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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
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第七十七話 再会、そしてサヨナラ。

遅くなりました。そろそろ朝日奈達が出てくると思います(゜ω゜)

「……な、なんだ? 」


勝利を確信したはずの新島が目にしたのは、右半身を失い、崩れ落ちたはずの肉塊が立ち上がり、黒く蠢く物質によって侵されている様子だった。


生々しい肉を裂く音が鳴り響き、途中には骨を折るような乾いた音も聞こえる。



「……《死の道(デスロード)》がヤツを蘇らせようとしているのか?! 」


ブクブクと小さな気泡が黒く、無数に体の表面上へ寄生し、大まかな人間の形は数秒で出来上がった。

だが、左半身の明らかに逝ってしまっている瞳と、真っ黒な右半身の瞳のない空洞を見るに、幾らアビスでも不可能な致命傷と言える。



「……嫌だ嫌だ嫌だ。我が消えても主はこの世に生き残るべきだ! 」


口のない虚が頭の痛くなる声で叫ぶ。

次第に出来上がる肉体。やはりアビスの力は格別か。

新島はもう一度、《光の神刀(アンスウェラー)》の構えを呈した。


「次は確実に全て消滅させ……。くっ、ま、まずい……もう身体の力がっ……! 」


その場に倒れ込んでしまった。

身体に力が入らない。


「……新島鎮雄だけでもこの不完全な状態であれ、殺せる!! 」


黒き虚は肉体を操作し、右手を鋭い手刀に変化させると、飛び上がるように新島へ襲いかかった。


「くそ……くっそぉぉおお!!ごめんな……組織の皆!守ってやれなくて……」


もう無理だ。そう悟った。

冷たいアスファルトが顎へ擦れて傷が付く。この時は痛みさえも感じられなかった。

ただ必死に、自分が生きたいと願っていた。


けれど、今の自分はあの攻撃を避ける力さえも残されていない。自分の身体を動かすことさえも出来なくなってしまっている。


今度の今度こそ、"終わり"だ。

そう思った刹那。奇跡が起きた。



「《古の歌よ、この剣に宿らん。歌は世界を救い、世界を護る。はぁぁぁぁぁあ!強撃の歌(フォルティシモ)》! 」


ーー瞬間。

飛び上がって宙を舞う亡きニアトの肉体は、白や赤、緑、黄色、青などの色彩豊かな魔力を纏った音符に貫かれ、地面に音を立てながら転がった。



「なっ……あの小娘。ここに来て、我らを裏切るか……ぐっ、クソ……」


鮮明な赤い血液を流しながら、黒き虚は空気に溶け込むよう消えていった。

今の魔法を新島は見たことがあった。


魔力量と言い、感じられるものに懐かしさを感じる。



「……お、お前は……」


「……ごめんなさい。 」


新島を助けた人物は一人、涙ぐんだ表情の中笑って、謝罪を告げる。


「ま、まて!行くな!ど、どうして……!? 」


砂を帯びたコンクリートを踏みしめる音は遠くなり、新島は其処で意識を失った。







「……そんなことがあったんですね。 」


真っ白いベッドの上で胡座をかきながら、真剣に新島の話を聞いていた虹色は、壮絶な物語を聞いて、頭の中を整理していた。



「俺を救ってくれた何者かが誰なのか、俺には見当が付いている。だが、これは公には出来ないな。もっと情報を集めてからじゃなければ……」


「そう……なんですか。 」


「嗚呼。そろそろ前線に戻るぞ。大分リラックス出来たしな。 」


「あ、はい!戻りましょう!家族のところへ! 」


「おう! 」


元気よく返事をした新島と、屈託のない笑顔で笑う虹色は病室を出て、前線に戻るべく、歩みを進めたのだった。







「はぁ……はぁっ、はぁ……! 」


息を切らしながら、迫り来る軍隊を見据え、たった二人で阿吽の呼吸を一度も乱さずに戦っているミクルと夜十は背中を合わせて、呼吸を整える。


アレからKMCの軍隊は留まることを知らない。彼らの居る入り口は、たった二人で守備していると、相手型の隊員には伝わっているようで、此処を大穴と思って、大量の部隊が流れ込んで来ている状態だ。



