第六十四話 涙腺崩壊
毎日投稿復帰!と言いたいところですが、明日投稿できるか分かりません(´・ω・`)
「……呼び出しなんてどうしたんだろう。新島隊長……」
右手の甲で扉をコンコンと鳴らす。此処に来るのは、半年ぶり。以前なら入ることに何の戸惑いも無かったのだが、組織を巻き込んでKMCとの戦争に持ち込んでしまった原因が自分なのだと分かると、入りづらい。
下を俯いて、そんなことを考えながらボーッとしているとーー。
「……おーい、入っていいぞ!って言ってんだろ!ガキの頃のコンコンダッシュじゃねぇだろうなァ!?夜十!」
ハッ!と意識を取り戻すと、中から新島の罵声が聞こえ、恐る恐るドアノブへ手をかけて、戸を開いた。
葉巻独特の煙の匂いが鼻に充満し、脳裏に小さな刺激を与える。
彼は、夜十を視野に捉えると手招きをして近くへ呼んだ。
「何ですぐに入ってこなかったんだ?まだ、疲れが取れてないのか? 」
「いえ、ちょっと足がすくんでしまって……新島隊長にご迷惑をお掛けしたのに、この部屋に入って良いのか。寸前で……」
「ぷふっ……らしくねぇな!!お前はいつもみたいに前だけ向いて、俺ら家族を守ってくれさえすれば良い。俺らもお前を守る。他人じゃねえ、家族なんだよ! 」
新島は難しそうな表情の紐を緩めて、笑顔をこぼした。
何かと適当だった夜十の性格を知っていてのこと、繊細なことを真剣に悩むようになったのが嬉しいのだ。
その気持ちがあるのは、夜十を本当の息子同様に扱っているから。
「まあ、俺は後悔してねえよ。お前の首に危ない魔法武器がかけられたと知った時から、こうなることは覚悟してた。なっちまったんなら仕方ねェ!やるしかねえのさ。 」
「……!!あっ……あり、ありがどうっ……ございまずっ!! 」
一番に尊敬し、敬っている人が自分のことをこんなにも想ってくれている。ならば、その期待に応えるのは必然。
けれどーー、どう涙を堪えようとしても感激に溢れた涙は止まらなかった。
「考え方はガキから卒業したが、身体はまだまだ年相応のガキだな。男なら泣くなよ。とは言わねえさ、俺はそういう昔からの暗黙の了解とやらが嫌いでね。泣きたい時に泣くことは男女問わず、関係ない。 」
ああ、この施設に帰ってきてから泣かされることばかりだ。
下を俯いて、必死に手で涙を拭い、頭をポンポンと撫でてくれた新島へ顔を向けた。
「気にすんな、この組織にはお前に突っかかる奴なんて早々いない。居ても新人くらいだろ。新木場から聞いたが、相当腕を上げたらしいな。俺としては嬉しいよ。そこでだ!!本題に入るんだが、また俺と一緒に隊の副隊長を務めてくれないか? 」
新島の言葉に思わず、夜十の涙腺は再び崩壊した。
夜十は組織に帰ってきてから不安だらけだったが、組織の仲間が解消してくれて何とか保っていた。
けれど、それでも一人の男から聞かされなければ消えない永遠の不安があったのだ。
それはーー"隊の所属について"
自分がどこの隊に所属するか、別に組織内で入りたくない隊は無いが、やはり入るなら思入れの深い新島隊長の傍らで剣を振るいたかったと思っていた。
そして、その願いは叶った。
彼の涙を加速させる材料があまりにも伴い過ぎて、先程の比ではない量の涙が止めどなく流れ始める。
「うううっ……ぁぁぁ……んっ、ぁ……あ、あ"りがどっ……んっ、くぁ、あ"りがとうございまず!! 」
「まーた泣いた。やっぱり、泣き虫は変わってねーな。良いことよ!んじゃ、皆に挨拶しやがれ!演習場、行くぞ! 」
「……は、はぃっ! 」
部屋から出ていく新島を追う為、涙でぐしゃぐしゃになった顔を掌で拭って、彼は演習場へ向かったのだった。
ーー演習場にて。
施設に帰ってきてから二日目。まさか、連続で演習場に入ることになるとは思ってもいなかった夜十だったが、演習場の中に入るなり、夥しい量の殺気を感じて身構えた。
「成長したな、そうだ!此処が施設内で安心できる場所だからと言って警戒を怠ってはいけない。夜十、来るぞ! 」
「……分かってますよ!! 」
新島へぶっきらぼうな口調で返答をし、背後から感じた殺気に素早く反応するーーが、見渡す限りで姿は見えない。
