第九十七話 思わぬ援軍
遅くなりましたー、COD激アツですねぇ!
灰色の曇天へ雷鳴が鳴り響き、土砂降りの雨が屋上に立つ二人の男達を濡らした。
一人は、人間とは思えない魔物と化した姿で余裕の笑みを浮かべ佇む。
そして、また一人は、かけがえのない家族だった姉、父親、母親の復讐心に駆られ、怒りで真っ赤に染まった闘志を掲げる。
「……ここまで私が追い詰められるとはな。この半アビス化でも攻撃が読まれるとは、その力、魔法だけではないな? 」
「そんなことはどうでもいい!さっさと散れ!姉ちゃんを殺した報い、お前は受けるべきだ! 」
僅かに水溜りを作る程の土砂降りを、地面を蹴って加速した一瞬だけ吹き飛ばす。
雨が落ちる速度よりも速く、相手の間合いに細心の注意を払って、夜十は手にした白刃を振り下ろした。
だが、これは簡単に受け止められてしまう。
夜十の《追憶の未来視》が告げていた。そして、次に来る攻撃は未来予知を持ってしても避けることは出来ない。
刀道の腕から伸びる無数の触手は、普通の人間では目視することの出来ない速度で夜十を捉える。
《巨大烏賊》の高速追尾だ。
咄嗟に反応し、身体を仰け反って避けようと試みるが、腕と足に触手が絡みつき、拘束された。
急いで剣を振るい、斬り伏せようとするも、触手は鋼鉄か、弾かれてしまう。
夜十が拘束され、立ち止まった瞬間、刀道の口元がニッコリと歪んだ。
"これはチャンスだ"と言わんばかりに、手に持っていた剣に身体を滞りなく流れるアビスの魔力を流し込み、集中力を咎めた。
「……《獅子連斬》! 」
「ぐぁぁぁぁ!!! 」
無数の斬撃が縦に、横に、斜めにと、張り巡らされたトラップのように連なり、夜十の肌に生傷を作った。
あまりの痛みに断末魔が喉から突き出、溢れ出て来る血液で足元に血溜まりが出来る。
「はぁ……はぁ、はぁ……クソ!!お前なんかに負けて……た、たまっ……!ぐぁっ……! 」
必死の抵抗で鋼鉄の触手を握り、力を込める。だが、剣でも折れなかった触手は、握り締めただけで壊れる程、ヤワではない。
更に追い討ちをかけるよう、夜十の両肩に鋭利に尖った二本のナイフが突き刺さった。
拘束された状態では、《追憶の未来視》を行なっても次の攻撃が見えるだけで状況を打破する方法は生まれない。
ならばとーー、
《焔弁の爆熱花》!
焔の長い鉾は空中で具現化され、刀道へ真っ直ぐに降り注いだ。
これには流石の刀道も防御に専念することを優先し、触手を一度、夜十から解除する。
どうやら、触手は刀道の神経とリンクしているようで、別働隊として動くことは不可能らしい。
解除を行なっている理由がまさにソレだ。
重くなった身体を叩いて、夜十は一歩後ろへ後退した。
今の僅かな時間でも時間稼ぎが行えたことは大きい。もし、あのまま拘束されていたら次の瞬間には死んでいただろう。
触手を使って剣を凌ぎ、夜十に対する警戒心だけは歪めまいと鋭い眼光を浴びせる刀道。
夜十は刀道の力量を今更ながらに理解し始めていた。恐らく、戦闘に向いている人間ではないかもしれない。
弱攻撃ではなく、大振りの強攻撃を使って、 一撃必殺を行おうとしているのが確信的だ。
肩に突き刺さったナイフを抜き、地面に投げ落とした。甲高い金属音がコンクリートを鳴らし、辺りの静寂を破壊した。
「……憎たらしい種族よ。そろそろ、終わりにさせてもらうとしようか! 」
「この状況でどうするか……少なくとも大振りの一撃は使えない。肩を壊されたのはデカイな。 」
剣を扱う上で必要な点を潰した刀道の策略に冷や汗が垂れる。
彼の"終わりにする"の一言で身を引き締めた夜十は、重心を低くして、腰の位置に構えた刀剣と共に咎める集中力で敵を睨みつけるのだった。
ーーその頃。
三階の教室に向かった《革命派》の動けるメンバーは、中庭に群がる複数の生徒達を見て、足を止めていた。
中でも、ソレらを束ねている人物達に困惑する。風見が眼鏡を掛けた清楚系の男へ話しかけた。
「一澤巧。これは一体どういうことなんだい? 」
かつて、星咲の部下として《戦闘派》を引っ張ってきた一澤を含める隊長達の姿があった。
彼らは今までどこにいたのだろうか。風見がふと思ったことは、たった一人の人物によって納得させられることとなる。
「これはこれは、学園の英雄様のご登場だ。我々も加勢しようかと思っていてね。ここに居る生徒達は無所属と私の元部下だ。柳瀬刀道を倒すのだろう? 」
「複数で群がれば、犠牲も増えるし、良いことなんてないよ。一澤、どういう風の吹き回しなの?《引きこもり》の隔離空間で戦争が終わるのを待っていれば良かったじゃないか! 」
すると、自分が忌み嫌う名を呼ばれた金色の短髪少女は風見の前に現れ、言った。