「……こ、こいつら!ガキじゃねえのかよ!?ま、まじでヤバイぞ! 」


「たった二人に何してる!さっさと殺せ! 」


「反逆者に制裁を下せ!! 」


悉く、返り討ちにされているKMCの部隊は、銃撃を一層強く浴びせる。


だがーー、無意味に等しかった。

どんなに大量の銃撃を撃ち込んだとしても、彼らの前にある見えない壁によって銃弾は消滅してしまうのだ。


「ミクル、そろそろ疲労が回ってるだろ。次の攻撃で空間閉じろ! 」


「だ、大丈夫だよ。わ、私は別に……! 」


「……駄目だ! 俺が時間を稼ぐ!その間に少しでもいいから休憩しろ! 」


「わ、分かった……。 」


相手のリロード時間は、ほんの数秒。

けれど、ミクルが相手の背後から銃撃を撃ち込むには十分な時間だった。


ーー次の瞬間。

幾つにも連ねられた弾幕が二百人以上の兵士の背後から放たれた。

無数に続く、鳴り止まぬ銃撃が兵士を襲い、背中の肉を、骨を破壊する。


小さな断末魔が無数に聞こえ、真っ白い廊下は無数の血飛沫で赤く染まった。



「は、早く! 」


「じゃ、じゃあ……夜十、任せた! 」


「おう、任せろ! 」


素早く空間を閉じたミクルと交代し、辛うじて生き残った十人ほどの兵士は、黒い剣の刀身と触発する。



「一人退いたぞ!男の方を殺せ! 」


交代し、近くの部屋の陰に隠れたミクルを標的から外し、兵士達は夜十を重点的に狙う作戦へ変更した。

それでも、彼らがすることは本質的には変わらない。銃撃をより一層強くしただけだ。


だが、夜十には到底届かない。

彼の瞳に映るのは、《追憶の未来視(リコレクション)》で約束された絶対的な未来だ。

銃弾の発射速度、距離感、音、空気の振動、相手方十人其々の癖、呼吸、心拍数。

目を瞑った状態ではない為、集中する力は少しだけ欠けるが、魔法師を相手にしているわけではない。

その為に、この状態でも十分に戦える。


縮地法の応用で少しだけ前に進み、すぐさまステップを切り替えてジグザグに素早く相手の懐へ忍び込む。

弾丸の弾道を読めていれば、派手に死ぬこともない。況してや、此処で相手が剣などの近接戦闘に持ち込んでこようとするのであれば、勝ちは決まっているようなものだ。



「なっ、このガキ!全然当たらねえ! 」


「ぐぁぁぁ!! 」


黒い刀身の餌食になり、白い床に頬を擦り付ける兵士。彼らは自分の前に立つ、恐ろしくも最強の少年に対し、絶望の表情を浮かべる。


僅か数分で殆どの兵士を倒しきった夜十は、最後の一人に刀身の先を首に突きつけて、クールな表情で問う。


「お前が最後だな。ところで聞くが、お前達に指示を出している人物は誰だ? 」


「ひっ……やっ、やめてくれ。私には妻も子供もいるんだ!頼む、み、見逃してくれ! 」


「質問に答えてくれたらいいよ。 」


「ほ、本当か……? 」


「嗚呼、約束は守るよ。 」


すると、兵士は顔を上げて口を開いた。


「お、俺達に指示をしているのはーー」


パァンッーー、鋭い弾丸が兵士の頭を撃ち抜こうとした瞬間。

夜十は《追憶の未来視》で感じ取った空気の振動を頼りに、何も無い場所へ剣を振るった。


するとーー、弾丸は一刀両断され、夜十を中心に左右の壁にめり込んで見えなくなる。



兵士の背後、基、夜十の正面から黒い厚底ブーツのコツコツという甲高い足音を響かせながら歩いてくるのは、黒いミニスカート、黒いブラウス、四角い黒縁眼鏡を付けた夜十にも馴染みのある人物だった。



「何故貴方がここに居るんですか……」


「流石は冴島美香の実の弟ね。担任の私としても清々しいけれど、私はKMCの幹部の地位についているの。殺したい気持ちを抑えて、少しだけお話しに付き合ってもらおうかしら? 」


夜十が踏み込める限界の間合いを感じ取り、間合いの外で停止した彼女ーー、KMC魔法学園で夜十の担任を務めていた夕霧恋歌(ゆうぎりれんか)は金色に光り輝くデザートイーグルの銃口を夜十へ向ける。


