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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
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第八十九話 名を背負う覚悟

昨日に投稿したかったのですが、寝落ちしてしまいましたー。

首筋へ冷ややかな感覚が蝕む。

金色の刀身が穴の空いた天井から降り注ぐ大雨の滴で濡れて、その輝きを一層引き立たせた。


今、沖遼介は絶体絶命の状況下にある。

肩に沖の剣の刀身が突き刺さったままの獅子王へ、首筋に剣を突きつけられているのだ。


唯一持っていた刀剣も折られ、今は、なすすべがまるで無い。

獅子王のように刀剣を片手の握力だけで潰せるほどの力があれば良いが、生憎、沖にはそれだけの腕力もなかった。


彼に残された秘策とは、講じることを自分自身が拒絶し続けていたコトだった。

ずっと憎み、嫉み、痛み続けてきたこの名前、剣術名家、沖家。


その剣術を自分のモノだと、自分が沖家の現当主なのだと、自覚を持つ。

それがどれだけ嫌なことか、家に受け入れてもらえなかった過去の自分が瞳に映る。



「……お前は出来損ないだ。出来損ないのお前に剣術を学ばせても意味はない!どっか外で遊んでなさい! 」


当時の当主であった父親は、自分を拒絶し、家の中で序列を作った。

序列制度を小さな空間であれど、取り入れれば、沖遼介のような存在に誰しもがなりたくないと思い、熱心に剣術へ時間を割く。


その制度のお陰か、沖家は名高い剣術御三家の称号を獲得したのだ。

自分の息子を愛さず、称号と言う名の肩書きを愛した父親の掲げる剣術。



「……最早、戦意喪失か。沖遼介、お前はもう少し楽しませてくれると思ったのだがな。 」


退屈そうな表情で睨みを効かせる獅子王だったが、剣を突きつけていた相手の魔力がゆっくりと上昇していることに気がつく。

だが、大きく上昇はしない。

相手の表情と瞳が虚無に成り果ててる以上は、どんでん返しが起こることは無いと思った。



"沖の名を名乗る日はいつか来る"

"沖家の剣術は最強"

"誰にも止められぬ刀剣"

"疾風迅雷、それが私の異名だ"


父親の言っていたことが脳裏に響く。

貴方を受け入れたくはない、けれど、今はそうするしか道がない。必死な葛藤が続く。



「家の剣術を背負うことに抵抗があるのか? 」


声を出したのは、獅子王だった。

沖が葛藤している理由を、聞いていたかのように答える。



「私も、かつてはそうだった。自分が当主になること、決意など口では簡単に言える。だがな、心に決めるということこそ、真に難しいことなのだ。 」


「……獅子王慶吾? 」


「私は敵ながら、こんなことを言うのは間違っているだろう。だが、言わせていただくよ。迷う必要はない、自分が沖の名を捨てないのであれば、自分を信じてやれ。決意、覚悟、建前などそれだけで決まるもんよ。 」



ーー自分を信じる?