「自分達だけで学園を守ろうとか……コッチからしたら恩を着せているようにしか思えないんスよ!ここはあんたらだけの学園じゃねえッスよ? 」
「……そんなことは分かってる。 」
重苦しい雰囲気の中、ミクルは風見の言った「隔離空間」に興味を持っていた。
今、中庭で待機している人数は恐らく優に二百は超える。それだけの人数が入りきる空間など、表の世界にはない。
空間魔法を使う自分が探知出来ない空間の生成。凄く興味が湧いた。
「奏多さん、きっと風見さんは私達を信じられないんですよ。彼女の魔法である《六神通》で幹部全員を見抜いて貰えば、話は解決するんでしょう。そうですよね?風見さん? 」
「はぁ、分かったよ。見させてもらうよ。 」
風見が言いたいのはそういうことではなかった。一澤、奏多、他のメンバーだって信じていないわけではない。信頼性で言えば、ゼロに近いがゼロじゃない。
犠牲は覚悟、か。風見の心は酷く濁った。
「まずは、私が行きましょう。 」
一澤は風見の前に立つと、眼鏡を外し、制服の内ポケットにしまい込む。
そして、気をつけの体勢で真っ直ぐ彼女の瞳を見つめ、真顔になった。
「……へぇ?一澤って大好物がオムライスなんだね?可愛いじゃん。 」
「はい……よく、夕飯で作っています。星咲の洗脳が解けてからは、学園の食堂の手伝いをしたりと。そこの朝日奈燈火さんがよく食べる《オムライス焼肉定食超富士盛り》は私が考えたものなんです。 」
早口でオムライスについてを語り始める一澤、彼の表情は穏やかで豊か。
きっと一途な性格なのだろう。突然、自分の大食い事情を話された燈火は顔を真っ赤に赤らめて、賺さず、ミクルの背後へ隠れた。
「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。あなたの食いっぷりは、学園食堂のスタッフ全員のお墨付きだ。流石は朝日奈家……っと、話が逸れてしまったか。風見さん、終わりでよろしいのかな? 」
風見はコクリと頷いた。
「次は《引きこもり》」。 」
「その名前で呼ぶのはやめるッス!自分、引きこもりと言うよりはアウトドア派なんスから! 」
ーー風見の視察開始。
すると、風見は不敵に笑みを浮かべた。
そして、
「……やっぱりか。君は生粋の引きこもりニート体質なんだね。BL同人誌にゲーム、漫画、アニメ、って、予想通り過ぎたからこれで終わり。 」
「え?それで終わりかよおおおおお!! 」
アニメばりのフラグを立てておいたのに、まんまと回収を手放さなければならない方向に持っていかれ、奏多は立腹した。
それも、勿論、風見は見抜いている。心を読むのは容易いこと。寝ながらでも出来る。
「はい!次は? 」
「俺で頼むわ。郷だ。 」
ゴリラのような大きい体格の大男は、指の骨を指と指で押してポキポキと乾いた音を鳴らしながら登場した。
後ろから隠れて出て来たのは、麗美。
郷とは恋人関係で、星咲に操られている頃は二人で同じ隊を引っ張っていた。
「君とその後ろの子からは本当に変態なオーラしか見えないなぁ……。恋人とか言って、もう結婚してるんじゃない? 」
「……っ! 」
飛び跳ねて目を丸くする反応と、彼らの心の中の声に確信を深める風見。
「え?本当?マジか……早すぎるよ、高校生で結婚は……」
「周りは関係ねえ!俺らは愛し合っているから結婚したんだよ!そんな俺らを引き剥がそうってのか!? 」
「は? 」
郷はヒステリックになりやすいらしい。
ドラマティックに感傷に浸る二人を無視して、風見は他の幹部メンバーの視察へ入った。
そして、一通り終えた後、
風見は深く頷き、考えて、一澤に結果を通告する。
「……君ら、個性的だね。まあ、いいよ。不審な部分は見えなかったから、これから《革命派》として君達には働いてもらう。彼らはミクルちゃんの空間探知で屋上に移動したことがわかった! 」
「分かりました。ありがとうございます。よし、皆さん、行きますよーっ!全員で学園を徹底的に取り戻すために!! 」
一澤の声かけに全員が勢いのある声を上げる。学園全体が一丸となった瞬間。
圧倒的な人手不足から大量の戦力を確保出来た《革命派》は、夜十と刀道が剣を交えている屋上へと向かうのだった。
第九十七話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
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@sirokurosan2580
今回は援軍回です^^その名の通ーり!
そろそろ二章も終盤!
次回、
夜十は刀道の攻撃を見抜き、猛威を滑らせる。
だが、彼は気づけなかった。もう一人の人物の気配をーー!!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




