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勇者召喚で喚ばれたのに自分だけ何故か魔王でした。  作者: クリオネ
日常から非日常へ
3/32

第2話 人殺し

 

 魔王。

 黒い何かが流れてきた時俺は俺の中にある特殊能力のようなものが何か分かった。誰に聞くこともなくそれが能力であることを知った。

 能力の名前は『破壊』。使い方も何も分からないが、名前は分かった。そして俺が勇者ではなく、魔王であることをあの黒いものは知らせようとしたのか、どうなのかは分からない。


 ないない、分からない尽くしでもどかしいが、俺が勇者と対をなす『魔王』であることの確信は持てた。


 だが、何故勇者ではなく魔王なのか、すぐに手を離してしまったからかそれ以上は何も分からない。


「......」


 皆が勇者である事を自覚し、更に上機嫌であるのに、俺だけは何とも言えない表情になる。


 そうだよな。もしかしたら魔王なんてそこら辺にいるような存在なんだろう。恐らく、きっと、多分。


 冷や汗が溢れて止まらない。


(アキラ)......? どうしたの?」


 俺の異変を察知したのか、(アカリ)が顔を覗いてくる。その(アカリ)の表情もどこか浮かれているような表情だった。多分、勇者だったのだろう。

 慌てて汗を拭って、朗らかな笑みを携えながら答える。恐らく引き攣っているだろうが。


「い、いや......なんでも、ない......」

「そう。ならいいけど。それにしても勇者だし、特殊能力なんて凄いわよね!」


 俺は今そんな事を考えている暇は無い。他のヤツらの表情を見る限り、落ち込んでいるようなのは俺だけだ。恐らく全員勇者なのだろう。


「ふむ、全員自覚出来たようだな。続いて特殊能力や魔法についての能力だが......我が精鋭、ルイーノ!」

「はっ!」


 王様が先程俺を立ち止まらせた兵士を呼ぶ。


「能力とは、その者に見合った能力が表示される筈です。例えば、私の場合......」


 ルイーノと呼ばれた軽装鎧を身にまとった壮年の体格の良い男が王に呼ばれてそばに寄る。やつは確か扉の前で俺を疑ったやつだ。精鋭と呼ばれるのは納得が行く。


「俺の能力は剣士、と呼ばれるもので――」


 そう言って、長々と生い立ちやらあまり関係の無い話を続け、ようやく頼まれた本題に入る。あの姫様も苦笑いしている事からこいつはいつも話が長いのだろうな。

 笑う姫様も綺麗だ。


「――このように、俺は王直属の近衛騎士団団長として剣士である。剣技に特化したスタイルだ。これがあるのと無いのとでは実力に大きな差が出る。次に、魔法だ。これは自分と相性の良い魔法を覚える事によって魔法が使えるようになる。俺と相性の良い魔法は、この通り。強化魔法だ。強化魔法は適正のない者でも使えるが適正があると通常の三倍、四倍と威力は増す」


 そう言うとルイーノは腰に刺さった剣を抜き、剣に光を纏わせる。


「綺麗......!」


 誰かがそう呟く。


「これで普通の剣よりも硬く、斬れ味も鋭い剣になる。更には肉体の強化も出来る。これを合わせる事により激しい戦闘も可能にする事が出来る」

「あの! 俺は火・光魔法と言うものを使えると聞いたのですが、これは...?」

「ほう、確かお主は…ユウキ・イチノセだったな?それは真か?」


 ルイーノの長い話をさえぎって一ノ瀬が質問をすると、王がオーブを持った老人に目で尋ねる。老人は跪いて「真でございます」と言った。


「魔法は基本、一人につき一つの属性が宿るものだが、お主はは二つも使えるようだ。鍛えれば一騎当千の力を得ることが出来るぞ」


 そう褒められた一ノ瀬は更にやる気に満ち、目を輝かせている。その後も能力について色々と語られたが、俺の能力『破壊』に関しての情報はなかった。






「次はこの世界の情勢について話をしよう」


 そう言うと先程までの喧騒は打って変わって俺達は静かになる。王様の放つ空気が変わったからだ。


「今、我々人間族は、魔族達からの攻撃に対して一方的な防戦を強いられている。魔族というのは、北側にいる我々人間族を強く敵対視している危険な者達の事だ。彼は我々人間族よりも長く生き、遥かに強い魔力を持つ。更には人間族に化け、市井に紛れ人を操る事もする外道な奴らよ。そして此度の神のお告げ、最高神『テテュス』様がこう仰ったのだ」


