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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
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第六十六話 初恋は実らない

この時間に投稿出来たのは良かった……毎日投稿が地味に追いついてきた!!頑張りますよ!

浴場から出て、食堂に足を踏み入れると。

"冴島夜十歓迎パーティー"と描かれた装飾された看板が天井に括り付けられ、パーティー用の装飾が部屋中にされていた。

縦に長いテーブルが三個並び、テーブルの上には豪勢な料理が乗せられている。


夜十を除く全員はもう着席して、彼を待っていたようだ。

夜十が自分の隊の席に着席すると、小さな銀色のマイクを持った金髪の男性が話し始めた。



「……よし!全員揃ったな。昨日、夜十がKMC魔法学園から帰還してきた。我々が誇る最強の隊の副隊長を務めていた男だ。ならば、歓迎パーティーをするのが至極当然!さぁ!お前ら!今日は宴だ!飲めや飲めや!どんちゃん騒ぎしようぜええええ!! 」


「いえええええええい!!!! 」



パーティーはスタートした。

開会式などと言った畏まったようなことはしない。主催者である新島は、家族として仲間として、命を預ける戦友として、今になっても親睦を深めてもらいたいのだ。



「夜十、さっさと飲むぞ!! 」


「相変わらずですね、標津さん……」


紙コップに入った生ビールを片手に、先程のマイクを持って開幕の合図をした金髪の男性は夜十を急かした。


「おうよ!俺は変わってねえさ!お前は、変わったんだろ?聞いたぜ!女房からよ! 」


「いや、俺もあまり変わってないですよ。ただ、自分のことが分かったんです。分からなかったことが知れたってのは自分の中で大きい一歩になったと思ってます。 」


標津は、夜十の態度に目を丸くし、右手で金色の髪をポリポリと掻いた。


「あー、確かに変わったな。お前、なんか謙虚になった。前はもっと適当なやつだったぞ! 」


「それは標津さんほどじゃないですよ! 」


「そりゃあ、違いねえ!はははははは!! 」


一頻り笑った標津は"頑張れよ!"と、右手を挙げて去っていった。

ムードメーカーの標津は、宴の中心で笑いを取る要員として居ることが多い。

彼無しでは組織全体が一丸となるのも難しいだろう。



「よっ!夜十っ! 」


肩を優しく叩き、ビールを片手に現れたのは、綺麗なオレンジ色が特徴的なショートヘアの男性。

彼はビジュアル共に完璧。すらりと伸びた長い足に程よい筋肉。正に世の女性がイケメンと言うには感無量のパーツだけで体が構成されているように思える。



「龍騎さん、お久しぶりです! 」


「おうっ!久しぶりだな!新島から聞いたが、輝夜に勝ったんだって? 」


ニヤニヤと止まらない笑顔を向けながら、夜十へ問いかける。



「ほんの数時間前の話なのに、もう情報を回すとは……あの変態隊長め……」


「あはははは!いやいや、嬉しかったんだと思うよ〜?新島ってお前のこと、息子のように思ってるしさぁ! 」


一日経っていれば、文句の一つも言えないが経っていても一時間。

龍騎に知られていると言うことは、全員に知られていると言っても過言ではない。

夜十は不満げに喉を鳴らし、ホロリと笑顔を零した。



「夜十〜〜!どう?楽しんでる!? 」


龍騎との会話に食い気味で声を掛けてきたのは、顔を赤らめ、あからさまに酔っているミクルだった。


「んじゃ、俺は退散するよ。二人でごゆっくり〜〜! 」



空気を読んだ龍騎は笑顔で退散していった。

ミクルを酔わせて、夜十の方へ向かわせたのは誰と疑う必要もない。神城以外に居ない。

ニヤニヤと笑い、夜十とミクルの方を見ているだけで理解が出来る。



「……ミクル、大丈夫? 」


「大丈夫じゃないよ!私の心はもうズタボロだよ!夜十が帰ってきて嬉しいはずなのに……学園で好きな子が出来て両想いで……なんか胸が苦しいって言うか、もう分かんない! 」


"ええええ、どういうこと!?"


