表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
75/220

第四十七話 名家とATS ③

遅くなりました。投稿楽しいですが、別作品を描きたくて設定練ってたらこちらが微妙に疎かになってました。すいません!

新島を含む、ATSは隊列を組んで、常に警戒心を解かず、人気の無い街を突き進んでいた。彼らの足元には紫色の血液を噴出し、倒れている《毒猪(ポイズンボア)》の死体が無数にも転がっている。

だが、それよりも気になることが一つ。


まだ冬にもなっていない現在十月真っ只中。だというのにも関わらず、街の中の木々は草木を散らし、腐敗していた。

また、道路のコンクリートには猛獣が爪で引っ掻き割ったような亀裂。

ビルのガラスは割れ、建物はピサロの斜塔の如く、地面から軸が曲がっている。


神城は新島の言った嫌な予感というものを、この様子で確信的な話に変えた。

今の状況は明らかにおかしい。名家組が派手に暴れて出来たにしては不自然な状態。


オマケに空は真っ暗な曇天だ。



「新島、まさかこれは……」


「あぁ、間違いない。危険種《死の道(デスロード)》だ! 」


新島の口にした《危険種》とは、様々な種類が存在する大型アビスの中で最も、人類が活動していく上で害悪と見なされるべき存在のことだ。

強さは大型アビスの比ではなく、たった一体で五百人の魔法師の猛追を受けても倒れず、一閃の攻撃で街を一つ滅ぼす力を持っている。



「《死の道》か。マズイな……この道を真っ直ぐ進んでいるのだとしたら、もう名家組がっ!! 」


「ま、まずい!急ぐぞ! 」


新島が声を荒げると、部隊全員が走り始める。危険種相手に名家組と言えど、勝ち目などない。神城は彼らが無事であってほしいと心から願ったのだった。







「はぁ……っ、はぁ!なんだよこいつ!俺の魔法が当たらねえ! 」


新島達が居る位置から数十キロ離れた地点で傷だらけの名家組は目の前に現れた異形と交戦していた。


全長はマンションの三階程の高さしかなく、大型アビスにしては小さい。

全身を包み込んでいる黒いマントをひらひらと風に靡かせ、顔の部分は何も無いように見える。

ただただ、真っ黒な虚があるだけ。

まるで、吸い込まれてしまうような、そんな

感覚に陥る。


真っ白い両手を、鳥のように大きく広げ、その場に佇んでいた。

特に何という攻撃もしてこないが、攻撃が当たらない。



「くっそ!なんだよこいつ!! 」


「任務情報にもこんな敵のデータはありませんでした。詳細の確認が取れないにも関わらず、無闇に攻撃するのはやめてください! 」


「もう止まらないよ、新一はね。ふふっ。 」



新一が腹を立てて、魔法を乱射していることを止めようとするが、彼は止められなかった。

今まで一度も自分より弱い相手を見たことのない彼が、自分の魔法を当てようとしても当てられないような相手と遭遇したのだ。

新一の表情は自然と焦りに変わり始める。



「はぁっ、はぁ!!ここまで攻撃して、俺の上限回数がクソみたいに減ってんのに当たらねえなんてなあ! 」


一気に魔力を消費したせいか、足下が覚束なくなる。急に力が抜けて、立てなくなる。

けれど、地面に手をついて何とか立ち上がった。

勢いが過ぎたのか、掌からは血液が垂れる。コンクリートで手を切ったのだ。



「……はぁぁぁぁぁあああ!! 」


新一の手元に収束する空気の塊。

巨大な風は魔力によって具現化し、刀身の長い長剣に姿を変化させた。

そして、一歩を大きく踏み出す。

剣士が剣を持った時、一番重要とするのは初めの一歩。

ここが全てを生み出し、全てを消す。


風の力を借りて、踏み出した瞬間の速度を一気に加速させる。

地に足がついた状態を離れ、空高く舞い上がると剣をマント姿の怪物に振るった。



だがーー、物理攻撃は無効。

魔法攻撃が効かない相手が居ることを、家内の会議で何度か聞いたことがあった。

だからこそ、その情報を信じて、信頼して、リスクを冒してまで物理攻撃を行ったのに。



「……愚かな人間よ。絶望の果てに全てを切り裂かれても尚、立ち続ける覚悟があるか? 」


"それ"は話し始めた。低く野太いトーンで、人間の言葉を黒い虚ろの中で紡ぐ。


そしてーー、空中で無防備になった新一を嘲笑するが如く、白く大きな手を握り、強く振り下ろした。



「ぐっぁぁぁ!!がっ……ぁぁ、うっ……」


地面に叩きつけられた新一は、コンクリートを軽く貫き、ドリルのように地中深くまで消え去った。

今の威力だ、生きてはいない。

誰もがそう思った。


ーーけれど。



「夜風の野郎が死にやがったか。ところで、お前は悲しくないのか?もう一人の夜風。 」


「ふん、自業自得だろう。ハナっから勝ち目のない相手に好奇心で挑んで負けるなんてさ。そもそも、ドラマの主人公じゃないんだ。どんな逆境に飛び込んでも、勝てるなんて保証はない。……でしょう? 」


