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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
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第六十三話 騰との一戦

遅くなりましたが、徐々にペースを上げていきたいと思ってます(o^^o)

「くっ……俺はどうして……!! 」


場外に吹き飛ばされた鬼谷は苦痛の声を上げ、納得のいかない表情で手に握っている棍棒へ力を入れた。

だが、彼は目の当たりにしたはずだ。

両掌の隙間から柄と刀身が黒い剣を生み出し、たった一振りで空気を引き裂き、自分を吹っ飛ばした夜十の力を。


呆れたミクルが地面に仰向けで倒れている鬼谷に手を差し伸べる。


「ほら、立ちなさいな!あんたが相手にしたのは、元、新島隊副隊長の冴島夜十だよ。騰隊長と夜十の戦いを見て、自分が行った過ちに気づいたらいいんちゃーん? 」


鬼谷は、差し伸べられた真っ白い手を掴むと腰を摩りながら起き上がった。

そしてーー。



「新島隊……!? 副隊長っっ!? 」


告げられた真実に大きな声で反応する。

数十分前に自分が新木場隊と名乗ったことを思い出し、カァァと恥ずかしさが募った。



「ミクルのやつ……昔のことなんか喋らなくていいだろ。今は無所属なんだから……」


「さぁ!!始めましょう!!これで私が勝てば、2300勝2700敗1000引き分けになるのね……あぁ、絶対勝つ!! 」


夜十の言葉など、そっちのけで深い緑色に光る二丁拳銃をクルクルと片手で転がし始める騰。

彼女は普段、大人の魅力を感じさせる冷静で慎重派の隊長。

だが、命を賭ける勝負と分かった瞬間だけは何故か、人が変わったように戦闘狂へと化けてしまう。


彼女の使用武器は淡い緑色の二丁拳銃。二丁とも魔力補正でミニガン程の連射機能を搭載しており、一発一発が重い。

約十発マトモに当たりさえすれば、大型アビスに致命傷を与えることも出来るレベルだ。



「今回も負けませんよ! 」


今日は頗る調子が良い。鼓動の高鳴りも、筋肉の状況も、最善を尽くして戦うことが出来ると自分自身で分かる。

学園では、相手のレベルについていくのが精一杯で。常に満身創痍であることが多く、完全な自分の力というものを理解出来る状況ではなかった。


ーーだが、今は違う。

確実に自分が魔力を無限に使える《魔源の首飾り》所持者という自負が身に付いた。



「……騰さん、いつでも良いですよ! 」


「じゃあ、先攻!!取らせてもらうよッ……!! 」


二丁の拳銃を翻し、グリップをしっかりと握って安全装置を華麗に解除。

半年前の彼女の攻め方であれば、標的との直線上を真っ直ぐ、素早く走り抜け、縮地法の応用で背後に回り込むと一斉に射撃。

二つの拳銃の弾が消えるまで乱射した後、魔力で拳銃の中に直接、魔力で弾を生成して隙を見て射撃を続けるといった次第。


稀にだが、トリッキーで不可思議な銃撃法を用いて来る為に隙という隙を見つけるのが難しい。

彼女の動きは洗練された回避技術と縮地法の応用から成り立っているのだ。


半年前の夜十は、武器を生成出来ることも、やり方も知らなかった。

けれど、今は知っているのだ。それに、学園で様々な強者と剣を交えたことで半年前とは比べ物にならない程の力も得た。


ならば、倒せない敵ではないはずだ。



「夜十君が向こうで進化したように、私も……!! 」


安全装置を解除した瞬間、二発の銃弾を二丁の拳銃から一弾一弾放つ。

通常の銃弾とは段違いな速さで回転する弾丸は、人間が持つ顔の部位で最も防御の低い、網膜にドンピシャで向かっていった。



「弾丸のコントロールがまた一段階……!! 」


賺さず、眼前に迫った弾丸を頭上に振り上げた刀身で一刀両断。驚異的な回転速度を誇る弾丸も二つに裂かれれば失速し、地面に埋まった。


「ハイハイ、夜十君なら斬るよね。分かってた……!! 」


振り上げたタイミングで背後から現れた騰は、しっかりと狙いを定め、動きを止める為に両足へ銃口を向けて四発の弾丸を放った。

この間合いに、相手の唯一の武器が反応出来る速度ではないと悟った時、彼女は勝利に一歩近づくことが出来たと確信する。


騰が思った通り、夜十の背後に放たれた四発の弾丸は彼の背中の肉を、骨を、砕くように抉ーー。


騰は驚愕した。四発の弾丸は何処からか現れた燃え滾る炎を纏う剣に弾かれたのだ。

宙を軽々と浮遊し、ジリジリと照りつける熱は近づいていなくとも感じる。



「……危ない危ない。騰さん、また腕を上げましたね。弾丸が加速する速度と同じスピードで縮地法を行うなんて、視野を広げていなければ、背後の弾丸までは防げませんでしたよ。 」


