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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
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第七十六話 名家とATS ⑤

過去編は次回で終了する予定です。

「《死の道(デスロード)》を相手にしながら、魔術師と勝負……マズイ。こんなところで魔力を五十も消費するわけにはいかない。 」


新島は正直なところ、完全に焦っていた。

これから先、この状態を保ちながら戦うのは魔法師人生にも関わるくらい良いものではないからだ。

先程までずっと黙って見ていたのには何か理由があったのだろうか。


「……待て!大丈夫だ。俺一人で戦える! 」


「我の力を借りようとしないのは昔から変わらない。だが、貴方の魔力が低下している。其れは我の存在の存続にも関わる話です。続けるというのであれば、時空を歪めずに戦闘を続けてるのです。 」


黒き虚の言葉に新島は確信する。

やはり《時空魔法(タイムレスマジック)》を使用するのは、魔術師でも堪え兼ねるくらい魔力の消費は高いよう。

そして、彼は今限界を迎えている。


「はぁ……はぁ、はぁ。わ、分かった。 」


捻じ曲がった空間の時間が戻り、破壊された街を吹き抜ける風を感じた。

生臭い鉄の匂いが鼻にツンと入ってくる。

地面に空いた然程大きくもない穴からだ。


新島は額の汗を服の袖で拭うと、鮮明な淡い緑色の長剣《軍神の剣(グラム)》を手放す。先程の状態があと五分でも続けば、魔法師人生に深く関わる一打を打たれるところだった。相手の限界に幸を感じ、安堵して胸を撫で下ろした。



