第五十九話 《制御の宝玉》
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「ぐあっ……!! 」
突然の打撃に大きく転倒し、完全な隙を見せてしまった。彼女の剣が迫りーー自分は叩き斬られる。そう思った瞬間だった。
絶体絶命のピンチで氷の剣と彼女の身体、全てが凍てつき、動作を停止する。
「……あぁ? 」
俺を殴り飛ばした男ーー朝日奈火炎はトドメを刺すはずの彼女が凍結したことに驚愕の表情を浮かべ、思わず声を上げた。
「……火炎!俺はまだ死んでねぇんだよ! 」
彼の後ろから氷洞を凍てつかせたのは、湯遊川だった。火炎と交戦し、撃破されたフリをして追ってきた模様。
火炎が驚愕しているところを見れば、間違いはなさそうだ。
「へぇ……?湯遊川なんて懐かしい名前〜。君の親友の二都君は久々に会ったら、食堂でラーメンを奢ってくれたよ。お礼に殺してあげたんだけど、あの死に様どうだった? 」
星咲は友達と雑談をするようなノリで、表情で湯遊川を煽るような発言を続ける。
彼に今、その挑発は爆発しそうになる程の大打撃を与えることが出来ると知った上でだ。
けれど、彼は平常心で言葉を紡ぐ。
「……お前がクソ野郎なんてことは前々から知ってる。そして、《戦闘派》を、学園を影で自分勝手に操ってることもな! 」
「なっ……!? 」
ここで星咲は珍しくも驚愕し、動揺したように瞳を大きく見開いた。
《戦闘派》内部でも知っている人物は隊長のみ、兵士は何も知らず自分達の臓器を抜き取られている。
当然、《操作魔法》まで知られているとなれば、動揺しないわけがない。
額からは大量の汗が流れ始めた。
「俺はある男から全て聞かせてもらったよ。そして、其奴はお前を慕っているように見せて……胸に隠した怒りの炎を永遠に滾らせているんだ!!なぁ? 火炎。 」
湯遊川が話をしている中、ずっと下を俯いていた火炎は自分の名前を呼ばれた瞬間に星咲の方へ右掌を向けた。
「どういうことだ!!火炎! 」
「あんたの洗脳はもう懲り懲りだ。俺は殺したくもなかった家族を殺させられ、親愛なる妹にまで恨まれた。お前は……この状況に置かれた俺にどんな救済をしてくれる!? 」
血眼で問い始めた火炎。それを嘲笑し、彼は言葉を簡単に否定する。
「はぁ……?俺のせいにしないでほしいなぁ。でも、泣きながら殺してたもんね。偶然、居合わせた朝日奈燈火がお前を恨んでるって?そんなこと、知ったことかよ。無様としか言えないな」
ふざけた回答に怒りが募る火炎。だが、彼は大切なことを忘れていた。
星咲はふと思い出したように、氷洞の臓器を机の上に落とし、拠点の床へ無造作に置かれた袋の中から大きめの臓器を取り出すと強く握り締めた。
「ぐっぁぁぁぁぁぁぁああああ!! 」
「お前はまだ俺の手中だ、火炎。駒は使い手に逆らうな。従え! 」
前のめりに倒れこみ、顔の血管が浮き出る程歯を食い縛って痛みに耐え凌ごうとする。
やはり、臓器を奪われたままでは火炎に為す術などない。湯遊川は顔をしかめた。
「チッ、使えねえ駒だな。そんな昔のこと忘れときゃあ、良いのによ。まあ、良い。もう一度、忘れさせればいいだけなんだからな」
彼の手中に落ちている臓器を何とかして奪い返すしかない。湯遊川はゆっくりと瞳を閉じて、彼の中にある心へ声を伝達させる。
俗に言う伝達能力だ。
『冴島、この状況を打破するだけの力がお前にあることは分かっている。その瞳で確信済みだ、だから……助けてほしい。火炎は妹に恨まれるべき人物ではない。学園で平気に人を殺すタイプではない。全部、星咲に操られてんだ。あいつは臓器を触れていれば臓器の持ち主に対して《操作魔法》が使える。これだけ言えば、君ならやってくれるだろう。頼んだよ……!! 』
突然に信じられない言葉が連続して頭の中に流れ始め、言葉を追うので頭の中は精一杯に。
火炎が朝日奈に恨まれていることは知っている、黒の姉の白離さんを殺したことも。
けれど、それは真実ではない?どういうことなのか、俺は言葉を投げつけるように心の中で会話をしようと試みた。
ーーだが、どんなに言葉をぶつけても、彼からの返答はなかった。
受信は出来ても送信は出来ない。
俺にその能力が無いからだろう。けれど、相手は目の前にいる。
俺は行動で返答すればいいだけだ。
刀を手に取り、崩れそうになる足を抑えて蹌踉めきながら立ち上がった。
「……ん?夜十君、どうしたのかな? 」
「星咲先輩、一つ聞きたいことがあります。先輩は、《魔源の首飾り》を持っていますか? 」
すると、彼はにんまりと口を横に長く歪め、屈託のない笑顔でこう答える。
「へぇ?見抜いてたの?凄いね! 」
星咲は襟の部分から服の中へ手を入れて、赤紫の宝玉が金色の棘の縁に包まれたネックレスを取り出した。
これが《魔源の首飾り》か。
自分が持っている《願いの十字架》は銀色の十字架が付いたシンプルなネックレスだが、星咲のはカジュアルだった。
「その首飾りの名前は? 」
「《制御の宝玉》だよ。まあ、これは普段見せられない代物だから、君の臓器も頂くとするかな。 」
《制御の宝玉》。
《魔源の首飾り》の名前を呼びながらの詠唱をしない限りは、操作魔法と隕石魔法が如何なる時も無限に使えるということなのか?