「私のこと、実は気づいてた? 」


「最重要の生徒がいる教室には、流石のKMCも幹部を担任として置いているだろうという、あくまで仮説に過ぎない話ですが……気づいていたといえば嘘ではないですよ。」


「最重要?そんなことも知っていたの?けれど、貴方のことではないわよ? 」


嘲笑の笑みを夜十へ浮かべる夕霧だが、夜十は彼女の笑みさえ嘲笑うように回答した。


「知ってますよ。朝日奈燈火でしょう? 」


「よく知ってるのね。やっぱり、恋人って説は本当のようで何よりよ。 」


「なっ……!?なんで知ってるんですか!? 」


拍子抜けな態度に右手でおデコを触りながら、夕霧は首を傾げた。


「貴方は鈍感ね。教室内であんな態度取ってれば、フツーに分かるわよ。馬鹿なの? 」


「馬鹿って……!それよりも朝日奈は元気ですか? 」


「やっぱり、恋人が心配?でも、残念。貴方が消えて、そんなに経ってないけれど学園は変わったわよ。派閥制度の廃止、魔法使用の徹底管理制度の実施、それと一番大切なのはコレね。 」


「派閥制度を廃止?魔法使用の徹底管理、まさか……俺のように《魔源の首飾り》所有者を学園から消す為!? 」


「それもあるけれど、やはり争いが絶えない学園というのをやってきて不正解だったとKMCの上層部が決めたのよ。私も賛成したわ。 」


「……一番大切ってなんですか? 」


唾を飲み込む。もし、冴島夜十と関わっていたものの死刑であればどうなるか。

最悪の状態を最悪で埋め尽くすような結末でなければいいと強く願う。



「《正義派(ジャスティス)》の設立よ。 」


「正義派? 」


訳の分からない回答に目を丸くして、思わず聞き返した。


「ええ、《正義派》は、かつての《平和派》から名前を奪い取って作られたKMCの厳選した特別な十八歳以下の魔法師十人で創られた軍団よ。彼らは学園の中であればどんなことをしても許される。例えば、禁止魔法の使用とかね? 」


「なっ……!! 」


「そろそろ始めましょうか。余計なことを話しすぎてしまったけれど、大丈夫。ここで貴方を殺せば済むのdeath☆ 」


夜十は何となく気がついていた。

夕霧がここに来た理由を。どうして、戦闘の前置きに学園の話をしてきたのか。

そのお礼を、惜別の言葉を、戦闘でぶつけよう。



「分かりました。夕霧先生、かかってきてください! 」


「言われなくても……やってやるdeath☆ 」


両手でデザートイーグルを転がすようにリロード。全弾を連続で数秒以内に撃ち込み、まるで数十人が一度に撃って築けるような弾幕を一人で作り上げた。

連射速度が段違いに早い。魔法で早めているのは確かだが、それにしても銃の扱いだけで言えば、夜十が出会ってきた魔法師の中で一番としてもおかしくはない。



「一撃で仕留めなければ、長期戦に持ち込まれたら、きっと勝てない。それに……今は、朝日奈のことで頭がいっぱいだ!どうしたらいい、考えろ。頭を回せ、今、俺がすべきことはーー」


ゆっくりと目を瞑り、飛んでくる弾丸を感じ取る。

次々と銃口から発射される弾丸の速度、重さ、回転、空気を切り裂く力、音、全てを頭の中でデータ化。


複製すればーー"確立された世界を見る力"。

《追憶の未来視》が完成する。


追憶の未来視に異常ナシ。

弾丸を避け、相手を徹底して仕留めるには。



「……ここしかない!! 」


強く一歩を踏み出す。

夕霧は分かっていた。自分が夜十には勝てないことを。けれど、全力だった。


彼なら学園を救える。私が同意したプロジェクトは最早、大好きな生徒を地獄に送り込む為の棺に放り込んだも同然。


助ける方法は貴方しかない。

かつて、二度も学園を救った英雄でなければ、絶対にーー。


だからお願いーー、朝日奈燈火を助けてあげて。私の大切な生徒を。


「よろしくね……」


全ての弾丸を背後に、夜十は涙を流しながら夕霧へ一太刀の大振りを放った。

KMC幹部層の人物を殺せたことの喜びは最早存在しない。

今、自分がやるべきことは託されたようなものだ。



「確かに受け取りました。夕霧先生。 」


その場から立ち去る夜十は、どこまでも儚く、悲しく、虚しい表情をしていた。





七十七話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は新島を助けた謎の少女。

そして、学園が悲惨になっていることを告げにきてくれた夕霧を主体としたお話でした。


それでは次回予告です。

学園に居る朝日奈を助けに行かなければならないと思った夜十は、数人の家族と共に学園へ忍び込むことを計画し始めてーー!?


次回もお楽しみに!


【出番】


「燈火ちゃん、そろそろ私達の出番が来るみたいだよーー! 」


「ほ、本当ですか?!よ、良かったー! 」


「そろそろ夜十君に会えるから楽しみにしてんでしょ?会って早々キスとかダメだよ? 」


「……え?何故ですかぁぁぁ!! 」


※そろそろ燈火が出てきます。お楽しみに。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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