためのエレベーターがあるのは・・・この都市の西南部にあるこの建物の中だ」

ボアは懐からシャンバルディアの見取り図を取り出すと机の上に広げた。そして、地下都市に通じるエレベーターがある場所を示した。


「ここに・・・」

「そうだ。ここに見張り役の衛兵がいるからそいつらに金を握らせるのだ」

ボアはこの都市で流通している紙幣を取り出すと俺達に見せた。


「こいつを100枚も渡せば地下都市に通してくれるはずだ」

「俺はそんな大金を持ってないが・・・」

「心配するな。必要な紙幣は全て俺が地上の市場で屋台を出して稼でおく」

ボアはそのために都心部の闇市で高く買ってもらえそうな貴金属類や日常品、加工品を大量に仕入れていた。ボアは根っからの商人であった。


「この紙幣でまずは先に地下都市に降りていろ」

ボアはかなり大目に1000枚の紙幣を俺に手渡した。


「本当にいいのか?こんな大金・・・」

「気にするな。これは前貸しだからな」

「前貸し?」

俺は不穏なことを口にするボアに眉を潜ませた。


「そうだ。お前さんが革命を成功させた後、手に入れた権利の中から貸した分はきっちり払ってもらうからな」

ボアは口許を緩めると不敵な笑みを浮かべた。本当に根っからの商人である。彼なら決してどんな状況でも損だけを取ることはないだろう。


「それにお前さんは一刻でも早く地下都市に戻りたいのだろ?」

ボアは俺がセフィに早く会いたがっていることを見抜いていた。


「・・・すまないな。ありがたく借りておく」

俺はボアの好意を素直に受け取ると紙幣の束を懐に仕舞いこんだ。


「それじゃ、話を続けるぞ」

ボアは地下都市に降りるための手順について話を再開した。


「地下都市に入るには衣類を全て脱いでその身を清めねばならない」

「下着も全部か?」

「もちろんだ。全身を隈なく消毒されるため何度も洗浄液の中に浸けられるからな」

ボアは当たり前のように裸になることを要求してきた。正直、人前で丸裸にされることはできれば避けたかったが、他に方法がないのであればそれもやもえないことであった。


「他の物についてはどうなるんだ?」

「衣類や洗浄が可能な物に関しては人間と同様に洗浄液で何度も洗濯されて引き渡される。食料品については燻製室で完全に水気を飛ばされて乾燥した状態で、その他の加工品については空気調整室で空気洗浄されてから引き渡される」

基本的にエルゾニアを全て死滅させることはできないが、洗い流したり、吹き飛ばしたり、一時的に取り除くことは可能であった。


「何だか色々と面倒臭いんだな」

「仕方あるまい。一匹でもエルゾニアウィルスを地下都市に持ち込めば即座に危機的な状況になってしまうからな」

ボアの言うことは尤ものことであった。


ナノマシンを持たない地下の人間達がエルゾニアに感染すれば、あっという間に全滅することは避けられない。俺達は胎内の中にいる赤ん坊のように守られていた。全ては俺達に金を発掘させるためであった。