「確かにそうだが……仲間意識はないのか? 」


名家組の中の一人は、新一に対する愛情のカケラもない優一に震えながら言った。



「無いよ。欠片もない。それに、元々、彼はここで死ぬべき人だったんだよ。一族もそれを願ってんだ。 」


「ど、どういう……まさか!?お前が怒った影山を止めたのは……!! 」


「ああ、読みが早くて助かるよ。夜風にあの男はいらない。自分勝手で強情で最低なクズ野郎をね。ぁぁ、死んでないと困るからちょっと待ってね……? 」


徐に新一が殴り飛ばされた時に作られた小さな穴に憎しみと怒りがこもった狂気の表情を浮かべながら魔法を放つ優一。


「あはははははっ!さようなら、新一! 」


何度も打ち込まれた魔法に耐えきれるわけがない。それでも、前の一撃で死んでいたかもしれない。

狂気の笑みを浮かべる優一を他の名家は恐れた。夜風は狂っていると。



「待て!そんなに魔法を連射するな!アイツが襲ってきたらどうするんだ!? 」


「は?何言ってんの……?もう任務は完了したんだよ。後は秘密を知ってしまった他の名家と一緒に死ぬだけ。……さぁ、戦おう! 」


「く、狂ってやがる!!俺は逃げるからな! 」


赤い髪の朝日奈家の少年は、絶望に浸った感情を押し込んで、目の前の黒い怪物から逃亡した。昔から足が速く、素早いことで知られていた彼は自分のスピードに自信があった。


だがーー、優一は簡単にそれを上回る。

瞬時に彼の目の前に移動すると、首元を左手のみで掴み、持ち上げて窒息死を試みた。


「やっ……んっ、やめっ!!あぁぁぁぁ! 」


「どう?もう死ぬんだよ君は……。これからの魔法師ライフ、自分の頭に描いてた世界が消える瞬間、忘れさせないようにこうしてあげるよ! 」


首を持ち上げられ、身体の体重で息が出来なくなる。あと少しで窒息する少年の瞳にはぼんやり、薄っすらと、目の前の虚が何かをしようとしているのが分かった。


「嘘だろ!?見た魔法を真似られるのか。あれは夜風の《螺旋の風(スパイラルウインド)》じゃないか! 」


虚の前で白い空気の塊が収束し、幾つもの螺旋を描く。綺麗な渦巻きが刃物のように鋭利さを極め、周囲の空気を切り裂いて再び風を起こす。

無数の風で象られた刃物は軈て、手がつけられないほどの威力へと変貌してしまう。



「ま、まっ……いやっ、ぁぁぁ!!やめっ、やっぁ、く、くれっ! 」


必死に懇願するが優一には届かない。

彼は冷たく冷酷な表情を浮かべて、無比にも笑った。

収束された無数に飛び交う風の刃へ、あと一分もすれば窒息死してしまいそうな男を躊躇なく放り投げる。

彼は成すすべなく、空気の中に、生臭い鉄の匂いと残酷な断末魔を漂わせて絶死した。


「なっ……!?お、お前ら!こいつはもう仲間じゃない!やるぞ!名家で力を合わせれば、こんな化け物簡単にっ! 」


残りのメンバーは、優一へ、一同に掌を向けて最後の手向けの詠唱を完成させたのだった。







「あそこに浮かぶのは……?! 」


「なっ……《死の道》!間違いない!アレは、夜風優一? 」


少し遅めだったが、ようやく駆け付けた新島達は早速違和感を感じた。

淀んだ空気に混じる生臭い鉄の匂い、宙に浮かぶ黒いマントの怪物の前にある意味深な血溜まり。優一を除く名家組が、優一に向かって魔法詠唱をしていることだ。

何よりも驚いたのは、一番最初に反旗を翻した夜風新一の姿が無かったこと。


だが、今はそれもどうでもいい。

神城は地面に手を伏せ、魔法陣の展開を行う。彼の特技は瞬間凍結であり、それを察知して避けるのは新島を倒すくらい難しい。


上半身近くまで凍結されてしまった優一を含めた名家組は驚きの声を上げる。


「なっ……!?これは!? 」


「ちっ、後少しだったのにな。まだ終われない……神城の氷をどうにかして解かないと! 」


優一は直ぐに次の瞬間のコトへ思考を回転させていた。他の名家組の人物は、何故凍結されたかの疑問に思考が支配されてしまっている。

目の前の黒い虚ろのせいか。このまま、死んでしまうのかーー、と。



「そのまま動こうとすれば、簡単に砕けちゃうぜ。芯から凍らせてもらった! 」


「オイ、お前ら!これはどういうコトだ?何故、仲間割れなどをしている。目の前に危険種のアビスがいるというのに! 」


新島は必死の問いかけをする。

彼らにとって今は危機的状況だ。死にたくなければ下を俯くか、泣き叫ぶかをするだろう。

だがーー、夜風優一だけは下を俯くこともしなかった。他のメンバーは下を俯き、どうしたらいいのかを感情で表しているのに。



「夜風優一!新一の方はどうした! 」


「先程、戦死しました。これでスキャンダルですね、アビス殺しの達人集団、ATSさんが魔法師の名家の子供を殺してしまったのですから。まぁ……たった二人では済ませませんがね? 」


