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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
91/220

第九十話 交渉決裂

レビュー3個目でかなりアクセス数が……。

書籍化とか夢のまた夢で、趣味で書いてるだけなのでかなーり、満足感は得られましたね。

いつもありがとうございます!


今回は少し短いですが、明日も投稿すると思うので容赦ください!!

沖は、《沖流・時政》で生み出した別空間から、獅子王が首に身につけている、角度によって色が変わる首輪を凝視する。

多大な魔力を秘めていることは、視線を飛ばすだけでも分かった。



「……俺に力を寄越せ!《色彩の首輪(フェルク)》!! 」



首輪に触れて、大声を出す獅子王。

彼の言葉が首輪へ届いたのか、首輪は虹色の光を解き放ち、獅子王へ力を授ける。



「……成る程。お前の力はこういうことか! 」


いきり立って、何もない箇所に視線を向ける。彼は徐に右手へ握った刀剣を虚空へ向かって、矛先を空に掲げて、口元を歪めながら振り下ろした。


再び、亀裂の入った空間は、別空間を曝け出す糧となる。

それは、沖が自分自身で作り出し、身を潜めていた空間だった。


斬撃の擦り傷が沖の頬を通り抜け、平行線の切り傷を付ける。

"ツー"と赤い一筋の線が顎を伝って、地面に落ちた。

小さな血飛沫が足元を汚す。



「……もう、ちょこまかと逃すまい! 」


瞳の中に虹色の光が残っているのが見えた。アレが獅子王の持つ《魔源の首飾り(アミュレット)》の力なのか。


空間、空気、光、物質、亜光速、人間の瞳では見えないモノを、肉眼で見ることの出来る能力。

色彩魔法(カラーマジック)》は、一般的な人類が持つことを許されている普通の魔法。誰かが提唱したわけでもなく、昔からあり続ける魔法で、《魔源の首飾り》の種別に多い禁止魔法が込められた魔法武器ではない。


だが、《魔源の首飾り》であることが、禁止魔法武器となっている理由だ。

《色彩の首輪》は、《願いの十字架(アウグリーオ)》のように使用者の上限回数を10回にして、《願いの十字架》が持つ魔法以外の魔法の使用上限を無限にするという効果以外が根本から役立っていない。


使用者の上限回数を10回にするのは勿論だが、《色彩の首輪》には強力な魔法が込められていない為、上限回数制限を無限化にする以外、使えない魔法武器なのだ。


けれど、今の獅子王にとっては、救いの一手であったことは間違いない。

普段肉眼では捉えることが出来ないモノを視覚的に色に変えて見ることが出来る力、他の《魔源の首飾り》と比較するとかなり弱いが、比較しなければ強い。



「俺の空間を見切った……? 」


沖の空間生成、移動が見切られたとなると、いよいよ厳しい。今のがマグレではなく、必然的に意思で行ったことならば、追い詰められているのは間違いなく沖遼介だ。

獅子王は寧ろ、優位的な状況へ立てたと言える。



「それに……AW(アビスウェポン)も持ってるとなると、いよいよ厳しいな。 」


「警戒するモノが多いと守りたいモノが守れなくなるよな。だが、お前の見込み通りではない。私が柳瀬学園長から授かったAWは、破壊した! 」


「えっ? 」


思わず、拍子抜けな声音が出る沖。

破壊したというだけで驚きだが、何よりも、それを敵である自分に堂々と教える器の大きさ、いや、馬鹿さに呆ける。

黙っていれば、周囲のモノを警戒して、迂闊に動けない沖を一網打尽にしやすくなるだろう。なのに、彼は教えた。

自分の勝利よりも、正々堂々の道を選んだのだ。



「妙な勝ち方をするのはくだらない。それに、私は剣術を次の世代に伝えていく獅子王家の現当主だ。KMCが幾ら極秘に開発したからと言って、アビスをそう易々と受け入れるわけがなかろう? 」


