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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
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第七十一話 炎と氷

何とか投稿出来た( ・ㅂ・)و ̑̑




「神城さん、中央のエレベーターに急げますか? 」


耳に装着しているイヤフォンから、新島の秘書を務めている女性の声が届いた。

東口の援護をし、丁度、兵士を倒し終わったタイミングだったので、彼はYESと答える。


「中央のエレベーターに何があったんだ?あそこは非常時以外停止中だろ? 」


「それが……何者かが乗って、我々の施設の階まで移動しているようなんです。直ぐに対処願えますか? 」


「了解、今向かう! 」


神城は東口の自分の隊員へ声をかけると、一人で中央のエレベーターへ向かった。

普段は上の階層からの利用は強制停止され、エレベーター内のボタンもこの階だけは反応しないようになっている。

エレベーターのコントロール室は、施設の中にあり、本来なら動かすことが出来るのは組織内の人間でも限られた人物のみ。


そこに不信感を持った神城は、考えを一つ頭に浮かべた状態で走りを加速させた。






エレベーター付近に到着すると、真っ直ぐこの階へ向かっていることが分かる小さな電光掲示板の表記がされていた。


すると、背後から声がかかる。

黒スーツに身を包んだ新島の秘書だ。

彼女の名前は神城ですら知らない。彼女は普段、組織の中に溶け込むことはせずとも、仕事に関わる司令の役割を任されていた。


何者なのかも分からない。そこに不信感を持つ隊員も少なくはないが、神城は特に気にしていなかった。例え、危ない人間だったとしても、あの新島が認めて側近に置く人だ。

信頼が出来ると、そう思っていた。



「神城さん、手を頭の後ろに組んで跪いてください。でなければ、撃ちます! 」


「やはりな、お前はスパイだったか。」


彼女は最新式の銃型の魔法武器の銃口を神城へ向け、凍てついた冷たい表情で場を凍らせた。



「やはり?ということは、バレてましたか?私の正体を。新島鎮雄には言わないように口止めをしていたんですがね。彼が話した、というわけではなさそうですが? 」


「ああ、俺の直感だ。お前は何者だ?どういう目的でここに入った? 」


手を組む動きも見せず、神城は悠々自適に彼女へ質問を紡ぐ。


「私は水川浅海(みずかわあさみ)。KMC特殊潜入部隊隊長をやらせて頂いています。ATSが出来た頃から新島鎮雄の秘書として潜入してきました。目的はATSの監視です。」


「監視?誰からの命令だよ? 」


「少々、お喋りが過ぎましたね。ここで神城を殺せば私が他の隊員に怪しまれることはありません。それに、エレベーターにはあの方も乗られているのですから、ふふふふふ。 」


彼女は脅しの効かない神城へ、ブルーライトのような青々しい蛍光を銃口から放つ。

それが、水川の持つ魔法武器の弾丸なのだと瞬時に理解した神城は紙一重で避けてみせた。



「やはり、手強いですね。今のは、私の魔力を混ぜた弾丸なのですが……音速を優に超えているはずの代物。それを視覚だけで見切って避けてしまうとは……なら、これでっ! 」


