第七話 心境の変化
ーー翌日。
目覚めがあまりよろしくない朝。
カーテンから射し込む光を眩く感じ、俺は起床する。
昨日の派閥体験は本当に疲れた。
ただ、満足に言えるのは全ての派閥を自分自身の瞳で見ることが出来たということ。
それだけで、満足していた。
今日の予定は、全派閥を見た上で、決定した派閥《平和派》に所属することを申請しに、昨日行った拠点へ行くことになっている。
身支度を済ませて、寮室の外へ出るとーー
俺の寮室の扉の前で気をつけをして、ピンっと立っている少女がーー朝日奈燈火であることが一瞬で分かった。
「え……おはよう?」
部屋から出てきた瞬間に、目が合ってしまった。昨日の傷はもう塞がったようで、前のような綺麗な姿をしている。
だが、彼女が何故俺の部屋の前に?
疑問に思った俺は率直に問いかける。
「朝早くにどうしたの?」
「いや……あのね、んと、ね!!あ……」
彼女は顔を赤らめて、身体をソワソワさせ、身体を落ち着かせる様子がない。
それでも勇気を振り絞って出た言葉は、俺には伝わらなかった。
「あ……?」
「んんんんん!!」
彼女の様子が少しだけおかしいので、
熱でも有るのかと心配して、下を俯いている顔を覗き込んだ。
「なっ、なによ!!」
「朝日奈、顔赤いよ。熱あるなら保健室行こう!……ついていくからさ」
俺が言った言葉に何かイラつきでも覚えたのだろうか。
彼女は、俯いていた顔を起こして俺の瞳に視線を合わせると、恥ずかしそうに大声で言い放った。
「う、うるさいわね!!き、昨日は……ありがとうっっ!!」
と言い残し、一目散に走り去っていく彼女に、返事も出来なかった俺は、目を丸くして驚いていた。
"おう"という返事もさせてくれなかった。
「ありがとう」の言葉を言うだけで、あんなに照れるか?普通。
今の照れてるレベルは、好きな人に告白する時みたいなレベルだぞ。
全くおかしなお嬢様だ!
俺は、寮室の鍵を閉めると、
《平和派》の拠点の旧校舎に向かった。
ーー数分後。
拠点に着くと、またあの木造建築の建物が目の前に現れる。
扉は開いており、前は風見が一緒に入ってくれたからいいものを、無断で入っても問題は無いのだろうか?
分からないが、取り敢えず足を踏み入れてみようか。
この間、風見についていった時の道は真っ直ぐの道。
それでは、右に行ったらどこに繋がっているのだろう?
だが、前の演習場みたいに空間が拡張されているかもしれない為に、迂闊に動き回って迷子になるよりかは、声を出して誰かを呼ぶのが妥当といえる。
ーーので、俺は空気を肺一杯に吸い込むと、
大きな声で叫んだ。
「ごめんくださぁぁぁいい!!!」
ーー俺の渾身の叫びでも崩れなかった拠点の静寂は、右の道の方からひょこっと少女が頭を出したことで崩れた。
「うおっ!?!?」
あまりにも突然だったので、
驚いた俺は思わず後ずさりしてしまった。
「どうかされやがりました?ここは《平和派》の拠点ですです!