「それが済んだら最後にどろどろとした液体のようなものを飲んで体内洗浄が終われば地下都市へ降ろしてもらえるぞ」

「どろどろとした液体って・・・」

「深く考えずにそのまま飲め」

ボアは液体の詳細については語らず、言われた通りにするように強調した。


「大体半日くらいは拘束されるぞ」

「半日もか・・・」

俺はボアから検査の話を聞いてうんざりとした表情を浮かべた。


「それくらいしなければエルゾニアを全身から完全に取り除くことができないからな」

「本当に地下都市に入る他の方法はないのか?」

俺は別の方法について確認した。そんな面倒なことをいちいちやっていられなかった。


「なくはないが・・・その他の場合だと地下都市にエルゾニアを持ち込んでしまうことになるぞ」

それだけエルゾニアから逃れることは困難なことであった。


「まぁ、我慢して素直に検査を受けることだな」

ボアは不満そうな表情を浮かべる俺を説得するように言い聞かせた。


「仕方がないか・・・」

俺は落胆の溜息を吐くと嫌々ながらエルゾニアの検査を受けることを覚悟した。

ちなみに地下から地上へ出る時は衛兵に目さえ付けられていなければ何の検査も受けずにそのまま地上へと簡単に出られるようであった。


「以上で説明は終了だ。他に何か聞いておきたいことはあるか?」

「そういえば・・・ナノマシンの製造に必要な機械はどうするんだ?」

俺はアルテの持ってきた機械を地下都市に降ろせるのかを心配していた。あんな精密機械を持って入ろうとすれば流石に衛兵にばれかねなかった。


「う~む・・・」

ボアは眉間にしわを寄せると悩ましげな表情を浮かべた。


「まさか・・・考えていなかったのか?」

「何か良い方法はないものかと考えていたのだが・・・」

ボアもその方法について思い付いてはいないようであった。


「どうする気だ?ここまで来て打つ手なしだというのか?」

「予め地中にでも埋めておくか・・・」

「その方法だとエルゾニアが入り込まないか?」

俺はボアに指摘されたことを逆に指摘した。


「・・・何か良い方法がないものか?」

ボアは眉間にしわを寄せながら別の方法について思考を張り巡らせていた。


「それなら・・・機械を一度完全にばらして部品にして持ち込めば良いんじゃないの?」

俺達が頭を悩ませているとアルテが口を挟んできた。


「そんなことができるのか?」

「そんなの朝飯前よ。ドライバーの2、3本もあれば余裕だわ」

アルテは自信満々な様子で余裕の表情を浮かべていた。


「仮にばらばらにしたとして・・・本当に元に戻すことができるのか?」

俺は精密機械をばらばらにして壊れることを心配していた。


「当たり前でしょっ、あたしを誰だと思っているのよ。そんなの小さな頃から何回も訓練されてきたんだから」

彼女のような科学者は機械を扱う上でそれらの構造を完全に把握していた。そのため、一度ばらばらに分解したとしても簡単に元に戻すことが可能であった。

科学者にとって機械は武器なのである。仮に機械が壊れてもすぐさま元に戻せるように小さい頃から訓練されていたそうだ。


「なるほど・・・それなら問題なさそうだな」

俺は心配の種がなくなって安心したように胸を撫で下ろした。


「それじゃ、早速、地下都市に向かうとしよう」

俺達は食事を済ませると手筈通りに2手に別れた。

俺とアルテはナノマシンの製造に必要な機械などを持って地下都市に降りるためのエレベーターに、ボアは貴金属などの商品を持って地上の市場へと向かった。


「ボアの話だとこの建物だな・・・」

俺はボアの言っていた建物の前に立つと緊張のあまり固唾を飲み込んだ。そして、覚悟を決めると一気に建物の扉を叩いた。


「なんだ?」

建物の中から若い衛兵が顔を出した。


「あの・・・ここで地下都市に入れてもらえる話を知り合いから聞きまして・・・」

俺は心臓を激しく高鳴らせながら丁寧な態度で衛兵に地下都市のことを訊ねた。


「何だ?地下に行きたい流れ者か?」

衛兵は地下都市の話を切り出すと納得したような表情を浮かべた。


「そこの女も一緒に降りるのか?」

衛兵はアルテの姿を見つけると怪訝そうな表情に変化させた。

一般的にアルテのような女性が地下都市に降りることは珍しくそのことが衛兵の胸の内で引っ掛かっているようであった。


「こっ、こいつは・・・俺の女房なんです」

俺は慌ててアルテのことを誤魔化すと適当な嘘を吐いた。


「ほう?」

「地上に1人で置いておくには不安でして・・・」

俺は作り笑いを浮かべると衛兵に愛嬌を振り撒いた。


「・・・なるほどな」

衛兵はアルテのことを舐めるように見回すと厭らしい笑みを浮かべてきた。どうやら俺の嘘が通じたようであった。


「うっ・・・」

すぐさま俺の背中に突き刺さるような視線を感じた。

視線の主は当然アルテである。彼女は『何時からあんたの嫁になったんだっ』と訴えうるような眼差しであった。


(堪えてくれ・・・)