背後に居ないとすれば、先手必勝で後ろを振り向いた相手の目の前に移動した可能性も。
ーーいや、それは否だ。
誰しも一度は聞いたことがあるだろう。
背後から視線を感じて振り向けば姿はない。
そういう時は必ず、上にいるとーー。
上に視線を向けず、キョロキョロと探す仕草に集中する。さすれば、きっと上の相手は獲物を取る時の蜘蛛のように笑顔で釣られてくれるだろう。
夥しい量の殺気が頭上から放たれたかと思った刹那。夜十は体を動かすことが出来なくなった。
動きを封じられ、どんなに力を入れてもビクともしない。その為、上から飛んでくると推測した相手の技も目視出来ないのだ。
直後、彼の頭上の人物は刀身の短い小刀を手に、矛先を脳天へ振り下ろした。
この間合いでこの攻撃方法であれば、夜十は防ぐことが出来ないと悟ったからだ。
蜘蛛は正確で隠密な狩しか望まない。
確実に獲物を屠り、餌を獲得する。
シビアな世界だ。しかし、その判断は時に失敗することもあるーーそれが今だ。
「なっ……!? 」
動けなかったはずの夜十は、目を瞑った状態で後ろへ後退し、頭上の人物の攻撃をすり抜けるように避けた。そしてーー。
「……うん、まだまだ甘い。気配と殺気を隠すなら、もっと隠密に。音と空気に触れる時の振動も気にしないと……例えばこんな感じにね。 」
お手本、と言わんばかりか。
夜十は頭上の人物の視野から消えた。
「……何処へ……う、うし、あれ?前、上?ち、ちが……!! 」
キョロキョロと辺りを見回し、自分の中の警戒レベルを最大にまで引き上げた人物の視野に夜十がもう一度現れることはない。
何故ならばーー。
「視野の範囲ってのは、片目の水平方向で耳側に約90~100度、鼻側に約60度、上下方向では、上側に約60度、下側に約70度。両目なら120度まで見渡せるが、総合的に180度から200度くらい。よって、今、俺が居る位置で霜月君が見える範囲はない。 」
天井にへばりついて夜十を探す霜月だったが、突然襲いかかってきた炎の剣に足場を崩されて地面に落下。落下の衝撃で偶然にも足を挫いた為、続行不可能に。
「……ちぇっ、俺っちのステルス技術は格段にも上がった予定だったのに。もっと強くなるために、日々の努力を三倍にする必要がありそうっすね。 」
「ははは、今の現状でも十分強いと思うよ。ただ、まだ技を覚えたての赤子みたいなイメージだね。そこから磨いてく作業を頑張ろう!筋トレも良いけど……ッッ!! 」
残りは二人。そのうちの一人が早くも、反射する白い光の矢で咄嗟に避けた夜十の方の袖に裂け目を入れた。
横線に切り裂かれた服、皮膚まで到達しなかったとは言えど、目で追うことは難しそうだ。
「……コレは新田さんか。ちょっと、軽めに本気を出さないとヤバイかもな 」
そう言って、矢が飛んできた方向に視線を移し、彼は"視る"ことをやめた。
つまり、瞼を下ろしたのだ。集中力を咎め、全力で相手を探る決意。
今の夜十は矢を心臓に食らっても這い上がるような精神力と不屈の闘志を持っている。
「……成る程。まだまだ情報が足りないか。なら、昨日やったアレで勝負にカタをつける!! 」
パンッッと両掌を合わせ、一気に膨大な魔力を掌の中心部分に収束させる。
ここの気迫だけでも、少し戦闘に経験がある並みの兵士は恐れをなして逃走を図ってもおかしくはない。
遠く離れた位置に居る新田も弓を引いて、矢を放つ寸前でやめていた。
「……あの膨大な魔力……どうやって生み出しているのかしら?魔力の量だけなら新島隊長に匹敵するくらい……」
ゆっくりと掌同士を離し、刀身と柄が黒い剣を生成する。
収束された白い光の中に柄が見えると、賺さず掴み、周囲に魔力を爆散させた。
「……行くよ。新田さん!! 」
柄を握り、刀身を下に向けた状態で素早く地面を蹴った。
縮地法を使えば、どんなに遠く離れていたとしても懐へ潜り込むのに五秒は要らない。
ーーこの時、彼女は驚愕した。
夜十が凄まじい速度で真っ直ぐ自分の方へ突っ込んで来ていたのだ。何故、何故自分の場所が突き止められたのか。
霜月と同様にステルス技術を駆使しているのに、どうしてーー。
「気配を消していても、殺気を消していても、俺には聞こえるんだよ。その人の魔力の昂り、それによって発生する空気の振動。音。……新田さん、終わりですよ。 」