 テテュス様、テテュス神とは、ウィングラット王国が信仰する宗教の神だそうだ。俺達が連れてこられた大元の原因とも言える。俺に至ってはなんなんだ魔王って。

 そして、そのテテュス神のお告げと言うのが、


 ――魔王現れん勇者現れ彼の者を滅ぼさん


 だそうだ。勇者召喚のせいで魔王が現れた、と言うのは考えられないのだろうか? 実際に起こっているのだが...。ということは俺はイレギュラーなのか?そのせいか、何故かここにいるクラスメイト達の中で一人、浮いている気がする。


「魔王。過去にも何度も現れては人間族を窮地に陥れ続けた邪悪な存在よ。魔王は、人を欺き、女子供を容赦なく殺し、犯し、そして果てには人を使い魔族化させようなどという極悪非道なる所業を行う。更には......」


 そこからは王様は魔王や、魔族の酷い行いをつらつらと綴り続けた。それは日が暮れる程まで続いたのだから、俺達には魔王と魔族に対する圧倒的なまでの『悪』を刷り込まれた。


 俺は、ただひたすらに俯いて黙っていた。


「......ふむ、日も暮れてきた。今日はもう休まれよ。明日、勇者達の実力を見せてもらうことにしよう」





 俺達はその晩、お城の部屋を一人一部屋ずつ貸し出され、休息を促された。

 そして俺は何故か(アカリ)の元へ来た。


「で? こんな夜遅くになに?」

「ごめん......少し、聞きたい事があって、さ」

「聞きたい事?」

(アカリ)は、今日の王様の話を聞いてどう思った?」

「どうって、どう言う事?」

「いや、その、魔族とか......魔王、とかさ」


 どこか煮え切らない態度の俺を、(アカリ)は訝しげに見た後、はっきりと答えた。


「そうね、酷い相手だと思うわ。でも、私達が倒さなきゃいけない相手なんだから、容赦ははしないつもり」

「っ...、倒すって、やっぱり殺すのか?」

「うーん、それで、この世界の人達が救われるなら…」


 やはり、魔王とは、殺されるのだろうか? 俺が魔王だと知ったら、王様やルイーノ、王女様にクラスのヤツら、(アカリ)や......小川さんも、俺を殺しに来るのだろうか?

