第九十八話 意に介さぬ強襲
遅くなりました。
屋上で繰り広げられる二人の激闘は、終わりを加速させ始めていた。
刀道の攻撃を夜十が《追憶の未来視》で予知し、賺さず避けて、猛追を展開する。
刀道の攻撃が多彩でも、夜十の方が一枚上手なよう。
「……はぁぁっ!! 」
夜十は、追尾型の触手の攻撃を避け、巨大烏賊》の足を刀道の腕ごと斬り裁いた。
突然のカウンター攻撃に目を大きく開け、後退りをし、必死に攻撃の手を疎かにすまいと必死になる刀道。
もう既に勝負はついているようだった。
必死になれば必死になる程、視界は霞、体は怯む。刀道は追い詰められている。
自分自信の絶対的に誇りのある一撃が相手に読まれ、相手の攻撃だけが自分に突き刺さっていることに対して。
「……クソ!何故当たらない! 」
夜十の何処までも見切る千里眼、《追憶の未来視》の瞳は、刀道を奈落の底まで叩き落とした。焦りは失敗を生む糧となる。
「俺は二度とあんな辛い思いはしたくない!昔のことも、この学園であったことのように、誰かを失うことは絶対にさせない! 」
斬られた腕と口から大量の血液を流し、今にも倒れそうな刀道は、何故か笑った。
それは、夜十の意思を嘲笑うかのよう。
「馬鹿げた意思だな……そんな意思を掲げているから、足元を掬われることになるのだよ! 」
「……」
ーー直後。
夜十の背後から二本の剣が振り下ろされ、二つの腕を搔っ捌ーー、しかし、それは空を切った。剣の主も、突然の強襲を知っていた刀道も悶絶した。
「……分かってたよ。お前が裏切るってことはな!早乙女!! 」
瞬時に攻撃が来ると見抜いていた結果、夜十は二本の剣を持った早乙女の顔面へ強烈な回し蹴りを食らわせ、吹っ飛ばす。
早乙女は、屋上のフェンスに弾かれて、外野には飛ばされずに済んだ。
「どうして分かったんだよ! 」
「……俺が感じ取れる全てが教えてくれるんだよ。空気の振動も微量の風も、音も。早乙女、お前の癖だってお前のことを教えてくれるんだ!情に流されて、直ぐに仲間になるなんて思うなよ? 」
夜十は激怒していた。
早乙女に裏切られたことに対してではない。当然、「共闘しよう」と発言して来ていた時点で夜十は彼の動きを観察し、《追憶の未来視》に必要なデータを収集していたのだ。
全てを見切った彼が背後から忍び寄ろうとしても、恐怖も戦慄も感じない。
それよりも大好きな「姉」を出汁に、自分自身に近づいたことだった。
あんなに姉を慕っているような芝居をしていた。姉の偉大さを気付かされたと思った瞬間だったが、それが嘘?許せるはずがない。
「お前らは全ての報いを受けるべきだ! 」
夜十の魔力量が格段に上昇し、《追憶の未来視》に力が篭る。
掌の上に生成した剣を携え、夜十は、二人の間合いへ一気に踏み込んだ。
「調子に乗り過ぎだ!俺は時を止めれんだ、お前みたいな人間風情、いつでも壊せる力は持ってんだよ! 」
早乙女は、静寂の世界に足を踏み入れる。
夜十も刀道も、自分以外の生物の時を止め、自分だけが自由に動き回れる世界を作り出した。夜十が間合いに踏み込み、警戒態勢を解かない態度を見せつけていたが、時が止まっている状態では無に等しい。
「これで終わりだ!! 」
早急に終わらせる手立てを講じる。
腹部に白刃を偲ばせるよりも、効率を求めるなら首を斬り伏せるのが一番だろう。
彼は力一杯に二つの剣をクロスさせる形で夜十の首を斬り捨てた。
「はぁ、はぁ……これで終わりだ。時が再開すれば、お前は首が飛んで終わり。柳瀬さんが俺の家族を蘇生させてくれる!! 」
早乙女の《正義派》に入ることで得られるメリットは、墓に仕舞われている家族の遺体に命を吹き込むことだ。
《蘇生魔法》を使える者だけが早乙女にとっての唯一の救い。
《戦場の歌姫》に助けてもらったのは事実だが、家族と天秤にかければ傾く方向は決まっていた。冴島夜十を騙すことに少ない罪悪感を持って、処すつもりだった。
