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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
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第八十七話 始動する三つの影

遅くなりましたー!

KMC最高管理者、柳瀬刀道(やなせとうどう)を主柱として動き始めるKMC上位幹部六人。

求めるのは《革命派(レジスタンス)》殲滅の徹底。


学園に降り立った刀道が本校舎3階、三年生の教室のある階の廊下を歩いていると、目の前に、黒い髪をストレートに伸ばし、漆喰な双眸で刀道の顔を捉えながら壁に背中を任せ、妖艶に笑う少年が一人現れて口を開いた。



「柳瀬さん、焦り始めたんですか? 」


少年の余裕のある表情と口調に、刀道は眉をしかめる。

寧ろ、少年が焦るべき立場であることを忘れて欲しくはなかった。


「焦りとは面白いことを言うんだな、早乙女君。私はただ、君達の失態の尻拭いをしてやろうとしているだけだ。 」


「……ああ、連帯責任でしたね。でも、子供の喧嘩に大人が出てきてはいけませんよ。後少し、黙って見ててもらっても良いですかね? 」


威圧的な口調と言葉が手向けられると同時に、場の空気が一瞬で変化する。

静寂に包まれていた廊下は、殺戮とした雰囲気、それでいて未だ冷静を欠くことが無く、相手を分析する強みを持つ早乙女の領域となった。



「私に力を向けるとは……ふっ、良いだろう。待ってやる。直ぐに《革命派》を殲滅するんだ。良いな? 」


「俺を誰だと思ってるんですか?任せてください、一瞬で片付けます。 」


早乙女の言葉に安堵したのか、刀道は口元を歪め、その場から消滅。

亜光速移動で学園の外、結界のある門の前に瞬間転移した。



「ふぅ……学園長様はセッカチだね〜。一二三も獅子王もそろそろ行くよ。目的地は、二年教室前かなっ! 」


早乙女の声に重い腰を上げ、紫と赤の獅子が描かれた鞘を掴んだ獅子王は、何処か先の見えない場所に視線を移し、悟ったような表情で深く溜息を吐いた。


真剣に並んでいる様子の獅子王とは、裏腹に一二三は能天気に欠伸をしながら、腕を上に伸ばしている。


三人は自分達以外の生存者、《正義派》の一人の元へ向かうべく、歩き始めた。






ーーその頃、二年教室前廊下では。

沖と黒が《正義派》の一人の殲滅に成功し、床に腰を下ろして、汗と血を袖口で拭っていた。

今回の相手の武器が銃器や刃物ではなく、弓矢だった為、銃器のような連射を恐れる必要さえないが、絶妙なタイミングで放ってくる弓矢を避けるのは至難で、繰り出される火力は著しく強いものだった。


