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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
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第八十二話 死人の慰め

遅くなりました。新作も順々に設定を練り練り中です。


物理攻撃が効かず、発した問いかけに対して答えて仕舞えば、身体が石のように硬直する魔法を用いる風見涼は、風見蓮の実の妹であり、現在は《正義派》第六柱である。


第十柱の久我祐一は夜十によって息の根を止められたが、残るは涼を含めて九人もいるのだ。

圧倒的不利な状態で、巻き返す為には、必要な戦力源の治癒が最優先。


虹色吹雪が今から行う消費回数十回の大技は、この学園全ての生徒達を解放するコト。

それは、誰も、なし得ない奇跡と同じ。

もし、運命という歯車に乗せられるなら、乗せる人物は、学園の奪還を望む者達だ。



「……絶対に護る。私が流藤と出会った、この大切な場所を簡単には壊させない!此処には、アイツが残ってるんだ。アイツの全てが残ってるんだから……!! 」


身体から絞り出した魔力を掌で収束。

勢いよく解き放った。


ーー瞬間。

学園全てが静寂、一つの色に染まる。

一度に十回分の魔力を消費するということはつまり、身体には相当な負担が加わる。

下手すれば死にだって至るかもしれない。


けれど、彼女は死さえ恐れない。



「はぁっ、はぁ……はぁ、五回消費しただけでこんだけの疲労、あと五回消費したら……!!そ、それでも、護れる未来があるなら私は自分を費やす!! 」


使用予定全ての魔力を放出し、学園中、自分の領域(テリトリー)を思いのままに作り変える。

KMCが開発した足枷、味方と思われる生徒達全ての魔力、疲労、傷の回復。

クロの瞳の前に存在するナイフを涼の眼球に突き刺した。

勿論、止まった時の中では血液すら流れない。発泡スチロールにナイフを差し込んだような感覚だけが手に残り、そう簡単に見た目だけでは気がつきようもない。



「……だ、ダメ。も、もう……!! 」


空間を解除しようとするが、その前に倒れてしまった。仰向けの体勢で目を瞑る。

自分は何もかもやり切った、後はーー、


ーー深く眠るだけ。

そんな時だった。声が聞こえたのは、



「オイ、虹色。お前はまだこっちに来るんじゃねえよ。 」


「……っ! 」


流藤の声が聞こえたのだ。

聞こえるはずもない声が聞こえたとなれば、いよいよ自分は死ぬのかもしれないのだと確信する。

けれど、声は次第に大きくなるばかり、


「お前、今、目を覚まさないと後悔すんぞ!それに、好きなんだろ?冴島のことをよ。 」


「……ち、違う!!私はあんたのことが……」


影も形も見えないが、表情が感じ取れた気がした。

流藤は、クスッと和かな笑顔を見せる。


「俺も好きだったよ。俺のことを好きでいてくれてありがとう。こっちでお前とまた笑えたらいいと思うけど、まだお前にはやることが残ってるだろ? 」


「……うぅ、わ、分かってるよ。流藤、こちらこそ、ありがとう。 」


その返答はなかった。でも、きっと流藤のことだから黙って笑ってくれたんだと思った。


虹色吹雪は、疲弊しきった体を叩き起こして、自分が今回やれることに終止符(ピリオド)を打つ。



「……死人が何をっ、ぐすっ……」


ーー《空間解放》

それは、一瞬。

全校生徒の足枷が外れ、疲弊しきった身体は万全の状態にまで回復する。


風見涼の眼球にナイフが突き刺さり、勢いで更に奥まで刀身が喰い込む。

一瞬のことで何もかもが理解出来ないと言った慌てふためく様子で、涼は溢れんばかりの涙を流し、顔面から体液を滞りなく流した。


「……っ!?な、なん、だっ?! 」


涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を下に向けて、彼女はナイフの柄を両手で握る。

そのまま引き抜けば、眼球はぐしゃぐしゃ。

治癒魔法でも上級クラスでなければ、直すことは難しいだろう。


「え、お、沖?! 」


風見も含め、沖は自分に何が起こっているのか、理解が出来なかった。

片目しか見えていなかったはずの右目が、一瞬で完治しているのだ。


ナイフが突き刺さり、瞳孔に切れ目が入っていたような跡さえない。

それに、身体の疲労感もゼロ。


自分の万全の状態にまで回復しきっていると言える。魔力の供給も完璧だ。

身体全体を滞りなく、魔力が流れている。

制服のズボンを捲り上げると、足枷は消滅していた。


すると、背後で重いモノが落下した音が聞こえる。虹色が倒れていた。

仰向けの体勢で倒れ、目が虚ろになっている彼女を見るからに、今この瞬間ーー、

傷の塞がりと魔力の供給、風見涼の眼球にナイフが突き刺さっていることから、


沖を含め、クロ、風見の三人は彼女のしてくれたことに確信した。根拠は無いが、疲弊しきって吐息を荒げている以上、何かをしてくれたことは間違いない。



「……成る程。やっぱり、今年の一年は私が見込んだだけのことはあるね。 」


「風見が獲得したかった一年生だもんな。残念ながら《平和派(ジャスティス)》には来なかったけど。」


苦笑しながら何気ない会話をする二人。

前よりも余裕が出てきたということだ。


「魔法が使えるなら学園を守ることだって、当たり前に出来る!さあ、私達の学園を返してもらうよ! 」


「……っ、ほざけ!雑魚があっ……!!こ、こんなもの! 」


風見涼は、眼球に奥まで突き刺さった刀身を必死な表情で、勢いよくーー、


ーー引き抜いた。


廊下に流れ落ちる血液は赤い絨毯のよう。

足取りがふらつくたびに、バシャバシャと血液の軽い飛沫が上がった。


「《正義派(ジャスティス)》の使命にかけて、こんなところで死ぬわけにはいかない! 」


「へぇ……?《正義派》に入れば、将来のことを約束してくれるってKMCに約束されてるんだね? 」


蓮は涼の考えを手中に収めながら嘲笑う。

"正義派に入れば、KMCは貴殿の思うままに学園を差し上げます。"

