第五十七話 とっておきの策
遅くなりましたー、昨日投稿する予定だったのですが推敲が三千文字だったので取りやめました。
明日は投稿します!
ーー《戦闘派》拠点近くの森。
草木が生い茂り、隠れる場所が滞りなく用意されている、この地で俺は星咲が認めた六人の隊長達を前に刀の矛先を一直線に向けた。
数は六人、倒すとは言ったけれど、どう考えても彼らとの力の差は異常だ。今ここで俺が取れるべき策は一つのみ。
でも、その策を取るには色々下調べが必要になってくる。
「はぁ……いくら私達が手を抜いているからと言って付け上がってはいけませんよ。高々、一年生のマグレ英雄が……絶対あの方の力添えがあってのことでしょうに。何にしても、貴方がこの局面で全員を倒すことは不可能と言えます! 」
一澤が堂々と胸を張って答えた。勿論、そんなことは分かっている。
けれど、やるしかないんだよ。勝つためには、戦うしか!!
「……郷は左、麗美は右だ。私が真ん中からトドメを刺そう。二人は分かりますよね? 」
「「御意!」」
ガタイのいい男と女性が先程と同じポーズを取り始める。男は右腕に凄まじく積み上がった魔力を纏わせて、女性はひらひらと漂うマントのような剣の刃を日光に煌めかせた。
彼らが勢いよく地面を蹴り、早い速度で技を食らわせようと腕と柄を引く狭間、中心部をゆっくりと進む一澤の背後には緋色の般若像が見えた。凝縮された殺気を周囲に態と引き出して、相手の集中力を奪う。
いつの日か、組織の人間が小型アビスを駆逐するときに行なっていた技だ。
何かを考えている暇もない俺は、目を見開き、自分が感じれる全てを記憶することに専念する。
《追憶の未来視》に一番重要なのは、洞察力だ。
これが無ければ、見たモノを瞬時に記憶することなど到底不可能に等しい。
「……オラオラァ!一年坊主!倒せるもんなら倒してみろや!! 」
左側には腕を引き、魔力を更に凝縮させる男が迫ってきている。だが、右側の注意も怠ってはいけない。ひらひらと自由に舞う鞭のような剣が刃先を畝らせながら迫ってきているのだ。
視野を最大限にまで広げて注意しなければ、一瞬でカタがついてしまうのは明確。
俺は一歩を強く踏み出し、左側の筋肉が詰まった大男の腹部へ強い一撃を放った。
「ふっ、そうすると思いましたよ。私が貴方の立場ならそうするでしょうね。麗美! 」
「一澤さんのお願いとあれば仕方ないわねぇ〜ん♡ 」
彼女は長く鋭い剣を伸ばし、俺の右腕を貫いた。吹き出す緋色の液体が意味するように貫かれた位置が熱されたように熱く、激しい痛みが襲いかかる。予期していなかった死角からの攻撃に強く踏み出した一歩が意味する攻撃は虚空を切って、空中へ消えた。
その瞬間を一澤は予知していたかのように、ニヤリと微笑む。自らは手を下さず、ほくそ笑んでいる。俺はこういう人間が嫌いだ。
自分にその責任を負わせたくないような、ずる賢い人間がーー。
ーーここまでの隙の中、俺の目の前で殺気と魔力を凝縮し続けていた大男は、右拳に集められた緑色に輝く腕を引き、強く放った。
押し当てられた拳が腹部をめり込んで肋を数本粉砕した。あまりの一撃に血を吐きながらの身体は数メートル先に吹っ飛ばされ、他の隊長の足元へドンピシャで転がる。
「はぁ………はぁっ!!俺はまだ……!! 」
血反吐を吐きながら、貫かれた腕からドクドクと流れる血液と痛みを一切気にせず、今残っている力で上体を起こす。やはり、隊長クラスともなれば簡単に倒すことは不可能。
攻撃する暇は流石に与えてくれなかった。
「一澤さん、こいつ殺していいっすか? 」
「ダメです。それは私の獲物で、貴方は一度も攻撃していたのにも関わらず我々の努力を無に返そうとするのですか? 」
金色の短い髪の少女が自分の足元に転がり、必死で起き上がろうとしている俺をまるでゴミでも見るような瞳で見下ろしながら、一澤へ問いかけた。
「ちぇっ……分かったっすよ。我々は黙ってこのゴミが殺されるのを見ておくっすから、心行くまで楽しんでくださーい。 」
「言われなくてもしますよ、奏多さん。 」
覚束ない足で立ち上がると、流れ出た血液の量が多かったせいなのか、一瞬だけ視界がクラッとする。ワイシャツの一部分を破いて、肩へ縛り付けた。
こんなんで応急処置になるかどうかは分からないが、せめてもの処置だ。
無いよりはマシだろう。
「必死ですね〜。頑張ることは大切ですが、楽になることも懸命な判断ですよ。 」
