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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編 《学園救出編》
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第七十八話 迦楼羅炎

遅くなりました。どうぶつの森、楽しいですね。

戦争の第三波を終え、第四波の警戒を怠らず、交代交代で休憩を行い始めた頃。

半年間お世話になった夕霧の遺体に白い布を被せ、新島を呼び出した夜十は神妙な顔つきで口を開き始めた。


これから自分が成さねばならないことを。

それは、家族を身勝手に突き放す行為と同意義に当たる。

家族よりも恋人を優先する愚者の行為だ。


けれど、見放すことは両方とて出来ない。

何方かを選ぶこともーー。



「おぉ、夜十。なんだよ、用ってのは? 」


「あの……折り入ってお願いがあるんです。 」


「あぁ? 」


スーッと息を吸い込んで、ゆっくり吐く。

気持ちと心の整理をしてから力一杯に声を出した。


「新島隊長……俺をKMC魔法学園に行かせてください! 」


思わず、目を丸くして驚愕する新島。

一瞬で我に帰り、堅い表情で苦味のある視線を向けながら言った。



「……どうしてだ?それはお前に必要なことなのか? 」


「恋人が……友人が、お世話になった大切な人達が危険かもしれないんです! 」


新島は、ふと、夜十の至近距離まで歩み寄ると、右足の軸を切り替えて渾身の拳を彼の頬へ叩き込んだ。


「ぐっ……うぅ!! 」


押し倒されるように地面へ倒れ込んだ夜十へ、平然と笑いながら彼は言ってのける。


「おう!行ってこい。こうなることは目に見えていたんだ。身勝手なお前に振り回される皆からの一喝、しっかり受け取って救うモン、救ってこい! 」


傷だらけの拳と白い歯の見える笑顔は言っていることを確証づける仕草。

初めから反対する気など無かったのだ。

KMCが《魔源の首飾り(アミュレット)》所持者を野放しに生徒として勉学を学ばせていた以上、彼らの落とし前は、KMC魔法学園の中の制度を徹底改造し、次なることが起こらないようにすること。


その段階で生徒が苦しむ制度の導入も当たり前のように行うだろう。

そして、いつか夜十に情報は伝わり、夜十は迷いなく学園を救う為にここに出て行く。


頭の中で分かっていても、いざとなると足が竦む。今のATSで前線を張ってくれれば、喜んで背中を任せられる隊長クラスの人物だ。


けれど、それが"夜十"の願うことならば、叶えてやらない道理はない。



「お前の付き添いでミクルと虹色を付けておく。こっちの心配は要らねえからさっさと行きやがれ! 」


「……本当に良いんですか?俺とミクル、虹色が出ていけばその分の穴埋めは……」


「ガキが小せえことを気にすんな!俺達は絶対に"家"を守り抜く。だから、お前は帰ってきた時に恋人の顔見せりゃあ良いんだよ! 」


「……はい!ありがとうございます!行ってきます!! 」


新島の言葉に強く感動し、夜十は安心して施設を出ることが出来た。

今日の所は身支度を済ませて早めに夜に耽った。








耳元で端末が音を立てて揺れ始める。

液晶には、4:30 アラーム と記されており、ベッドの上で睡眠を取っていた夜十は目を覚ました。

出発の時刻は5:30と少し早めだが、新島が裏口秘密通路前で集合と教えてくれた。


ゆっくりとベッドから降りると、灰色のスウェットから動きやすい伸縮性のあるATSが戦闘時に使用する戦闘服に着替えた。

防弾、防火、防寒機能など、ありとあらゆる非常事態にまで一着で対応出来る優れ物。

また、耐久度も異常な程優れており、大型アビスの攻撃にも耐え凌ぐ程だ。


一通りの身支度を終えて、愛剣の黒い剣を緑色の鞘にしまうと腰に付けて、施設の部屋から出た。

絶対、ここに戻ってくることを誓いながら。





裏口通路前では、壁にもたれかかりながら待っている虹色とミクルの姿が見えた。

彼女達は夜十が来たことを目視すると、笑顔で手を振る。

二人の服装も夜十と同じ戦闘服だ。

二人はそれぞれ、腰に専用の武器を装備しているようだ。



「ミクル、虹色、それは? 」


「夜十も一応、武器とか所持してるんでしょ?私は愛用の二丁拳銃!昨日の夜に騰さんに手入れした貰ったばかりだから、二丁とも調子良いよ! 」


そう言ってミクルが取り出したのは、白銀の羽が装飾された二丁の拳銃。

銃の達人である騰隊長に手入れをして貰ったのであれば、間違いなく調子は良いだろう。



「私は、虹色家に代々伝わる宝刀を持って来たよ。今までは沖を殺すことが出来なかった悔しさに苛まれてたけど、真実を知れて、申し訳ないと思ったの。だから、償いをする為にここに居る。 」