コレは契約の時の記憶だ。


六神通には、人の記憶を引き出すことも出来る力があり、激怒最中の風見蓮は、その力を使うことも厭わない。


「勝手に心を見るな。お前如きに私が分かってたまるか!死ね死ね死ね!! 」


「状況分かってる?追い詰められてるんだよ、涼。 」


ギリギリと歯を食い縛り、彼女は悔しげに握った拳を振り下ろす。拳は虚空を切り裂き、腰近くで停止した。



「うるさい!うるさいうるさい、うるさい!!殺す殺す殺す、風見蓮、おまーー」


暴言を吐き散らしながら、ゆっくりと歩みを進め始めた涼は、頭に血が上って周りを察知出来ていなかったのだろう。

魔力を込めた斬撃に近い状態の刀で両方向から、腹部を切り裂かれた。


「……いい加減、耳障りだ。俺の大好きな人をこれ以上汚すんじゃねえ! 」


怒りに満ち溢れた声、それも届いてはいなかった。切り裂かれた腹部から大量の血液を噴出し、彼女は絶命した。

命懸けの勝負で、家族の私情を持ち込むのは良くないことだとは分かっているが、それでもーー、


蓮には、とても悲しいことだった。

学園に入る時、屈託の無い笑顔で彼女は、

「行ってらっしゃい!お姉ちゃん! 」

と、送り出してくれた。


でも、二年の月日は残酷か。

いつの間にか、魔法師の深刻な人手不足のせいと、時代の流れによって、学園卒業をしていない風見涼は、アビスとの交戦をしなければならなくなってしまった。


その時、きっと思ったに違いない。

姉がいれば、姉だったのに。

私が何故、こんなに苦しまなければならないのかって。だからこそ風見は謝りたかった。


「ごめんね……涼。 」


小さく呟き、彼女の虚ろになった瞳を閉じる。合掌し、黙祷を捧げると虹色を抱えた沖を含め、三人は一度拠点へ戻ることにした。

魔力の供給が戻ったのであれば、纏の治癒魔法は健在、傷の手当てが出来る。



「……残り八人か。オイ、獅子王。KMCから貰った恩を忘れてないよな? 」


「忘れてはいない。ただ、私はこの力を使うべき人物なのか如何か分からないのだ。 」


廊下近くの階段で三人の男達が会話をしている。今の風見涼の最後を見ていたようだ。

けれど、彼らには仲間意識なんてものは存在せず、あるのはKMCに対する忠誠。


「獅子王がもし死んだら、剣術の名門家、御三家が消滅したも同然ジャン。そしたら、クソ笑えるんだケド! 」


「……笑えない。生き残る為には剣を抜くしかないのか。私には……」


三人の魔力は何処と無く静かで、膨大。

圧縮し、小さく小さく見せている為か、誰にも感じ取られはしないが、間違いなく強いことは分かる。


「まあ、俺らが出る幕も無かったら終わりだがな。あと五人、どうやって倒すか、《革命派》に軽く期待しておこうか。 」


三人はその場から空気に溶け込むかのように消滅した。








「纏ちゃぁぁぁん!!!纏ちゃんの治癒魔法さいっこううううう!! 」


「うるせええええええええ!」


再会して二秒で怒鳴り声を浴びながら、顔面に蹴りを食らった風見は防御障壁に包まれて、静止する。

虹色吹雪の活躍により、《革命派》全員の魔力供給は戻り、戦況も大分有利になった。


現在は、拠点にて纏が虹色の治癒を務めている次第だ。


「コレで皆、揃ったわけだね。夜十君達が戻ってきたら敵の《正義派》の情報整理を行うとするかな。夜十君達に連絡取れる? 」