俺はアルテに話を合わせるように目で訴えた。

彼女は呆れた表情を浮かべていたが、俺の意見を否定することはしなかった。


「これで2人分お願いします・・・」

俺はこれ以上衛兵に疑われる前にボアから言われた通りにアルテの分を含めた200枚の紙幣の束を手渡した。


「ふむ・・・」

衛兵は紙幣を受け取るとその場で紙幣の数を数え始めた。そして、紙幣を数え終えると俺達を建物の中に招き入れた。


「荷物をそこに置いてこれを着ろっ」

衛兵は水着を渡すとそれに着替えるように命令してきた。

俺は衛兵の言われるまま服を脱ぎ始めた。


「馬鹿っ」

俺が下着を脱ごうとするとアルテは真っ赤な顔で罵倒を浴びせてきた。


「お前はあっちの部屋で着替えてくればいい」

衛兵はアルテのことを気遣って別室へと案内した。それからしばらくすると彼女が別室から戻ってきた。


「ほう・・・」

衛兵はアルテが水着の姿で戻ってくるとそちらに視線を釘付けにした。

アルテの胸は見た目以上に大きく胸の谷間を強調していた。どうやら彼女は着痩せするタイプのようであった。


「そんなにじろじろ見ないでください」

俺は厭らしい目でアルテのことを見つめる衛兵にやんわりと釘を刺した。


「失礼・・・」

衛兵はわざとらしく咳払いをすると視線をこちらに戻した。


「次はあの部屋に入って空気洗浄を受けた後に中の水槽に身を沈めよ」

衛兵は建物の奥の扉を指差すとそちらに進むように指示を出してきた。

俺達は衛兵の言われるまま指示に従って奥の部屋へと移動した。


「これは・・・」

俺達が奥の部屋に入るとそこは両サイドから風が噴出しており、俺達の身体に付いた塵や埃、菌などを吹き飛ばした。


「寒いな・・・」

俺達は体を震わせながらその風の中を突き進んだ。俺達が次の部屋に入るとそこには洗浄液がたっぷりと入った水槽が待ち構えていた。


「風責めの次は水責めか・・・」

俺はボアから聞いた通りの内容に嫌気が差していた。

俺は渋々水槽の中に進むと頭の先までずっぽりと体を沈めた。そして、次の水槽に進むと同じ行為を4、5回繰り返した。


「やっと終わりか・・・」

俺は全ての水槽に入り終えると安堵の溜息を吐いた。


「次はこの部屋に入れ」

俺達は空気を熱せられた部屋に通された。


「今度はサウナね・・・」

アルテは溜息を吐きながら衛兵の指示に従った。


「俺達はここで何をされるんだ?まさかこのまま焼き殺されるんじゃないだろうな?」

俺は初めて入る『サウナ』という部屋に不安を隠し切れなかった。そこはまるで地獄の釜の中のようであった。


「馬鹿ねっ、そんなわけないでしょ。ここであたし達の汗を流させるのが目的なのよ」

アルテの言うとおり、俺達はサウナ室でたっぷりと体内に溜まっていた汗を搾り出された。


こうすることで俺達は身体の細かな所に入り込んでいるエルゾニアを排出させていた。そして、その後、もう一度洗浄液の入った水槽に付けられると小さな部屋へと通された。


「やっ・・・やっと終わった・・・」

俺の精神はかなりボロボロであった。寒かったり、冷たかったり、熱かったりと様々な体験をしてようやく落ち着く場所に入れたのである。

俺達は部屋の隅に掛けられていた大きなバスタオルを手に取ると全身の水分を隈なく拭き取った。


「最後に・・・これを飲んでくれ」

俺達が全身を拭き終わると衛兵は何やら怪しげな液体を俺達に手渡してきた。

その液体はとてもドロドロとしており、とても飲みづらそうであった。俺はボアから聞いていた謎の液体のことをすっかりと忘れていた。


「本当に・・・これを飲むんですか?」

俺は目の前の怪しすぎる飲み物を見て思わず固唾を飲み込んだ。


「これは体内の菌を洗浄するための薬品だ。安心して飲むがいい」

衛兵は何時までも飲みたがらない俺達に業を煮やして一気に飲み込むように促してきた。


「くっ・・・」

俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると覚悟を決めてその液体を飲み始めた。俺が液体を飲み始めるとアルテも我慢しながら飲み始めた。


