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追憶のアビス  作者: ezelu
第2章 組織編
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第六十二話 半年ぶりの帰還

遅くなりました!!

まったり書いていきます(o^^o)

「アナタノネガイハ……ノコリ四ツ……」


脳裏に響く、甲高いアウグリーオの声は、激しい背中の痛みに見舞われた俺の心に現実だという確信を確実に持たせる原因となった。


護送車がヒビ割れた道路の隙間を踏む度に揺れる車内。

到底、椅子など用意されているはずもなく、中型トラックのボックス型の荷台の床へ腰を下ろしている。

体育座りの肩身はだいぶ狭く、犯罪者を護送するトラックのようには見えない程の荷物。

中には、緑色の長細い袋に包まれた愛刀まで壁に立てかけてあった。


まさか……この荷物全部、俺のモノ!?

と、困惑していると車が停車し、後ろの扉が開いて途轍もない光に見舞われた。

ずっと暗い場所に居たせいか、眩い光に目が痛い。

両手で光を遮り、アタフタとしていると目の前から殺気を帯びた拳が迫って来るのを感じる。真正面か、いや……これはーー。


ーー曲がる!



「……新島隊長どうして……? 」


真っ暗な場所から眩い場所へと一転したことで、視界が安定しない中、真正面と見せかけて斜めから飛んできた拳を片手掌で受け止めると、拳の持ち主へ疑問の言葉を述べた。



「……ったく、相変わらず頭よりも情で身体が動いちまう奴だなオイ。まあ、この件に関しては仕方ねえな。とりあえず、降りろよ 」


新島は、飛ばした拳を引いて俺に背を向け、真っ暗なトンネルの中を進んでいった。

賺さず、その大きく寛大な背中を追う。



「……新島隊長、俺は刑務所に行くはずじゃ……? 」


「あー、施設内のお前の部屋、変わってねーから。んじゃな、また後で! 」


新島は夜十の言動を翻すように無視して、トンネルの中を走り去っていった。

新島が言葉の最初に「あー」をつける時は大体何かを隠している時だ。

取り敢えず、自分の部屋に帰ろう。


俺も新島に五分程遅れて、トンネルの中の真っ暗な道を進んでいくのだった。




「新木場さん!新島隊長はなんでそんなクソ餓鬼を庇ったんですか!! 」


施設内を進んでいると、とある部屋の一室から怒鳴り声を挙げる男と困り顔で男に懸命な説得を施している新木場の姿が見えた。

もう怪我も無く、元気にしているようだ。とても安心した。



「なぁ、鬼谷(おにや)。気持ちは分かるが、上が全員賛成したことなんだよ。隊員は黙って従うしかねえんだ! 」


「けど、俺は認めませんよ。それに、其奴が俺よりも弱い可能性だってある。俺はそのか弱いヤツの盾になるなんて死んでも嫌ですからね!! 」


ま、まずい。こっちに来る!

ーーと思った時には既に遅し。

部屋の前で立ち竦んでいると、部屋から出てきた鬼谷と呼ばれた男が部屋の前に立っている俺と目が合い、しかめっ面で立ち止まった。



「……あぁん?テメェ、何処の隊に所属してやがんだ? 俺は新木場隊だぞ! 」


新木場の部下として働くことに誇りを持っているのか、半ばドヤ顔で早速見下してきた。

新木場隊……というのも、基、ATSという組織には幾つかの部隊が存在している。


上から順に、新島隊、神城隊、龍騎隊、標津(しべつ)隊、(あぐり)隊、新木場隊となっている。

組織に属していた頃の隊は、新島隊。

組織の中で一番上に値する隊で、強さも修行も他の隊とは比べ物にならない程だった。


その成果があって、底知れない体力や瞬発力を身に付けることが出来たのは言うまでもないだろう。



「……新木場さん、新木場隊の……ってことは、新人ですか? 」


部屋の中で鬼谷が新木場隊と威張るタイミングから苦笑していた新木場へ問いをかける。

一番下に位置する新木場隊は、組織に入ってきたばかりの新人が属する隊。

ここで魔力量や戦闘力を見極めて、他の隊へ入隊させられるのだ。



「……久しぶりだな、夜十! 」


「はい!新木場さん、怪我は大丈夫なんですか? 」


「嗚呼!問題無いよ、ありがとな。そんなことよりも、皆待ってんだ。食堂へ行くぞ! 」


あっさり無視をされた鬼谷はーー。


「あいつが冴島夜十か……!!あいつを助けるのが間違ってるってことを俺が証明してやらねえと!! 」


夜十と新木場が向かった食堂の方とは逆方面は悔しそうに走り去っていった。



「お前も美香も情で身体が先に動いちまうところ、ソックリだよ。嗚呼、あと何回願えるんだ? 」


「……四回です。 」


その回答を聞いて、驚愕の表情を浮かべる新木場。

この半年間で六回も魔法を使ったことになるからだ。ペースにしては早すぎる。


「流石はKMCの学園か。レベルが高そうだな。それに新島と神城から聞いたぞ!朝日奈の次期当主と恋人関係らしいな! 」


「えぇっ!?なんでそれを!? 」


「そういう情報は新島が嫌という程、話して来るからな!ははははははははは!! 」


「あのクソエロ隊長め……!! 」


そうこうしている間に、目的地の食堂へ着く。中には複数の人が食事をしている会話が外まで聞こえてきた。

賑やかなのは半年前と変わらないようだ。



「……ちょっ、神城隊長!私のスカートの中覗かないでください!! 」


ーーパシィンッ!

