第7話 ギルド
「おっさんか...」
「あ? なんか言ったか?」
おっといけない。口から漏れていたようだ。
ギルドに向かう途中、城の方に向かう人だかりが多かったため、城での出来事が公になるにはまだもう少し時間はあると思われる。そうあっても、目立つ行動は限りなく少なく、かつ迅速に街から離れなければならない。
「で、登録か? あー説明ダルいな。やりながら説明すっか。まずは名前からだ兄ちゃん」
「…ハイドだ」
自分の名前を言おうとしたが、追われる身としては痕跡を残したくはないため、冒険者の時は偽名を使うことにした。
「…ハイドっと、…別に偽名でも構わねぇけどな」
「っ!」
ふんぞり返りながらそう呟く無精髭の中年男性に若干の警戒心を露わにする。
「まぁそう睨むなって。お前みたいな黒髪はこっちじゃ珍しいんだ。それに、最近召喚された勇者とやらも珍しい黒髪ときた。こうも偶然が重なるとは思えねぇ。そうなりゃお前さん、勇者関係のもんだろ?」
「…それで、そうだとしたら?」
返答次第ではすぐにでも逃げることを覚悟をして返答を待つ。しかし、以外にも男性の態度は飄々としたままだった。
「べーつに、どうもしねぇさ。勇者共が俺らの仕事をしてくれてこっちは楽ですよーって伝えてぇだけさ。特に…」
男の話しぶりからして、勇者達も冒険者として活動しているようで、その活躍ぶりは良好らしい。が、そんなことはどうでも良くて、すぐにでも活動資金を手にしてこの街から離れたかったため男の話を遮るようにテーブルに強く手を打付ける。
「そんな事はどうでもいい。登録だ」
「あー、はいはい、ごめんなさいね。夜更けの明け方になると冒険者は帰るか酔い潰れるかして暇なのよ、話し相手になってくれりゃあ嬉しかったんだけどね…。へー、へー、そんな睨まなくても仕事はちゃんとするっての」
それから、その男からギルドについての簡単な説明をされる。ギルドと冒険者間の金銭の授受は必ずギルドカードを介して行うことが原則だそうだ。
「ほらよ、完成したぞ。ギルドカードだ。失くすなよ?」
「あぁ、ありがとう」
そう言って渡されたギルドカードなるものはスマホより一回り小さいくらいの大きさで、それには名前とランク付けされたものが表記されていた。
ーーーーーーー
ハイド
ランク【F】
ーーーーーーー
随分と簡素な表記である。なんとも分かりやすい。
手に持ってひっくり返したりしていると、男は鼻で笑われた。
「それ、絶対失くしたりするんじゃねぇぞ?それがありゃギルドのある国には面倒な手続き無く入れる。それにギルドで使える専用の通貨も刻まれる優秀な物なのよ、それにこいつぁ、ほとんどの人が持ってるから偽造もされやすい。再発行にゃ金かかるからな、気ぃ付けな」
「分かった、それで、金はどうやったら稼げる」
丁度いい、と今最も必要な稼ぎ方を尋ねると男は唖然とした後、暫く沈黙してから俺の肩を捕まえた。
「本当に何も知らねぇようなら、俺が教えてやるからよ。ちょっと付き合いな。もう人は来なさそうだしよ」
「はぁ...」
受付人とは案内人のように右も左も分からない人を放ってはおけないのだろうか?