「……馬鹿馬鹿馬鹿!私はずっと夜十のこと昔から……誰よりも好きだったのに、何であんたは!! 」


「ええ……そうだったの……!? 」


"全然気がつかなかった"

夜十の心の中は疑問と微妙な気持ちに支配された。

夜十自身、ミクルのことは好きだが、それは恋愛感情あってのことではない。

どちらかと言えば、家族として、戦友として、仲間として好き。


ミクルをそういう目で見たことは一度も無かった。



「うぅ……何でよ……!! 」


普段、自分の本音を中々言わないミクル。きっと、神城はこれを伝えたかったのだろう。それも、しっかりとミクルの口から。



「ミクル、ちょっと行くよ! 」


涙を流し始めた彼女の手を取り、食堂を出た。大勢がいる食堂の中でそういう話は正直、気まずい。

それにーー。



食堂から少しだけ離れた廊下の角で立ち止まると、手で泪を拭うミクルへ、息が止まるほど強く抱き締めたーー。

が、勢い余って、力を入れていなかった彼女が下敷きとなって転倒。


まるで押し倒したかのようになってしまった。



「ああぁぁぁ……ごめん!! 」


「……良いよ、夜十。あんたは悪くない、私が想いを早く伝えていればよかったのにね。朝日奈燈火さん、どんな人なんだろう。 」


「アレ……酔いが覚めてる?! 」


「元々酔ってないよ!演技演技!んじゃ、戻ろ! 」


先に立ち上がって、手を差し伸べる彼女は、どこか眩しげに輝いて見えた。


「ミクルが自分の想いを晒け出せるなんてな。お前、中々言わないから……」


「んなこと、私だって分かってるよ!でも、良かった。夜十が夜十で……」


「どういうことだよ。 」


「良いの、何でもないっ! 」


終始、笑顔を零していた彼女。

夜十は気がついてやれなかったことへの悔しさに呑まれた。

ずっと近くに居たのに、彼女を分かってあげられなかった。家族に、あんな辛い顔をして欲しく無かったのに。



"私は一生、夜十を想い続ける。昔、助けてくれたことから一目惚れだったけど、今は好きになって、なれて本当に良かったと思う"





ーー食堂へ戻ると、笑顔で手を振る神城の姿があった。完全に酔いが回って来ているのか、顔は真っ赤だ。

周りの新島と標津、龍騎も同じく。


「いやぁ、あのクソ餓鬼が女の子の気持ちをわかってあげようと自分から大胆に手を取るとはね。負けた負けた!! 」


新島はポケットからお金を取り出すと、神城へ投げつけた。

"賭けてたの!?"


