絶望の始まり
小国が大国を滅ぼすために生み出された細菌兵器『エルゾニアウィルス』。
エルゾニアは遺伝子組み換え技術によって様々な病気の毒性を組み込まれており、インフルエンザのように空気中を自由自在に動き回り、カビのようにちょっとした水気で繁殖する性質を持ち、更には人体に入り込むとエイズのように血液中に流れる白血球を破壊して様々な病気を発症させる史上最悪の殺人ウィルスであった。その致死率はエボラをも軽く凌駕していた。そんな凶悪なウィルスの発生によって人類は平穏な日常に終わりを告げる・・・
エルゾニアを開発した科学者達ですらエルゾニアの真の恐ろしさを理解していなかった。それはエルゾニアが複数の病原体の遺伝子を持っていたため、他の病原体と交配することが可能であり、その多様性によってエルゾニアは爆発的に繁殖し、更には他の病原体と交配することで自らの遺伝子を複雑に変化させ、病原体の毒素を保ったまま無限の種類のウィルスを作り出していた。
そのため、エルゾニアを死滅させることはおろかワクチンを作り出すことすら不可能な状況であり、無菌室で研究を続けてきた科学者達には到底予測することなどできない事態が発生していた。
人類がエルゾニアの脅威から逃れるためには3つの方法しか存在しなかった。1つ目の方法は宇宙空間に逃げ出し、新たな居住環境を構築する方法である。ただし、その方法で助けられる人類はごく僅かであった。そして、2つ目の方法は細菌が繁殖できない北極や南極に逃げる方法である。この方法は1つ目の方法よりは多くの人間の命を助けられるが、極寒の環境で生きられる人数はそんなに多くはなかった。3つ目の方法は菌が入り込めない大きな建物を作り、その限られた空間の中で小さなコミュニティを形成しながら生活する方法である。この方法であれば、かなりの人数を助けることが可能であるが、それでも全ての人類を救うことはできなかった。
そこで人類は生き延びられる人間を選定し、それぞれの方法で人類を存続させようとした。1つ目の方法では宇宙開発の関係者を宇宙に上げて月や宇宙ステーションなどに居住空間を設けさせ、そこに優秀な人材を住まわせた。
2つ目の方法ではエルゾニアの脅威から人類を救うことができる可能性がある科学者や植物や家畜などを育てられる生産者達を中心に極地へと送られた。
そして、最後の方法では権力や財力を持っている人間達が巨万の富を叩いて無菌空間を作り上げてその空間に自分達の関係者を住まわせた。
いずれの方法も取れなかった残りの人類は全てエルゾニアの餌食となって死んでいった。この出来事により人類は一気に衰退の一歩を突き進んでいった。こうして人類はしばらくの間、限られた空間の中で静かに生活することを余儀なくされていた。
そんな絶望の最中、極地へ送られていた科学者達によって世界の状況は好転する。それは人間の血液の中にミクロサイズの機械・ナノマシンを流し込み、体内を蝕むエルゾニアを血液の中から直接撃退する方法であった。
そして、科学者達は苦労の末、念願である『ナノマシン』の開発に成功した。その結果、人類は再び広大な大地での自由な生活を取り戻した。しかし、これで全ての問題が解決されたわけではなかった。
それはナノマシンが半永久的な機能を持っておらず、一定の期間を過ぎると老廃物として体外に排出されてしまうため、その都度、ナノマシンを体内に注入しなければならないことである。
ナノマシンの素体は金を原料として作られていたため、外の世界で生活し続けるためには常に金を採掘し続けなければならなかった。そのため、人類は地上で生活する富裕層の人間と地底を掘り続ける貧困層の人間に分けられた。
地上で生活できる富裕層は極地へ行っていた生産者達の知識によって品種改良されたエルゾニアの影響を全く受けない家畜や野菜を地上で生産し、それらの食料を地下の人間へと提供した。
そして、地下に住む貧困層の人間は地上の人間の生活のために金を採掘し続けた。こうして人類は地上に住む人間と地下に住む人間へと2分化されて、それぞれの環境によって新たなコミュニティを形成していった・・・