 汗が、溢れて止まらない。あの時の黒い何かは気のせいだと、そうだと言って欲しい。呼吸が荒くなるのを必死で堪える。


「どうしたの? (アキラ)も、そう思ったんじゃないの?」

「い、いや...あ、あぁ、うん、そうだよ。酷いヤツらだよなぁ、アハハ...」

「?」


 適当に誤魔化す事にしよう。俺は、死にたくなんか無い。殺されたくなんかないから。


「ごめんな。夜遅くに。また、明日な」

「......うん」


 (アカリ)は物凄く勘のいいやつだ。気も遣えるし優しいし、とにかく良い奴なんだ。

 俺はこれ以上は俺の問題だし、夜も遅いので自室に戻ろうとしたら、


(アキラ)! アンタも勇者なんだから、胸張んなよ!」

「お、おう! 当たり前だろ」


 そう言って俺の背中を勢い良く叩いてくる。少し痛かった。

 俺は、勇者...か。そうだな。きっと何かの間違いなんだと思う。俺はそう思う事にして自室に戻るなりすぐに夢の中へ旅立った。









 アキラがアカリの部屋から出る時、小川冴は丁度その瞬間を見てしまった。


「高瀬...君...?」


 トイレに行って部屋に戻る時に見てしまったのだ。冴と付き合っているはずの彼が、別の女の部屋から出ていくのを。


 芽衣の言う通り、冴は今まで何人もの男と付き合ってきた。

 だが、高瀬明のことは本当に心の底から初めて好きだと思えた。ずっと隠していた趣味を一切気持ち悪がらずに共有もしてくれた。


 本当に、好きだったのに...。ただでさえ、自分とは違う女と、幼馴染と、私では無い人と親しげに話すのをずっとずっと我慢してきたと言うのに。


 心の中で、何か大事なものが音を立てて崩れていくのを感じた。


 裏切られた。そう感じた冴は制服のスカートをギュッと握りしめて、顔を歪ませていた。


 その晩は皆が様々な考えを持ち、夜は更けていく。










 翌日。


「皆、おはよう。今日から俺、ルイーノが勇者諸君らの指導係として携わる事になった。これからよろしくな」


 昨晩はよく寝れた。リラックス出来たとも言えないが、俺は魔王なんかじゃない。勇者なんだと思い込む事が効果あったのだろうか、しっかりと眠れた。

 それでも、まだ胸のどこかにあの流れ込んできたものが残っているのがわかる。それのせいで、否が応でも魔王であることを意識させられてしまう。


 沈む気分を変えようと、小川さんに挨拶をしたら、素っ気ない感じで返されてしまった。何か悪い事でもしただろうか。


「まずは全員、俺に特殊能力とその実力を見せてくれ。それを元に、戦い方を教える事にする!」


 どうやら戦闘を一からレクチャーしてくれるみたいだ。ルイーノは時々こちらに視線をやるが、特にこれといった反応は無い。


 もちろん、王様や王女様も後ろで見ている。昨日はいなかったお妃様のような人も王様の隣に佇んでいる。今日は簡単な訓練と個人の伸び代を確認した後、歓迎の宴を開くそうだ。この世界の食事が少し楽しみである。


 軽く説明を受けた後、魔法の発動の仕方なども教わった。


「じゃあ、俺から行くぞ!」


 早速始まってしまったようだ。一番手はもちろん、波に乗りまくっている一ノ瀬だ。一ノ瀬は教えて貰ったばかりの魔法の詠唱を始める。


「火よ、人の象徴たる火よ、我に応えよ。そして、敵を燃やせ! ファイアーボール!」


 ルイーノ曰く、これは火魔法の初級の魔法だそうだ。イメージを掴みやすい詠唱と発動に必要な呪文。それらを唱えると一ノ瀬の手の平から拳大の火球が出現する。


 一ノ瀬はそれを的として置かれた人形に投げつける。すると人形は瞬く間に燃え盛った。


「うおっ、すげぇ......」


 一ノ瀬自身も驚いているようで、感嘆の声を漏らしている。

 ルイーノや後ろにいる王達が拍手を送る。


「素晴らしいぞ、勇気! 魔法初日でここまで精巧なファイアーボールを出せるとはな。他の者も今と同じように得意な魔法や能力を使って人形を倒せばいい! 次だ!」


 それから、次々と人形を倒していくクラスメイト達。小川さんは水の矢を放ち人形を貫いていた。(アカリ)は自慢の剣道を使い袈裟斬りのように斜めに人形を切り裂いた。鉄の鎧を付けた人形を簡単に切り裂いていたので本人でも驚いていた。