水川はもう一つ、魔法武器を腰に装備されている銃用のポーチから取り出し、構える。

彼女が持つのは音速を超えた光の弾丸を放つ魔力使用型の武器だ。

二丁拳銃で確実に相手を狙えるハイスペックさは認めるが、魔力使用型となれば彼女の魔力が減少していくのは明確。


あまりに多様な連射は出来ないはずーー。

そう思っていたのだが、神城の想像を遥かに超える速度で青白い光の弾丸を乱射し始めた。そんなことをすれば、魔力の上限回数を無駄に消費してしまうだけ。


彼は思考回路を張り巡らせながら、華麗なステップと体の身のこなしで避け続けた。

一向に当たらない弾丸に嫌気が指し、眉を細める水川。

だが、乱射は止まらない。彼女の上限回数は新島級なのかというほどに。



「そんなに撃ったら回数が勿体無くねえか? 」


「ふふふ、敵の心配なんて余裕があるんですね〜? 」


「まあな、お前に負ける俺ではねえよ。んじゃ、ちょいと本気を出すかな。 」


首を右へ左へ傾け、乾いた音を空中へ泳がせると、青白く光る神城の眼光は周囲の空気を凍てつかせる。

カチカチと音を立てながら、壁、空気、エレベーターの扉は冷気で発生した氷に侵食されてしまった。


「流石は《白雪の帝(ユミル)》と呼ばれるだけはありますね。一瞬で周囲を凍結させる魔力…………!!それならこれでっ……!! 」


水川は引き金を引き、青白い蛍光を今一度放とうとした。

だがーーそれは、もう出来ない。


「ふっ、お前、もう終わってんだよ。 」


吐き捨てるように口を開く神城。彼の言うように、水川の持つ魔法武器は、触れた冷気によって彼女の手ごと瞬間接着剤に止められてしまったように凍っていた。


この状態では、引き金を引くことは愚か、攻撃をすることさえも出来ない。

戦闘経験は明らかに神城よりも浅い水川。自分が追い込んでいたのではなく、追い込まれていたことに、今気がついた。



「あっ、うっ、やめて……ください! 」


「うるせえ、もう黙れよ。 」


ーー瞬間。

彼女の心臓の心肺が停止した。



「はぁ……。誰が味方なのか危うくなってきてんな、これは。 」


神城は深くため息をつき、背後で音を立てて崩れた彼女に目もくれず、ポケットから煙草を一本取り出すと、口に咥える。

ライターを探し、ゴソゴソとポケット内を探すが見当たらない。

諦めて、煙草をしまおうとした瞬間だった。



凍てつき、開くことを禁止されたエレベーターの扉が爆発による轟音でこじ開けられた。

エレベーター前付近の冷気が瞬く間に吸い込まれ、個室の熱気で蒸気へと変わる。


中から足を踏み出してきた男の一歩は、周りの空気を一瞬で熱した。

神城の持っていた煙草に火がつくと、彼は嬉しそうに笑って、出てきた男へこう告げた。


「煙草の火、サンキュな! 」


「サンキュな!じゃねぇんだよ。《白雪の帝(ユミル)》!なんでお前らはこんな暴動を起こしちまったんだ? なぁ? 」


出てきた男は、赤い髪をオールバックにして、神城を見るなり、鋭い瞳をより尖らせた。

魔法師の名家で最も戦闘力が高く、歴史的にも最高峰の魔法師としての名が高い、朝日奈家、現当主、朝日奈焔。


「お前なら分かるだろ?家族を護る意味をよ。《炎帝(アドラメルク)》! 」


「はぁ……なんで俺が昔の友を斬らないとならないんだよ。そんな辛いことがあるか?俺はお前を斬りたくない、此処でお前が降参を認めてくれれば…… 」


「そんなこと、俺がすると思うか? 」


「しねえのは分かってんだけどな。俺にはお前を殺すなんて……いや、何でもねえ。さっさと始めよう。 」



熱を帯び、赤く光る巨大な大剣を発現させると、焔は刀身を肩に乗せて構えた。

神城も負けじと、白雪の長剣を具現化させ、重心を低くして構える。


ギリギリと両者の瞳はぶつかり合い、戦闘開始の重要な一歩を探り合う。

二人の剥き出しになった魔力と殺意は、周りを熱し、周りを凍らせた。



「魔力量は上がったみたいだな? 」


「ふん、お前もな、神城……! 」


両者、一瞬の時を駆け、瞬時に懐へ潜ろうと強い一歩をほぼ同時に踏み出した。

一閃。熱と冷気の激しいぶつかり合いが始まった。

本来の相性は、神城が焔相手では圧倒的に劣ってしまう。

彼の使う氷雪魔法は、朝日奈家の最高峰と呼ばれる炎魔法には勝てない。


だが、実際はそうではなかった。

言葉や思考で予想することは簡単に出来るが、現実はそう甘くない。

魔力の量は、神城が圧倒さを誇り、魔法技術では焔が上に出ていたのだ。


つまり、相を対する二人の魔法でも何処か劣るところが違えば、渡り合うことは出来る。


二人の剣戟はぶつかり合い、互いに傷つけあった。炎は氷を溶かし、氷は炎を凍らす。

そんな二人の戦いは止まることを知らない。



「確かお前、俺とだけは戦いたくねえとか言ってたよな? 」


「まあな。焔相手に当時の俺では相性最悪だったからよ。今はそうでもないが! 」


「言うねえ!なら、そろそろ頑張らないとな! 」


焔の大剣から繰り出される大振りを受け止める神城。だが、彼の背後から無数に降り注ぐ炎の矢が具現化された。

賺さず、自分の身に魔力を集中させ、白雪の鎧を纏って、矢を弾いた。



「おっと……! 」