だが、彼は予想以上の強さを見せ、アビスの血液を取り込み、あり得ない強さを手に入れた刀道を、たった一人で窮地に追い込んでしまった。それは早乙女と刀道の誤算。
「終わったな、冴島夜十!さよならの時間だ! 」
早乙女は時間停止を解除する。目の前の夜十の首が飛び、後の断面から血液が噴出するのを目に焼き付けて、彼は刀道に懇願した。
「刀道さん、終わりましたよ。俺の家族は、助けてくれるんですよね!? 」
「……はぁ、はぁ、はぁ。嗚呼、分かっている。私は約束は守ると言っただろう? 」
汗に塗れた刀道は、早乙女が夜十の首を刎ねたことで安堵した。正直、早乙女との約束なんて頭にはない。
長年の歴史を超え、「冴島家」が継ぐ人間の本当の力に対しての恐怖と興味が入り混じっていたのだ。
「アグニスへ連絡をせねばな。あの男の驚く顔が観れると思うと笑えーー」
ーー瞬間。
刀道と早乙女は笑えなくなった。
自分の両腕に当たる部分が、地面のコンクリートに「ボトリ」と重みのある擬音を出して落下したのだから。
「……本当の終わりはお前達だ。早乙女、特にお前はな。刀道は、《巨大烏賊》の腕で代用できるかもしれんが、早乙女、お前は違う!自分の力を過信しすぎだ!! 」
「……っ!! 」
驚きのあまり、目が大きく開く。
何故、冴島夜十は、圧倒的な力を誇るKMCに歯向かえるのか。その疑問で頭がいっぱいになった。
「お前は……どうしてそこまで、他人の為に動こうと思うんだよ! 」
「もう二度と目の前で人を失わせたくないからだ、絶対に!この信念だけは俺が死んでも折れることはねえ!早乙女、お前もだぞ! 」
「……クッソ、お前ら兄弟はどうして他人の為に……分かんねえな。嗚呼、意識が持たない。血が出過ぎなんだよ、クッソ、俺の夢は叶わねえのか……! 」
早乙女拓哉は意識を失った。
後少しで掴めそうだった夢、家族との再会。それでも届かなかった。冴島夜十という男にはーー。
「ふん、貴様の限界を私が見くびっていたようだ。お前もあんなことを抜かしたが、見抜いているのだろう?私にはアビスの力を使える個体が無い。一部の軽い部分だけを使えるのだ……それに、もう体力もない。 」
屋上の壁まで背中歩きで後退し、彼は地面に腰を下ろした。
「何故、いつもお前達、末裔が私の邪魔する!お前の姉もそうだった。私と魔術師が繋がっていることを知り、毎日のように本部に来て、説得の話を聞かされた。 」
「……姉ちゃんが? 」
「お前達は他人のことを助けようとし過ぎなんだよ。それが不要な手伝いだったとしても、関係ないだろ?部外者が突っ込んでいい案件じゃない! 」
声を荒げ、刀道は下を俯く。
前のような貫禄も威厳も一切ない。
あるのは、負け犬の遠吠えを必死に叫ぶ哀れで惨めな男の顔だった。
「柳瀬刀道、俺に教えろよ。お前の言う「末裔」ってなんだ? 」
「勝負は私の負け。仕方ない、話してやろう。お前の血族は…… 」
今にも意識が飛びそうな刀道は、力を振り絞って夜十へ告げる。
人類にとっての「冴島家」を。
「初の人類、「シン」の末裔だ。 」
夜十はこの時、予想もできていなかった。
これから始まる大戦争の予兆を。
刀道は、自分の知る全てを公開しようと、口を開くのだった。
98話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
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今回は、強襲回です。
次回、戦意を失った刀道は、夜十の血族について語り始める。魔術師に命を狙われる理由とは?一体ーー!?
次回もお楽しみに!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