 そして、俺の番が回ってきた。


「破壊、破壊ってどうやるんだ......」


 特異能力(ユニークスキル)の破壊。俺は使い方など知らないので、目を閉じてただひたすらにイメージをする。


「破壊、破壊、破壊......」


 しかし、何も発動しない。体の中で何かがグルグルと回っている感じがする。


「どうしたー、高瀬ー!」

「お腹でも痛いのかー!」

「ビビってんじゃねぇの?」


 など、周りから野次が飛び、笑われているのが分かる。しかし、実際に俺は何も出来ていないので反論しようにも何も出来ないのだ。


 と、そこへ痺れを切らしたのか、後ろで見ているだけだったルイーノの片割れ、タリス...だったかな。そんな人が近付いてきた。


「今言ったことを忘れたのか?まずは力を抜け、それじゃあただ立っているだけ――」


 直後、何か肌がピリッとする感じがした。確かこの感覚は、皆が魔法や能力を使う際に感じるものだ。俺は変わらず体の中で何かがぐるぐる回っているままだ。


 ん? 話が途中で途切れた? それに、なんか水の跳ねる音がする。


 ゆっくりと目を開け振り返ると......


 そこには俺の肩に手を置いて首から上の無くなったタリスがいた。無くなった首から血飛沫が飛んでおり、俺の顔にも大量の血がかかっている。


「「キャーーーーッ!!」」


「タリス! タリス!」

「貴様っ、何をしたっ!」


「え...?」


 周囲が驚き、慌てふためいている。

 俺には何が起こったのか全くわからない。頭が追い付かないのだ。周りの皆は突然の出来事で顔を真っ青にしている。きっと俺も同じ顔をしているだろう。


「な、何が...」

「しらばっくれるのもいい加減にしろ! 貴様をここで始末する! タリスの仇!」

「よさんかルイーノ! まずはその者を捕らえよ! 殺してはならん!!」

「くっ…しかし、王よ!」

「その者の能力を確認しろ!もう一度オーブを持ってこい!」


 俺は即座にルイーノに組み伏せられ、持ってこられたオーブに無理やり手を置かされる。


 そしてクラスメイト達は目の前で起こった惨劇に恐怖する者、何が起こったのか分からない者、そして、俺を敵視するように睨む者...。


「なんで…」「高瀬が、殺ったのか…?」「く、くびが…」「酷い…!」「ぅ、おえぇ…!」


 俺が...俺が殺したのか...? これが、破壊...?


「なっ...貴様っ...!?」


 手を当てたオーブが今度はドス黒い色を示して中で渦巻くように表される。


「この、深き漆黒の渦は…!」

「なんなのだ!早く申せ!」


 オーブを持った老人が異常なまでの汗を流して王の問に応えようとした時、オーブにヒビが入り始める。


「その前に手を離せルイーノよ!このままでは、庭が…、城が無くなるぞっ…!」

「くっ…!?」


 無数のヒビが入り始めた瞬間、ルイーノが無理やりオーブを蹴飛ばして距離をとる。


「して、こやつの能力は…?」

「テテュス様からのお告げで聞いた魔王の特徴として黒の渦と言う言葉がありまして…もしやと…勘違いかもしれませぬが…」

「という事はこやつは魔王だと!?」


「魔王!?」「そんな馬鹿な!?」「こんな子どもが!?」「ひっ、ひぃぃ…!!」「王を守れっ!!」「こ、殺せ!殺せ!」


 王の言葉に周りにいた人々が動揺する。まだ可能性の話だったにせよ、広まった噂は止まらない。既に俺を魔王だと信じて疑わない人が溢れている。もうこれは一気に収拾がつかないところまでいってしまっている。