翡翠色の瞳は覚悟が決まったように、綺麗な宝石のように真っ直ぐだ。

彼女の身につけている宝刀は、真っ白なベース色に四月に舞う綺麗な桜が描かれた鞘にしまわれている。

恐らく、手に馴染んだ代物。彼女が今、剣を持って対峙する相手は一溜まりもない。


「えーっと、夜十は? 」


「俺はいつも通り、この剣だよ。新島隊長が俺に初めてくれた武器。それに、大切な物なら、この《願いの十字架(アウグリーオ)》がある。両親の形見で、姉の形見でもあるしね! 」


「そっか!じゃあ、そろそろ行こうよ! 」


「そうだな。よし、二人共行くぞーー! 」


虹色とミクル、夜十の三人はKMC魔法学園に行くべく、施設の外へ出た。

KMCも知らないATS隠し通路は、どこまで続いていくのだろう。

少なくとも三人に、知る由などなかった。







「松明が置いてあるから、まだ見えるけど、これが無かったら終わりだよな。二人は大丈夫? 」


「いっ、いやぁぁぁ!!い、いきなり声出さないでよ!虫多すぎ!もー、いや! 」


「ミクルさんは、虫嫌いなの? 」


「ほんっっっっとうに嫌い!! 」


松明が置いてある為、辛うじて見える視界の中、足元をガサゴソと音を立てながら居ることを教えてくれる虫達に、ミクルは思わず発狂していた。

昔から大の虫嫌いなのは知っているが、もう16の歳になるのだから、少しは我慢してほしいものだ。


「ミクル、落ち着けよ。お前と虫って意外と似てるところあるだろ? 」


「え?どこどこ? 」


「たとえば、小さっ……ぐはぁっ! 」


"小さい"という言葉の「ち」が出た瞬間、前を歩いていた夜十の背後からミクル渾身の蹴りが飛んで来た。

思わず、前のめりに倒れてしまう。


「なんか言った? 」


黒い厚底の革靴の先端で倒れた夜十の後頭部に触れながら、彼女は威圧的に言った。


「いや、何も……!!ごめん!嘘!嘘だから! 」


「……次は殺す。 」


声のトーンが本当さを伝えてくる。小さく承諾の声を出し、地面に手をついて立ち上がった。

すると、自分達が歩いている場所よりも、もっと奥に一筋の光が射し込んでいるのを確認する。



「そろそろじゃない? 」


「だな!よし、進もう! 」


奥へ奥へと進んでいくと、外の空気が熱いからなのか、大きな熱を感じ始めた。

熱の影響で額に汗が募る。



「この熱……何処かで感じたことがあるような気がする。 」


「何言ってんの夜十。熱さで頭おかしくなっちゃったんじゃない? 」


ミクルの精一杯の仕返しを全力でスルーすると、白く光る奥の方へ黙秘しながら進んだ。


するとーー。


一筋の光が射し込んだ瞬間、炎の巨大な剣が夜十の目の前に現れた。

一瞬で体を捻り、緑色の鞘で炎の大剣の軌道を逸らすと、二人の被弾も免れる。



「ほう。今のを避けるか。 」


「貴方は……」


眩い光で目視出来なかった場所も、時間が経つにつれて目が慣れる。

白と黒のチェック柄が目立つ床はかなりの面積を誇り、何かの大ホールなのかと困惑する場所へ出たよう。

そして、夜十を含む三人の前に現れたのは、真っ赤な炎を燃やし、周囲の空気さえも焦がす最強の魔法師、朝日奈焔だった。


彼を目にした瞬間、後ろの二人が戦闘態勢へ切り替える。



「待て待て、身構えるな。俺はお前達を殺そうとしているわけではない。 」


「いきなり炎の大剣を飛ばしてくる人に言われてもなぁ……」


「それはお前の力量を見たかったからだ。俺の愛娘、燈火の心を奪ったやつだしな。 」


どうやら焔は本当のことを言っているらしい。少なくとも、陣を展開しようとしている魔力の動きは見られない。

警戒心を怠らずに、焔の話を聞くことにした。



「それで、殺さないなら何故ここに? 」


「頼まれごとをされてな。なんでも、お前は記憶した魔法を意のままに使えるんだろ? 」


「はい。そうですが、一体誰に……? 」


「あぁ……背中流すのが滅茶苦茶下手糞な変態氷人間って言えば分かるか? 」


「ああ、完全にあの人ですね。 」


的確すぎるヒントに、一瞬で神城の顔を浮かべた夜十。彼の様子に安堵した焔は話を続ける。



「俺が今から朝日奈家に代々伝わる魔法をお前に見せてやる。全身全霊で覚えるといい! 」


「朝日奈家に代々伝わる魔法を簡単に教えてもいいんですか? 」


「それには訳があってな……」


神妙な表情になった焔は悔しそうに夜十へ告げる。


「KMCから燈火を人質に、この戦争に参加することを強制されてよ。俺が直接、魔法学園に行くのは容易いが世間の目というのは、名家当主でも逃れられない。 」