夜十の背後に浮遊する熱と同じ温度が、騰の首筋に触れる。



「なっ……!!夜十君、炎魔法なんて使えなかったよね!?何処でこんな技!! 」


「記憶した魔法を有り余った魔力で具現化してるのか。このアイディアは、流石、美香の弟といったところだな。 」



騰の疑問の答えを観戦していた神城がニヤリと微笑みながら呟いた。

その答えに隣の新木場は満面の笑みで「うんうん」と首を縦に振る。


「幾ら騰さんでも首に突きつけられた四本の剣から逃れられますかね? 」


「……はぁ、今回は勝てると思ったのになぁ。残念、私の負けよ。 」


両手を広げ、二丁拳銃を喪失させると騰は残念そうに下を俯きながら言った。



「よし!今回も俺の勝ちですね! 」


「夜十ぉぉぉ!!次!次、私と!! 」


ミクルが物欲しそうに手を挙げながら、近づいてくる。だが、一戦目は一瞬としても二戦連続で戦闘を行なったのだ、少しは休ませてもらいたい。



「また明日にでもやろう。今日は疲れたし、新木場さんに聞きたいことがあるんだ。 」


「ちぇ〜……じゃ、じゃあ!!明日は絶対ちゃーん!! 」


ミクルへ首を縦に振ると、騰と神城、鬼谷に丁寧にお辞儀をして、演習場を後にした。


真っ白い蛍光灯で照らされている白い廊下を突き進み続け、キョロキョロと人気が無くなったことを確認すると、新木場に問い始める。



「んで、話ってのはお前がどうして此処に帰ってきたのか。って話か? 」


「……!!そうです!どうして、ですか? 」



皆と久々に会えたことは嬉しかったが、それ以上に、新島が自分から要件を言わなかったことに対しての疑問感が抜けることはなかった。



「お前が《魔源の首飾り(アミュレット)》持ちだってことは、前々から知っていたよ。だから、魔法をなるべく使わない体術を重点的に教えたんだ。体術を知らなければ、どうしても強い力の魔力に負けてしまうからな。 」



夜十が黙って頷くと、新木場は続けた。



「今回の要件に関してだが、この組織はもうKMCの物でも国の物でもない。新島の物になっちまったんだ。どういう意味がわかるか? 」


話が飛びすぎて理解に苦しんだ夜十は、首を横へ傾ける。



「まあ、直訳すると、お前が刑務所に行くのを阻止しちまった新島の裏切り行為でKMCがこの組織を潰そうとしてんだよ。 」


「え……!? に、新島隊長……え、!? 」


「美香に託された大切な餓鬼だからな。昨日、搬送される予定だった刑務所行きの護送車を襲撃してよ。荷物とお前を掻っ攫っちまったんだ。生憎、俺らは国に雇われた兵士も同然。国は逆らうヤツを生かしておく程、甘くはない。この意味は分かるか? 」



「つまり……KMCと全面戦争ですか!? 」


「話が早くて助かる。この組織に所属している以上は全員が家族だ。最近のKMCは裏で相当ヤバいことに手をつけてるって話があってよ。俺らも懲り懲りだったんだ。別に気に病むなんてことはしなくていい、今からお前が考えるべきはどうやって家族を守るかだ! 」


自分が原因でATSはKMCとの全面戦争に乗り出すことになってしまった。

皆はこのことを知っているのだろうか。もし、知らなければ申し訳が立たない。


「勿論、皆知ってるぞ。その上であの態度なんだよ。小さい頃のお前を知っている奴ばかりだ、俺らはな。嬉しいんだよ、だから、守らせてくれ。お前も俺らを守ってくれりゃあいい!! 」


「……」


心を読まれたことよりも、新木場の言葉に感激を覚えた。そして確信する。姉の存在を。

大きくて絶対に届かない向こう岸の、別次元の壁であり、盾だった姉。


「目の前で絶対に人は失わせません!!これはあの時から決めていたこと……絶対にです!! 」



「分かってんよ、んなことはな。俺だってそうだ!!……ああ、それとな。お前、《願いの十字架(アウグリーオ)》の魔法を使うのは禁止だからな。命を狭める魔法でお前が殺されたら、本末転倒だ。分かるよな? 」