しかし、ここは渡りに船とばかりにその話に乗る。今は金も情報も何もかもが足りない。それに、この男からはデモニアスのように底知れぬ強さが見える事からもついて行く事にした。
「俺の名前はドックって言うんだ。よろしくな、ハイド!」
「…俺は酒は飲めないぞ。教えるなら早く教えてくれ」
「がはは! いいぜ、冒険者ってのを教えてやるよ!」
先程までとは明らかに違う態度の髭の中年男性、ドック。酒を飲んで一気に豹変した、と言うより、元々こちらが素のように思える。
ドカン!と樽を机にしたものに力強く木のジョッキを置いて、再びギルドカードを出して説明を始めた。
「まずはランクからだな。ランクはアキラのギルドカードに書いてあるようにFから始まる。F、E、D、C、B、A、AA、S、SSって感じだ。B以上はすげぇ冒険者達ばっかりだぜ。アキラもまずはそこを目指すんだな! まぁ、何年かかるか分からんけどな!ガッハハハ!」
素でこれならばウザイが、酔っ払ってこれならばよりウザイ。
めぼしい情報が手に入ったらすぐにでもこの場から離れたい。
「そんで、ランクに応じて依頼をこなすんだ。まぁ、その依頼は自分のランクより一つ上のランクの依頼までしか受けれねぇけどよ。しっかりと数をこなせば勝手にギルドカードのランクが変わる筈だから、こまめにチェックするのがいいぜ」
「依頼...?」
「そうだ、依頼、若いヤツらはクエストとも呼ぶな。ほら、あそこを見てみろ。あれが依頼板だ。あそこに毎日次から次へと依頼が貼り出される。それをあそこからちぎって受付に持っていけば受注完了だ」
促された先には、学校の黒板よりもずっと大きな黒板に数多の貼り紙がされていた。目を凝らして見てみると、そこには依頼内容とランク、そして報酬金が書かれているようだ。
貼り紙か...。昔は紙は貴重品だったから羊皮紙とかかと思ったんだが、あれはどっからどう見ても正真正銘の紙だ。この世界じゃ広く普及してんのかね。
「だが気を付けろよ。一度受注したクエストは絶対に成功しなきゃあならねぇ。もし、失敗したら...」
「失敗したら...?」
ドックが躊躇いながら言うのでつい聞き返してしまった。それを嫌味に微笑むと、酒瓶に入った酒を一気に煽ってから口を開いた。
「一万ミリアの罰金だぜ!受けるまでしっかりと実力を考え、受けるならば責任を。これが冒険者の心構えよ。無謀な依頼で死なれても困るし、逆に受けっぱなしでも困るからな、それの対策よ」
「一万...ミリア...?」
「あ? なんだ? ミリア金貨だぞ?」
「あ、あぁ、大変だなそれは...」
恐らくミリアと言うのはこの世界の金の単位なのだろう。危うくまたボロを出す所だった。
「大金だな。まぁ、冒険者なら誰でも通る道よ! …そう言えば、アキラは回復魔法を使えるか?」
「いや、使えないが?」
「そりゃ大変だ。程度の低い怪我なら市販の回復薬とかで治るんだが、骨折なんかは回復魔法が無けりゃ治らねぇ。もしも難しい依頼なんかで怪我した時には、そこの治療院を使いな」
「治療院...?」
ドックが指差したのは受付の隣、受付と酒場に挟まれる形で設置してある緑の十字の看板がかかっている所だ。
「あぁ、だがもちろん無償って理由にゃいかん。ちゃんと怪我の酷さに応じた金額を持ってかれるから気を付けな。だが…、そこで出し惜しみしたらぁ、次こそ死んじまうからな。命あっての物種。死なやすって言葉もあるくらいだ、ケチな性分で死ぬのが嫌ならちゃんと治療くらいはしてもらわねぇとな」
なるほど、この世界は回復魔法が珍しいのか。しかし回復魔法か...。回復薬もあるらしいから今度金が貯まったら買っておこう。
「あぁ、冒険者はDランク以上だと極稀に王様から招集される事があるからな。それを無視すると冒険者と言う肩書きを剥奪されるから気を付けな。まぁ、行かない奴はいないからな。だってAAとかS、SSランクの奴らを拝めるんだぜ? 一度は見てみてぇもんだぜ」
