第五十八話 《操作魔法》
遅くなりましたが、ギリギリ投稿出来た!
「はぁっ……はぁっ、はぁっ! 」
怒りに満ちた夜十は歯を食い縛り、腕の痛みを忘れて星咲の居場所へと氷洞と共に向かう。
女の子とは言えど、《戦闘派》の隊長を任されている人物だ、体力と筋力はあるようで現在の俺が縮地法を使わずに出せる全力の速度に顔色一つ変えず付いてくる。
これが朝日奈であればおそらく無理だろう。彼女は魔法に長けている為、物理的攻撃は夜十の足元にも満たない。剣の腕は確かに良い方だが、この学園に通っている数多くの剣豪の前では魔法を使わねば良い方向に進めることは難しい。
「……あっ、冴島。待って! 」
彼女はふと立ち止まり、その言葉に反応した夜十も急ブレーキを踏んでその場に止まった。背後を振り向くと、彼女は下を俯いて何か言いたげな表情をしている。
「氷洞さん、どうした? 」
「あのっ……さぁ……」
顔を赤らめ、制服のスカートの裾を両手で握りしめる。心を落ち着ける為に深呼吸をして、夜十の方へ視線を向けた。
動きさえぎこちないが、その瞳を見れば真剣なのだと理解が出来る。
「……言うよ!!助けてくれてありがとう。それと、この戦いが終わったら……《平和派》に入れてくれないかな? 」
それは彼女なりに頑張って出した答えだった。
あの時、迫り来る拳と伸びる剣を受け止めようと目を瞑って覚悟を決めた、あの瞬間。彼女は昔、緑色の龍に襲われた時、身を犠牲にして助けてくれた壱に投影していた。
彼こそ此の世にはもう居ないけれど、夜十には大切な人が居ようとも、永遠に貴方のそばで役に立とうと。そう決意したのだ。
「冴島と朝日奈が付き合ってるは知ってるよ、クラスで誰もが知ってる話題だから。 」
「え……?知ってたの!? 」
「……どこまでも鈍感ね。そんなところも嫌いじゃないけどさ。私は助けて貰った瞬間、これからも守ってほしいって思った。でも、それは叶わない夢、永遠に描かれる夢なの。だから、同じ派閥にくらい居させてよ。 」
助けた意味に何かがあるとすれば、彼女には死んでほしくなかった。殺しが簡単に行われ、殺しを正当化し始める連中が多いこの学園で、俺のような考えを持つ人間はごく少数なのかも知れない。
だからこそ、彼女の願いに俺が答えないわけがなかった。勿論、ノーなど言わない。
「……勿論だよ、氷洞さん。《平和派》は君を歓迎する。君と一緒に平穏な日々を過ごす為には、あの星咲を倒す必要がある!さぁ、行くよ!ヤツは……絶対に許さない! 」
「……う、うん、ありがとう! 」
そう言って、俺達は星咲の居場所へ向かうべく再び、一歩を踏み出したのだった。
ーー《平和派》拠点前。
「前のりょーちゃんはミステリアスな感じで結構好きだったのに、なんか変わっちゃった後は生温い気がするんだけど? 」
彼女の金色の剣は、ほぼ同時に踏み込んでくる黒と沖の二人の剣を容易に遇らう。
二本の剣を一本の剣で受け止め、彼らの腹部へ鋭い蹴りを放った。極度の痛みと衝撃で地面に仰向けで倒される二人。
そんな二人を嘲笑し、頭を右へ左へ傾けると乾いた音を周囲に響かせて彼女は向き直した。剣を構えようともせず、まるで部屋に居る時のようなラフな体勢だ。
「……んー、剣の腕は確かに上がってるけど、根本から弱いね。二年生の間で有名と言ってもこの程度、剣豪と言われる二人を前に私は圧倒的に眠いよ。 」
彼女の口調は常に回りくどく、直接的な言葉はあまり話さない。だが、この時は本気でそう思ったのだろう。現実を突きつける眼差しは圧巻的だった。
それでも、負けるわけにはいかない。
黒と沖は立ち上がり、剣を手にして果敢に立ち向かう。
「《煉獄の鬼を今此処に発現せよ。鬼の金棒、狂気の剣よ、今目覚めろ!狂鬼の剣!》 」
沖の剣からは赤い斬撃が生み出され、地面を、空気を切り裂き、真っ直ぐに須賀へ襲いかかる。
斬撃が放つ魔力の大きさによってか、空気の振動でヒラヒラと舞い落ちてきた草木の葉は、無音で真っ二つに割れた。
まるで鋭利な刃物の一太刀だった。
「へぇ……?一回消費の大技だね。けど、その程度の剣じゃ……!! 」
葉も空気も地面も切り裂く斬撃が目前まで迫ってきていても、彼女は顔色一つ、どころか表情さえも変えない。
どこか楽しげで、斬撃自体を見ていない。
須賀が見据えている先は二年で剣豪《仏鬼》と謳われた天才と、今年になって姿を現した暗黒馬を二人同時に倒したという功績だけ。
《戦闘派》が昔から功績と強さだけでどの派閥よりも凄いということを周囲に知らしめてきたことを熟知しているからだ。