彼の意思は本物だ。

世界を混沌に陥れる悪魔の存在"アビス"。アビスの居ない世界の実現を、本気で願っている。

それは沖とて同じこと。


互いに同じことを願っているはずなのに、戦わなければならないことが、悔しい。


けれど、今更辞められるわけがない。

獅子王と同じ空間で平行線の位置に立つと、彼は重心を低くして刀剣を構えた。



「……戦わなければならない! 」


二人の刀剣が相見え、鋭い金属音と、小さな衝撃波を生み出して、周囲の空気を揺らし尽くすのだった。













ーーその頃、KMC本部。

六つの丸椅子が置かれた円形の木製テーブルのある小さな会議室では、六名のKMC関係者がスーツ姿で腰を下ろしている。

議題はKMC魔法学園についての話し合い。


学園長にして、KMC最高権利者の柳瀬刀道は、自分以外の五名へ堂々と発言する。


「ATSの新島鎮雄と神城竜吾が我々に話があるそうだ。良いかな? 」


全員、動揺しながら、恐る恐る首を縦に振る。現在、戦争中であるATSの幹部達と面と向かって話をするとは思ってもいなかった展開だったからだ。

柳瀬刀道は、微笑みながら扉の外に居る二人へ声をかけた。


金属製のドアノブが回り、扉が開く。

個室の中に入った神城と新島は、鋭い視線で柳瀬を睨みつけた。


「……怖い顔でどうした? 」


「俺を含めたATSはもうKMCに飼われる犬じゃねえ。ATSは、KMCに一つだけ交渉を持ち掛けてやる! 」


「ほう? 」


柳瀬の声に、新島はATSの残った全員と話し合って決めたコトを話し始めた。

KMCとの全面戦争を終わらせる話ではなく、平和を願う為の交渉の話だ。



「これ以上、犠牲を払う必要はない。お前らが黙って、KMCとかいうクソみたいな組織を解散して、魔法学園を引き渡してくれるのならな!もし、断るなら、俺はお前らをここで殺してやる。 」


「ははは、最早交渉ではなく、脅しだな。我々がKMCを解散?馬鹿げた話なら、寝ながら言うんだな。 」


柳瀬以外の五人は発言もしようとしない。

所詮は、幹部という肩書きに溺れたお飾りだけの人類か。


神城の気持ちは昂り、柳瀬へ殺気を立たせる。



「新島、昔、名家のガキ共と共同任務を遂行した時、ATSに注がれるマスコミの非難の嵐を未然に防いでやったのはドイツだ? 恩を仇で返す行為は著しく、悪だ。なぁ? 」


「あんたがKMC最高権利者になった瞬間から、魔法学園の秩序が無くなったんだろ?俺らの代は、魔法で人を傷つける事自体、禁止事項だった。やりゃあ、直ぐにムショ行き。お前、俺の弟子が通う学園を殺し当たり前の無法地帯にしてんじゃねえよ!! 」



「質問に答えてほしいものだな。まあ、水掛け論か。この世で威張ることが出来るのは、弱者ではない。強者だ。KMCを止めたいのなら、私を倒すと良い!最も、そんなことはさせないがな!! 」



柳瀬はそれだけ言い残して、その場から消滅した。その場にいる幹部達は今更、どうでも良かった。全員が頭がいいわけでもなく、名前だけお飾りの連中。

見放す要素は幾らでも存在していた。



「神城、標津に連絡しろ!交渉は決裂だ。柳瀬は恐らく、学園だろ……。学園はアイツらに任せるしかねぇ!俺達は、本部を制圧し、これからの計画の準備に入るぞ! 」


新島は心の底から願う。

柳瀬刀道を倒せるのは、紛れもなく、冴島夜十しか居ない。


長い間KMCが支配し続けてきた魔法世界を、終焉させる一手。

外の事はATSに、中の事はお前がーー、



ーー"夜十、後は任せたぞ"



彼の想いが届くことは無い。

だが、夜十のやる事は最初から決まっている。燈火を救い出し、学園を取り戻す。

平和な学園をもう一度。


世界を救う一手が紡がれた瞬間だった。








九十話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


もう九十話。第2章で100話変えて、次章では、かなりな話数になっていそう!

そんなこと考えて、書いてますね……。


それでは、次回予告です^^


獅子王と沖が激戦を繰り広げる中、中庭では一二三と黒の戦いが始まっていた。

一二三は黒の過去を知っており、火炎への復讐心をどうしたのかと心を揺らがせるがーー!?


次回もお楽しみに!


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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