第六十一話 平和の形
遅くなりましたー、毎日投稿停止してから結構経ちますが、これくらいの投稿の方がなんか自分的には落ち着く……はい。
真っ白な花畑、姉という幻を理解出来ず、受け入れなかった俺は自分の他に誰も居ないこの場所から抜ける道を探していた。
永遠に続く地平線のように、向こう岸の見えない空間。
まるで、姉と俺が再会する為だけに創られた空間に思える。
暫くして時間が経つと、背後へ通り抜けるように花弁が舞い落ちた。
すると、誰も居なかったはずがーー。
「あぁ、お主が冴島夜十殿じゃろ? 」
背後を振り向くと、年相応には思えない口調で話を紡ぎ始めた黒髪短髪の大男が立っていた。
どこの地方の方言だろう、話し方が、ややお年寄り気味なのは気のせいか。
「……そうですが、貴方は? 」
「ワシは二都翔。《平和派》の前リーダーをしちょった。今は風見が受け継いでくれちょるがのう〜〜。 ってことは知っとるか! 」
「え?二都さんですか?! 」
驚きのあまり、大きな声を出してしまう。
何せ、亡くなったと聞いた人物が目の前にいるのだから仕方のないことだろう。
「ああ、あんたはワシの《和平》の光を浴びて、一番幸せだった時の過去を思い出したんじゃろ? 」
「和平?あぁ、そうです。あの黄緑色の光に包まれて、この空間に来ました。 」
「そうじゃろうな。本当はワシの話を沢山してやりたかったのじゃが、あんたには時間がない。……じゃろ? 」
何故、そこまで知っているのか。
と、聞きたかったが野暮なので喉元に言葉を押し込んだ。
「はい。あの……一つだけ聞いてもいいですか? 」
「ああ、なんじゃ? 」
「二都さんの望む、平和の形って何ですか? 」
それはいつかの日に、風見が口にした言葉と同じようなものだった。
いく年月でも、《平和派》のボスは平和を望んでいた。だが、それぞれが掲げる平和派異なるもの。
時間がないのは重々承知の上、火炎が耐えてくれる暫くの間で一番聞きたいことを俺はこの人に聞きたい。
「ワシの平和は、皆が楽しく自由に会話をしたり、遊んだり、そういう何気ないことが永遠と続けられるような世界じゃな。全てを守ることは不可能で、目の前の人物も沢山失うじゃろう。じゃけんど、自分が折れてはいけない。一番、大切なのは信念を折れさせないことじゃよ。 」
「……俺の平和は、アビスの居ない世界にすることなんです。どう、ですかね? 」
すると、二都はニッコリと笑って俺にこう告げた。
「平和の主観なんて人それぞれじゃ、ワシにその平和を良いとか悪いとか評価することは出来ん。けんども、ワシは好きじゃな。 そんじゃあ、元の世界に戻りや。もう、ここに居られる時間はそう長くない。風見によろしく言うとってくれ。んじゃな、若き英雄よ。 」
俺の言葉は返すことは出来なかった。
ただただ、ニッコリと笑顔で手を振る二都を見る視界が真っ白に染まって消えたーー。
目を覚ますと、玄関先には血眼になった朝日奈が《地獄の炎花》の詠唱を終えて、掌から真っ赤に燃える炎の龍を具現させている姿が見えた。
その向かう先はやはり火炎。いつもの彼なら防ぐことは出来ただろうが、前方から迫り来る星咲の剣戟を防ぎながら行うのは至難。
それに、どこか諦めているような様子も見受けられる。火炎、無駄死には辞めろ!!
その光景を目の当たりして、数秒経たずか。
一瞬のうちに右手で刀を抜き、星咲の攻撃を受け止めると、左掌で《地獄の炎花》を放って、朝日奈の攻撃の相殺にも成功した。
満身創痍の火炎をギリギリの時間で守り切ることが出来た。
二都が言っていた"目の前で人を失うことは沢山ある"という言葉。
俺はまだその気はありません。
只管に全てを守り切るという信念を絶対に折らせませんから!!
