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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

五大陸大動乱戦記

然る剣士の死

作者: ドラキュラ

どうもドラキュラです。


今回は騎士王アルフレットの時代の物語となっております。

 サルバーナ王国歴1279年12月31日。


 その日は冬の真っ只中でサルバーナ王国は白化粧に染まっていた。

  

 王都ヴァエリエと、その郊外も同じで夜という事もあってか人は居ない。


 ただ郊外には足跡が3つほどあった。


 足跡の大きさからして大人の男と見られるが直ぐに雪が降り足跡を消した。


 その足跡を追って行くと郊外の西側に向かっていた。


 ヴァエリエの西側には倉庫があった。


 倉庫はヴァエリエの商人達が自宅兼商店には納まらない物品を収納する為に幾つもある。


 しかし、それなら重種の馬か、荷車の跡があっても良いのに足跡しかないのは実に奇妙だ。


 ただ足跡が然る倉庫の前で止まった所を見ると・・・・人だけで来た理由は分かる。


 その倉庫はヴァエリエに居を構える事を許された直参たる中央貴族が所有する倉庫だった。


 しかも紋章は貴族の最上位に当たる公爵家の紋章だったからヴァエリエに住む者ピンと来るだろう。


 倉庫に仮住まいしているのは長らく誰も居なかった「宮廷剣術指南役」に抜擢されると専らの噂となっている剣士だ。


 この宮廷剣術指南役とは文字通り宮廷で働く臣下達を相手にした剣術指南役だ。


 もっとも出来たのは6代目国王イファグ・フォン・バリサグの実妹のエレーナ辺境伯爵夫人である。


 エレーナ辺境伯爵夫人は王室に上がる際、常に自分が嫁いだ辺境伯爵が選んだ騎士ならびに従者を連れていた。


 それをイファグの臣下は見て宮廷にも必要と説いたのが始まりとされている。


 しかし、この手の職は剣術の腕だけでなく宮廷の作法なども求められるので大半は自前の剣士等で賄っていた。


 その為に長らく誰もなれなかったが、その剣士は宮廷の作法も心得ているので声が掛かったとされている。


 だからこそ公爵家が所有する倉庫に仮住まいしているが、誰もが歓迎している訳ではない。


 筆頭株はアルフレート王の博役にして王室だろうと歯に衣を着せぬ物言いと、時には実力行使をしてでも讒言することで知られるブリュッヘル伯爵家だ。


 このブリュッヘル家は初代国王フォン・ベルトの代から仕えていた直参の一人で、爵位こそ伯爵だが王室からの覚えが良いのか未だに爵位剥奪や宮廷追放などの処罰は受けていない。


 それは王室がブリュッヘル家の讒言が正しいと認めているからだったが今回はどうだろうか?


 現ブリュッヘル伯爵家の当主マクシリアンは宮廷剣術指南役に推挙されている剣士の経歴を一通りは調べたのか、会議においてこう説いた。


 『彼の剣士は余りにも”潔癖”過ぎる』


 ただの一言だが実に的を射た言葉と大将軍および宰相は捉えたらしいが、確かに言いえて妙と言えよう。


 何せ剣士の経歴を調べると試合は全勝だが、それとは別に対戦した相手から何一つ皮肉や報復も受けなかったとされている。


 ここをマクシリアンは疑ったのだがマクシリアン自身が一角の剣客として武者修行をしたからこそ言葉に重みがあったのは間違いない。


 その証拠に宮廷剣術指南役の話はそのまま進めば何事もなく了承されていたが・・・・この言葉で一先ず「保留」と形になったのである。


 この出来事に剣士を推挙した公爵は面子を潰されたので猛然とマクシリアンに抗議したが、その動きもマクシリアンは予想していたのだろう。


 『ならばアルフレート陛下達の前で”御前試合”をして彼の剣士が果たして宮廷剣術指南役の任に相応しいか・・・・白黒つけましょう』


 既に大将軍ならび宰相、そして9家も了承しておりアルフレート陛下も快諾しているとマクシリアン伯爵が言うと公爵は沈黙したと言われている。


 しかし公爵は沈黙したがマクシリアンの方は直ぐに日程を組もうとしたとされているが・・・・ここで問題が起こった。


 それはアルフレート王がヴァエリエを御忍びで散策中に刺客に襲われ、その過程で手傷を負うという事態が発生したからである。


 もっとも幸いな事にアルフレート王自身は軽傷だったらしいが、事態を重く見たのか公爵は御前試合を延期する案を示したらしい。


 それについてはマクシリアン伯爵達も異論がないのか了承したとされるが・・・・その噂は忽ちヴァエリエに広まり民草が騒ぎ出したから話は厄介になった。


 『アルフレート陛下の御側に居るべき28リッターオルデンは遅れて来た。所詮は下賤な山賊や乞食、果ては破戒僧の集団!ならば由緒ある家柄と、高い実力を持った者が1人いれば事は足りる!!』


 このような「嫉妬」交じりの言葉がヴァエリエに広まり剣士の宮廷剣術指南役の話は再び持ち上がった。


 この経緯を考えれば雪が降る中なのに敢えて徒歩で秘密裏に倉庫へ訪れたのも推測できるが・・・・果たしてどうだろうか?