だとすれば、相当強力な首飾り。
上限回数が十回以下なのか当然だが、使用時の代償は大きいだろう。
「そうはさせない……!! 」
「ふーん?夜十君が俺に勝てるかな? 」
「そんなの、やってみなきゃ分からない! 」
「へー? 」
彼は何も言葉を発さず、詠唱もせずに拠点の低い天井の下へ青く光る線が幾つも重なり合って、一つの模様を創り出している魔法陣を発現させた。
これは……詠唱破棄!?
それは、詠唱によって魔力を高め、集中力を上げて放つ魔法をさも当たり前のように、言葉も発さず、集中を咎めずに魔法を完成させてしまう高位の技術。
これが出来るのは、朝日奈や新島クラスの魔力消費量の少なさと魔力量を持った化け物か、《魔源の首飾り》によって魔力を無限に使える人物のみ。
仮に一般生徒が使い方を知ったとして、実行出来るかどうかの答えはーー否なのだ。
魔力の消費量の少なさと、魔力量が圧倒的な人物の身体の仕組みというのは、一般生徒とはまるで違う。
間違って成功してしまえば、詠唱破棄だけで上限回数が残り一回のみになってしまう程の魔力は簡単に消費してしまうのだ。
そうなれば、我々《未完成》に生きる未来はない。
俺達は人間だ、上限回数以上のことは何も出来ない。けれど、抗うことはできる。
憎悪、軽蔑、差別、厭悪、不幸、怨恨、殺意、あらゆる負の感情が煮え滾るこの世界で。
どんなに圧倒的な相手だったとしても立ち向かわねばならない。
俺はーー星咲を倒すことだけに全てを、全力を使い切ってやる!!
膝を曲げて勢いよく地面を蹴り、魔法が放出される前の青く光る魔法陣を真っ直ぐな瞳で捉える。
星咲の魔法が放出されるタイミングは早くても三秒、遅くても五秒とかなり早い。けれど、今は二秒しか経ってない。
あと一秒で早ければ、この中から大量の隕石がゲリラ豪雨のように、この拠点を破壊し尽くす。ならば、手を加えよう。
心身を、集中力を咎めれば一閃。
金色に、黄色に、蛍光色に光る魔力がその場の全員の瞳の中へ映し出され、魔力は夜十の刀へ纏われた。
「……はぁぁぁぁぁあああ!! 」
相手が《詠唱破棄》をしてくるのならーー、俺は《魔法破棄》で魔法を斬り捨てる!
複雑な光の線で巧妙に展開されている魔法陣に一筋の黄色い光の線が疾駆し、星咲の魔力に混ざるよう、書き足された。
一秒経過ーー。
しかし、何も起こらない。星咲によって組み立てられた無数の隕石の連撃は強制破棄したようだ。結果として、星咲は回数を一度無駄にした。無限の彼に通じることでは無いが。
一見、何の意味も無いように思えるが魔法師にとってそれは致命傷。
どんなに凄い魔法を使えて、魔力消費が低く、魔力量が人並以上に多くても、だ。
「なっ……!? 」
星咲も俺の行動に思わず驚愕の言葉を吐いた。
魔法は基本、魔力を、精密で巧妙で複雑な陣として展開することで、炎の槍や鉾などに具現化させることが出来るモノ。
朝日奈のよく使う炎の剣も全ての数式と計算があってこそ、使えるのだ。
だが、数式や文字式があることで魔法が成り立っているということの"自覚"は人間には無い。あるのは、基本要素や上限回数などの知識のみだ。
「……お前の好き勝手にはさせない!魔法は俺が全て叩き斬ってやる!! 」
ぎょろりと瞳を震わせて、額から滴ったしょっぱい一雫を地面に落とし、星咲は右掌を前に突き出した。
「この距離ならお前は防げねえだろ! 」
強く拳を握りしめ、地面を蹴ると一瞬のうちに星咲は俺の前に移動し、懐へ潜り込んだ。
全ての殺気が凝縮され、煮詰まったスープのように煮え滾った拳を強く鳩尾に放った。
俺の腹部へ痛烈な痛みが走り、あまりの痛みに先程食らったダメージによって意識は穿たれるーー。
と、思ったがーー。
「……威力強化魔法のバフで殴りにかかれば魔法陣を破棄されないとでも思ったのか?魔法は陣を展開し、解き放つことで威力を増す大きな攻撃を呼び起こしてくれるけどさ。バフや強化などに使う魔法の陣は保つ為に拳の上にあるんだよ。それを斬ってから止めるのは当然だよね? 」
俺は彼の動きを平気で読めていた。
《追憶の未来視》は、相手が俺に与える全ての情報を纏め上げ、逆算して"未来"を作る魔法だ。
