表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
85/220

第八十四話 瞋恚の炎

遅くなりましたー。

宛ら、白刃は虹を()いて陽光を斬り、翡翠色の刀身が流水のように鋭く光った。

煌めく刀身に視線を当ててはならないことは、星崎が使用した二都の剣で予習済み。


もし、効果も同じ剣なら夜十には効かない。

彼にとって大きな弱みである過去に対し、夜十自身が弱みだと思っていないからである。

過去を振り向かず、今を生きる。

それが、冴島夜十の信念の根源だ。



「……夜十、ここは俺にやらせろ。お前は引っ込んでてくれ! 」


「えっ、あぁ……了解。死ぬなよ。 」


真剣な眼差しで前に出る火炎。

二都翔太の幻術を見せる刀身を見ずに、もう一つの武器であるAW(アビスウェポン)を警戒して迂闊に懐に入り込まない姿勢。


学園に入った頃から、常に本気で戦ったことはなかった。

記憶や行動の操作によって、欠落していた部分は大きかったが、其れでも、《反射魔法》を発動して待っておけば、敵は容易く倒れて行った。


でも、今はそんな戦い方はしない。

"朝日奈"に向き合うことを決めたのだ。


今更、家に戻っても、現当主の焔に追い返される可能性は極めて高い。

されど、向き合わずして認めてもらうことなど不可能だ。


だから、火炎はゆっくりでもいい。

自分のペースで向き合いたいと願う。



「一人でって余裕かよ、俺が戦いたいのは冴島夜十の方だ!雑魚は引っ込んでろ! 」


詠唱破棄(レヴァケーション)。魔法を放つ為の大切な部分を破棄し、一気に魔法へ持ち込む技。

ソレを行うだけでも、著しく量の多い消費を必要とするのにも関わらず、二都は何の躊躇いもなく行った。


稲妻を纏い、バチバチと空気を切り裂き、焦がしながら火炎の眉間へ疾る銃弾を放つ。

速度も威力も充分。当たってくれさえすれば、動きを止めることは出来る。

大抵の場合、心臓に走る電撃のダメージで心肺停止になることが多い。


どう避けるか、二都翔太は火炎の様子を伺っていた。



ーーけれど、一ミリも動かずして、

二都の放った弾丸に視線を向ける。



「笑わせんなよ!今避けたって間に合わねえ! 」


当たるのは確実。二都は勝利を確信していた。雑魚と認識している人物を倒しても、何の楽しみもないが、目標の冴島夜十と戦える喜びに満ち溢れーー、



「避ける?何言ってんだよオマエ……」


湧き上がる熱、目に見える魔力。

経ったひと時の熱で、二都の放った渾身の弾丸は消滅し、灰が地面に散る。



「……なっ!? 」


ーー瞬刻。

朝日奈火炎は勝負を決める一手、詠唱を素早く口走る。


「……《朝日奈の名の下に、流れる水が如きで、滞りなく流れろ!瞋恚の炎(フラン・コレール)!》 」


緋色の六芒星の魔法陣が火炎の背後へ無数に展開されると、空気をも焦がす炎が滾る。

怒りの感情、瞋恚。

今までを朝日奈火炎の強者としての道とするならば、今からを弱者として、戦う全ての敵に敬意を払うこと、それが今日から、彼の信念に基づくものとなる。



「……な、何だこの魔力は……! 」


二都は目の前で展開された陣に恐れをなして動作が鈍った。その綻びを、今の火炎が逃すわけがない。




ーー刹那。

彼の背後に展開された全ての陣から、炎の球体が凍てつく流水のように流れ襲い、二都へ当たった瞬間に弾け、一つ一つが巨大な炎の柱へと変化した。



「……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」



焦げた空気の匂いが鼻をつき、二都翔太はAWを展開する暇も無く、散ってしまった。



白いワイシャツの一番上のボタンと、赤い無地のネクタイを、曲げた人差し指で緩めて、彼は一息つく。



今までずっと逃げて来た名家の誇りを、確実に取り戻した瞬間だった。







ーーその頃、ミクル & 燈火ペアは、

一年生の教室を玄関側から奥へ進んだ方、男子寮のある階の探索をしていた。

二人共、俯いて、一言も話そうとしない。



「……」


「……」


無言が続き、ミクルが窮屈に思い始めた。

何か話したい、けれど、話題がない。

それに、ミクルにとって燈火は恋敵も同然の中。

夜十の想いが燈火へ傾いてしまっている以上は勝敗など目に見えるが、当然、簡単には諦められない。

それが、ミクル・ソネーチカ。

誰よりも負けず嫌いの女の子だ。



「……朝日奈燈火さん? 」


勇気を振り絞り、顔を覗き込むようにして声をかけた。

燈火は、疑問を浮かべた表情で応える。



「え?あ、はい。 」


「私、夜十とずっと一緒に居たんです。だから、その……まだ譲る気とか無いです。 」


顔を真っ赤に腫らせて、呟いた。

ミクルの想いは届かなかった。それでも、負けたくは無い。

純情な感情、好きっていう気持ち。

学園で出会ったばかりの少女には負けたくないという嫉妬心からくる憎悪。

それら全てをーー、



「……長い間一緒に居たとかそういうのは関係ないと思うよ。ミクルちゃんも可愛いけど、私と夜十はそういうので繋がったわけじゃないから。それに……」


燈火は、無に帰すよう、笑顔で受け応える。


「初めてだったから、朝日奈って名前に何の反応も見せなかった人。私は夜十が大切だから、今、生きてられる。私の生きる理由は夜十、夜十の生きる理由は私。そうやって繋がってるんだよ。 」


