第八十五話 旋律の前奏曲(プレリュード)
遅くなりました。
ここの所、残業などで休日が全く無い!という状況に見舞われ、小説を書いてる余裕がありませんでした。
今回は少し短いですが、ご了承ください。
天を真っ二つに切り裂く雷鳴が、静寂に包まれた一つの教室で轟いた。
残酷にも表情一つ変えず、ずっとニコニコと笑顔を浮かべている同じ顔の少年少女へ、鳴神は、掌から魔力で具現化した威嚇程の威力しかない稲妻を走らせる。
「……ふふっ。 」
「ふふふっ。 」
二人は、全く同じ髪、金髪にして、瞳の色も青色と、二人が双子であることは、見ただけで分かった。
彼らは、クスクスと笑うだけで何もしてこない。
そもそも、出会ったのは数分前。
一つの教室で鳴神と轟音が休憩を行なっていると、変わらない表情で入って来るなり、面白そうに口を開いたのだ。
「……貴方達が《革命派》? 」
「そうなら、今ここで死んでもらうよっ! 」
屈託のない笑顔で残酷な言葉を紡ぐ二人に、最初は驚くだけだったが、彼らから発される圧倒的な魔力量に鳴神と轟音は確信した。
この二人が倒すべき目標、《正義派》なのだと。
そして、現在に至るわけだ。
鳴神の雷鳴轟く稲妻を笑顔でスルリとすり抜けるように捌き避けて、攻撃はしてこない。
完全に遊ばれているような感じがして、二人の頭に血がのぼる。
「……クッソ、完全に遊ばれてんな!! 」
「ありゃ、馬鹿でも、分かるんだね。 」
金髪の少年は煽り口調で巫山戯て笑う。
その言葉に怒りを強める二人だが、同時に心の中で冷静さを忘れていなかった。
戦闘の中で煽り文句は立派な策略。
引っ掛かれば最後。冷静さを欠いて、己を失い、いつも通りの戦いに持ち込むのは不可能と言える。
一部を除き、だが……。
「雷の鳴神、現当主は凄い魔法師だと思うけど、その娘は三人。末っ子の茜さんは、そんなに強くないよね? 」
金髪の少女は、鳴神茜の個人情報をスラスラとカンペを読むかのように並べた。
鳴神は自分のことを理解している相手に動揺して、冷や汗を流す。
有名な魔法師の名家ともなれば、相手に情報がバレているのは仕方のないこと。
然し、最後の方は彼女にとって聞き捨てのならないものだった。
"三姉妹の中で最も弱い"という言葉だ。
「……あんたが何を知っているかなんかどうでもいい。けどね、私が一番弱い?そんなこと、絶対に無いんだから!! 」
急激な魔力上昇。
怒りと悔しさに満ちた感情が爆発し、顔を真っ赤に染めて、殺気を生み出した。
魔力上昇による小さな衝撃が空気を揺らし、相手二人の髪をゆらゆらと靡かせる。
「へー、怖い怖い。 」
「カナト、怖がってないじゃん。私の方が死ぬほど怖がってんだけど〜 」
「はぁ?カナのが怖がってないだろ? 」
「雷が地に勝てるわけないしね。 」
二人で適当な会話を繰り広げていると、激昂した鳴神が雷光を轟かせ、少年ーー、カナトの背後へ回り込み、首元へ回し蹴りを放つ。
だが、蹴りは首に届くギリギリのラインで、彼の右手首によって遮られてしまった。
「……見えてないとでも思ったの? 」
「きゃっ……! 」
瞬時に左手で鳴神の足を掴むと、大きく振り回して地面に叩きつける。
仰向けで背中を打ち、尻餅をついていると、地面から無数の手が出現し、彼女の身体を縛り付けた。
轟音の足も掴まれてしまい、身動きの取れない状況へ。
「名前を名乗るの忘れてたね。私は緑野華奈。 」
「俺は緑野華奈斗。この苗字は聞いたことあるよね? 」
緑野。と言えば、砂、岩、土、などの自然物を利用する造形魔法を得意とする、魔法師名家の一つ。
"地の緑野"で有名にして、今では最も廃れた名家だ。
名家を継ぐ者が二人以外におらず、二人は実力で次期当主を勝ち取ったというよりは、人数の少なさで強制的、自動的に選ばれただけだった。
「廃れた名家……!! 」
二人は、鳴神の言葉に一瞬、目を見開いて激昂した表情を見せるが、その数秒後に大声を立てた。
「す、すっ、廃れた名家ねぇ。正直、外でどう呼ばれようがどうでもいいけど、今の状況分かってる? 」
「……分かってないのはどっちだよ。 」
「はぁ? 」
鳴神と轟音の身動きを取れなくして、勝利を確信していた二人は拍子抜けな声を出した。
当然、身動きが取れなくても魔法は使えるし、鳴神が抜け出すことは容易。
気づくことが出来なかった者の負けだ。
「……《起った音よ。旋律、音楽、音、全ては愛し愛されるべき!旋律の前奏曲》! 」
今まで発した発された"声"は蓄積され、
密度の高い魔法を創り出す糧となった。
前奏曲は、曲の雰囲気を最初に感じる最も大切な部分にして、美しく華やかな音楽。
轟音の憧れの人物は、
《戦場の歌姫》。
自分が攻撃特化ではない魔法を生まれ持ったことに自信がなかった時、彼女の存在を知って勇気を貰えたのだ。
いつか、戦場で自分の奏でる歌で、音で、音楽で、アビスを駆逐し、平和の旋律を紡ぎたいと心から願っている。
だが、全てに平和の旋律を届けるのは、
今ではまだまだ先の話。
ーーならば、今は!
