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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
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第六十九話 新島の決意

遅くなりました、現実で仕事が突然忙しくなったので投稿が遅れましたー。

明日も出来るか、分かりません……。

「……きて、起きて!起きて! 」


大量の魔力を使ったことによる身体の疲労で意識を失った夜十は、聞き覚えのある声で意識を取り戻した。


"あぁ、正気を取り戻したのか。それは、良かった。"


「……冴島夜十!お願い、起きてよ! 」


彼女は夜十の名前を涙の混じった鼻声で呼ぶ。ゆっくり目を開くと、眩い光を遮るように肩を揺する翡翠色の瞳の少女が、夜十に覆い被さっていた。



「……あっ、虹色。おはよう。 」


目を見開くと、彼女は覆い被さっている現状に気づいたのか。顔を赤らめて、視界から消えてしまう。

首を右へ傾けると、クシャクシャになったシーツの上に縮こまって座っている虹色の姿が見えた。



「あ、うん。お、おはよう……。 」


「あ、えーと……俺を運んできた奴が何か言ってなかった? 」


「……うん、言ってたよ。確か……体力が少しでも回復したら戻ってこい!だったかな? 」


「そっか、じゃあ、俺戻らないと……。虹色は寝てろよ!んじゃーー」


少しだけでも睡眠が取れたのは良かった。

昨日はぐっすり眠ったはずなのに、やはり三連続の戦闘は疲労が溜まる速度も速い。

夜十は戦線に戻るべく、彼女に別れを告げようと口を開くーー、が、それは遮られた。



「待って……話したいことがあるんだけど、良いかな? 」


「え、なに? 」


ベッドから降りるタイミングで止められた為、再び腰を下ろす形となった。


「んとね、実は……私、知ってたんだ。流藤が殺される直前に言ったこと……」


「……え? 」


「うん、ごめんなさい。本当はあんなこと言うつもりはなかったんだけど、つい……ね。 」


「……別に良いよ。殺してしまったのも事実だし、俺があの時、流藤を守れなかったのも事実だから。けどね……」


彼女は下を俯き、悲しげな表情で頷く。


「いつまでも下を向いてられないんだ。支えてくれた、立ち直らせてくれた仲間の為に、今迄、お世話をしてくれた家族の為に、俺はどんな困難も逆境も乗り越えてやる!絶対に!信念は永劫に変わらない! 」


「うん……。あのさ……その家族ってのに私は……」


彼女の言葉に夜十は鼻を鳴らしながら、口元を歪め、ベッドを降りる。扉に手をかけると優しい声で口を開いた。



「……当たり前だろ!この組織に入った以上、虹色はもう家族だよ。だから、絶対に傷つけさせない……! 」


「ん、あ、ありがとう……」


彼女がソッと囁いた声を耳で拾い、黙って部屋から出て行った。

"家族を絶対に死なせない為には、今戦線を抜けていない方がいいに決まってる。新島隊長、待っていてください"