直球な笑顔。単純に恋愛沙汰の話で、

彼らが付き合ったのだと知らなかったミクルは、不思議な気持ちになった。

夜十を奪いたいのに、それも申し訳ないと思う気持ち。


あやふやになって、思わず、瞳から涙が落ちる。



「えっ、……ミクルさん、大丈夫? 」


「……そんな笑顔で話されたらぁぁ、突っかかれないじゃん!!も、もういいよ! 」


訳が分からなくなった。

涙が出た理由も、諦めてしまった理由も。

けれど、悪い気はしなかった。

夜十を諦められたからかもしれない。



「燈火さんって、そういう清楚系女子なの!?てか、天然? 」


「ええ、天然じゃないよ!どちらかと言えば、ミクルさんと同じタイプかな? 」


「質問を質問で返さないでよーっ!! 」


凍り付いていた空気が澄んで、流れる。

ミクルは自分の想いに終止符を打てて、燈火は改めて夜十がどれだけ様々な人に想われているかを確信出来た。


お互いに気持ちの整理はついたよう。

これで、どんな時に敵が来ても、

臨機応変な対応は出来る。



「……くくく、美少女が二人!俺氏、大感激でござるよ! 」


男子寮のとある部屋に閉じこもっている一人の男子高校生。

少年は制服を身につけず、赤いチェックのシャツを青色のパツパツした長ズボンの中へ入れて、頭には緑のバンダナ、薄汚れた眼鏡をしている。

彼の部屋は薄暗く、白いディスプレイだけが部屋唯一の灯火。


ディスプレイの中には二次元のキャラクターがエロティックなポーズをしつつ、笑顔の画像が壁紙として使用されており、机の上には使い捨ての丸まったティッシュが置いてある。


「デュフフフフフフ!!これは完璧でござるよ、あの二人、手に入れたいでござる! 」


少年は壁越しに持っていた拳銃を取り出すと、銃口をしっかりと狙いを定めて、燈火の眉間へ放った。

小さな爆発音が辺り一帯に響き、少年はサプレッサーをつけるのを忘れたのを悔やんで、頭を抱えた。



「……ねえ、気づいてないとでも思ってたの?え、この部屋くさっ……」


少年の背後に現れたのは、廊下を歩いていたはずの二人だった。

親指と人差し指で鼻をつまみながら、しかめっ面で睨みつける二人の視線に、驚き、驚愕した少年は扉に手をかけて、二人との距離を置こうと後退する。


だがーー、


「逃げられる訳ないじゃん。この辺りの空間は全て掌握済み。今、アンタが何かをしようとしても私には全てお見通し。 」


「ぶほほほほほ、笑わせるなぁっ!俺氏だって、魔法使えるでござる! 」


一気に距離を取ったはずが、目の前の金髪の少女は消滅し、背後に現れて、後頭部へ蹴りが入る。

自分の身長よりも低い相手のハイキックは思いの外、頭というより、首へ入ったことで一瞬、意識が朦朧となった。



「……燈火さん、行くよ! 」


「……《燃え滾れ、烈火!綻べ!松明花(ベルガモット)!》 」


右掌から真っ直ぐに発された炎は、湾曲もせず、ただただ敵を穿とうと走る。


「……ふっ、そんなの効かないでござる! 」


真正面に迫る炎に、何一つ動揺せず、屈指もしない姿に二人は確信し、お互いの顔を見つめあって深く頷いた。



「はぁぁぁぁぁあ!! 」


燈火は、大きく一歩踏み込んで加速。

紅蓮に咲き誇る炎の最高到達点に達すると、炎と燈火は一瞬でその場から消滅した。

男は疑問に思い、慌てふためき、右や左をキョロキョロと見ては、落ち着きがない様子。



「……一気にココで終わらせる!! 」


男が一番警戒した右、左サイドではなく、燈火は空間の中をミクルと共に亜光速で移動し、男の頭上に現れると、拳を強く握って、大きく振り下ろした。


放った炎が纏われた烈火の拳は、接触時、男に熱と痛みを与え、周囲の常温の空気を焼き焦がして、男の気を失わせた。

地面に転がった相手の右手首を触れて、脈を確認する。




ーー大丈夫。脈がある。



気絶しただけなのだと確信して、彼女は胸を撫で下ろした。


学園が変わって、他人を殺す、痛めつけるなどの行為は不当な行いであることが確立された。

それが当たり前で育ってきた燈火には、今のルールに疑問を覚えることはないが、もし、人の命を奪うことが、この環境のせいで当たり前になってしまっているなら、自分を全力で変えたい。殴り飛ばしてでも。


それは、自分に関わらず、

大切な友人だったとしても同じだ。




「燈火さん、ちゃん付けで呼んでもいいかな? 」


ミクルは不安浮かべて、口を開く。



「あっ、いいよいいよ。私も呼んでもいいかな? 」


「うん、だいじょーぶちゃーん! 」


二人は恋敵。

でも、友人。

これは夜十を挟んで巻き起こった友人関係だけれど、きっと、簡単に裂かれるものではないだろう。




第八十四話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は火炎の決意の表れみたいな感じで、

ここから火炎君は反射魔法ではなく炎魔法メインになります。朝日奈焔との対面もある予定です^^


それでは次回予告行ってみましょー!


鳴神&轟音ペア、黒&沖ペアに立ちはだかる敵。

さて、勝負の行方は!?


次回もお楽しみに!


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