沖の剣術を認めるのではない。

自分の剣術を沖の剣術だと思えばいいのだ。

無理に、過去にトラウマであった父親の剣術を肯定しなくても、名家の名前はきっと答えてくれる。

自分自身を信じれば、心の刀剣が研ぎ澄まされた力を与えてくれよう。



ーー瞬間。

剣を突きつけていた獅子王を弾き飛ばす程の高威力を巻き起こす竜巻が発生した。

風速、風圧、共に獅子王の時と全く同じ。


沖の目の前に、真紅の鞘にしまわれた一振りが現れた。

柄の部分は黒と金で装飾されている。

刀剣から感じる魔力は凄まじく、今まで自分が使っていた代物とは訳が違う。



「……これが沖家の宝刀《沖流・時政(ときまさ)》か。実物を見るのは初めてだ……!俺の想いが名家の名前に届いたのか? 」


沖の想いは激しく滾った。

自分が"沖家"の当主になったことの満足感ではない。

背負うという決意だけで応えてくれた沖の名前に対し、沖の双眸は真っ赤に燃えた。






剣術の名家が、魔法師の名家にもアビスにも負けない、唯一無二である理由が、沖の目の前に顕現した《刀剣》の存在だ。


沖家、虹色家、獅子王家の御三家には、代々伝わる伝家の宝刀がある。


獅子王は全部で3本あり、

《虎》《獅子》《龍》の順番に刀身を自らの腕で折ることで《虎》は《獅子》に、《獅子》は《龍》へと進化を遂げる。


つまり、獅子王慶吾の持つ刀の名前は、《獅子王流・獅子》。もう一段階強い、《龍》がある。


虹色家は代々伝わる伝家の宝刀を、魔力で顕現させるのではなく、次の当主に手渡しで一つの刀剣を渡す。

渡された刀剣は、現当主であれば、伝説の域にも達する一振りになるが、別の人間が使えば、自身の身体を破壊する諸刃の剣へと成り果てさせる呪縛がかかっている。


剣術の名家を背負うということがどれだけの重みなのかを知らしめようとしているのが、呪縛の根源らしい。



そして、沖家は、《沖流・時政》。

時を断絶し、新たなる空間を作り出す、魔法武器型の一振り。

斬らねば斬れぬ刀身の硬さと、重さは、強烈な一太刀を生み出すことが出来ると有名だが、使える人間は極少数。

沖家の人間で、小さい頃から剣を志していても、不可能であれば不可能。

使用者を選ぶ刀剣としても有名。



「……そうか。コレが、背負うという重みか。 」


柄へ手を伸ばし、鞘と同時に受け取る。

聞いていた通り、凄く重みのある一振りだ。気合いを入れて持っていなければ、自分が刀剣に振り回されてしまうかもしれない。

そんな不安が胸の中に募った。





ーーたった今、ここで鞘から刀剣を引き抜けば、この絶望的な現状を打破出来る。

ならば、引き抜かない理由はない!!


力一杯に腕へ神経を注いで引き抜いた一振りは、持っただけで格別なのだと悟った。

手に伝わる魔力の重み、剣の重み。


《赤鬼》沖遼介は、沖家現当主の《赤鬼》沖遼介になった。


"剣を折られた剣士は、恐怖に恐れ慄かず、新たな刀剣を手にして力を得る"