「……どこまで進化しやがる! 」
星咲は冷や汗をかきながら、和平を投げ捨てた。効かないと悟った攻撃方法は使用しないようだ。
この調子で《操作魔法》のレパートリーを減らせば勝機は見えてくる。
「……火炎!無駄死には辞めろ!朝日奈の誤解を解くんだろ?それまでは死ぬな! 」
「嗚呼……悪い。ありがとな」
玄関先でやり取りを見ていた朝日奈は疑念を浮かべた。何故、あれ程までに憎んでいた火炎を夜十が庇うのか。彼女の表情は曇る。
「朝日奈、事情は後で説明する!だから、今だけは一緒に戦ってくれないか? 」
「……はぁ?なんであんたが火炎を庇うのよ!!事情?そんなこと知らない!そこを退いて火炎を殺させないなら、あんたごと焼き殺すわよ!! 」
大きく、激しく放たれた罵声。
俺の心に星咲への怒りが再臨し、鋭い眼光で星咲を睨みつけた。
全ては星咲が悪い。火炎は、操られていただけなんだ。《操作魔法》に。
「ふっ、火炎。惨めだなぁ……その哀しそうな顔。もっと残酷にしてやんよ!! 」
初速を上げて地面を蹴り、一瞬のうちに朝日奈の懐へ潜り込むことに成功した星咲。彼女との距離はかなり離れていたはずなのに、この尋常ではない移動速度から縮地法だと分かるのに数秒も要らなかった。
星咲は手の先に魔力を圧縮させ、実質上の手刀で驚愕し、表情を歪ませた彼女の腹部を貫いーー。
「……あっ、な、何でよ!!今更、情でも湧いたの!?わ、私から全部奪ったあんたが……何で!!! 」
この時、夜十の《追憶の未来視》では朝日奈の腹部が貫かれるところまでが見えていた。けれど、現実は違う。
「ぐっ……ごぼっ……だ、大丈夫だ。燈火、俺はお前に憎まれても、呪われても関係ない。本当の気持ちは守りたいという言葉だけだ……!! 」
「な、何で……」
腹部と口から大量の血液を流し、膝から崩れ落ちる火炎。
彼の瞳から輝きが忽ち消えていく。
「やっぱりお前は優しいやつだったな。自分を恨み続ける妹を庇って死ぬか……」
火炎の血で赤く染まった手刀を彼の腹部から引き抜くと、へらりとした顔で手刀を振るい、血液を落とした。
ーーこの瞬間から、場の空気がガラリと変化する。変えた少年は、独りでに涙を流し、怒りに満ちた瞳で狂ったアルビノの少年を睨みつけた。
「……よ、よくも……!! 」
「また魔力が増大した……何なんだよこいつは!! 」
火炎を殺したことで大きな隙を、綻びを見せてしまった星咲は一際大きな魔力の増大に焦りを見せる。
"目の前で人を二度と失わない"
"目の前で人を二度と失わない"
"目の前で人を二度と失わない"
"目の前で人を二度と失わない"
"目の前で人を二度と失わない"
自分の感情が、信念が怒りで染まっていく。
「……許さない!!俺はお前を許さない!! 」
「くっ……!!ま、まずい。あの魔力が襲いかかってくれば、俺に防ぐ力は……」
幾ら魔力が無限に残されていると言っても、それを使う人間に限界はある。
つまり、《魔源の首飾り》所持者にも限界はあるのだ。
だが、《追憶の未来視》と《追憶の模倣》を乱用している夜十には、それが無い。
星咲の不安要素はまさに"それ"だ。
いつかの日に、俺が最も尊敬する人物が使っていた魔法をーー今なら出来る気がする。
それはーー最も強く、最も輝きの高い魔法。
記憶を具現化させるんだ。
今なら、今の魔力量なら届く、あの人に届く。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!! 」
空気が斬り裂ける甲高い音が周囲に響き、何段階も上がっていく魔力量。
今の夜十の魔力量は"大型アビス"を一撃で倒すことが出来るレベルだ。
収束した魔力が白く黄色い光の剣に具現化し、標的に真っ直ぐ矛先を向けた状態で空中へ固定された。
魔力コントロールが難しく、少しでも気を逸らせば簡単に腕が吹き飛んでしまう程の魔力。けれど、今更恐れることは何もない。
ただ、この炎耀く光を手に取り、邪念を秘めたヤツを貫けばいい。
俺は、凄まじいエネルギーを秘めた剣の柄を確りと掴んだ。
ーー瞬間、流れ込む魔力に掌が焼けるように痛くなった。
まるで、溶岩でも掴んでいるかのようだ。
ーーそれでも、関係ない。
火炎の想い、死んでしまった彼奴の報いを考えれば、俺の痛みくらいどうってことはない。
ならば、この一振り、受けて貰おう。
憎しみと怨念を込めた一撃を、
星咲、お前に!!
"新島隊長、お力を借ります!"