風見に呼び出された夜十達は、ミクルの空間魔法で亜光速に移動し、拠点の中へ忍ぶ。

狭い空間の中で、虹色が横たわり、白い毛布をかけられて眠っていた。


到着早々、運が悪かったのか、運命なのか知らず、夜十は纏の目の前に突如として現れた。


「わあっ、びっくりさせんじゃねえよっ! 」



驚愕して反射的に下ろしていた腰を上げ、鋭い回し蹴りを夜十の眉間へ放つ。

だが、纏の放った斬撃のような蹴りは、常軌を逸した夜十の反射神経で、受け止められた。


「……っ、纏先輩、やめてください。医者としておかしい動きですよそれ……」


「お前が勝手に俺の前に出てくるからだろ!自業自得だよ、当たらなかったけど! 」


妙に悔しそうで、両歯を噛み締める。

ボソッと、「次は当てる」と呟いたが、夜十はわざと聞こえないフリで誤魔化した。



「纏ちゃん、夜十君相手に攻撃が当たるわけないじゃんー!何やってんの、ぷぷっ! 」


「うるせえなぁぁぁあああ!!お前なら確実に当たるわボケ! 」


煽り文句を並べ、笑い転げる風見。

場のリーダーなら、普通は一つのジョークでも言って場を和ませるのが統率者として欲しいものだったのだが、結果はーー、


「ちょっ!痛い!いたたたたた!! 」


あまり期待の出来ないリーダーだな。

その場に居た全員がそう思った。



「風見、それくらいにして、皆を集めた理由を教えてよ。この間にも、《正義派》の許せない行いは続いている。虹色の活躍で全校生徒の足枷は取れたんだろうけど、それでも安心は出来ない。 」


沖の瞳の中にある真っ直ぐな闘志は、瞳の中の滾る炎に燃え移り、場に威圧感を与える。

これには流石の風見も、纏を避けて全員の中心に入ると腰を下ろし、話し始めた。



「皆に集まってもらったのは、今後の目標、敵の情報整理を行う為だよ。先程、私の実の妹、風見涼を倒し、記憶の中にあった敵のデータを覗かせてもらった。中々、使えるモノばかりだから、今から説明するよ。 」


全員が首を縦に相槌を打つ。


「まず最初に、《正義派》ってのは、どうやら、KMCに対しての忠義だけで成り立っているようだよ。仲間意識ってのは元より存在しなくて、お互いが警戒してる感じ。 」


「次に、私達の目標についてだけど、《正義派》を全員倒せば、KMCの親玉はきっと出てくる。親玉を捕らえて人質にして仕舞えば、きっと夜十君達の所属している組織の軽い手助けにもなるはずだよね。 」


夜十へ頷き、目でアイコンタクトを送りながら、彼女は続ける。


「これは最後、敵の名前とは魔法について、能力とか魔法武器とかその他諸々だね。話すよ……? 」


全員が頷いたことを確認して、

風見涼から奪った最重要機密事項を話し始めた。その中には驚くべきモノも。


八十二話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


流藤の再登場です!

虹色はまだまだ成長しますよ!


それでは次回予告でーす!

風見涼を倒した際に奪った記憶データを元に、目標と敵の情報整理を行い始める《革命派》。

だが、まだ彼らは知らなかった。戦いの先に見えるのは、絶望ということを。


次回もお楽しみに!




拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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