(うっ・・・今にも吐きそうだ・・・)

俺は喉越しの悪い液体を何度も吐き出しそうになりながらも必死で飲み込んだ。


「うぷっ」

俺は謎の液体を飲み干すと空になったグラスを衛兵に返した。


「しばらく、この部屋で待機していろ」

衛兵は俺達を別の部屋に案内すると洗濯の終わった衣類を返してきた。


「これでようやく地下都市に降りられるんだな・・・」

俺が安心したのも束の間、急激にお腹が凄い勢いで鳴り始めた。


「うぐっ・・・これは・・・」

俺が先程飲んだ液体が原因のようであった。俺は無言のまま部屋の外にあるトイレに駆け込むとそのまま30分ほどトイレの中に篭もっていた。


(ボアのやつめっ・・・こんなことになるなんて聞いていないぞっ)

俺はトイレの中で恨めしそうにボアのことを呪った。

体内の洗浄を行うには腸内の老廃物も全て出し切らなければならなかったため、謎の液体の中には大量の下剤も含まれていた。


「やっと落ち着いた・・・」

俺はげっそりと頬をこけさせると部屋へと戻ってきた。


「お帰り・・・」

アルテも俺と同じようなうんざりとした表情を浮かべていた。どうやら彼女も俺と同じ思いをしていたようであった。


(一体・・・何時まで待たせるつもりなんだ?)

俺達がトイレから出てきてから既に1時間以上の時間が経とうとしていた。


「待たせたな・・・」

俺がイラついていると唐突に部屋の扉が開いた。そして、衛兵が俺達の荷物を持って入ってきた。


「一応中身は全て確認させてもらった」

俺は心の中で衛兵に変な難癖を付けられないことを強く祈った。


「特に問題のある物はなかったようなので全て引き渡す」

俺はその言葉を聞いて安心したように胸を撫で下ろした。

衛兵はバラバラに分解された機械の部品には興味を示さなかったようであった。

全てアルテの思惑通りにことが運んでいた。そして、俺達は全ての荷物を返してもらうと地下都市に通じるエレベーターへと案内された。


「それじゃ、地下へ降りる」

衛兵はエレベーターの扉を閉めると地下に行くボタンを押した。


(いよいよ地下都市に戻れるんだな・・・)

俺は高鳴る鼓動を胸一杯に鳴らしながらエレベーターが地下都市に着くのを静かに待った。エレベーターに乗って30秒ほどして俺達は最下層へと辿り着いた。


「・・・到着したぞ」

衛兵がエレベーターの扉を開けるとそこは薄暗い明かりに淀んだ空気と随分と懐かしい雰囲気を漂わせていた。そこは間違いなく俺がいたシャンバルディアの地下都市であった。


「上に戻りたい時はそこのインターホンを押して、このカードを見せろ」

衛兵は俺達をエレベーターの外へと連れ出すと扉の横についているモニター画面を指差して地上から来た証明用のカードを手渡してきた。


「くれぐれも問題を起こすんじゃないぞ」

衛兵は乗ってきたエレベーターの中に戻ると扉を閉めようとした。


「まっ、待ってくれっ」

俺は慌てて衛兵を呼び止めた。


「何か用か?」

「すみませんが、水を分けてくれませんか?」

地下都市では水は貴重品であったため、衛兵のように地上に通じている者からしか水を手に入れる方法はなかった。


「何だ?水が欲しいのか?」

衛兵は厭らしい笑みを浮かべると勿体振った態度で俺を焦らしてきた。


「お願いします」

「仕方がないな・・・それならば1リットルに付き10000リギルで売ってやろう」

「なっ・・・」

俺は衛兵から法外な値段を請求されて言葉を詰まらせた。

ちなみに地上では1リットルの水はせいぜい100リギルするか、しないかである。


(足元を見やがってっ)