たった一人の親愛なる女性に届けばそれでいい。
彼の願いは当然ながら、届いた。
固められた岩の枷が外れ、地面から腰を上げる一人の少女。
目に見えるほどの膨大な魔力を纏い、稲妻を周囲に走らせてバチバチと火花を散らしながら空気を焦がす。
水色の綺麗な髪はゆらゆらと揺れ、黄色い宝玉の瞳には奥底から滾る雷が二人を見据えた。
「今の音でここまでの強化!あの弱そうな男は何をしたの?! 」
「カナ、考えてる暇はないようだよ。勝負に集中しーー 」
カナトは数メートル先に吹っ飛ばされ、机と椅子を巻き込みながら教室の壁を突き破って、隣の隣の隣の教室まで飛ばされた。
あまりに突然で、反応すら出来ない、させてもらえない速度で繰り出される蹴りは、カナトの意識も飛ばした。
白目を剥き出して、仰向けに転がっている。
「カナトッッ……!?やっ、やぁっ!! 」
カナトの心配をしている暇もなく、鳴神は二人目に猛追を繰り出す。速度が篭り、重みの乗った蹴りは彼女の眉間へ迫った。
だが、緑野は廃れた名家。されど、魔法師の名家であることは変わらない。
僅か0.1秒で絞り出された奇跡の岩壁で軌道が変わり、カナはかすり傷程度で済んだ。
「はぁっ、はぁ……最初から余裕かますんじゃなかった。私にはコレがある。 」
徐ろに取り出した一丁の拳銃を自分の頭に突きつけて、ニッコリと微笑む。
コレには流石の鳴神も轟音も表情を変えて、驚いた。
「……カナトの敵!討ってみせる!! 」
ーーパァンッ!
破裂した小さな爆発音が周囲に響き、
彼女の頭には銃弾が突き刺さった。
普通であれば、鮮血を流しながら倒れていくのだが、寧ろ、膨大な魔力が銃弾から流し込まれ、受けた傷が回復しているよう。
であれば、あの拳銃はAWか。
「……あまりこの武器には頼りたくなかったけど、案の定、出し惜しみしてる余裕はなさそうだったからねえ。 」
明らかに先程とは別人レベルの魔力量。
何のアビスの力を受け継いだのか、明確な答えはハッキリと分からないが、強くなって戻ってきたのは事実。
眉を細め、鳴神は構えの体勢に入った。今ここで何も考えず、自分の力に過信して突っ込むのは得策とは言えない。
相手の実力を見ることさえできれば、その後の判断で相手に対する対応も変わるからだ。
カナは圧倒的魔力量で微々たる魔力を消費し、自分の残り上限回数、42回の内、2回を消費して武器生成を試みる。
回数二回消費分の武器は、
とても大きく刀身の長い鉾となった。
大太刀。
彼女の刀身の届く範囲は、
絶対に安寧を保つことは出来ない。
相手の力量を測る為、動こうとしない鳴神に、巨大な白刃の剣が迫るのだった。
第八十五話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
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@sirokurosan2580
新年早々に上げたかったのですが、無理でした。
今回は、あまり書かれることの少ない二人のお話。
それでは、次回予告行きますよ?
轟音の旋律の前奏曲で強化された鳴神だったが、相手のカナがAWを使用し、与えていたダメージも綺麗に回復されてしまう。さらに回数二回消費の武器生成で、《革命派》の二人は追い詰められるが?!
次回もお楽しみに!!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