…その話に、少しばかり空気がピリつく。しかしドックはそんなこと気にしていないように酒をさらに煽る。
「それで、他は?」
こっちの様子を気にもとめないドックは酒のお代わりを注文して、酒が来てから話し始めた。
「依頼で魔物を倒してくれ〜、みたいな依頼があるのさ、そんでそれらを討伐するとな、魔核とか、魔晶石とかを落とすんだ。まぁ、大体の奴らは魔核だな。魔晶石なんて超高難易度の魔物からしか落ちねぇからよ」
「魔核か」
トントン、と胸の中心を叩きながら「ここにある」と返事するドック。それは、魔物の心臓となるものなのだろう。
「そうだ。その魔核や、その他の素材とかは、受付の隣、素材買取受付で売れるぜ。あそこは元冒険者の奴がやってるから、確かな値段で売れるんだ。夜間に来ると、今みたいに空いてっから俺も見てやれるけどな」
「ドックがか?」
「バカにすんなよ!? 俺だって元冒険者だわ」
と、その時、向こうで飲んでいたと思わしき女性がこちらに近付いてきた。魔法使いのような格好をしているな。
見ると一緒に飲んでいた人達は全員酔い潰れたのか、机に突っ伏している。
「あら、ドック? また新人さんいびり?」
「バーロー、いびり言うな。本当にド田舎モンだから色々と教えてやってたんだよ。お前こそ昼間から今まで飲んでてまだ飲むのかよ」
「レディに失礼ねぇ。…坊や? 新人の頃は大変よ。頑張りなさいね」
そう言ってウィンクする女性はアルコールのせいで千鳥足で、顔も真っ赤で見てるこっちが心配になる様子だった。
「紹介するぜ、こいつはアリーザ。Cランクのウィザードっつぅ高位の魔法使いだ」
「よろしくぅ、坊や」
「で、あっちで酔い潰れてる連中が、アリーザ率いるチーム【紅蓮の悪魔】と名高い魔法使いの皆様だぜ。全員Cランクだ。すげぇ魔法を使う奴らなんだぜ?」
魔法使いとウィザード、恐らくこれも例のオーブに触れて分かる能力の事なのだろうか。
「ドック、魔法使いとウィザードは違うのか?」
「あぁ、少しばかり違う。ウィザードは単体魔法を得意としていて、魔法使いは広範囲魔法を得意としているんだ。得意って言っても、基本的には得意なそれ以外ダメダメな事が多いからな。ウィザードは基本的に一つの属性に絞られるが、魔法使いは逆に多属性を扱えることが多いな。だが、ウィザードの一点突破の極地に至った魔法はすげぇ強いぜ」
なるほど。魔法、魔法か...。
なるべくならば思い出したくはないものだが…。
「【紅蓮の悪魔】ってかっこよくないわよね。悪魔悪魔呼ばれて結構傷付くのよね~。はぁ...」
【紅蓮の悪魔】の異名からして、恐らくリーダーのアリーザの能力から付けられた異名だろう。紅蓮なら、火、炎の魔法だろうか。ならば、他の魔法もあるはずだ。
「魔法ってのは、他にどんなのがあるんだ?」
そう聞くと、アリーザはドックに目配せをして、ドックは大袈裟に肩を竦めた。するとアリーザは目の前の椅子に座ると、今まで真っ赤だった顔が素面の通常の顔に戻っていた。どうやら教えてくれるようだ。
「魔法って言うのは、魔法陣を媒介にして己の魔力を変化させて放つもの...って言えば分かるかしら?」
「魔法陣を媒介...。なるほど、使う魔法陣が変われば魔法も変わると言うのか」
「そうよ。主に魔法陣の種類は八つ。火、水、風、地、雷、光、闇、そして封印」
「封印...?」
封印とは属性なのか? 他の七つは定番と言っちゃ定番だな。
「封印とは文字通り封印するのよ。まぁ、これは特殊な例だからあまり使われないわね。だから基本は七つよ。でも、そこから属性はどんどん派生していくの」
「その種類は?」
「無限、かしらね?」
「無限?」
「そうだ、無限なんだ」
俺の疑問にはドックが答えてくれた。