それに、携えたAWは自身の魔力を強化する系統の力を秘めた武器。

迂闊に攻撃するわけにもいかず、防戦が続いていたが、決定打になる一撃を沖が放ったことで敵は一瞬の隙を見せてしまう。

その隙を黒が、すかさず奪い取り、見事勝利を収めたのだ。



「……一人なら勝てる相手じゃなかったが、俺ら二人なら勝てない相手は居ねえな! 」


「あははは!それはそうだけど、黒っていつの間に、そんなキャラになったんだよ。毒舌キャラってイメージだったけど? 」


黒の言葉に意外そうに笑う沖。

沖も沖で、自分の剣に付いてこれる存在が現れて嬉しかったのだ。

学園に入り、剣豪と呼ばれ、挑んできた刀剣を破った数は未だ知れず。

苦戦した相手も中には居たが、黒のように勝てるかも未知数な人物は一人として居なかったからだ。



「アレは迎えてくれたお前を含めて全員をまだ信用してなかっただけだ!今は……」


「今は? 」


「……っ!うるせえ!この話は終わりだ! 」


顔を真っ赤に赤らめて、そっぽを向く黒。

大親友のような絡み合いをしていた二人は、一瞬で場の空気が何者かに支配されたことに気がつく。

強く未知数な相手の魔力が個体で三体。それが《正義派》所属の人物であることに何の疑いもなかった。


けれど、さっき倒した弓使い、最初に交戦した風見涼と比べて明らかに異常な力の差を感じる。



"まさか?"と沖が疑問を浮かべた直後。



凄まじい速度で伸びてきた一人の少年の足が沖の眉間に迫った。

だが、沖は、持ち前の反射神経で鞘から剣を抜き、峰で少年の踵を受け止めた。

受け止めた反動で周囲に微量の衝撃波が放たれ、空気を揺らす。



「へぇ?今の見切れちゃうんだね〜? 」


「……お前、何者だ! 」


沖の問いかけに、

右足を上げて、峰に力を注ぎ込み続ける少年は、天然パーマで金色の髪を人差し指に巻きつけて、余裕げな表情で笑った。

ギリギリと睨みつけ、柄を強く握りしめる。



「俺のことなんかどうでも良くない?てか、君、獅子王が探してたヤツじゃん?ねえ、獅子王? 」


後から遅れて歩いてきた二人に横目で視線を送る少年。

少年の背後には、屈強な身体と鋭い眼差しを秘めた真剣な表情の男と、優しそうな表情の黒髪の少年が立っていた。


男の持つ刀の鞘には、咆える獅子が紫と赤で描かれている。

外見だけでも、刀の持つ力の異常さに思わず二度見をしてしまう。



「沖家の生き残りか。一二三(ひふみ)、それは俺の相手だ。お前はそっちの黒い方にしとけ! 」


威圧的な態度と、咆える声はまさに獅子。

歴代最強剣士として謳われ続ける獅子王の名は伊達ではないようだ。


「おー、こわ。いいよ別に〜!俺は戦えりゃ、それでいいからね。 」


一二三と呼ばれた金髪の少年は、足を下げて一歩後退した。

獅子王慶吾が先頭に出て、沖に強い眼差しを向ける。



「私は獅子王家9代目当主、獅子王慶吾だ。貴様と一戦交えたいと心から願っていた。武士道を語り合おうぞ!! 」


「……俺は沖遼介。《平和派(ジャスティス)》の侍だ。負けねえよ、そう簡単にはなッ! 」


二年教室前の廊下では、沖VS獅子王。

二人の剣士による猛者同士の対決の火蓋が切って落とされた。




「んじゃ、ここだと邪魔になるだろうからお前、移動するよ? 」


「ああ、さっさとやろうぜ! 」



移動する予定の場所は校舎内でカップル達に絶大な人気を集めている中庭。

木製の長椅子が門に四つ置かれ、陽の当たるスペースと影が当たりやすいスペースで絶妙に分けられているこの場所は、普段、休み時間であればカップルが占領しているが、授業中は黒の大好きな昼寝スポットとなっていた。