「ちっ……《時空魔法(タイムレスマジック)》に反応してくるとは思いもよらなかった。けど……満身創痍なのは相手も同じ。負けられない! 」


「……ふっ、かかってこいや!! 」


新島はそう言って、右足を下げ重心を低くして構える。肉弾戦闘時の構えだ。


「肉弾戦闘は俺の得意分野ではないが、仕方ない。魔力の使い過ぎでコレしか道が無いのだからな……」


ニアトも構える。

彼はどうして《死の道(デスロード)》との共闘を選ばないのか。

それが気になるが、気にしていても仕方ない。今は目の前の戦闘を懸命に乗り越えることが大切だろう。


先に動いたのはニアトだった。

彼は宙に飛び上がり、新島の頭上まで一気に間合いを詰めると、鋭い踵落としを放った。地に足をつけた状態の肉弾戦では確実に新島に劣ると悟った為だ。



「魔術師ってのは、肉弾戦でもチート級だなオイ……」


賺さず、両腕を十字の形に組むと踵落としを受け止める。

多少の打撃ダメージが残る止め方だが、仮に避けても連続技が来た時、反応出来るかは相手の肉弾が未知数の為、確認は取れない。


受け止めた足を掴み、独楽のように素早く回って遠心力を付け、右へ見えるビルの方へ投げ飛ばした。

廃ビルは砕け、ニアトを下敷きに崩れる。



「はぁ……はぁ、今の戦闘だけでもこの疲労か。魔術師ってのは厄介だな。 」


「はぁぁぁぁぁあああ!! 」


倒壊したビルの残骸から勢いよく飛び上がり、ニアトの視点から直線上に居る新島へ一握りの魔力を掌握し、拳圧で生み出した衝撃波を放出した。


「くっ……危ねえ! 」


一歩後ろへ後退すると、目の前のコンクリートが強く抉られる。

魔力を纏った拳で空気を殴り、空気圧を衝撃波として放ったらしい。


「……なんて威力だよ!まだこんだけの力が有り余ってんのか?! 」


「俺は《未完成》とは違って、魔力の祖、魔術師なのでね。お前らとは元々のスペックが違うんだよッ!! 」


拳をグッと引き、二発目の狙いを定める。

もし当たれば、骨の髄まで砕け散ることは間違いない。コンクリートへの威力がその証拠だ。


「……当たっちゃまずいな。取り敢えず、回避に専念するしかない! 」


「避けられるかな?そんな効率良くさ! 」


片方の拳に魔力が灯り、ニアトは両腕で狙いを定め始めた。

それも、先程とは比べ物にはならない程の魔力の量だ。

新島の推測通りであれば、連続技が来る。


空気圧を利用した衝撃波が新島の頭上から雨のように降り注ぐ。

身体を軽やかに操り、華麗なステップとジャンプを応用して避け続ける。

六発目までは避け続けられた、次の連続技が来るまでに一手を考えなければーー。



「チッ……ちょこまかと!やかましい! 」


ニアトは再び両腕に魔力を込め始める。

最高でも今の彼には連続六発が限界のよう。ーーであれば、新島の勝機はニアトとの急接近だ。

到底、今の状況では近づくことさえままならないが、隙はあるはずーー。


再び、殴り飛ばした空気圧が新島を襲う。

華麗なステップで避け続け、一発一発が地面を抉る。

この時、新島は気づけていなかった。

ニアトが狙っているのは、新島ではないことを。



「そろそろだな。……死ねッ! 」


新島に狙いを定める間も無く、ニアトは地面へ強い一発を放った。

衝撃波と言うよりは、竜巻に近く、地面を揺るがし、亀裂を、破壊を始める。


新島が立っている地面が割れて、落下し始めたのだ。

元より魔法師にこの戦法は効かない。通常通りであれば、魔力を足場にして宙を浮くことなど容易いこと。

であれば、ニアトが今、この瞬間を狙った理由は新島の魔力を使えない状況だ。



「ま、まずい……!!ここに魔力を使ってしまったら、トドメを刺すことが出来なくなる! 」


だが、落下すれば確実に死ぬ。

《未完成》はタフではない。中身も外見も人間そのものだ。

有るのは魔術師から得た一握りの魔力だけ。



「クッソ、こうなりゃヤケだ! 」


空白になった地面に別れを告げ、新島は宙へ手を伏せた。

白く光り輝く一筋の線が駆けるように走り、宙に六芒星の烙印を焼き付ける。



「ふうん。魔力を足場にするのを止むを得なかったね。であれば、終わりだッ! 」


綺麗な円状に抜けた地面へ六発の空気圧を放ち、追い討ちをかける。

空気砲と穴の大きさはほぼ同じ。抜けられる道も回避する術も与えない。


まさに絶体絶命。

けれど、新島は笑みをこぼした。



「……風を味方につけている気にでもなっているのか?魔術師ィ!お前はここで……」


新島の掌の上に緑の光で紡がれる六芒星の魔法陣が烙印される。

次の瞬間、眩い光が新島を包み込み、生み出された光からは一太刀の剣が現れた。


先程の《軍神の剣(グラム)》とは違い、明らかに秘めている魔力が特別なもの。

新島は猛追する六発の空気圧をーー。


"たった一太刀の大振り"で相殺した。



「……なっ、なに!?アレだけの魔力、《未完成》じゃないみたいだ!お前、上限回数はいくつなんだよ!? 」


新島は地面を走る様に蹴り上げ、底の見えない大穴から見事に脱出してみせる。

脱出様に困惑しているニアトの質問に返答した。



「俺の上限回数か?現在は280回だ。ほら、これで確証が持てるだろ。 」


そう言って、彼は服の袖を引っ張って押し上げる。すると、右腕と肘辺りに"280"と黒い文字で記されていた。



「なっ……!?馬鹿な!280回だと!?元は何回だったんだよ!! 」


「元は500だ。んなことよりも、もう終わりか?お前……」


「ご、500ッて……なっ!くっ、お、終わりじゃねえよ!こっからぁ! 」


新島が携える緑色に発光する剣から凄まじい魔力を感じ取っているニアト。

今、自分が大した魔法を使うことが出来ないのに対し、相手は吹っ切れた様に上限回数の消費が明らかに多い剣を振るっている。


迂闊に動けば、死を招くことだってある。

この男には自分を倒せるだけの力は十分にあるのだから。


「くっ、どうしたら良いんだよ! 」


「……我をお忘れですか。我の力をお使いになられれば、貴方は当たり前に勝利出来る。 」


「で、でもっ……それはお前を失うことと同意義じゃないか! 」


黒き虚は答える。

真っ黒い穴の空いた顔を歪めて。


「生き残る為にはこうするしかないのです! 」


「嫌だ!俺はお前の力は借りない!絶対に一人で殺してやる! 」



ニアトは新島を自分の進む直線上に捉えると、隙を伺うこともなく真正面に突っ込んだ。理由はきっと彼の焦りだろう。


距離を取って戦えば、勝機は見えたかもしれないのに。無駄死にを選んでしまった。



「やっと隙を見せたな。俺はこの時をずっと待ってたんだ……!! 」


携えた剣を消去。前方に白い魔法陣を刻印。

新島の手元に白光に輝く一太刀の剣が発現した。かつて、大型アビスを五体一気に貫き倒したと誇る伝説の刃。

朽ち果てることのない、美しき魅了を放ち、曇り空を一瞬で晴天にさえ変えることが出来る新島渾身の必殺技だ。



「なっ!ま、まずい!《死の道》ォォォ! 」


「ここは戦場だ。お前の焦りも綻びも全て俺は感じ取れる!はぁぁぁぁぁあ!《光の神刀(アンスウェラー)》! 」


黄金の輝きが一瞬消滅し、瞬く間に綺麗な白い光に姿を変える。

どんな闇にも決して折れぬ光の剣は魔術師ニアトの右目へ突き刺さった。



「くっそおぉぉおおおおお!!俺は、俺は…………またこんなところで死ぬやつじゃねえんだよおおおおおお!!! 」


ニアトの叫びは虚しくも瞬刻に消える。

消滅した右半身を補う力はニアトには残されていなかった。

そのまま、肉塊となった魔術師は重みのある音を残してこの世を去ったのだった。



「危なかった……これ以上戦っていれば俺は……! 」


崩れ落ちた肉塊から視線を外し、新島はぐったりと倒れ込んだ。

心身ともに限界を迎えていたのである。

何とかニアトを倒すまでは自分に見えを張って自己暗示をかけて、曲がりなりにも一生懸命出来ることはやっていた。

その緊張が崩れたのだ。



「我の主人が死を?いや、嘘だ。いや、そうだ。殺させるわけにはいかない! 」


焦った様子の黒き虚はその場から消滅。

黒い物質となって空気に分散した。


「肉片になるのは初だが、このお方を助ける為であれば仕方はない。 」


崩れ落ちた肉塊に寄生し、自らの感覚を侵入させた。


七十六話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回も過去編ということで、主なシーンはほとんど戦闘シーンでしたね。


それでは次回予告です(゜ω゜)


ニアトを倒しきったと思った新島だったが、黒き虚は写真の肉体が不完全でも立ち上がり、既に限界を迎え、満身創痍の新島に猛追を仕掛ける。

その時、新島の聞き覚えのある声が聞こえてーー!?


次回もお楽しみに(゜ω゜)


【今回は休み(゜ω゜)】


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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