俺は恨めしそうな眼差しで衛兵を睨んだ。


「んっ。何だ?文句があるなら水は諦めるんだな」

衛兵は不服そうな俺の表情を読み取ると傲慢な態度で踏ん反り返った。そして、エレベーターを閉めるボタンを押した。


「まっ、待ってくださいっ」

俺は慌てて扉の間に手を挟むとエレベーターを静止させた。


「・・・わかりました。その条件を飲みます。だから、水を売ってくれませんか?」

ここで水を諦めればナノマシンを製造することはおろか俺達の滞在時間が極端に短くなってしまうため、否が応でも衛兵の条件を飲むしかなかった。


「これで買えるだけください」

俺はボアから受け取った残りの紙幣を全て衛兵に渡すと大量の水を要求した。


「随分とお金を持っているんだな・・・」

衛兵は気前良く800枚もの紙幣を差し出す俺に目を細めた。

ちなみに1枚の紙幣の価値は100リギル分に当たる。


「俺の全財産です。よろしくお願いします」

俺は衛兵が心変わりする前に必死で商談をまとめた。


「・・・仕方がないな。そこまで頼むのであれば・・・」

衛兵は上の施設から無菌状態の水を持ってくると8リットル分の水を俺達に引き渡してくれた。


「それじゃな・・・」

衛兵はそのままエレベーターに乗って地上へと戻っていった。


「そういえば・・・アルテは俺達のことを密告する気はなかったのか?」

俺は衛兵がいなくなると何となくアルテに聞いてみた。正直、俺は内心で彼女が裏切るのではないかと疑っていた。


「馬鹿ね・・・そんなことするわけないじゃない」

アルテは口許を緩めると不敵な笑みを浮かべた。


「そんなことしたって、あたしには何のメリットもないもの」

アルテの言うことは至極当然のことであった。ここで衛兵に革命のことをばらしたとしても彼女が無事に元の研究所に戻れる保証はなかった。なぜならば、彼女は隣の領地の人間である。


そんな人間をわざわざ元の領地に帰してやる義理はこの都市の人間にはなかった。最悪の場合は共犯者として俺達共々処刑される可能性すら否定できなかった。彼女はそれを冷静に判断していた。


「あんたの馬鹿げた革命が成功するのかどうか、科学者として見届けてあげるわ」

「そうか・・・」

俺はアルテの言葉を聞いて安心したように胸を撫で下ろした。

彼女は俺達を裏切るつもりは全くないようであった。


「それに・・・あんた達のことを裏切るには共に過ごした時間が長すぎたようね・・・」

アルテは微かに口許を緩めると独り言を言うように小さく呟いた。


「んっ・・・何か言ったか?」

俺は小さな声で喋るアルテの言葉を聞き逃してしまっていた。


「べっ、別に何も言ってないわよっ」

アルテは態度を一転させると何かを誤魔化すように声を荒げた。


「・・・安心しろ。お前は必ず俺が責任を持ってお前の研究所に帰してやる」

俺は情緒不安定なアルテを彼女のいた研究所に送り届けることを約束した。


「あんたって・・・本当にどうしようもない馬鹿ね」

アルテは再び笑顔を浮かべると俺に笑いかけてくれた。


「それでこれからどうする気なの?」

アルテは気を取り直すとこれからの行動について確認してきた。


無事にシャンバルディアの地下に潜入したものの、俺達にはやるべきことがたくさん残されていた。ナノマシンの製造できる場所を確保したり、有志を募ったり、革命を起こす計画を立てたりと色々と考えなければならなかった。


「そうだな・・・」

俺はしばらく考えた後、ゆっくりと唇を開いた。


「まずは飲食街だな」

「飲食街?」

アルテは予想だにしなかった俺の回答に目を丸くさせていた。


「そうだ。まずはセフィに会いに行く」

俺はやるべきことの中から自分の感情を最優先にした。というか俺の我慢はとっくの昔に限界を超えているのであった。


「セフィ?ああ・・・あんたが何時も口にしている恋人さんのことね」

アルテは納得したような表情を浮かべると小さく首を縦に振った。


「まずは彼女の安全を確認したい」

「・・・仕方がないわね」

アルテは呆れた表情を浮かべていたが、俺の意見には反対しなかった。そして、俺は彼女を引き連れて飲食街へと向かった。

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