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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
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第八十八話 剣を折られた剣士

予定通り投稿できましたー!

相手の間合いを探り合い、隙を見つけては斬り込む沖と獅子王。

二人の持つ白銀の刀身が交差する度、空に金砂利を蒔いたように火の粉が沖する。


沖の間合いは魔力開放時であれば、教室ひとつ分の大きさを永遠に保てるが、そうでなければ普通の人間が持つ視野程、狭張ってしまう。


だが、それは獅子王とて同じなはず。

沖は、獅子王の生み出す小さな隙をも逃さずに、徹底して剣を振るい、火の粉を撒いた。

高い金属音が周囲の空気を揺らして、鳴り響く。


「ちょこまかと……」


獅子王は首を傾げ、気怠そうに低い声音を吐いた。


一撃離脱を繰り返す沖の戦術が、気に食わないからだ。

漢なら一撃ヒットで一歩後退などせずに、連続して斬り込むべきで、後退とは背中を見せる恥行為。

誇り高き獅子王の血が、プライドが腹を立てる。



「大したダメージにならない……か。 」


背中や腰、腕、腹部など、攻めれる部分には切り傷を負わせる一撃を放っているつもりだったが、ふと足を止め、相手の体を凝視すると、今までやってきたことが、ほぼほぼ無意味なことだと気がついた。


