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私の友人が死んだ

作者:

その訃報が届いたのは会議中だった。


私の友人が死んだ。


すぐに電話がかかってきた。

「すみません、少し席をはずします。」

「はーい」

電話から聞こえてくる声を聞いたとき、

心のざわつきはピークに達した。

「今時間大丈夫か」

「も、もしもし!大丈夫、久しぶりやな」

「久しぶり、連絡来たか?」

「うん、たちの悪い冗談て言ってくれへん、なあお願い」

「そんなん、俺だって…!!」


ああ、本当に亡くなったしまったのかな。

彼の声はいつも通りだけれど、

私たちの動揺は電話の声を通して

十分すぎるほど伝わった。


そこからは二人して涙が止まらなかった。

いつも笑いながら話をしていたけれど、

この日は二人して泣き続けた。


なぜ、どうして、

事故だって聞いても納得できない。


通夜にいって、亡くなった友人に挨拶をしてきた。

悲しくて胸が痛いなんて生まれて初めてで、

やりきれなかった。




初めて出会った日は部活動の体験入部の日。

何一つ覚えてはいない。

学科もクラスも違うけれど友人になれたのは

同じ部活動に所属したから。



私と友人は仲良しではなかった。

「おい」

「なに?」

「暇やろこれやれ」

「スマホのゲームなんか

やったことないしわからへんよ!」

「これくらい誰だってできる、俺は別のやつやらなあかんから」

は?なんで2台同時にゲームするの。

有能やと思ってたけれど、そこに有能さ

出す必要ある?

はい、ゲームオーバー。

「お前、そんなんもできひんのか」

「なんでそんなこと言われなあかんの」

険悪なムードになっちゃったよ、

悪いことしてないのにさ。

「まあまあ、こいつもやったことないのに

急に渡されてびっくりしたんやろうし

しょうがないやろ」

仲裁してくれる君の存在はでかいよ。

「そうそう!その通り~もっと庇っておくれ」

「けっ」

「感じ悪!」

「まあまあ…」



朝練のある早朝。

下級生は早めに行って準備をしておくのが決まりだった。

「おはよう!」

「…」

「無視かよ!また無視されたでなんで!!」

「こいつはみんなにそんな感じやし気にすんなって、今に始まったことちゃうやろ」

朝にあいさつは当たり前でしょ!

「せやけどさあ、あ、おはよう!」

「俺には今気づいてあいさつかよ、ひどくね」

すいません。

「朝からうるさい」

すいません。



「俺ら集まって遊ぶけどお前も来る?」

出会った頃でこそ気遣って男子と女子の私の間

取り持ってくれてるけどさ。

「呼ばへん方がおかしいくらいに仲良いと思ってたよ私は」

仲良しだろ、呼んでくださいよ!

「そう思ってたのはお前だけ」

友人は鼻で笑った。

「余計なお世話!」

「まあまあまあ、ほら?こういう距離感やから聞いたんやで?」

「行く!一緒に遊ぶ!」

「チッ」

舌打ちするなよ。ちょっとショック。

なーんて思いませんよ、他にも話せる人はいますからね。



一緒に歳を取っていくと思っていた。

「結婚て誰が最初にするかな?」

「…」

嫌そうな顔するのやめよう、ごめんて。

「無口やけど、お前が一番きれいな嫁さんいそうやけどなあ」

「わかる!」

悔しいけどね!!

「…結婚とか知らねえよ」

「これが、イケメンの余裕ですか」

あー、やだやだ。

「フッ、お前は彼氏もできなさそう」

ひどい!!!





「ほんまに死んだん?返事してや」

問いかけはすれど、

顔を見ることはできなかった。

怖かった。

憎まれ口でもいい、舌打ちでもいい、

ただ返事をしてほしかった。

無視するにしろ不貞腐れるにしろ、仲裁してくれる友人もいて、

それなりに楽しかったことに亡くなってから気がついた。



ろくな思い出がない。

それなのに思い出すのは楽しかったというものばかり。

無口でぶっきらぼうなはずのイメージだったのに、

笑っている友人の姿が忘れられない。

鼻で笑う笑顔、

ニヤリって企みのある笑顔、

おかしくて吹き出す笑顔、

みんなでバカやったときの笑顔、

全部思い出せてしまう。



ああ本当に一緒に過ごした時間は楽しかったなあ。

もっと一緒に過ごしたかったなあ。

残された私たちは悲しい気持ちを、

抑えられなくてただただ泣いてしまった。



涙も枯れて月日がたって、

しばらくしても、私は悲しいばかりであった。

亡くなった友人のためにも残りの人生

前向きに胸を張って生きよう!

そう素直に考えることは私にはできなかった。

いつだって思い出すのは、若い友人の姿。

生きていたらと考えられずにはいられない。



結局、悲しい気持ちを忘れることはできなかった。

「会いたい」

「あいつはもういないよ」

「それでも会いたい」

「そんなん俺だって会いたい」

「ぶっきらぼうな態度とられてもいい、会いたい!」

「そうやな、会いたいな」

「会いたい!!」

「俺も会いたい!!」

もしこの会話を友人に聞かれていたら

キモい、の一言でばっさりかもしれないけれど

そんな一言でも私たちは欲しい。

それだけ私にとって友人が大切であることに気がついた。



ぐちゃぐちゃになった心の整理がついて、

友人の死を克服したとしても、

楽しい記憶がある限り、悲しい気持ちが

なくなることは一生ない。





私の友人が死んだ。

私とは仲良しではなかった。


それでも君に会いたいよ。

話したいことも聞きたいこともたくさんある。


今さら素直になっても遅いけど、

君と友人でよかった。

楽しかった記憶がたくさんあるよ。



ありがとう、さようなら。



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