と、頬を叩いた音が聞こえる。

様子を伺うからに、神城さんがしでかしたようだ。



「よし、行くか。オーイ! 」


部屋に入ると、食堂にいた人、全員が新木場の声に反応し、視線を移した。

その直後、新木場の大きな背中に隠れた俺を瞳に捉えた人は硬直し、唖然とし始める。


中々知っている人ばかりで良かった。

新人は……。


きょろきょろと辺りを見回して、新しく入った知らない人を探しているとーー。



「夜十ぉぉぉおおおお!!!! 」


半ば斜め真正面から金髪の少女が手を広げながら全力疾走で胸に飛び込んできた。

勢いで後ろに倒れーー、なんとか持ち堪えると彼女は一瞬だけ真顔になり、次の瞬間にはニコッと微笑ましい笑顔を見せた。



「夜十!!久しぶりちゃーん! 」


「ミクル!?見ない間に……!!いや、そうでもないか。 」


「はぁ!?2mm伸びたし!! 」


彼女の名前は、ミクル・ソネーチカ。

鮮やかに光沢のある金髪をピンクのシュシュでポニーテールに纏めている。

容姿は子供っぽさを抜けば、端麗な方だろう。

今は亡き遠い国の皇女だったこともあってか、その血筋に見合った才能に満ち溢れている。

ただ、彼女にも恵まれなかったものが二つ。それはーー。



「……じゃあ、149.5cmか。 」



「なんで覚えてんの!変態! 」


ミクルとは八年前の事件から一年後に知り合ったので付き合いは長い。

が、最初の方からあまり得意な女の子では無かった。

元気が有り余りすぎてついていけないのだ。


テンションが100程違うといっても過言ではない。



「150cmとかチ……」


その瞬間、彼女の魔力は格段に向上し、殺気を帯びた金色の瞳が心臓を抉るような視線で赤く染まった気がした。


「チ……? 」


「あぁ、150cmとかチビではないんじゃない?女の子にしては……」


まずい、殺される。

この半年間で格段に魔力が上がった気がする。それに、殺気の扱い方も。

流石は神城隊の副隊長を務めているだけはある。



「っ、だよねーー!あたし、まだ小さくないよねっ!よねっ!!夜十も分かってんちゃーん!! 」


元気を取り戻してくれたようで何よりだ。

これ以上絡むと疲れそうなので、彼女の横を通り過ぎるようにスルーすると、神城を含めた各隊長達へ丁寧に頭を下げた。


「相変わらず、仲良いじゃねえか。まあ、ミクルもお前が行っちまった時、部屋でこっそり泣いーー」


「……そ、そういうのは、言っちゃダメなやつじゃないですかぁぁぁぁぁあ!! 」


この後、神城に強烈な蹴りが入ったのは言うまでもない。



「大変だったね、夜十君、お帰りなさい 」


すると、悶絶している神城を傍らに、朝日奈と同じ程の身長を持つ、淡い緑色の瞳の女性は優しく覗き込みながら、頭を撫でてくれた。

彼女はミクルには絶対的に備わっていない胸の大きさと妖艶な大人の女性の魅力を持っている。

まだ十六歳の少女にそれを求めるのは、どうかと思うのは仕方ないが、ある程度、ある程度だけ考えるだけでもしてほしいという願いが届くわけもない。



「……ありがとうございます、騰さんも相変わらず変わってないですね。標津さんは一緒じゃないんですか? 」


「あぁ、あの人なら今は多分治療室に居ると思うよ。ところで、夜十君、今から一戦交えない? 」


「本当に相変わらずですね。大丈夫ですよ、演習場に移動しますか。 」


すると、そのやり取りを見ていた一人の少年は大きく息を吸って食堂の入り口で叫び声を上げた。



「……冴島夜十!!!俺と勝負しろ! 」


ぶっきらぼうに放たれた言葉は虚空を切って消滅する。叫び声に何事かと目を丸くする一同だったが、夜十を除くメンバー全員は呆れたように息を吐いた。


「あの子ね、夜十君が出て行って直ぐに入ってきた子なんだけど。半年間、新木場隊だよ。察せるよね? 」


それはつまり、戦闘力も魔力もからっきしで組織には必要とされていない人材ということになる。

きっと今、食堂で俺を歓迎してくれたメンバー全員は、彼を見下していて、彼をどうでも良いと思っているのだろう。


「騰さん、五分だけ貰っていいですか? 」


「……ふぅ、夜十君も新木場さんと同じタイプだね。良いよ、移動しよっか?じゃあ、私と夜十君と、あの子で演習場に……」


「そんなのあたし達が行かないわけないちゃーん!!よねっ!よねっ!! 」


「あのクソ餓鬼が何処まで強くなったか、一目見ねぇとなぁ!!半年もあの学園に居たんだからよぉ! 」


「鬼谷……まったく、仕方ない奴だな。 」


神城とミクル、新木場の三人はついていくことになった。他の隊員達は疲れ切ったように「大丈夫です」と告げていた。

きっと、日々の訓練が辛いのだろう。その気持ちは分かる、俺も最初の頃は吐きまくっていたから……。



食堂と演習場は目と鼻の先。