風見先輩に何か御用で来てくれやがりましたか?」
なかなか特徴的な話し方をする少女は、
身長が完全に幼稚園サイズで、茶髪のツインテールに、黒色の瞳をしていた。
クリクリとした瞳と小さな身体が可愛らしい、小動物感を引き出している。
「あー、《平和派》に所属申請を出しに来たんですけど、どうすれば良いんですか?」
すると、彼女は笑顔で俺の足へ、飛びついて来た。
下から見上げられる感覚は、初めて味わうーー妹を持ったような感覚?だ。
「おおお!!!本当に《平和派》に所属してくれやがるですか!?万年人手不足の派閥にようこそですです!」
彼女は、俺から離れると小さな手で左の道を指差し、手招きをして、歩き始めた。
俺は上履きを脱いで、彼女の後をついていくことに。
陽の光が差し込む玄関ですら、左側の廊下は真っ暗で明かりも照明もないのか、何も見えない。
暗い場所というのは、なかなか、不安な気持ちになってくる。
ーー彼女は歩きながら、俺への疑問を問いかけとしてぶつけて来た。
「何で、《平和派》にしてくれやがりました?派閥選択の選択肢は四つあるですよ!」
「他の派閥を全部見てきたんですけど、一番安全で一番良さそうなのはココかなーって思ったんです!」
少女はうんうん、と頷いて、話を続ける。
「それはドンちくしょーにも嬉しいことでいやがります、ですです!!」
彼女が笑顔で暗がりの道を進んでいれば、
ふと、立ち止まった。
「やあ、小日向。そちらはお客さん?それとも、ウチの新しい所属者?」
長く続く廊下の壁に寄りかかって、腕組みをしている少年は、少女を名前で呼んで、俺を難しそうな表情で凝視した。
「ああ、冴島君か。キミ、《平和派》を選んだんだね。風見が選んだだけはあるよ。まあ、あの子も来てるし、奥の方に進みな!」
あの子……?
誰だろう?と疑問が浮かんだが、それは行ってみれば分かることだ。
俺は少年に一礼して、少女に奥の部屋の扉まで案内してもらった。
「ここからはご自分でいくですよ!!私はここには用は無いでいやがりますから、それでは!!」
彼女はそそくさ〜に走り去っていった。
逃げ去って行くように見えたのは、恐らく気のせいだろう。
俺は、目の前の扉のドアノブに手をかけると、ゆっくり回して、中に足を踏み入れた。
するとーー
目の前に広がってきた光景は、
壁と床に張り巡らされた防御障壁と、試作品と思われる数々の武器、鎧、飛行器具。
それらの真ん中には、昨日戦った茶髪の青年と風見が立っていた。
二人共、何故か白衣を身に纏い、何やら話をしている。
風見の隣には、今朝ぶりの朝日奈も居た。
彼女も《平和派》なのか!?
ーーと思うと、今朝のこともあり、意外と気まずいような気もするが、俺は風見に近づいて、大きな声で挨拶を紡ぐ。
「おはようございます!!」
するとーー
風見は俺の方を向くなり、
目を煌めかせながら「いいカモ!!」と小声で呟いた。
「ああ、冴島君!君が今日ここにいるってことは、《平和派》に入るってことでいいのかな??」
「はい、お願いします!!ところで、所属するなら、必要なものとかあります?」
彼女は暗い表情で口を開く。
「片目をくり抜いて私に差し出せ!そうしないと、《平和派》としての活動は認められないんだよ!」
!?!?
派閥名どこ行ったよ!!
平和じゃねえよ、所属方法が!!
やや焦った表情に、彼女は笑い始める。
「嘘嘘、ごめん!!そんな焦った顔されたら、もっといじめたくなっちゃーう!!」
「やめてください……」
ボソッと呟いた言葉だったが、彼女の脳裏には届かずに空気中に消滅した。
「……てんちょー、《戦闘派》からの任務要請、彼らにやらせれば?」
「ああ、そうだな。てか、お前がボスなんだからお前が決めろや!!」
「痛っっ!!叩くことないじゃないか、店長!!」
隣でずっと黙っていた店長は、
暫く考え込んで、自分が判断することではないと気づくと、風見の肩をぶっ叩いた。
「なかなか見苦しいところを見せてしまってすまないね。今年の《平和派》の入隊希望者は、君ら二人だけのようなんだよ。私の予定では、三人だったんだけどね。手違いで、取られてしまって!俺ら、これから武器開発の試作テストがあって、手が離せないんだ。そこでお願いがあるんだけど、小型のアビス退治行ってくれない?」
彼に言われた言葉で心がときめいた。
それはーー俺が夢見たコト。
まさか、こんなにも早い段階で学校側の任務として、行けることになるとは思ってもみなかった。
ーーこれはチャンスだ。
俺は、内心、ガッツポーズをして、
ずーっと黙って下を向いている朝日奈に視線を向けた。
どうかしたのか……?