「さっき言った八つの種類の魔法陣に、流す魔力の質や量を変えると更に多様化するんだ。例えば、火の魔法陣に強く魔力を流すと火炎に、更に強く流すと焔、と言った形にな。強く流すだけじゃねぇぞ。弱く、質のいい魔力を流すと綺麗な火になったりな。まだ見つかってない属性だってあるかもしれねぇんだ。だから、魔法には無限の可能性があるって訳だ」
なるほど。とても分かりやすい説明だ。
魔法陣は八つ、それに流す魔力によって更に変わる...という事か。魔法を使う相手ならば、使う魔法陣から出てくる魔法を予測することは難しいが出来なくはない、ということになるな。
「無限ってのにもう一つ、魔法には級ってのがある」
「級?」
「下から、茶級、緑級、赤級、青級、黒級、金級の六つだな。金級の魔法はすっげぇぞ。地形すらも変えちまうからな!」
地形は変えちゃダメだろ。
たしかにすごいと思うが使い所無さそうだな。
「どう違うんだ? 無限の可能性がどうたら、と」
「まぁ、これはいわば、目安みたいなものだな。そこまで意味はねぇよ。外から見た威力や魔力の精密さを評価するだけのもんさ。簡単に言えば...、すんげぇ魔力を魔法陣か詠唱に込めれば、すんげぇ魔法が出るって覚えとけばいいな」
すごい適当だけれどそれで納得が行くな。
俺も単純という事か? それは何か嫌だな。
こうも魔法がありふれていると、入った時から気になっていた、
「あのシャンデリアが光っているのも、魔法か?」
本来は真っ暗か、蝋燭などの小さな灯りの筈のギルド内を耿々と照らす光源。シャンデリア。あれも魔法で光っているのならば納得出来る。
「あぁ、あれは魔法、と言うか、魔法道具ね。あそこに設置してある魔力タンクに魔力を貯める事で、シャンデリアに付けられた光属性の魔法陣で、常に魔法を発動させているだけなの。便利でしょ?」
なるほど。そう言う使い方もあるんだな。
「道具に魔法を付与した魔法道具、無限の属性を秘めた魔法…、そしてもう一個、特殊魔法と呼ばれるものがあるわ」
「特殊魔法? 他の魔法と違うのか?」
「そうね、全然違うとも言えば同じとも言えるわ」
もったいぶる様子のアリーザにドックが先を促す。
「教えてやれよアリーザ。…いいか、特殊魔法ってのは八つの属性魔法とは違って、基本的に魔法陣を使わない魔法なんだ。いや、正確には使えないんだな」
「そうね。魔法陣の代わりに詠唱をしなければならないの。まぁ、八つの属性魔法も詠唱で発動する事が出来るんだけど、微調整するには魔法陣の方が圧倒的に簡単なのよね~。詠唱は隙が大きくなるのが厄介ね。詠唱も魔法陣も使える属性魔法か、詠唱を使わなければならない特殊魔法って感じね」
魔法はやはり覚える事が多いな...。最早一つの学問に近い。
まぁ、今覚えても使う事が出来ないのは苦しいな。いつか来るその日のためだと思おう。
「特殊魔法は相手に負の効果を与えたり、味方を鼓舞したり出来る魔法が多い代わりに、詠唱が物凄く長いと言う使いづらさから、使える人間はそうそういないと思っていていいぞ」
「このウィザードの私でも、特殊魔法の初級クラスの魔法が限界ね。でもまぁ、クソジジイなら中級くらいまでならいけるんじゃないかな」
「クソジジイ?」
急にアリーザの誰かに対する言い方が変わって少々驚いたが、しっかりと聞かねばならない。
この二人は大事な情報源だからな。
「そうよ、私のお師匠様。この国で最強の魔法使いなの。ま、クソジジイなんだけどさ。お城仕えしてるけど最近はヘマやらかして遠方の魔物狩りに連れ出されて不機嫌みたいよ」
「そうだったのか。最近見なかったから心配してたんだぜ? 遂に死にやがったのかとな! ガッハハハ!」
ドックとアリーザは二人して馬鹿笑いしている。
「くくくっ…、ちなみに、さっき言った回復魔法も特殊魔法の一つだ。後は…」
「空間に関与する魔法とか、時を支配する魔法とか、でしょ?そんなもん眉唾物よ。現にあのクソジジイも使えないでしょうが」
「ま、夢は見るだけ無駄、ってな」
空間魔法や時魔法の事か? 存在はしていない?