夜十は全速力で西入り口へ向かったのだった。






ーー西入り口前。

新島と天海が互いの眼光をぶつけ合い、適度な間合いを取っていた。


緊迫した時間が続くと、先攻を取ったのは天海だった。天海は、片手に氷の剣を発現し、今までの間合いを破壊するように詰め寄ると、懐に入ろうと一歩を踏み出す。

だが、新島は彼の考えを素早く察知し、後ろへ一歩後退した。


全盛期であれば一回の魔力消費で大型アビスを五体一気に倒せるくらいの魔法を撃てたのだが、今は魔法の上限回数の残が五十未満になってしまっている。

よって、大きな魔法は迂闊に撃てない。

今のATSには新島の存在が大きく、それは魔法界とて同じだ。


それらが無ければ、魔法を使い切って此の世を去るのもまた一興。

けれど、まだ去るわけにはいかない。


「《咲かせてみせよう、氷の華。紡いでみせよう、物語。凍てつけ!氷華の月(グラスムーン)》 」


天海は詠唱を完了すると、空中へ水色に光る魔法陣を幾つも展開した。

魔力が役割を自動で伝えると、甲高い音を立てながら割れる陣は、鋭利に尖った氷の華を宙へ発現する。

爆発的な速度で新島に迫る華は、頬を掠めれば皮膚を簡単に切ってしまいそうだ。


この場合、新島が行えるのは"回避"のみ。

天海が創り出した氷の華を見切り、華麗なステップで避け続ける。

だが、避けた先には剣を持った天海が迫ってきていた。

けれど、それも新島は見えていた。

しっかりと見据えた上で彼の方向に回避を行なったのだ。


「取ったぁぁぁぁぁぁ!!! 」


天海は大きく上から下へ剣を振り下ろした。

確実に当たる間合いだった為、確信的にも大声で勝利を叫んだのだがーー。

彼が斬ったのは空気、虚空のみ。

新島は方向転換でするりと避け、天海の足を強く踏みつけた状態で拳を強く握った。



「なっ……!? 」


避けられたことの驚きと、新島が反撃をこのタイミングで繰り出してきたことの驚きで、思わず疑問の声を上げた。

剣を手放し、手で受け止めようとするもーー。


流石に遅かったか。声を上げた数刻後に、天海の顔面へ新島の拳が突き刺さった。

だが、吹っ飛ばされることはない。足を踏まれて固定されているからだ。

次々と真っ赤に腫れた顔へ突き刺さる拳。

四発程殴ったタイミングで足を離し、五発目で勢いをつけながら吹っ飛ばした。


先程の夜十の魔法で開けきった西入り口の大穴へ凄まじい勢いで吹っ飛んだ天海は、奥の壁へ背をつける。


「はぁ……はぁ、ごぼっ、ぐぁ……痛ってェ……!! 」


口から大量の血液を吐き、コンクリートの地面を濡らす。

魔法を使っていない相手にここまでやられるとは思っていなかった天海の瞳は真剣そのものへ変わった。



「……まだまだやられるわけにはいかないんでな。絶対に負けねェ!! 」


「ふっ、はははははは!!面白い、私がここまでやられたのは久しぶりだよ。なら、本気を見せてやる!! 」


水の天海と恐れられた名家中の名家。

水魔法の提唱者、天海帝王(あまみていおう)はこの世に存在する全ての水分、水、海、氷、冷気を操ったとされる歴代魔法師で上位に入る魔力のコントロール力に長けた人物だった。


天海家は個人個人が強者であることが多く、集団で敵を狩る行為を必要としていない。

その為か、滅多に家族が全員集まることもなく、其々が単独で過ごしている。


「俺が当主になった理由はなァ!帝王様のように、魔力コントロールが優れていたからだァ!! 」


天海は地面に手をつき、床を凍らせる。

ここから氷のフィールドは全て、天海の領域。彼が思うように氷は動き、冷気も動く。

全ては氷の上に降り立つ王子の命により、だ。



「ふっ、避けてみろよ。さっきとは比べものにならねえよ? 」


最初の紳士的な態度とは一変して、狂気的な口調になった天海が発言した通り、早速新島には危険が襲いかかる。

背後からは無数に咲き誇る氷の華が降り注ぎ、真正面からは床の氷から生み出されるように氷の剣が貫こうと襲いかかった。



「や、ヤベェ!!全部、捌き切れない! 」


背後の氷の華を避けることに精一杯で、正面から飛んでくる剣を避けることは出来ない。運動量も魔力も、ずば抜けており、周りの魔法師を一切寄せ付けない強さを持つ《破壊神》ですら、大量の攻撃が一度に成される相手のフィールド場では無に等しかった。