 それを匂わせるように・・・・倉庫の2階からは血の臭いがした。

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 倉庫の2階は「血の海」だった。


 鮮血という鮮血が部屋中を赤く染め上げ、その部屋には事切れた一人の剣士が居た。


 その剣士こそ宮廷剣術指南役に推挙された人物だったが・・・・死人に鞭打つような言い方をしてしまうが・・・・何と滑稽な姿か。


 剣士は尻餅をついて壁に背中を預ける形で事切れている。


 傍らには愛剣であるロングソードが真っ二つにされた形で転がっているが・・・・刀身は鞘に納まっていた。


 そしてロングソードと同じく椅子が転がっている。


 ただし距離が大きくあり、そして剣士の流した血の跡を追うと・・・・一つの仮説が出来上がる。


 剣士は椅子に座り寛ぎながら酒を飲んでいたのはテーブルに置かれた酒と杯を見れば明らかだ。


 そこに3人の刺客は訪れ、恐らくアルフレット王の使者と偽り剣士に近付いて・・・・1人だけが襲ったのだろう。


 先ず初太刀で椅子に座る剣士の額を薙いだ。


 その初太刀で剣士は椅子から転げ落ちたが直ぐに愛剣を取ろうと背中を見せたに違いない。


 証拠として剣士の背中には深々とダガーが突き刺さっていた。


 ダガーを背中に受けながらも剣士は愛剣を掴み反撃を試みたのは飛び散った血の跡が証明している。


 ただし額をやられた為に目が見えず、そして力が出なかったのか尻餅をついた。


 そこへ・・・・刺客は止めの一撃とばかりに額へ二太刀目を振り下ろしたのだ。


 当然、剣士は鞘に納まっていた愛剣で受け止めようとしたが・・・・愛剣ごと真っ二つにされ事切れたのである。


 もっとも確認の為か、心臓にも刺し傷があったとされている。


 ここから察するに刺客は相当な腕前と思われるが、この一連の襲撃を一寸の隙もなくやる辺りは時間も掛けたに違いない。


 そして襲撃を終えると静かに姿を消す辺りは・・・・凄いという他ないが、死んだ相手が相手である。


 公爵は自身が推挙した剣士が無残にも殺された事で犯人逮捕に躍起になったとされているがマクシリアン伯爵はこう言ったとされる。


 『貴殿が推挙した剣士は誠に剣士か?愛剣を自身の傍らから離して酒を飲むなど凡そ剣士としては認められない軽率な行動だ。また背中を見せた上にダガーを投げつけられるのも武人として甚だ不名誉。挙句の果てに剣ごと額を真っ二つにされるなど・・・・実に未熟だ』


 辛辣すぎる台詞にも聞こえるが公爵は何の反論も出来なかったとされている。


 ただ、一連の暗殺事件に民草達は騒ぎ出し真犯人を勝手に探し出したらしい。


 筆頭株はマクシリアン伯爵で、その次が公爵、その次が恨みを持つ剣客とされているが年を跨いだサルバーナ王国歴1280年2月10日にギルドが創設された。


 続く6月8日にはアルフレート王がスクラーヴェなる奴隷身分の娘と婚約するという2つの出来事によって民草達は早々に剣士の死を隅へ追いやったとされている。


 そして2年後のサルバーナ王国歴1282年にはアルフレート王とスクラーヴェ・ド・ブリュッヘル伯爵令嬢が正式に結婚し・・・・剣士の死は完全に民草達の頭から消え去った。


 また剣士を推挙し、犯人逮捕に躍起になっていた公爵も既にやる気を無くしたのか・・・・アルフレート王の結婚を盛大に祝ったとされている。


                                                                                 然る剣士の死 完

切っ掛けは石川雅之氏の「人斬り龍馬」です。


この漫画では世間で評される龍馬を根元から覆す内容になっていますが、私自身も「実際はこんな姿もあったんじゃないか?」と思う方なのでモデルとさせていただきました。

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