夜十は、ゴクリと生唾を飲み込み、首を縦に振った。

当然と言えば当然の事だろう。夜十が残り願える回数は四回。

また、火炎を蘇生した時のように自分が出来ることの許容範囲を超えてしまえば、四回一気に使ってしまうこともあるかもしれない。


そうなれば、冴島美香の時のように、空へ登る白い光の粒子になってしまうのは歴然。

このまま使用を許可していれば、自滅することはほぼ間違いないだろう。



「あっ、あの!!新木場さん、話変わるんですけど……」


「何だ? 」


「俺が此処を出てから半年間で入ってきたのは鬼谷だけですか? 」


「いや、後一人。標津隊に所属しているお前と同じくらいの女の子が居るぞ。お前が帰ってくる二ヶ月か、三ヶ月前だったか。それがどうかしたか? 」


「いえ、何でもないです。ただ、気になっただけですから……」


「そうか。なら、今日はもう寝なさい。夜十、おやすみ! 」


「おやすみなさい……」


新木場へ別れを告げると、自分の部屋には戻らず、気分転換にと施設内をフラフラ歩くことにした。

学園を出てどれくらい眠っていたのか、推測すらつかないけれど、全然眠れないのだ。


真っ白い廊下を突き進み、演習場へ向かう。

さっきの武器生成の感覚をもう一度取り戻しておかなければいけないと思ったからだ。

体も脳も記憶力は自分の能力上、異常な値に達しているのは分かっているが、咄嗟に使おうとして使えなければ意味はない。


夜十は、そこまで自分の才能や能力を自負しているわけではないのだ。

どんな時も、どんな逆境も自分が出来ることを懸命にこなしてきただけで、自分の力を誇りに思っていることもない。



「アレ……?? こんな時間にどうしたの? 」


ふと、声がした方向へ顔を向けると、キョトンと首を斜めに傾けながら不思議そうな表情を浮かべるミクルの姿があった。

彼女は半袖短パンとラフな格好で施設内をウロ浮いてるようだ。

何をしていたのか、疑問に思い、言葉に出そうとした瞬間ーー。



「夜十さ、少し話さない? 」


「え、別に良いけど…… 」


「じゃあ、私の部屋行こ! 」


バッと手を掴まれて、強い力で引っ張られる夜十。彼女は女性と言えども、神城隊の副隊長を務める実力派。

腕力だけなら夜十に劣るとも劣らない程の力を持っている。

強引に腕を引かれ、ミクルの部屋に連れ込まれた。



「わぁ……変わってねえな!! 」


彼女の部屋へ入ることに何の抵抗もない。昔はよく此処で色んな遊びを教えてもらい、色んな言葉を教えてもらったからだ。


ミクルの部屋は、茶色い鮮やかな木のフローリングに、シンプルな勉強机がポツンと置かれ、ピンクと白の水玉模様が目立つ刺繍のベットが置いてあるだけだ。

施設の場所が地下なので窓はない。

代わりに、天井に近い壁に年中回り続ける少し黒ずんだ換気扇が取り付けられている。

ベットを除けば、女の子らしい要素は乏しくも少なかった。




「別に良いじゃん!!私に部屋を模様替えするだけの時間があると思う!? 」


「……嗚呼、ねえな。そうだったわ、新島隊が途中分解した時、俺らの任務も受け持ってくれたんだよな。それは本当にありがとう 」


「別に良いよ、そんなの!!てかさ、そんなことよりもさ!!学校の話を聞かせてよ! 」


床に腰を下ろした夜十へ、床を這って迫るミクル。彼女の瞳は幾つもの星で構成されたように光り輝き、表情全てが輝いて見えた。


その後、一晩を使って夜十は学園で起こったエピソードの話を丁寧に一つ一つ語ったのだった。




一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回は騰との勝負でした。

組織側に《追憶の模倣》を見せた瞬間でしたね(o^^o)


それでは、次回予告ちゃーーん!!


突然、朝から新島の呼び出しを食らった夜十は急いで新島の部屋へ向かう。そこで、彼から告げられることとはーー!?


次回もお楽しみに(o^^o)



【騰との一戦目】


「「さいっ、しょは、グー!!じゃんけんほいっ!」」


「ぁぁぁぁぁあ!!夜十君に負けたぁぁぁぁぁあ!! 」


「やったーー!騰さんに勝てたー! 」


※ジャンケンでした。




拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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