「……やっと、本気で戦える。沖家の現当主ならば、私の本気を出す条件に合っている。今まで一度も出したことのない《龍》を出そう。 」


獅子王は、まるで、沖にそうなって欲しかったと願っていたかのように喜びの声音を上げる。

沖遼介の覚醒に祝杯をーー。



再び、刀身を両手で掴み、腕に力を込める獅子王。

先程の《虎》のようには上手くいかず、顔を真っ赤に赤らめて、身体中の血管を浮かび上がらせながら、唸る。



「ふんんんんんん………!!!! 」



かつて、獅子王慶吾が《龍》を一度も使わなかった理由は、《獅子》の刀身を腕力だけでへし折ったことが無かったからだ。

一族の中でも、最高位に座する一振り《龍》は顕現させるだけでもかなりの力を必要とし、使う時には倍以上の疲労が伴ってくる。


雑魚相手には自分の限界、《獅子》で十分。だが、今回の敵は自分で覚醒の手伝いをしてしまったとはいえど、滅びた名家、沖家の生き残りで現当主、沖遼介だ。

《獅子》で勝てる未来は恐らくない。


「ふんんんんんんんんん!!! 」



そしてーー、

"パキンッ"という金属音の後、獅子王の周囲に先程とは比べ物にならない風が巻き起こった。

獅子王家伝説の宝刀、《龍》。

黒い背景に吼える獅子が龍と交戦する様子が金色で描かれる鞘が顕現した。

柄に鮮やかな緋色が塗られている。


《獅子》を初めて引き抜いた時、途轍もない緊張と安心の感覚が自分の身を襲ったことは一度も忘れたことはないが、、引く前の数秒間だけは覚えていない。

なのに、忘れそうもない緊張が全身を駆け巡る。



「はぁぁぁあああああああ!!! 」


柄と鞘に触れた瞬間、凄まじい魔力が体内へ流れ込んだのが分かる。

気合いを込めた勢いのある声音を出しながらーー、

彼は、獅子王慶吾は《龍》を引き抜いた。



「コレが伝説の《龍》か。 」


刀身が黒で塗り潰されており、《獅子》のように黄金の輝きはない。

だが、誰もが感じることが出来る武器から滲み出る魔力量は、獅子王家の当主達が受け継ぐ時、永遠に尽きない量の魔力を込めているのだと、理解が出来た。



獅子王家伝説の宝刀《龍》と、

沖家伝説の宝刀《時政》の闘いが今、始まりを告げられた。

交差する刀剣、繰り返される金属音は、周囲の空気を切り裂きながら紡がれる。



沖は、一度、一歩後退して、四角形を空中へ刻印する。

その瞬間、新たなる空間が作り出され、そこへ足を踏み入れた沖は、獅子王にとって忽然として姿を消したも同然に見えた。

周囲を見回して、自分の死角に最大限の神経を尖らせる。死角はないも同然だ。


此処で、相手はどう走るーー。



「隠れん坊はあまり好きではないのだがな。見つけてやろうか? 」


獅子王は唐突に剣を床へ突き刺し、瞳を瞑った。承和色(そがいろ)の髪を威圧的に魔力で尖らせて、自分の感覚が感じられる範囲内へ全神経を注がせた。

今の状態は《追憶の未来視(リコレクション)》の記憶する時に使用する"音を聞く"為の小さな技術だ。


人間は動く時、立ち止まっている時、必ずしも"音"を生み出す。

それが人間の耳に届かない小さな音であれ、空気、空間の振動には必然として届くのだ。



「……ふんッ!! 」


獅子王の右腕に斬撃が入り、平行線の切り傷で、ツーと血が垂れる。

空間全体を研ぎ澄ました神経で"視て"いても、反応さえ出来ない速度。


「……成る程。速いわけではないのだな。空間ごと別で動いているだけか……!! 」


一つの斬撃を落とし、直ぐに空間移動で隠れてしまった沖に思うところがあったのか、笑顔でウンウンと首を縦に振る。



「《龍》の力をそろそろ見せてもらおうか。 」


緋色の柄を強く握りしめ、赤い光の伴う眼光で"音"を感じた方向を鋭く睨みつける。

そして、思いのままに、渾身の一振りを虚空を叩き割る勢いで放った。


するとーー、

空間に亀裂が入り、沖が移動手段としていた別空間まで斬撃が届き、空間が一時的に歪み始める。

亀裂の中を確認するが、既に沖の姿はない。恐らく、使い捨ての空間だろう。



「……亜光速で移動する男なら私の同胞に居るが……。やはり、この力を使わねばならないか。 」


制服の上着を脱ぎ捨てて、公衆の面前に露わにさせたのは、見る角度によって様々な色が発光する小さな宝玉が無数に埋め込まれた首輪だった。


「《色彩の首輪(フェルク)》お前の力を私が使っても良いものなのだろうか。分からない、だが……使わせてもらおう。今、現状打破に必要なのだからな!! 」


沖遼介は彼の持つ《魔源の首飾り(アミュレット)》を遂に瞳に収めることが出来た。

《魔源の首飾り》持ちには、同等の力を持つ魔法武器で対抗するしかないが、生憎にも、沖には《沖流・時政》がある。


時間を断絶し、空間を作り出す力。

禁じられた魔法武器を破壊する手立ては戦術次第で幾らでも作り出せそうだ。



相手の《色彩の首輪(フェルク)》を見ても、沖は動揺も慄きもせず、胸に誓った剣術と信念を掲げ、立ち向かっていくのだった。




八十九話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


沖遼介覚醒回です。

今までも《仏鬼》から《鬼》になったりと、進化を遂げていく沖ですが、彼はまだまだこんなものではありません!!


それでは次回予告です!

遂に獅子王慶吾の持つ《魔源の首飾り》。

《色彩の首輪》が露わとなる。どんな力を秘めているか、詮索し、様子を伺っていた沖だったが、その力は思いもよらぬ展開を招きーー!?


次回もお楽しみに!!


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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