 さらには、王様達は俺が魔王である事に衝撃を受けて、ユリーナ王女に本当に俺が召喚陣から出てきたのか確認をしている。


 クラスメイト達にも聞いているようだ。


「彼奴は、本当にお主達の仲間なのか?」

「は、はい...」

「いや、違ぇだろ! あんな奴、魔王なんだろ!?」

「そ、そうだよ! 仲間なんかじゃないでしょ!」

「何言ってんの皆!?」

「お前こそ何言ってんだよ。目の前でアイツがタリスさんを殺したの見ただろっ!?」

「で、でも...」


 (アカリ)と瑠璃だけがなんとか反論しているが、それ以外の者は皆俺を完全に敵として認めているようだ。小川さんまでも...。

 動かぬ証拠としてタリスの死体が血の海に沈んでいる。現場を見た以上、俺がやったとしか思えない。


 しかし、それでも――


「ち、違う! 俺はやってない! 信じてくれよ!!」


 喉が張り裂けんばかりに声を張り上げて無罪を主張するも、返ってきたのは冷めた視線ばかり。


「っ......!!」


 先程まで反論していた筈の(アカリ)や瑠璃も、黙って俯いていた。

 小川さんを含む他のクラスメイト達は既に俺を敵として見ている。


 もうこの場に、これ以上俺の無罪を信じるやつはいない。


 違う...俺は、何もしていないのに...。


「だから違うんだ! 俺はっ」


 俺はそれ以上口を開くことは出来なかった。ルイーノが俺の顔を地面に叩き伏せたからだ。


「ぅぐっ!」

「黙れ外道が!! 俺は、俺は今すぐにでもお前を殺したい...だが、正式な処罰を受けろ...」


 ルイーノが唇を噛み切り血を流す。ルイーノとタリスは仲が良かったのだろうか。しかし、俺は未だに現実を受け入れられない。


「アイツを殺せば、魔王を殺したって事になるんでしょ?」

「そうだな、殺そうぜ。昨日王様が言ってたけど、魔王って最低最悪な野郎なんだろ?」

「そう、そうだよ。王様だって言ってたし、あんなの...」

「早く、日本に帰らねぇと行けねぇんだよ...殺すしかねぇだろ...」


 沢田に一ノ瀬、小川さんに増田が俺を殺そうと武器を構えたり魔法の詠唱を始めたりしている。


「ちょ、ちょっと待ちなよ! (アキラ)は、魔王なんかじゃないでしょ!? クラスメイトでしょ?」

「そ、そうです! もしかしたら何かの間違いかも、知れませんし…!」


 そいつらを止めるように(アカリ)と瑠璃が立ちはだかる。しかし、二人は完全に俺の味方と言う訳でも無さそうだ。少なくとも俺を怪しんでいるのは確かだ。


「アカリ! ルリ! 邪魔をするな! 勇者達ならばこいつを殺してもいい筈だ!」


 ルイーノが俺を勇者達に突き付けるようにしてそう叫ぶ。

 なんだろう。ルイーノから感じる何かが、笑っている気がする。こう、悲しむフリをしているような、不自然な感じがする――


 直後、怒号がこの場に響き渡った。


「静まれぃ!!」


 王による能力だろうか? 体の身動きが取れなくなる。


「その者、アキラ・タカセを、最上級牢獄へ。そして、魔王を捕らえたことを魔族側に報せよ」

「なっ、王よ!? 今すぐ殺さぬのですか!?」


 最上級牢獄は、確か城の外苑部にあるらしい処刑を待つ者が入れられる牢屋だ。つまり、俺の処刑は決定事項のようだ。


 王がクラスメイトに説明しているのが聞こえた。


「落ち着けルイーノ。この魔王を利用して、人と魔族との戦争に終止符を打つのだ。そして次は…獣人達を狙う」

「し、しかし...」

「安心しろ。処刑はルイーノ。お前にやらせる」

「っ、畏まりました...」


 俺は半ば上の空でこの状況を過ごしていた。上の空ながらも話は聞こえていた。どうやら俺は利用された後に殺されるようだ。


「そいつを連れて行け。封印石の手枷を付けてな」

「はっ...!ふん、良かったなクソ魔王が。精々残り少ない余生を牢獄内で過ごすがいい」


 ルイーノは王様から渡された手錠を俺に付けながらそう言った。

 俺は、人を殺した...? そして、それを償うのは死を持ってして...死ぬ? 俺が? なぜ…。


「......」


 俺は、クラスメイト達の方を向く。そこには、正に敵を睨め殺さんような形相の者が何人もいた。


 俺は連行されながらその睨みを受け続けた。罪とは、ここまで重いのだろうか...?俺が、本当に俺がタリスを殺したのだろうか? 周囲からの責める視線が体に突き刺さる。何もしていないはずなのに、俺が悪いような気までしてきた。