「人質……。卑劣な……!! 」


「だろう?そこで、お前達に任せることにしたんだ。神城と新島が見込んだ三人だ、俺はなんの心配もしてないが一応念の為でだな。 」


ポリポリと頭を掻きながら、照れ臭そうにする焔。要はせめてものお節介を焼きたいということだろう。

勿論、承諾しない理由はない。



「はい。分かりました。燈火は絶対に助けます!のでーー」


「下の名前で呼び合っているのか?! 」


「え? 」


変な部分に食いつかれたので、思わず疑問の声を上げてしまう。


「そうなのか?なぁ! 」


「まあ……そうですね。 」


「くぅぅぅぅ!!!良いねぇ!!なんか青春って感じ!! 」


登場した時とキャラが別次元のように違う焔に三人とも困惑し始めていた。

本当にこの人物が、朝日奈家現当主の朝日奈焔なのか疑いたくなるレベルだ。



「よしっ!んじゃあ、撃たせてもらうぞ。一応説明をしておくが、此処はATSがKMCにも知られないよう、秘密裏に造った仮拠点だ。どうして、こんな場所を作ったのかは俺にも分からないがな。 」


「成る程。……良いですよ! 」


夜十の元気の良い返事に、コクリと頷いた焔は目を閉じ、両腕を広げた。

ーー瞬間。膨大な炎の魔力が滝の如く、掌の中心へ収束し始めた。


見るからに魔力三回消費レベルの大技。

それを夜十に教える為だけに使用するのだから、焔の偉大さと寛大さが相見える。


夜十は、瞬きもせず、黒い双眸で魔力の収束、空気の質感、感じ取れる全ての情報を研ぎ澄ませた神経を張り巡らせることで感じ取ろうと集中を咎めた。



「《闇夜に燈は潰えず、炎は燃え盛る。我は焔。大火を上げるは朝日奈よ。理の全てを燃やし尽くさん!迦楼羅炎(かるらえん)》! 」


両掌に収束した魔力が一気に放出し、空中へ巨大な炎の魔法陣を描く。高熱を帯びた魔力の熱量で周囲は近づくことさえ許されない。


思いもよらない熱にミクルと虹色は、腕をクロスさせて小さな衝撃波に耐え続ける。


真っ赤な炎で刻印された巨大な魔法陣は、瞬間ーー。

光炎に輝き、大きな球体ーー太陽へと生まれ変わり、焔の眼の前にある壁や床を熱気だけで消滅させる。


「はぁぁぁぁぁあ!! 」


発現された太陽を何処に当てるわけでもなく、焔は自らに落下させた。

きっと、施設の方まで影響が及ぶことを恐れたのだろう。


爆発し、合計五波の特大衝撃波を生み出しながら、仮拠点の床を深々と抉り、太陽は消滅した。

本番では今のを相手に放つということか。つまり、一回限りの大技である。

魔力が無限に使えるからと言って、今のを連発できる程の体力はきっとない。


特大のクレーターの中心で傷だらけの焔が笑顔で手を振っている。

今のを自分自身に当てながら、倒れないとはどこまでタフなのか。



「どうだ?覚えられたか? 」


「……はい。大丈夫です。ところで、怪我は大丈夫ですか? 」


「大丈夫大丈夫。覚えられたなら、それで燈火を救ってこい。お前にしか出来ないことだ。 」


「はい……ありがとうございました!! 」


大きな声で礼を言いながら深々と頭を下げる。

後ろ姿のまま、手を振り去っていく焔が見えなくなるまで頭を下げ続けた夜十は、彼が消えたのを確認するとKMC魔法学園へ向かうべく歩みを再開したのだった。



七十八話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回はKMC魔法学園に乗り込む話に次ぐお話でした。次回からは本格的に変わってしまった学園を描きたいと思っています。

ATSの三人の活躍をどうかお楽しみに!


次回予告入りまーす!だワイ!


夕霧から得た情報で、KMC魔法学園へ乗り込むことを決意した夜十は、ミクル、虹色の二人を連れて、KMC魔法学園の門の前まで足を進める。

彼らは無事、学園の中へ進むことが出来るのかーー!?


次回もお楽しみに!


【迦楼羅炎の詠唱】


燈は燈火。焔は焔。炎は火炎。

三家族をイメージして描いてみました。


因みに迦楼羅炎とは、仏教の守護神、迦楼羅天、迦楼羅王、迦楼羅などの呼び名がある神の吹く火のことを言います。


詳しいことはGoogleで、検索検索 ♪♪


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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