「……《光の神刀》! 」
「まっ、待て……俺はまだ死にたくない!!親父ぃぃぃぃぃいいい!! 」
右足を先に出し、地面を蹴って加速。
光を超える速度で紡がれる"貫く"という行為は、星咲という存在を一瞬で消滅させた。
その威力は、《戦闘派》の拠点を諸共消滅させ、学園の魔力結界も消滅させる程。
学園の校舎が有る方向へ撃っていたなら、全校生徒を皆一堂に消滅させることが出来ただろう。
星咲の最後の言葉は誰にも届かずに、体諸共消滅した。
「はぁっ……はぁ、はぁ……!! 」
一度に大量の魔力消費が行われた影響か、地面へ崩れ落ちーー。
なかった。何とか、崩れそうな身体を起こして地面を踏みしめる。
……まだ、やらなければならないことがあるからだ。
何回消費をしても構わない。
だから、《願いの十字架》よ。火炎を……。
「……夜十!!か、火炎が……!! 」
自分を庇って死んだ火炎の胸の上で朝日奈は泣き噦る。
先程まで恨みを向けていた人物が死んで嬉しいはずなのに、何故か涙が止まらない。
彼女は気づいてしまったのだ。
火炎は自分を一途に愛していたということを。
そうでなければ、身代わりになろうとなど死んでもしなかっただろう。
「……任せろ、朝日奈。お前のことを大好きに想う最高の兄貴を取り戻してやる!! 」
「ふぇ……!? 」
「夜十君、まさか……!? 」
俺のしようとしていることに、いち早く勘付いた沖は焦った様子で目の前に立ちはだかる。
「沖先輩、そこを退いてください!!何をしようとしているのか、勘付いたところで貴方は俺を止めることは出来ない! 」
「《蘇生魔法》を使えるのだとしたら、君がやろうとしていることは犯罪だよ!?KMCは、火炎が死んだことをもう既に知っている。ここで君が蘇生すれば、君は間違いなく刑務所行きだ! 」
口論の末、沖は涙を流し始めた。
「君がこの学園から消えることに何の未練もないなら構わない。けどな、俺達《平和派》は君を大切に思っているんだよ!!なのに、そんな身勝手なことすんじゃねぇ!! 」
「先輩、有難うございます。それでも、俺は火炎を救わないといけません。これは、絶対に折れないーー 」
ハッと息を呑み、深呼吸をするように優しい声で涙を流す沖へ言葉を紡いだ。
「……信念なんです! 」
沖の横を通り過ぎ、泣き噦る彼女の頭に手を置いた。綺麗な髪、綺麗な瞳。
ずっと、見ていたかった。そばに居たかった。けど、これからは火炎がそばに居る。
それで、我慢してくれないかな?
無理だよね、俺も、無理だよ。ごめん。
「《この腐りきった世界に終焉を、十字架の光の下に、願いを叶えよ!!願いの十字架!! 》 」
傷だらけの制服の中から光り輝く十字架を取り出し、握りながら詠唱を手向ける。
《願いの十字架》は願いを聞いてきた。
わかっているくせに、全てやりとりを見ていたんだろ?だったら、早く済ませようぜ。
「アナタノネガイハ……ノコリ、四ツニ、ナリマシタ……ゴケントウヲ……」
沖も黒も下を俯いて悲しそうな表情をしていた。朝日奈は、気持ちが追いついていなかったように思える。
けれど、気を失い、その間に学園を去った俺にはその後、どうなったかは分からない。
だが、俺が学園を去ったということは、つまり、火炎の蘇生に成功したことになる。
俺は、考えるのをやめて、真っ暗な配送車の中、一人眠ったのだった。
六十一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
えーっとですね、今回で第1章《学園編》が終了です。次回からは第2章《組織編》が始まります。
それでは次回予告です!!
禁止魔法である《蘇生魔法》を使用したことによって、学園を離れて、刑務所行きになる予定だった冴島夜十。
それでも、自分がやりたいことは全てやれたと確信した彼だったが、思わぬ護送先に目を丸くすることとなるーー!?
次回もお楽しみに!!
【禁止魔法】
世界の理を歪める魔法。
人を意のままに操る《操作魔法》に、死んだ人間を蘇らせる《蘇生魔法》。
他にも多数存在しているが、使えば一瞬で刑務所へ行くことが決まる。
尚、これらのルールはKACが決めたものである。
※dmで沢山、燈火と夜十のイチャラブを見たいと言われたのですが、残念。
次の話からは燈火ちゃんの出番が少なくなります。新キャラ登場もするので、お楽しみにしてくれたら幸いです!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