何故、このような設計になっているのかは目に見えてはいるが、恐らく戦闘演習で疲労し切った体を休めるのに飯が最適だから。という理由だろう。


演習場は、真っ白いキューブが幾つにも積み重なって出来た空間魔法によって形成された部屋だ。部屋の面積も、広さも、高さも、全て、部屋にあるボタンを押せば管理出来る。

その為、過酷な大型アビスとの戦闘に備えた演習などが可能となってくる。

御察しの通り、悲惨な程に辛いが。。。



「さぁ!!冴島夜十!!お前に恥かかせてやる!! 」


「はぁ……一つだけ試したいし、実験台になってもらうかな。 」


巨大なキューブ状のステージが生成され、二人が中へ入ると、強大な魔力が詰まった障壁が展開された。

学園に貼られていた結界とは比べ物にならないレベルの代物だ。



鬼谷は、巨大な棍棒を魔力で生成し、重心を低くして構えた。


武器を生成出来るほどの魔力は持っている模様。

ならば、何がいけなくて新木場隊に半年も所属しているのか。分からないが、この際だから試したいことの実験台になってもらうのは都合がいいようだ。



「じゃあ……まずは!! 」


パンッッと手を叩き、両手を合わせると両掌に魔力を集中させた。イメージ通りで、朝日奈が自分の魔力を剣に具現化する時の記憶通りに行えばーー。


すると、夜十の周囲から眼に見えるほどの膨大な魔力が爆発的に収束し、掌に吸収されていった。白い稲光のような光がバチバチと音を立てながら空気を焦がす。


「なっ、なんて魔力だ……!! 」


「へぇ、夜十君、武器生成をやろうとしてるんだね。良いじゃん! 」


ゆっくり、ゆっくりと掌に全集中を咎めさせながら掌を開く。白い魔力の球体が浮かび上がり、球体内部からは剣の柄の部分が現れた。

きっと、掴めばいいのだろう。

恐る恐る手を伸ばし、黒い柄を思い切り掴んだ。


ーー瞬間。

膨大な魔力が一堂に自分は注ぎ込まれる感覚と、剣がヤケに手に馴染む感覚に陥った。

それは、今まで使用してきた剣とは別格。

いつかの時に、朝日奈に手渡された魔力で具現化した剣と同じような安心感が募った。



「これが俺の……!! 」


黒い柄に黒い刀身。今までの剣と形も色も同じだが、違う。


「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!! 」


きっと、鬼谷は待っていられなかったのだろう。それに、武器の生成だけで自分の倍以上の魔力を発する相手が見せる大きな隙を逃したいと思うわけもあるまい。


真っ直ぐ、通常の速度で走り、刀身を上へ向けながら斬りかかってくる。


「成る程。魔力量はあるけど、体術がからっきしなんだね。 」


ーー、一閃。

横へ剣を一振りすると、白く光る膨大な魔力の篭った剣圧がまるでレーザービームのように放たれて棍棒で斬りかかってきている鬼谷に衝撃を与えた。


その衝撃は、重厚なる盾としても各メンバーが信頼を置いている組織内の障壁を簡単にも打ち破って、鬼谷を部屋の地面に叩きつける程だ。



「す、すごい……!夜十君、また力が上がってる……!!」


「夜十、何処まで進化したの……あたし、やばいかも!! 」


「……」


「……」


その時、新木場と神城は悶絶した。

帰ってきた弟子の魔力がもう一段階上に上がっていたのだから。


それに武器生成も……。




六十二話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!

投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。

TwitterID↓

@sirokurosan2580


今回から第2章「組織編」がスタートします!

Twitterでは、夜十君とミクルのツーショットイラストを上げているので、是非、どうぞ(o^^o)


それでは、次回予告です(o^^o)

鬼谷を剣圧のみで吹き飛ばし、再起不能にまで仕上げた夜十は、次なる相手の為に剣を取る。

騰隊長vs.冴島夜十の戦いが始まる!!


次回もお楽しみに(o^^o)


【ミクル】


「良かったじゃねえか、ミクル!夜十と会えて!今日は勝負パンツの赤色じゃなかったか、ドンマイ! 」


「勝手に覗いてんじゃないですよ!!神城変態長がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 」



※夜空の星に浮かぶのは、神城彗星。

彼は今日もまた綺麗な流れ星で空を駆けるのだった。



拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!

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