「はいはい、サンキュサンキュー!やっぱり、夜十も男だな!大胆に行ってくれたぜ! 」


プツリと、その光景を目を丸くして見ていた彼女の堪忍袋の尾が切れた音が聞こえた。

ズシズシと一歩を踏み出し、神城の目の前で立ち止まると体を捻ってビンタの威力を増させる小技を使う。

パシィンッーーと、頬を叩いて食堂を出て行った。



「あらら……やり過ぎたか。んじゃ、俺行ってくるわ。お前らも飲みすぎんなよ! 」


神城がやり過ぎることは誰もが咎める点ではない。いつでもやらかす彼に、全員が呆れているのだ。

ただ、今のは……許してもらえるかどうか。





ーー食堂近くの廊下。

ビンタをされて、後を追ってきた神城は廊下の角で、泣き噦るミクルの頭をポンと撫でた。



「気持ちは伝えられたんだろ? 」


「うぅ……うん。でもね……何でかな。自分は満足しているはずなのに、ずっと想い続けるって心に誓ったのに……涙がね、止まらないの……!! 」


震えた口調で涙ながらに話す彼女を、神城は後ろから抱き締めた。


「今日はもう、戻らなくて良いから沢山泣け。俺がずっとそばに居てやるからよ。 」


「うん……ありがとう、神城隊長 」







「なあに浮かない顔してんの〜〜? 」


「いや、別に……。龍騎さん、飲みすぎじゃないですか?顔が真っ赤ですよ。 」


「そうなんだよね〜、俺もそろそろやめた方がいいのは、彼処の説教見てれば感じて来るよ。 」


龍騎が指差した先には、素面な騰が飲み過ぎている標津を心配して説教を行っている様子が視界に映った。

標津は正座で、騰は両足を広げて立っている。


「飲み過ぎはダメって何度言ったら分かるの?この後、部屋行くって言ったのに、そんな酒臭い人と一緒に居たくないよ! 」



「はい、すいません。飲み過ぎました。はい、この後、はい……わかってます。 はい。 」


確実に尻に敷かれている。普段、ムードメーカーで元気な標津があんなにも反省した様子で謝っているなんて珍しい。というか、見たことが無かったので少しだけ笑みが零れた。



「もう皆、撃沈かよ!……ったく、俺なんか飲まなきゃやってられねえよ!……げぇ!! 」


新島が驚きのあまり、不思議な声を出した原因は、食堂の入り口付近で書類を片手に眼鏡を持ち上げる仕草で彼を睨みつけていた。



「いや、ちょっと待てよ。今日は仕事オフだろ!? 」


「はい。だから、飲んでもいいですよ。但し、程々にして貰えますか?貴方の部屋は私の仕事スペースでもあるのです、酒臭いスペースに居たいとは思えないですよね?タダでさえ、葉巻の煙が服に付くから居たくないのにあの部屋……あーあ、もう嫌になってしまいますよ。どうぞ?好きなだけ飲んでください。私は部屋に戻って仕事の続きをします。 」


長々と喋った後、彼女は怒ったように食堂から出て行った。

その後を新島が追いかけるはずもなく、後頭部を掻きながら、酒を手にした。



「あっ、標津さん!新人が入ったって聞いたんですが、名前は!? 」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……あ、え?あぁ、名前はーー」


夜十はその名前を聞いて驚愕した。

何故、彼女が此処にーー。


居場所を聞くと、パーティーに誘ったのだが自分はいいと言って部屋に閉じこもったそうだ。きっと、夜十と顔を合わせたくなかったのかもしれない。

ーー会いに行く価値はあるか。



椅子から立ち上がると、食堂から出る前に深くお辞儀をして出て行った。



彼女の部屋があるのは食堂から遠く離れた標津隊の部屋が集合している位置なので、最深部付近だ。

部屋の場所は隊ごとに分かれている為、部屋の番号を知らなくても多少は分かる。

それに、標津隊の空き部屋と言ったらあの部屋しかないーー。



部屋に近づくと、中からは綺麗な音色が響いて聞こえてきた。

ピアノの音だろう、良い音で木の葉の舞い落ちていくような爽やかさを感じる。

目を閉じれば、自分が栗色の落ち葉を踏みしめ、歯のない木々の間を通り抜ける、秋の森の中に居るようだった。



「……綺麗な音色だね。 」


部屋の戸が全開きになっていた為、夜十は少しだけ足を踏み入れると、二ヶ月かぶりの彼女に声をかけた。



「あっ……。ひ、久しぶりね……」


彼女は夜十の姿を見るなり、血の気が引いたような顔をして、冷や汗を浮かべた。



「あの事件の後、君が学園から消えたことは知っていたけど、まさか此処にいたとはね。おれが此処の所属だって気がついてたんだろ?虹色! 」


夜十の見据えた先には、半袖短パンのラフな格好に身を包み、ピアノの椅子に座って鍵盤に手を置く、虹色の姿があった。

相変わらず、彼女の真っ白い雪のような肌と、虹色家現当主ということもあってか、程よい肉付きのした筋肉。翡翠色の綺麗な瞳は、いつ見ても見惚れる程、綺麗だった。


そして、夜十は思った。

彼女が弾いていたピアノは何処か哀しげだったと。


その意味はーー。


苦しそうな彼女の口から語られることとなるのだった。


一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回はパーティーでコメディもあり、泣きもあり!みたいな感じでしたね。

因みに私の初恋は実りませんでしたよ……まくると一緒か。


はいっ!それでは次回予告です!


哀愁漂うピアノの音を追いかけると、そこには学園で流藤と共に沖を殺そうとした虹色吹雪の姿があった。彼女は哀しげな表情で胸の内を語る。


次回もお楽しみに!


【標津と騰】


「もう……何度言ったら分かるのよ!この後、私たち、ベッド行くのよ!? 」


「わ、分かってるからあまり声を荒げんなよ。あ、ごめんなさい……」


「はぁ……別に私は怒ってるわけじゃないの!貴方に分かって欲しくて言ってるんだよ! 」


騰は、標津の頬をつねった。


「ふぁい……ありがとな、あぐひぃ……」


*この後めちゃくちゃ○○した。


拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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