だが実際に俺は時空間を超えて召喚された。つまり向こうの世界から引っ張れるならば向こうに戻るための魔法もあるはずだ。
だがそれも、奴らに復讐してからだ。
そろそろ夜が終わる頃だろう。これ以上の長居は危険と判断して立ち上がる。
「おっ、行くのか。話し相手になってもらって悪かったな!」
「そうね。またね新人さん。今度はお酒飲みましょ」
「どうせなら簡単なおつかい程度の依頼受けて行くといいさ」
なるほどな。効率的にもそっちの方が早いか。まずは手頃なものからだな。俺自身の戦闘能力も試したいから簡単な魔物討伐でもやるか。
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小人鬼の討伐
《達成方法》
ウィングリアの森に群れでいるゴブリンを十匹以上討伐する事、又は群れの長、人鬼を討伐する事。
《報酬金》
20000 ミリア
(+15000)
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ゴブリンか...。異世界の定番と言ったところだな。ちょうどいい、こいつを狩るか。
「これにしよう」
依頼板に貼ってある紙をちぎってドックに渡す。
「おっ、ゴブリンね、初心者にゃ儲けもんの依頼よな。でも、油断してたら簡単に死ぬからな。ウィングリアの森はこの街から出て右に行けばあるぜ。精々死なないように気を付けろよ」
そう言ってドックはポケットから取り出した判子で印を押した直後、紙が俺のギルドカードに吸い込まれるようにして消えた。
「あぁ、裏面を見てみろ。そこに受注中の依頼が表示されるからな。忘れたらそれを見ればいいんだ。便利だろ?」
と言うので裏を見てみると、先程の依頼書と同じ内容が書かれていた。
なるほど。これは便利だ。
「それと、これを持ってきな」
「これは...?」
そう言ってドックが小さな皮袋を渡してくる。
「そこに、ゴブリンの魔核か尖った耳をちぎって詰めん込んで来な。そんで、夜になったら俺の所へ戻って来い。買い取ってやるからよ」
なるほど、確かに俺は手ぶらで魔核の事など考えていなかった。
無償で与えられるものほど後が怖いものは無い。断ることも考えたが、これが無ければ依頼の証明にもならず金も稼げない。
…黙って受け取ることにした。
「助かる」
「あ、病気には気を付けるんだぞ? 回復魔法じゃ治せねぇからな。後は部位欠損も治せねぇから気を付けろ」
「忠告どうも。じゃあな」
無愛想ながらもしっかりと挨拶をしてから俺はギルドを後にする。
ギルドから外へ向かって歩く途中、薬屋と言う店を見つけた。恐らく病気になったらあそこで薬を買って病気を治すのだろう。魔法も万能って訳じゃ無いんだな。
そして俺は朝日が昇り街が目覚める頃には、街の外を目指して歩いていた。
「あ、ウィングリアの森にはBランクの人喰い熊が居るのを言うの忘れてたわ。まぁ、そんなに上手く遭遇する訳ねぇか。な! がはは!」
「ドック、それはフラグって言うんだよ? 馬鹿だねぇアンタもさぁ。新人を早速潰す気?」
「ハイド…はそんなんで潰れねぇだろうよ。俺の目はまだ腐ってねぇはずだ。また夜にでも戻ってくるだろうよ?」
「そうだったね...、"前"ギルドマスターさん? それとも、剣神ドックさんと呼んだ方がいいかしら?」
「…お前も薄々気付いてるんだろ? Cランクなんて嘘吐きやがってよ。で、アキラからは何が見えた?」
「まぁね。女は嘘つきなものよ。それで、アキラ君に見えたのは、革命と奇跡、そして...復讐よ」
「なるほどねぇ...。っと、アイツと戦う時はしっかりと逃がしてやれよ?」
「当たり前じゃない。それじゃ、私も行ってくるわね」
夜も明け、朝の日差しがギルドに入ってくると同時に、ギルドを照らしていたシャンデリアの光も消える。夜間限定なのだ。
それと同じくしてギルドの扉を大きく開いて入ってくる者達がいた。
「城の奴らか...。なるほどなるほど」
「昨夜! 最上級牢獄から一匹の魔族が脱獄した! それは一人の勇者によって倒された! しかし、もう一人、魔族が脱獄している! それがこいつだ!」
大きな声に呻き声を上げながら起き上がり出す冒険者達はさながらゾンビだろう。それでも金の匂いを嗅ぎつける嗅覚は冒険者の右に出る者はいない。すぐに兵士たちにワラワラと集まり出す。
先頭の兵士が翳しているのは一枚の人相書き。黒髪黒目で手には封印石の手枷。そして名前が...、
「アキラ・タカセだ! こいつを捕まえた者にはもれなく報酬金が出るだろう! その額凡そ500万ミリアだ! そしてその他にも冒険者ランクの底上げもされるぞ! 大いに励めよ!」
その人相書きをクエスト板のど真ん中に貼り付けると、兵士達は去っていった。
「はぁ~、ハイド…いや、アキラよ、お前さんはとんでもねぇ奴だったみたいだ! ガッハハハ!」
ドックはこれから起きるであろう退屈しない日常に、そして不思議な少年アキラに不敵な笑みを浮かべて、一人乾杯をしたのであった。