「くっ……!!なんで反応出来るんだよ!? 」
困窮し、額に汗を浮かばせながら彼は叱咤にも、顔を赤らめながら歯を食いしばった。
それは当然ーー自分の拳から放たれる予定だった強力な魔法による攻撃が消滅し、通途に止められてしまったのだから。
「……知ったことかよ! 」
掴んだ相手の右拳を握り締め、力一杯に引き寄せた。すると、自然に星咲の身体は前のめりに傾き、逆の腕は無防備になろう。
ならばーーその一瞬を、大きな隙を、綻びを見逃すことなく摘めばいい。
今、湯遊川も火炎もこの場にいる全員が望んでいることは、星咲からの臓器の奪還だ。
賺さず、刀を取り出すと、刀身の光が星咲の瞳に照射。その後一瞬で刀剣に燃えたぎる灼熱の炎が纏われ、瞬刻ーー。
一定のリズムで音を刻む少しだけ濁ったピンク色の臓器を掴んだ腕は、
星咲の脈打つ身体と強制的に斬り離された。
飛び散る血飛沫が灼熱の炎で熱された刀身の斬れ味を頭に浮かばせる。
ぼとりと重みのある肉が落下した音がして、腕を斬り捨てた俺は背後の悶え苦しむじん物を横目で凝視した。
「うっ……ぁぁぁぁぁあ!!血、血がぁぁ!! 」
火口から噴火するマグマが如き、勢いで噴出する大量の血液で忽ち、彼の周りは血の池に染まった。
無くなった腕を拾い上げ、涙を流しながら慌てふためく星咲。
その背後に、異様な冷気を漂わせ、血眼になった男が一人、立っている。
「湯遊川先輩っ……!! 」
「冴島、ありがとう。最後は俺の手でやらせてくれ……!!二都の仇だ!! 」
「ひぃぃぃ!!悪かった、悪かったから! 」
血の飛んだ制服の肩を凍結した手で鷲掴みされた星咲は恐怖に支配され、漠然とした様子でガクガクと身を震わせている。
その瞳にもはや輝きは無く、瞳孔がぎょろぎょろと吃ったように落ち着きがない。
「……今までお前が殺してきたヤツはそうやって命乞いをしてだろ! 」
勢いよく振り下ろされた拳は、彼を一撃で仕留めることは出来なかった。
当然、湯遊川自身も知っている。
「はぁ、一発本気で殴ってみたかったんだよ。お前の顔をな! 」
その次も、その次も、その次も、衰弱しきった星咲に振り下ろされる拳は容赦を知らず、アルビノの真っ白い雪のような皮膚を赤く、青く、痣だらけに変化させた。
「そろそろ、死んでもらうか。二都の想いをお前は仇にした……俺が親友として二都の仇を取ってやる!死ねええええ!! 」
それはーー先程の肉拳とは違い、明らかに殺傷力を秘めたもの。
氷の造形魔法で拳そのものを剣として具現化させ、殴りつければ凄まじい威力を出せる代物を湯遊川は慈悲もなく振り下ろした。
「ふっ、知らねーよバーカ! 」
崩れ去るは、氷の身体。
凍てつく拳は血液で砕かれ、彼の身体は無数の液体に串刺しへ。
「クッ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!お前ら全員、ここでさっさと死ね!! 」
狂気の表情はどこまでも揺るがなく。
アルビノの少年はーー星咲は崩れ落ちた湯遊川の顔面を踏み潰したのだった。
五十九話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回の話は、専門用語が溢れてましたね。
近々、キャラクター図鑑と専門用語集を出します!お楽しみに(´∀`)
次回は、満身創痍で殺されるはずの星咲が遂に本気を出す。親友を殺された湯遊川が怒りの拳を振り下ろした時ーーそれは目覚めてしまった。
《平和派》と《戦闘派》の抗争は終盤へーー。
次回もお楽しみに!
【火炎の部屋】
目覚めた火炎は自分の寮の部屋の壁に貼られている星咲の写真を破り捨てる。
洗脳されていた間、従順に星咲を愛す兵士として役を演じてきた為に、星咲グッズの数々が部屋を埋め尽くしていた。
「しゃらくせええええ!! 」
※炎魔法を展開し、部屋ごと全てを焼き払った火炎は部屋を失ったのだった。
「くっそぉぉぉおおおお!!! 」
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