太陽の光で焦げた濃い茶色の肌には、切り傷など付いておらず、猫にひっかかれた程度の傷しか残っていない。

まるで、"肉体"が装甲戦車のように硬かった。


半端な剣なら肉体に負けて、刀身を折られてしまうかもしれない。



「失われし名家、沖家の力はそんなものか? 」


"獅子王の言い方"がカンに触ったのか、彼は血眼で真剣な表情になり、抗議する。



「沖家の力?……そんなものはない!俺の力なんだよ!! 」


一歩踏み出して、宙へ高く飛び上がり、受け身の獅子王へ素早く斬り込む。

ーーだが、これは止められてしまった。

獅子王の峰と沖の刃が接触した瞬間に火の粉を撒き、力勝負を開始させる。


剣術による力勝負であれば、常に勝利を確信し続けている沖だが、今回は違った。

受け身で力を大幅に出せる訳が無いはずなのにーー、



「な、なんだよこの力!! 」



ーー剛力で剣ごと跳ね飛ばし、地面を蹴って宙を舞いながら沖の片足を掴み取る。

腕の筋肉だけで20代近くの男性の平均体重程の沖を軽々と地面に叩きつけた。



「噂には聞いているが、沖家を滅ぼした張本人は、沖の剣術を自分の剣術だと勘違いしているとか……無様だな。 」


「……はぁ、はぁ、な、何言ってやがる!俺の剣術だ!沖からは何も教えて貰ってねえんだよ!! 」


叩きつけられた際に腕を使って軽く受け身を取っていたお陰か、直ぐに立ち上がって戦闘態勢を整えることは出来た。


激しく抗議する沖に、溜息をこぼして首を傾げながら"やれやれ"と言葉を吐く獅子王。



「お前の力じゃないぞ。何も教えてくれなくとも、お前が沖家に居た時、剣において縋れるものは沖家の剣術の稽古場だったんだろう? 」


「……っ! 」


「それを真似て自分の剣術を作り出したんだろうが、真似は真似でも事実は残る。根源がある限りな。……ふぅ、まるで昔の自分を見ているようだ。 」


哀愁漂う瞳と優しい表情で沖を諭す獅子王。

余計なことを言い過ぎたと考え、剣の柄を持ち直し、表情と瞳、雰囲気を変えた。

冷徹で獲物を狩る為に、目標を待ち伏せ、圧倒的な力でねじ伏せる。


目醒める獅子が畝り声を上げて、場の空気を殺伐とさせた。



「……俺の剣は沖の剣……」


ボソッと呟いた一言。

小鳥の囀りよりも小さく、自分にしか聞こえない程度の声だったが、集中力を咎め続ける獅子の耳は敏感でソレを簡単に拾う。

相手が考えごとで意識が逸れていると悟り、彼は当然のように剣を振るった。



だが、沖も立派な剣豪。

現役で当主を務めている獅子王慶吾に比べれば、唯一、剛力に大きな差があるものの、反射速度や攻撃速度、剣術は劣っていない。


普通の受け身では力業でねじ伏せられてしまっては勝ち目が無いので、峰を当てて滑らせ、軌道を大幅に逸らさせる。

すると、沖には大チャンスの獅子王の大きな隙が生み出された。


直ぐに一歩踏み出して、身体に捻りを加え、独楽のように右足を軸として回転斬りを放ち、腕に切り傷を負わせることに成功する。

ツーと鮮血が流れ、獅子王は顔をしかめた。



「……半分だけ本気を出そう。 」


そう呟いた次の瞬間、彼は自分の剣の刀身を両手で持った。

引き締まった身体の筋肉と血管が浮き出る程、必死に両腕に力を込める。


「ふんんんんんん…………!!!!」


甲高い金属音が周囲に鳴り響き、光景を目にした沖は、その異形さに思わず驚愕した。


獅子王は自らの使っていた刀剣を両腕の力だけでへし折ったのだ。

ソレが何を意味するかは現状理解出来ないが、良くないことが起きそうな気がした。



「はぁ、はぁ……剣術の名家の掟は変わった。魔法という付け焼き刃に過ぎない力さえも取り入れて行かねば、剣士は魔法師には勝てない!! 」


ーー刹那。

獅子王の具現化した魔力が衝撃波となり、風速と風圧を上げては、巨大な竜巻を巻き起こす。

沖は、風圧で身体ごと吹き飛ばされそうになるが、矛先を床に突き刺して何とか持ち堪える事が出来た。

巨大な竜巻による暴風、風圧は、二階廊下の天井を突き破り、教室の扉、窓ガラスを容赦なく吹き飛ばす。


あらゆる物の破壊音が鳴り響き、竜巻の中心に座する獅子王は両手を前に突き出して、一振りの刀を鞘から引き抜こうとしていた。

彼の持つエモノは、吼える獅子が臙脂(えんじ)色、黒味を帯びた深く艶やかな紅色を背景に、黒色で描かれた鞘へ仕舞われている。


引き抜く腕から冷や汗が垂れ、地面に落ちて小さな飛沫を上げた。

あの剣を引き抜かせれば、勝機が遠のくのは必然か。

沖は刀身を空高く掲げ、詠唱を手向ける。



「《禍々し鬼は豪の如く、目の前の敵を悪と捉え、殲滅せよ!赤鬼の一太刀(ロッソ・デモンスパーダ)》! 」


緋色を帯びた剣圧は魔力で具現化され、目標を切り裂く一振りの剣となる。

竜巻で自分の身を守ることが出来ている獅子王は、額に冷や汗を浮かべながら、剣を抜くことだけに集中を咎める。