「がっ……ぐぁぁぁぁ!! 」


腕へ火を浴びたような熱さが突き刺さる。透明な氷の剣は新島の血液で赤く染まると、生み出される結露で血を薄めた。


次々と腕や足、腹部に突き刺さった剣。

その度に新島の痛烈な唸りが響き、軈て、彼は背後からの氷の華も避けられなくなってしまう。

鋭利に尖がった華が頬の皮膚を掠め、ツーッと血液が流れ落ちた。



「クッソ……痛え!! 」


「ふっ、少し本気を出したらすぐにコレか。お前も本気を出したらどうだよ。雑魚が! 」


止まった攻撃を糧とし、腕や腹部に刺さった剣を引き抜いた。

ポタポタと硬い氷の床に綺麗な円型の血液が重複して落下する。


このままではマズイ。

今のまま、魔法を使わなければ天海に殺されてしまうのは一目瞭然だ。


輝夜も霜月も新田も凍てついていない壁や床に立ち、不安そうな表情で血塗れの新島へ視線を集中させている。

何か自分に出来ることはないか。ひたすら考え、模索していた。けれど、彼らに出来るのは今、見守ることのみだった。


大切な家族が、部下が不安そうな表情を自分へ向けている。新島は、かつてないほどに自分が見っとも無いと思った。

恥ずかしいとさえ、思う。

だが、何故だろうか。それ以上に、心地よさも感じてしまうのは。


今迄も此れからも、ずっと最強の魔法師で、皆に期待の眼差しを向けられると思っていた。

不安な気持ちにさせてたまるか、下らない意気込みを張って生きてきたのだ。


それが今、少しだけ解けた気がする。

それが今、楽に感じた。



「ぐっ……!そうだな、一回で、良いか。 」


痛みに耐えながら、右掌を自分の目線と同じ高さまで上げる。頭がぼーっとする、少しだけ血を流し過ぎたのかもしれない。


「一回……? 」


天海は彼の覚束ない呟きに微妙な疑問を発する。

彼はこの時気がつけていなかった。もう既に、負けが決定していることをーー。



「……喜べ!俺がお前に敬意を持ってやる!」


「雑魚に敬意って……笑わせてくれますね? 」


「……それじゃあな。」


ーー瞬刻。

新島の持つ高密度の魔力が巨大な大剣を空中に四本ほど具現化する。

四本の剣の矛先から繊細な細い光の線が結ばれ、四角形の穴を作り出した。

穴の中へ手を突っ込み、柄を掴むような仕草でグッと握ると腕を引き、中から巨大な剣を取り出す。

紫と黒のダークなデザインは、闇の炎を頭に浮かばせることが出来た。



「……ありがとな。」


「そんな剣、俺の氷が砕いてやる! 」


天海の身体を凍てつく氷が侵食し、氷の半身からは冷気が漏れ出し始める。

感謝の言葉を発する新島を無視し、天海は全力の防御に走った。



「《闇の聖剣(ロス・コリータ)》! 」


紫の大剣を一振りすると、凄まじい火力の剣圧が飛び、天海の氷を容易に砕く。

次の瞬間ーー、剣圧とは比べ物にならないほどの魔力が篭り、火力が異様に上がった斬撃が彼の視界を真っ白に染めた。


そしてーー、巨大な爆発音と共に真っ二つに一刀両断された天海は血を吐きながら、瞳を虚ろにして崩れ落ち、肉塊に変わった。


新島の放った斬撃が敵の命を射止めただけであれば良かったのだが、どうやらそれだけでは止まらなかったようで、西入り口のコンクリートの天井に亀裂を入れてしまった。



「あ、マズイかもしれんな、これは……」


ーー破壊音、破壊音、破壊音。

轟音とコンクリートが砕け散る音で埋め尽くされた入り口は、崩れ落ちた岩盤によって入り口を塞いでしまった。



「ちょ、隊長!何やってんねん! 」


「新島さん、大丈夫ですか?肩を……! 」


「これで西入り口は侵入されないかな?別の場所の援護に行く前に、隊長を運ぼう! 」


三人に抱えられた新島は脱力し切った様子で溜息を吐く。

その直後、夜十が到着した。



「に、新島隊長!!だ、大丈夫ですか!? 」


「……あぁ、大丈夫だ。少し斬ったくらいだからよ、唾でも付けときゃあ、治る! 」


新島と夜十の会話へ、水を差すように新田は呟く。



「重傷よ、今から療護室へ運ぶから夜十はそうね……神城隊の援護をお願い! 」


「で、でも……! 」


「大丈夫、この人は簡単に死ぬような人じゃないの、分かってるでしょ? ね? 」


夜十は、新田の声に深く頷くと、新島に別れを告げて、神城隊が担当する北入口へ向かうのだった。

一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は新島が決意しましたね。

上限回数を越えれば、消滅してしまうのですから、自分だったら使わないですかね……。


いや、でも、死にそうなら使うか。


そんなこんなで次回予告です!


新田に言われるがまま、神城隊の援護に北入口へ向かう夜十。その頃、北入口では神城とKMCからの刺客が交戦していてーー!?


次回もお楽しみに(((o(*゜▽゜*)o)))♡


【出番が欲しい】



「新島隊がメインだからって、酷くない?!神城隊も映してほしいちゃーん! 」


「ミクル、気持ちは分かるが……ってありゃ、次回は俺のカッコいい戦闘シーンだってよ。よっしゃあ! 」


「はぁ?隊長だけ?私も出るよね?! 」


「小さすぎて映らないんじゃね? 」


「ブチッーー 」


※この後、神城は星になった。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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