そして、三年になった現在でも彼女が進んで《戦闘派》を統率しようと思わないのもその理由に適っていた。
「私は斬れないよ……!! 」
斬撃の速度は光速を超え、目では捉えきれない速度のはず。なのに、彼女は平然と斬撃を捉えたかのように剣を振り下ろした。
飛翔する魔力の反応が消失すると、沖も黒も斬撃が斬られたことを確認出来る。
魔力一回消費の斬撃は、アリーナでも見せた通り、防御障壁を魔力密度を100%に引き上げた状態でないと止められない程だ。
それを片腕で振り下ろす剣のみで意図も簡単に消滅させてしまう、須賀元春が怖くなった。身の毛がよだち、全身の皮膚に鳥肌が立った。
「須賀……前のお前はこんなんじゃなかったろ?自分の剣を信じて突き進むヤツだった、なのに……何故星咲なんかに慕ってんだよ! 」
「何故私が星咲を慕っているか、三年なのに二年に従っているか。か……」
彼女はこの手の話題でよくからかわれていた。何故三年生で二年に付いているか。《平和派》の小日向も二年にボスを譲っているので珍しいことではないが、同じ学年でも下の学年でも彼女の強さについて知る者は誰もが驚愕した。
《戦闘派》の次のボスは、須賀元春だと確信していたからだ。
「私が自ら譲ったんだよ。私にはリーダーの素質があって、昔から仲間にも慕われてた。けどな……私は人を守る剣を知らない。傷つける事しか出来ないんだよ。」
「……だから、譲った。一番、真面目で一番目立たないやつにな。それだけだ!! 」
それを聞いて沖は一年生の時代の星咲を思い出す。表立っては自分で動かない。
ミステリアスな人物だったのは間違いない。戦闘になると暴れ出すあの習性を一度は見たことがあれば、容易にボスを空け渡そうとは思わないだろう。
まだ、《戦闘派》には隠されている"何か"が存在している。額に冷や汗を滴らせた沖は、思考を駆け巡らせた。
「……さて、余談は終わりだよ。私はあの人のために死ぬしか道はない。殺せるものならば、殺してみろ! 」
彼女は右足を強く踏み出し、脈打つ身体を斜体に曲げながら加速する。
フォームの意味は分からなかったが、彼女の表情で沖は悟り、矛先を下へ下げた。
「黒、動くな。絶対に攻撃されない! 」
沖も黒もその場を動かずに迫り来る彼女の表情を一点に凝視した。
苦難の表情を浮かべ、瞳に涙を浮かべている。何か辛いことでもあるのだろうか。
それでも、口には出せない。
「なっ……!!ほ、ほ、じぃ、ざぁ……!!」
肉が屠られ、血液が飛び散る惨劇の音と鉄の匂いが周囲へ立ち込めた。緋色に光る血液は彼女の金色の剣を赤く染め上げる。
「ぐっ……ぁぁぁぁぁあ!!はぁっ!! 」
誰が想像していただろうか。
誰も予想だにしなかった出来事が沖と黒の前で巻き起こった。飛び散る血液と惨劇の匂い、聞こえる断末魔は悲しみに満ち溢れて、助けを求めているようだった。
彼女は剣で腹部を自ら貫いたのだ。予想だにしなかった声と表情から見れば、自害したというには説得が難しい。
たった一撃で穿たれるような柔な身体ではない須賀は突然の痛みに踠き苦しみながら、潰れた喉を殺して叫んだ。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
そして、溢れる血液の中、彼女は絶死した。突然の痛み、自分の身体が自分の身体ではないかのように動き出し、自分の腹部に致命傷を与える。
この行動の意味が、沖には見えてきた。
「なっ……お、おい!沖! 」
唖然とその瞬間を見つめているしかなかった黒は慌てながら、沖へ声をかけた。
彼は思考力が少しだけ他とは劣っているからに、分析は苦手だ。
「あぁ、これはね。星咲が殺したんだよ。昔から、自らで手を下さないことで有名なあの星咲が……ね? 」
「は?」
黒の反応は正しい。
今この場に星咲の気配はない。その中で、ヤツが須賀を殺すのは至難。
難しいどころの騒ぎではないのだ。
「俺も定かではないんだけどな。多分……黒、心臓弱い方か? 」
「いや、そんなことねーけど? 待て、すごい嫌な予感がする。まさか? 」
「あぁ、そのまさかだよ。」
ーー須賀元春が突然死を遂げた頃。
夜十と氷洞はアリーナ前にある《戦闘派》拠点の扉に手をかけ、恐る恐る扉を開けて中へと踏み込んだ。
いつの日か、火炎が燈火を殺そうとした場所には複数の生徒が血塗れで転がっていた。その中心には、所々が返り血で赤くなっている全身が真っ白のアルビノの少年。
今回の元凶となった人物、星咲嶺王が立っている。