「アキラ! アキラ!」


 他の兵士に動きを止められながらも、俺の名前を連呼して今にも飛びかかりそうな勢いで拘束を振りほどこうとする(アカリ)の姿が見えた。


「なんで、どうしてよ!? 違うんでしょ!? ねぇ、何か言ってよ!」


 (アカリ)は泣きながら、先ほどのぎこちないルイーノとは桁違いのように悲しみ、怒り、叫ぶ。


「なん、で...何も言わないのよ......」


 俺の姿が見えなくなるまで叫んでいた(アカリ)。俺の姿が見えなくなると、(アカリ)の嗚咽の混じった声だけが聞こえた。俺は振り向けなかった。俺は...。


 と、俺を連行しているルイーノを気付かれないように見ると、口元が歪んでいるのが見えた。すぐに悔しそうな表情に戻したようだが、俺には見えた。

 ルイーノが笑っているのが...。












「入れ。食事だけは持ってきてやる」


 案内された牢屋、それは一度だけ日本で見に行った事のある牢屋と殆ど同じだった。窓はなく、鉄...よりも硬い何かで出来ている格子。そしてトイレが付いているだけ。


 ルイーノは俺を牢屋に入れて、封印石の手枷をそのまま壁の金具に括りつけて上手く動けないように固定するとすぐに帰っていった。


「くそっ...本当に、俺が殺ったのか...?」


 一人になると、冷静になり状況整理を行えた。


「破壊、破壊ってなんだよ...!?人をあんなにも簡単に殺せるものか!? でも、目をつぶっててよく分からなかったけど、あの時感じたのは魔法のような...それと言っても違うような...」


 確かに、俺が破壊をイメージしていたのは事実だ。しかし、それで本当に破壊を発動出来たのかは分からない。だが、アカリが特殊能力の剣術で人形を切った時は魔法の感覚はしなかった。ピリッとするのは魔法が使われた時だけだ。『破壊』は能力じゃなくて魔法なんだろうか? 俺は何も分からないんだな...自分の能力なのに...。

 独り言のように呟いていると、向こう側の牢屋から声が聞こえた。


「――い、おい、おい兄ちゃん! 新入りだな?」

「なっ、え、はい......」

「くくく、兄ちゃんの独り言、よく聞こえてるぜ」

「うるさくしたなら、ごめんなさい…」


 つい考え込んでしまったが、独り言がうるさかったようだ。それに、今は考えても理由が分からない。それよりも今は、少しでも休みたかった。


「いいや、うるさくなんかねぇよ。兄ちゃんの様子じゃあ、何か訳アリみたいだな。まぁ、こんな所に入れられるのは皆訳アリなんだがな」

「はぁ...」

「かく言う俺も、訳アリだ! ぐはははは!」


 暗くて姿が見えないが、豪快に笑う人だ。


「でよ、良ければ話を聞かせてくれねぇか? 俺は長い事ここにいるもんで、暇なんだよな」

「いいですけど...面白くなんてないですよ?」


 何故だか、話したくなってしまった。話したら、救われるなんて思っちゃいないけど、話すことで少しは状況を整理できるかもしれないと思ったからだ。

 それに、既に牢屋に入っているんだから、俺が魔王である事をバラしても問題にすらならないだろうとも思ったからだ。



 向こうの人は聞き上手で、話しているこっちも熱が入って色々とでっち上げそうになったが、ちゃんと真実を全て話した。異世界人であること、オーブの変な黒い渦のこと、そして…人を殺したかもしれないこと。


 すると、話を聞き終わった男は、


「魔王様...」

「ん?」


 と、感じる視線の様子が変わってそう呟いた。気を取り直すように咳き込み、一言こう言った。


「ところでよ、兄ちゃん、そりゃあ誰かに、ハメられたんじゃねぇの?」

「っ!?」


 その男は、予想だにしていない事を言い放った。




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