長剣で大剣を弾き、反撃で剣を振るが、焔が後ろへ後退するように飛び上がって避けたので、それは虚空を切った。


「……なっ、マジかよ!? 」


だが、焔が後ろの存在に気付いた時には既に遅く。雪で具現化された巨人の拳は、焔の頭上を凌駕し、踏み潰した。



「手間取らせやがって!さっさと逝け! 」


はぁ……、と溜息をつきながら、雪に埋もれた焔にトドメを刺そうと、長剣を雪へ振り下ろす。


だがーー、神城は最後に熱を感じ、五歩ほど後退りした。



「それが昔の友に向ける言葉かよ〜。酷すぎんだろ、まァ、殺し合いだから仕方ねーけど! 」


「名家はチートばっかだなオイ……」


下半身が燃え上がる熱と化した焔は、神城の背後に回り込むと肩をポンと叩く。

今のを避けるには流石の朝日奈焔でも、自らの身体を焔に具現化させる必要があった。


もし、直撃し、少しでも神城の冷気を吸ってしまっていたなら、彼の思い通りに心肺は停止してしまっただろう。

焔は、神城を殺すことに躊躇いがあるが、神城には無い。

昔の友よりも今の家族。優先すべき部分を割り切っているからだ。



「お前も十分チートだろうがぁぁ! 」


焔の背後には、無数の炎の剣が具現化される。朝日奈燈火の《焔弁の爆炎花(アキメネス)》の上位互換に値する威力のモノ。

熱量も違えば、コントロール力も段違いに上。

焔が唯一、燈火に負けている部分は魔力消費量のみだ。



「お前ほどじゃねえわ!! 」


神城も白雪の剣を無数に具現化し、焔の方へ放つ。

無数に放たれる長剣を阻止する為に、焔の具現化した炎の剣は、もう一度熱に戻り、収束。

一振りで空間を切り裂けそうな巨大な大剣を具現化し、長剣を振り払った。



「勝負がつかねえな、んじゃこれでどうよ! 」


焔は剣を具現化せずに、一歩を踏み出して加速。魔力を一切使わず、縮地法のみで懐へ潜り込むと神城の顎へ鋭い拳を伸ばした。


「体術かよ、俺だって昔と比べりゃ、体術も上手くなったんだぞ? 」


拳が来る位置を読んでいたのか、顔を斜め上に向けて回避。伸びた腕を両手で確りと掴み、焔の身体を背中で背負った。

そのまま、下へ叩きつけるように一本背負いを放つが、焔は、神城の手から離れた瞬間に熱として状態を立て直した。



「確かにな、前と比べれば大分! 」


再び、一歩を踏み出して加速。

今度は直で突っ込みながら、周囲の熱を収束させて剣に具現化し、首を捉えようとする。

先程と同じように避けようとすれば、ガラ空きになった首に賺さず、剣が突き刺さってしまい、神城は死を味わうことになる。


けれど、神城は余裕の笑みをこぼした。

焔は驚き、自分の熱で頭がおかしくなってしまったのかとさえ、錯覚した。

それ程までに今、この状態で笑みをこぼすのはおかしいことだからだ。


神城は先程と同様で首を上に向けた状態で避けてみせた。

首はガラ空きに、今狙えば確実に神城の首を取ることはできる。

だが、それは焔が望んでいることではない。


炎の剣は空気に溶け込むよう、消滅した。



「やはりな、お前は俺を殺せないんだろ? 」


神城の具現化した白雪の矢が焔の両腕、両足を射抜く。床へ水溜りのような血の池が出来上がるのも時間の問題な程の出血が動けなくなった焔にされる。



「ちっ、友を殺すなんて出来ねえよ。それが当たり前だろ?なぁ、神城!組織なんかより、友を取れよ!なぁ! 」



だが、さっきまで笑いながら戦闘を楽しんでいた神城もこの問いかけが来ると、冷たい表情を全面に出し、薄く笑ってーー。



「俺には、新島っていう永遠の友が居るんでな。その願いには答えらんねえわ。 」


直後、場が一瞬で静寂に包まれ、重みのある肉体が崩れ去る音だけが廊下内に響いた。


神城は心を鬼にして、焔を気絶させた。


「友と殺し合いなんか、したくねえよ。俺だってな……。だが、時代の波は俺らじゃ止められねえのさ。 」


神城は、誰かに吐き捨てるように言葉を虚空へ放つと、ポケットに手を突っ込んで悲しげな表情のままに、その場から去っていったのだった。


七十一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は、氷と炎でした。

心を鬼に出来る方か、感情を戦闘の中で無意識に移入してしまう方か、どちらが強いかなんて明確ですよね?


それでは次回予告です^^


ベッドの上で意識を取り戻した新島は戦線へ復帰しようとする。だが、偶然、隣で寝ていた虹色に声をかけられ、話すことに。


次回もお楽しみに!


【幼き頃の神城と朝日奈】


「なぁ、神城!お前は将来、どこに所属するんだよ! 」


「あー、俺は、一生ついていきたい奴が居るかな。そいつの為なら友だって殺せる!そんな奴になりてえよ。 」


「怖すぎだろ!俺は絶対無理だな。家柄上もあるけどさ、友を殺すのだけは絶対にしたくねー! 」


※KMC学園に入学する前に、中学校の時点で神城と焔は友達だった。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!


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