二人の戦闘狂は今、拳と剣を合わせる。

"戦闘"という快楽を得る為の存在の為に、振るい、壊す。永遠に繰り返されるコトだ。




ーー獅子王と沖はその頃。

二人はじっと動かずに集中力だけを咎めて、鞘から剣を抜かなかった。相手の出方を詮索し、自分の一手を決める為だ。


「獅子王って力で敵をねじ伏せるイメージだけど、分析とかするんだな? 」


「この程度のことはするだろう? 」


「それは違いねえ……! 」


獅子王が無駄話と感じ、一瞬の威圧で話すことを皆無とすると、沖は黙って集中に徹する。

獅子王慶吾ーー、ただならぬ威圧力と感じられる魔力の塊、それは《魔源の首飾り(アミュレット)》を所持している証拠だった。



「成る程……さて、行くとするか。 」


深々と頷き、沖の間合いに自らの足を踏み入れる獅子王。

その瞬間、自分の間合いに置ける集中を一切途切らせず、咎め続けた沖の刀剣の刃が獅子王の右足を捉える。

ーーが、獅子王の鞘に遮られてしまった。



「……防戦一方、なかなか試合が進まないな。 」


「ふんっ!中々やるようだな、そうでなくてはーー」


激しい剣戟で空気は切り裂かれ、金属の燃えた臭いが鼻をつく。

火花は飛び散り、金属音は響き渡った。

戦いの行方は未だ、誰にも知る由さえない。







ーーポタポタと地面に水滴を垂らしながら、ずぶ濡れで泣き噦る水色の髪の少女は、《平和派》の拠点、秘密部屋の入り口を跨いだ。


視界は眩み、殆ど見えていない。

風邪でも引いたのか、身体が全体的に熱く、皮膚が敏感に寒さを感じる。

顔を真っ赤に赤らめる彼女を出迎えた風見は、何事かと驚いて、泣き噦る鳴神へ毛布を掛けた。



「……茜の傷の手当てを!纏ちゃん! 」


「嗚呼、分かってるよ。それよりも先に身体を温めねえとな。店長、暖かいミルクとかもってこい! 」


床に寝かしつけ、彼女の様子を見る風見。

明らかに何かがおかしい、いつも元気で明るい振る舞いをする鳴神茜がここまで衰弱し、尚且つ、無言なんてことは。


纏に言われて、暖かいミルクをマグカップに入れて持ってきた店長は、哀しげな表情で纏へ声をかける。



「傷は深いのか? 」


「特にこれだけの状況を生み出すような決定打になる一撃は喰らってないようだよ。精神的な問題だろうね。 」


一言として話そうとしない鳴神。

流石の風見も我慢が尽きたのか、真剣な表情で店長の方を向き、深々と頷いた。


"まさか?"


風見以外の二人の疑問が重なった。

勿論、そのまさかだ。

風見蓮の魔法は、《六神通》。心を読み、対象の経験した事、記憶も視ることの出来る力だ。


基本的に敵相手に分析を兼ねて、使うことが多い技につき、仲間に使用することさえ少ないが、今はそうも言ってられそうにない。



「……ごめんね、ちょっと視るだけだから……!! 」


顎を掴んで、無理矢理、上を向かせる。

《六神通》の基本として、対象の瞳と自分の瞳を合わせる必要がある為だ。

風見は、鳴神の瞳を凝視して、

何が起きたのかを探るべく、魔法に徹した。




ーー風見の瞳に飛び込んで来たのは絶望。

目の前で大切な人が、轟音が、真っ白い小さな結晶となって消滅する様。

どうしてそういう結末になったかまで、しっかりと鮮明に瞳へ焼き付けられた。


「……うっ、うぅ……」


「か、風見!?ど、どうした!! 」


風見の瞳から溢れんばかりの大粒の涙が溢れ落ちる。ポロポロと地面を濡らし、口元を上に引きつらせ、涙を我慢しようとするが、我慢が出来ることではなかった。



「……轟音ちゃんが……死、死んだぁぁぁ、ぁっっ、んん、うぅっ……」


「……っ!! 」


"嘘だろ?"と聞き返すことは、風見が流す涙を理由に、意味をなさなくなった。

纏も店長も涙より先に思考が一旦停止する。

"轟音が死んだ?"


ーー思考速度は低下し、何も考えられなくなる。何せ、仲間が死んだとリーダーが言ったのだから当然。


ふと、鳴神の懐から凝縮された魔力の球体がふわりと浮かび上がった。

それは、シャボン玉のようにぷかぷかと浮いて、右や左に乱れて飛ぶ。



「……な、何アレ……!! 」



すると、球体が音を立てて弾け割れた。

中から膨大な音の魔力が流れ出し、まるでそれが当たり前かのように、声が聞こえ始める。



ーー語り口調で飛び込んで来たのは、

轟音が生前、言い残した言葉。

口には出せない。けれど、何か、伝える方法を探すしか道はない。


彼は、心の中で自分の考えていることを魔力によって具現化し、声として球体が割れた瞬間に届けたい人に届くよう、仕込んで置くことを決意したのだ。

柳瀬刀道とその部下に取り囲まれた瞬間に押したスイッチは、空気中の音を爆発させるためだけの物ではなかった。


空中で放心状態の鳴神を抱き抱えながら、服の中に球体を入れて、隠した。

鳴神は自分を失っても、きっと、《平和派》の皆を頼りにするだろうと……。



「……《平和派》の皆、ごめんな。この学園に入って、馬鹿なことをやって楽しんで、辛い時、一緒に支え合ってくれた仲間に俺は感謝を告げたい。ありがとう!そして、サヨナラ。《平和》を守ってくれ! 」


短い言葉だったけれど、その場にいた全員に轟音が伝えたかったことは伝わった。

轟音の為に必死に戦おう。悔いを残さないように、ガムシャラで無我夢中に。


だが、哀しさは嘘をつけない。

涙は我慢しても、溜まっていくだけ。


完全に止めることなんて、出来ない。


《平和派》の秘密拠点内は、

外で降り注ぐ雷雨の様に、激しく、悲しく、寂しく、涙が降り注いだのだった。



第八十七話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


遅くなりました。

今回もまだ轟音が関わってきました。


それでは次回予告です^^


遂に始動した、一二三、獅子王、早乙女の三人。


獅子王VS沖


二人の剣士は自分の信念を剣に捧げる。

交差する想い、力。二人の内、どちらに安寧が与えられるのかーー!?


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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