剣を縦に振るい、衝撃波のような剣圧を飛ばした。数メートル先の夜十から放たれる膨大な魔力の篭った一撃で吹き飛ばされた彼女はコロコロと転がり、体勢を整える為に立ち上がるがーー。
「……終わりですね。 」
顎に刀の峰を押し付けられ、鋭く尖った矛先が喉近くまで来ていた。
立ち上がっていれば、勢い余って死んでいたかもしれなかった。
「あと一人。一人一人来てくれるのは有難いんだけど、最後にあの人でしょ?どうせ。 」
「決まってんだろ?俺から一本取れるかなぁ?夜ーー十ーー! 」
残りの一人はコソコソと隠れもせずに、巨大な黄色の光を模した大剣を肩に乗せて目の前に現れた。
彼は有名な魔法師にして、名前だけで言えば新島と並んでもおかしくない。
「けっ、この俺、輝夜様から一本取れるんか? 」
《光帝》と謳われた光を操る魔法師にして、大型アビスを一度に狩った数は4体。先程の二人とは次元が違う人物だ。
「それは、やってみないとわかりません。輝夜さん、行きますっ!! 」
矛先を下に向け、地面を蹴る。輝夜との距離はそう遠くなく、数メートルしか離れていなかった為に、0.1秒の時間も使わずに懐へ潜り込むことに成功した。
相手の武器は大剣、俊敏な動きは特に苦手な分野。素早く動くよりも、一撃一撃が重く、攻撃力も範囲技に長けた武器だ。
それに、相手はプロの魔法師で魔法を使われれば最後。勝ち目はない。
早期に一瞬で勝負を決められれば、そんな楽なことは無いのだ。
真っ直ぐ、矛先を向けて、輝夜に突きを繰り出す。当然、避けられるはずもない。
夜十の黒く尖った矛先は輝夜の腹部へ沈むように突き刺さった。
「ぐっ……まァ、早期で決めようとすることくらい読めるんやけどな。これで捕まえられたから問題ないわ!《千本の光雨》!! 」
彼は空中に黄色と白に神々しく光る魔法陣を展開し、腹部に突き刺さった剣の刀身を強い力で掴む。口からは血液が滴っているが、最早、剣で刺しただけではダメージなど通ってないと見て良いかもしれない。
夜十は剣を手から離して素早く地面を蹴ーー。
「逃がさんよ! 」
刀身を掴んでいない片方の手で腕を掴まれてしまった。なんという執念か、その時、夜十は輝夜の体質について思い出した。
ダメージを受ければ受ける程、魔力の特性と量が段階ごとに昂る、ドM型だと。
「なら……《全反射》! 」
両掌を掲げて、白と黄色に光る魔法陣から降り注いだ光の雨に反射壁を貼って、跳ね返す。
火炎の技は、星咲との戦いの時も、前の時も、ずっと見てきた。
ならば、覚えられないわけがない。
「な、なんやとっ!? 反射魔法なんかどうやって……あぁ、成る程。記憶した魔法を使えるんやな、何ちゅうチート魔法や。 ワイがぶちのめしたるわ!! 」
「はい……かかってきてください。俺も、準備は整いましたから! 」
光の雨が止む頃、夜十はゆっくりと目を瞑った。
この空気感、圧、振動、音、輝夜の鼓動、筋肉の動き、魔法展開時の魔力の昂り方、立つ時の角度、一歩を踏み出すタイミングーー。
全てを記憶完了、データ化完了。
データ分析に異常無し。
計算も異常無し。
《追憶の未来視》に異常無し。
「《追憶の未来視》か。厄介やな!!でも俺は負けへんで!! 」
夜十と輝夜の戦いはーー、今から!
夜十が現役の副隊長時代でも唯一引き分けだった人物、篝火輝夜。
二人の勝負が敗北か勝利に終わる瞬間は来るのかーー!?
六十四話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は《新島隊》所属に関することでした。
まだ続きますが、組織編は主に戦闘がメインです。他にもキャラとの駆け引きはございますが、基本的に日常よりもシリアスメインですね。
それでは次回予告です!!
《光帝》篝火輝夜に勝つ為、《追憶の未来視》を早くも展開した夜十。ダメージを受ければ受ける程、強くなる特性相手にどう戦うのかーー!?
次回もお楽しみに(^^)
【今回は無しです_(:3」∠)_】
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