よく見ると、彼の足元に転がっている遺体は《戦闘派》の兵士達。
赤い制服の背中には、桜の花弁と金色の龍が交わったような紋章が血で汚されていた。
「……よく来たね、夜十君。 」
後ろを振り返った星咲が手に持っていた物は、思わず目を見開いしてしまうような物。ドクドクと独りでに脈を打ち、
淡くもない濁ったピンク色の"ソレ"は星咲の上で動いている。
「なっ……そ、それはッ!? 」
「……あぁ、氷洞零の臓器だよ。こうすると、胸が痛むよね? 」
ギュッと力強く臓器を握り締める星咲の行動とほぼ同時か、彼女は涎を口から流しながら胸を抑えてその場に倒れこんだ。
どうやら、本物であることは間違いない。
「ぐっ……ぁぁぁぁ、や、やだ!やめ、いやぁぁ!! 」
「だったら、今ここで冴島夜十を殺せ! 」
握り締められた臓器を前に、彼女は剣を取るしかない。周囲に冷気を噴出し、氷の剣を右手に具現化した。
そして立ち上がり、涙を流しながら矛先を夜十へ向ける。
「へぇ、操作無しなのによくやるね。あぁ、でも感情がなってないか。俺を騙せるなんて思うなよ? 」
彼は、くるりと振り返って、方向転換をし、真っ直ぐに自分へ斬りかかる彼女の心臓を握り締めもせずに、狂気の笑みを浮かべた。
「ほら、俺を殺すんじゃないだろ?なぁ? 」
矛先があと数センチで星咲の真っ白い雪のような皮膚を赤く染められたのに、何の戸惑いもなく止まる。そして、彼女は涙を流し、驚きの表情を浮かべながら夜十の方を向き直して、剣を向けた。
「……な、なんで!?私はあんたを殺す気なんてない!!なのに、身体が勝手に!? 」
右足を強く踏み出し、剣を振り下ろす。腰に携えた刀を取り出そうと一瞬だけ迷うが、彼女の攻撃はもう"視えている"。
華麗で俊敏なステップだけで剣戟を避け続け、彼女の疲労を待つ。涙を流しながら、自分では攻撃を止めようとしている。
これはつまり、法に匹敵するくらいの禁止魔法。《操作魔法》であることは間違いがなさそうだ。
組織内の任務で一度だけ《操作魔法》を使う魔法師を取り締まったことはあるが、その時の場合に彼は複雑な条件を満たさなければ他人を操作することは出来なかった。
そもそも、この世には使ってはいけない魔法が数多く存在している。
敵を瞬殺する《破滅魔法》や、未来や歴史を変える《時空魔法》などがあり、その中の一つに、生き物へ意思などを関係無しに操作する魔法《操作魔法》がある。
この魔法は上限回数を異常にも消費すると言われており、操っても一人が限界。一生涯で一般の魔法師が使用できる回数だ。
「夜十君のソレ、未来で見えてるの? 」
狂気に満ちた笑顔で問いかけてくる星咲を無視し、俺は目の前の彼女を助けることだけに没頭する。
彼女の動きは未来予測で視えているからに、攻撃が当たることはないが、殺さずに動きを止める方法が必要だ。
《操作魔法》は相手の意思や意識などは全くと言っていいほど意味が無い。気を失っている状態でも自由に操ることが出来る。
星咲が《操作魔法》で必要な条件さえ知ることが出来れば止める手立ては見つかるかもしれない。
瞳を見つめるだけで相手に干渉することが出来る魔法があれば、この時、風見が場に居てくれたら。
その時、俺は思い出した。俺は一度だけ間近で彼女の魔法を見たことがある!
その内容を、状態を、条件を思い出せば、星咲の魔法発動条件を知れる!!
華麗なステップで剣戟を避けながらにはなるが、今に問題はない。深く深呼吸をして、星咲の瞳を凝視した。出来るだけ強く睨みつけ、彼が俺と目を合わすまで永遠に。
「へぇ、風見の魔法も使えるんだね。その状態だと、俺に干渉して知りたいってのは……《操作魔法》の発動条件かな? 」
「なっ……!? 」
考えていたことが見透かされてしまった。
彼の虚ろになった瞳はどこまでも見透かしてしまうのか、その疑問を浮かべた頃。
感覚で全ての剣戟を避けていた俺を阻むかのように一つの拳が顔面を砕く勢いで降りかかったのだった。
第五十八話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
遅くなったけど、ギリギリ間に合ったー!
それでは次回予告です!!
思考を駆け巡らせる夜十を前に謎の人物が拳を振り下ろした。戦闘派を取り巻く全ての謎とはーー!?
次回もお楽しみに!
【今日は休み】
(´∀`)次はやります!!
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