外部からの魔力密度の高い衝撃波など、気にしている暇はなかった。



「……この剣を抜くのは人生で二回目。さあ、見せてみろ!沖遼介!! 」


凄まじい力で抜かれた剣の刀身は、金色に輝き、煌めく。

沖の飛ばした魔法上限回数一回消費の技は、抜いた瞬間の竜巻状態解除で発生した風圧と風速に、かき消されてしまった。



「さっきとは比べ物にならない魔力が篭ってやがる。あの剣、なんなんだ!? 」


「はぁぁぁぁあああっっ!! 」


沖は困惑し、神経を思考へ回し、警戒態勢を怠った。

その瞬間ーー、何故か、瞬間移動したかのように沖の背後へ現れた獅子王は、真剣な眼差しで捉えた隙だらけの横腹を斬り捨てる。

金色の刀身に赤色の血液が付着するが、斜めに虚空を斬り、地面へ返り血を叩きつけた。


「うっ……ぐぁぁぁ、、……!! 」


横腹が焼けるように痛い。

いや、違う。これは、痛覚が痛みを"熱"として錯覚し、身体を燃やし尽くしているのだ。


「……次! 」


顔をしかめ、歯を食い縛る目標に懺悔の言葉も無く、目醒めた獅子は鋭い瞳を光らせて、そう言った。



「……ま、まずい。反応も出来なかった! 」


獅子王がもし、今の速度で永遠に動き回ることが出来るのなら、沖に勝ち目はない。

思考へ神経を回した瞬間に目の前に居たはずの獅子王が背後へ現れ、脇腹を斬られた、この状況下。


警戒心に神経を回して、集中を咎めていれば、今の攻撃を避けることは出来たはず。完全に防ぐことは出来なかったとしてもだ。



「少し本気を出しただけで、このザマか?沖遼介よ。 」


ーー背後。

刹那に背後へ現れた獅子王の攻撃をしゃがんで回避するが、読まれていたのか。

ローキックが腹部へめり込んで、壁を突き破りながら、隣の教室まで吹っ飛ばされてしまう。

更に追い討ちをかける為、加速して、沖の肩を狙い、矛先を放った。

今、この瞬間、このタイミングで、沖遼介が肩に致命傷を与えられたなら、今までのような反射神経に任せた戦い方が出来なくなると悟ったからだ。




ーーだが、この攻撃は峰を刀身に滑らせて、軌道を外させる技術力に圧倒されて、剣が壁に突き刺さった。

斬れ味の良さが仇となった獅子王の剣は、壁に、のめり込んで力では引き抜けない状態にとなる。


今が勝機!と言わんばかりか、沖は地面に落とした剣を素早く掴み取り、相手の肩を突き刺した。

相手が沖を活動不能に陥らせる為にはどうすれば良いのか、何が一番手っ取り早いのかを考え、編み出した正解式の実行。

先に肩を突き刺し、致命傷を与えられたのは、沖遼介の方だった。



「ぐっ……!! 」


「お前の右肩これで使えないんじゃねえの? 」


煽り口調で口を開く沖だが、顔を歪めずに痛みに耐えている獅子王を見て、その我慢強さに圧倒される。

肩に剣が突き刺されば、歪んだ顔の一つや二つ、見ることが出来ると思ったのに、彼はしなかった。


寧ろ、茶色い瞳の奥に闘争心の炎が滾り、この状況を楽しんでいるかのように見える。



「……終わりだ。 」


肩に突き刺さった剣の刀身を右手で掴み、右腕に全神経を注ぎ込む獅子王。

彼の腕の血管、筋肉は浮き出てて、腕の太さが通常の倍以上に。


「……ま、まさか!? 」



ーーその、まさかだった。

鋼鉄が折れる"パキンッ"という高い音がして、沖の持つ剣の刀身は根元から断絶される。

剣を素手で握り潰す握力に、刀身を握っても斬れない皮膚の硬さ、獅子王の強さは沖の予想を遥かに超え、常軌を逸していた。



「一度剣を折られた剣士は、戦いを恐れて慄き、満足な戦いが出来なくなる。 」


壁から勢いよく引き抜いた剣の矛先を素早く、首元へ突きつける。


為すすべもなく、防ぐことも出来ない沖は、こんな状況の中で考え事をしていた。

一つだけこの状況を打破する方法がある、でも、賭けでしかない。


賭けでも、やらなければ勝てない。


《赤鬼》ーー、

沖遼介は突きつけられた刀身を平然とした表情で微笑みながら、握るのだった。



第八十八話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は剣士同士の戦いとなりました。

剣術に於ける差は大してないものの、体格差と運動の神経力で大きな差がある沖と獅子王。

二人の勝負の行方はどうなるんでしょうね……。


それでは次回予告です!


絶体絶命の沖は、とある策を講じることを決意。

だが、それは賭けでしかない。

でも、やらなければ勝つことは出来ない。

沖が講じる絶体絶命の状況を打破する策とはーー!?


次回もお楽しみに!


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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