まぁ、あとで聞けば良いか。
俺は、この学園のアビス退治事情に関して、
ふと、学校案内の資料に書かれている文面を思い出した。
書かれていたことを、纏めるとーー
学校側の任務で受けられるアビス退治は、
大きく分けて二つの種類がある。
一つ目は小型アビス。
一般人でも一部の強い男性であれば倒すことが出来るが、
人類が住処とする住宅街に現れると、
それぞれが持っている特殊な力によって、人間を根絶やしにしようとしてくる。
小型アビス退治であれば、魔法師免許を取得しなくても体術をある程度、極めていれば問題はない。
基本的に、学園側からの任務要請は、
小型アビスのみ。
二つ目は、大型アビスの退治。
魔法を使った攻撃や物理などの攻撃も通用することには通用するが、
巨大さ故にタフな種類が大変多く見られ、
結果、強力な魔法を民間人のいる場所や、都市内でわ使用することになる。
つまり、コントロール等の技術を必要とするわけだ。
大型アビスの退治に関しては、魔法師の免許がなければ出来ない。
だが、一般の魔法師レベルの技術力があれば、KMCの名前を使ってアビス退治をすることは出来る。
このルールが学園に存在している限り、KMCは我々生徒に、アビス討伐任務を任せてくるらしい。
今では、強力な魔法師も定年で退職している場合が多く、実戦で大型アビスと戦っている魔法師は数少ない。
そこで、KMCがアビスの討伐を負担して、生徒に勉強も兼ねてという理由で、討伐任務を任せることがあるらしい。
大型アビスの討伐に関しては、滅多にあるわけではないらしいが。
ーー今回は、
行く予定だった火炎隊のメンツが半分以上、(誰かさんのせいで)病院送りになったせいで任務の遂行が遅れてしまうらしい。
そこは、派閥でカバーして欲しいが、そうも行かないので《平和派》に回ってきたというわけだ。
成り行きとは言えど、火炎の隊を半分以上潰したのは俺なので、この場合は罪悪感というよりも、火炎隊の隊員には申し訳ないが、潰して良かったと思ってしまった。
そして、明日にでも行くのかと思えば、
生憎にも、今から行け!ということらしい。
まさか、
《平和派》に所属してから最初の任務が最も平和じゃない任務だとは思っていなかった。
だが、朝日奈と二人きりというのは色々と好都合だ。
聞きたいことも、謝りたいこともある。
色々と、良いチャンスが回ってきたようで、俺は嬉しかった!
ーー渡された、アビスの出現地が記載されている地図を頭の中に臆し、KMCと黒い字で書かれた赤いワッペンを腕に取り付けた。
朝日奈も賺さず、取り付ける。
都市に行くまでには、学園から約三十分以上歩かないと行けないらしく、交通の便も使えないということで二人で歩くことに。
だが、彼女は、前のように俺と行動することに対しての嫌さが無くなったようで、
それこそが逆に不自然を感じさせてくる。
彼女にどうしても聞きたいこと。
というのは、基、昨日、何故《戦闘派》の拠点に居たのか。
それに加えて、昨日の怒りようだ。
最大火力の魔法をぶつけようと思った理由は、心境は?気になることばかりだ。
「えーっと、朝日奈。聞きたいことがあるんだけど、目的地に着くまで話さない?」
「うん、良いわよ。私もあんたに聞きたいことあるし……」
俺に聞きたいことか。
なんだろう、少しだけ楽しみになった俺は、彼女へ、まず最初の質問を紡ごう。
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