「ど、どういうこ……! 」


新島は空気の振動から、大きな虚ろの危険種が何かをしようとしていることを察知する。

それが何なのかは詳しくは分からない。けれど、良くないことは起きようとしていた。



「ふっ、ははははははは!!終わりだよ。ATSが来たところで、こいつには敵わない!なぁ?《死の道》! 」


「我が絶望の果てに望むのは、人類全ての消失。魔術師が創り出す世界の創造。我が主人の為に我が尽くすのは当然の摂理。死に至れ、愚かな人間共よ! 」


黒き虚は優一を"主人"と呼んだ。

これをどういう意味と取るのかは人それぞれ。けれど、神城と新島も確信した。


ーー彼は"魔術師"なのだと。



「アビスを操る力を持つのは、魔術師しか居ねえ。お前、何で夜風に居られる?どういう経緯で紛れたかは知らないが、夜風の不祥事を俺達が取り繕ってやらねえとな! 騰、標津! 」


「「はい!! 」」


二人は大きな声で返事をして、新島と神城の前に立った。


「足引っ張んなよ? 」


「そっちこそ! 」


二人は魔力を掌の上に収束、具現化して自分だけの特殊な武器を携える。

騰は銃、標津は大剣。

二人の連携はこの時からATSの中では言わずと知れた名コンビだった。

二人の前に立っていられるアビスは、大型アビスだったとしても難しい程。



「騰隊と標津隊は救援を!私が引きつけてる間に名家組を救いなさい! 」


「御意! 」


自分達の部下に救出を命令すると、二人は一斉に走り出した。速度こそ早くはない。

《死の道》も夜風優一も目で捉えられる簡単な速度だ。けれど、それは嘘のようだった。


見えていたのは資格を利用した錯覚か。

騰の持つ二丁拳銃の銃口は、優一の後頭部に押し当てられている。

痺れを切らした《死の道》が伸ばした長く白い右手は標津の大剣に一刀両断される。

まるで、相手の出方を知っていたかのように。



「……ほら、もう終わりだよ。私が引き金を引けば、君はもう死んでしまう。後ろにいる化け物が手を伸ばせば、私の永遠のパートナーが斬り伏せてしまうだろうさ。 」


「ぐっ……!!いい加減な魔法師がこの俺に楯突いていいと思ってんの?《死の道》! 」


黒き虚が動き出す瞬間を、音を、振動を、全てを感じ取って標津は大剣振るう。

相手が無意識に教えてくれる微かで、無限の情報に感謝の気持ちを込めるように。



「……させないよっ! 」


黒き虚に残った右掌に異常な魔力の発現が感じられた。だから、彼は思いの儘に肩から一刀両断。つまり、切断した。


「危険種ってのも大したことねえな! 」

「標津隊長、行けええええ!! 」

「これなら、行ける! 」


標津の隊員が声援を送り続ける中、神城と新島は嫌な予感を察し始める。

新島と神城が二人で全力を出し切っても倒すことが難しかった派生種の《死の仮面》はこの程度で腕を失うような弱いアビスではなかった。

それに、魔術師との戦闘経験も何度かあるけれど、背後を取られても平気で笑っているような奴らだった。


標津と騰が強いのは知っているし、信頼としている。だが、確実に二人は妙な胸騒ぎを感じていた。

この程度では終わらないようなそんなーー。



七十四話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は漸く、新島達の到着です。

次回からは本格的な戦闘シーンを書いていきます!


それでは、次回予告ですね!!


ATSは、優一と《死の道》を確実に追い詰めていた。だが、神城と新島は妙な胸騒ぎを覚え始める。敵が弱すぎるのだ。

相手を攻め続ける騰と標津、二人が次の刃を振るった瞬間、全てが覆される!?


次回もお楽しみに!


【優一と黒き虚】


「はぁ……今日も新一が面倒ごとを起こして、俺まで怒られちゃったよ。 」


「我が主人よ、いつでも命じて頂ければあの程度の雑魚、摘むのは容易でしょう。二秒もあれば……」


「殺すのは後々!血の気が多いのは良いことだけど、時には我慢しないといけないこともあるよ。 」


「そうなのですか……我はまだまだ未熟です。貴方の元で永遠に続く愛を……」


「待て待て!俺達は性別同じだろ!?俺はホモじゃないし!! 」


「ホモ?なんですかそれは……我が主人よ。今から、私と一緒に寝ませんか? 」


「口説くなぁぁぁ!!! 」


※この後、滅茶苦茶○○した。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