一澤の声を一切遮断して、あの策を講じることにする。先程は完全に不意を突かれたが、それによって予期もしないコトを"視れた"。肩に重度の怪我を負ったが、この六人を相手に戦う上では多少の代償は仕方ない。
俺は痛みを感じないように平静を保ち、無表情でゆっくりと瞼を下ろした。
「郷、もう一発行きましょうか! 」
「御意!! 」
大男は地面を蹴り、先ほどの同じポーズの元に腕へ魔力を集中させる。
地面を蹴る時の音、空気を裂く音、速度、魔力が増幅する感覚、拳を握る際に漏れる空気の振動、感じた全ての感覚を一つに。一つのデータへ映し出すコトで答えは見えてくる。
動作に異常ナシ。
行動に異常ナシ、感覚に異常ナシ。
《追憶の未来視》に異常ナシ。
大男の未来予測の下準備は完了。それによって、同じような速度で動いていた麗美と呼ばれる黒髪の少女も分析が完了した。
この二人の動き、剣の伸びる速度はリンクしていることが分かった。
左側の大男が突っ込んだ瞬間に、右側の女性は一歩後ろへ後退する。後退した瞬間に剣が伸びる瞬間の速度の中で一番高い秒数を叩き出し、相手の致命的な場所を貫くというもの。
誰しも魔力を自分の前で溜め込んでいる相手がいれば、真っ先に仕留めたくなるもの。その穴を狙った連携技のようだ。
「……オラァ!! 」
大男の豪腕が緑色の光に包まれた瞬間、連携を取っている黒髪の少女は剣に魔力を流して後ろへ後退する。
ここまでは読み通り、もし、もう一度同じ攻撃をして来る場合……次に避けることはまず余裕だ。
しかし、一澤の動き次第ではまた致命傷を食らう可能性だってある。
「……やはり、何か注意を引くような一手が欲しい。奴らが恐れを慄く…… 」
相手全員を恐怖に陥れるような一撃が欲しい。そうすれば、少しの間でも時間を作ることが出来る。その間に零を逃して、星咲のところへ行かなければならないからだ。
六人全員を恐れ慄かせる方法なんて、俺には持ち合わせていなーー。
……いや、一つだけある!!
俺は彼らが「星咲」という人物に恐怖を抱き、崇めているコトを思い出し、策を一つ考えることに成功する。
ただ、この策は極めて危険につき成功率がかなりと言っていいほどに低い。
1%の可能性があるならば、何度だってやるしかない!試さなければ0%で終わりだ!!
「目を瞑って、諦めでもしたか? 」
「ふふふ、郷は腹部を狙って?私は足を貰うわよ! 」
女の言葉、大男の言葉。彼らの額に流れる汗も、焦りも、嘲笑も今では手に取るように分かる。そうなれば、彼らの連携など欠伸をしながらでも避けられるのだ。
大男が腕を引いて、勢いよく拳を放った。凄まじい魔力量からか、放った時の力の働きで衝撃波が生み出される。
勢いの強い突風として風邪と空気を味方につけた大男は拳を命令された場所よりも上の部分ーー顔面を捉えて放たれた。
「やっぱり、言葉は囮だったか。分かってはいたけど、改めて視ると狡猾だな。でかい図体だから頭はお陀仏かと思えば、しっかりしてんだなぁ……! 」
男の緑色に発光する拳は目と鼻の先まで来ていた。
俺が"視た"未来は、男の拳は顔ではなく腹部へ放たれる。その瞬間に後ろから伸びる剣が湾曲して両足を貫くというもの。
未来予測の中の俺は相変わらず成すすべなく殺されそうになっていた。
腕ならば、どうにでもなるが次に足を奪われれば間違いなく終わりだ。
魔力が篭った拳は俺の腹部へ放たれる。ここは《追憶の未来視》で把握していた部分だ。瞬間的に地面を蹴って、身体を斜体に滑らせながら拳を回避。後ろからの伸びる剣にも注意を払って、クルッと回れば、刀剣で迫り来る剣を相殺する。
甲高い金属音が周囲に響き、一澤を含めた全員が俺の動きに驚愕した。
「……ッ!!どういうことだよ!?俺らの動きが読まれてたのか!? 」
男は両腕を大きく広げ、一澤へ抗議をする。一澤は微妙に難しい表情を浮かべながら、薄く笑った。
「……また怖い一年生が入ってきたものですね。私の推測からするに、一度目はワザと当たって行動パターンを見たんですね。そこから導き出される答えを正確に判別し、行動へ移す。言葉で言うのは簡単ですが、実際に行動として移すのはかなり高難度。なかなかのやり手だったとは……」
あまりに早口で会話を勧められたので、後半は何を言っているか分からなかったが、一澤は俺がやったコトを見抜いたのだ。
《追憶の未来視》の原理を。
「その答えが導き出された我々のやるべきことは、一同に彼にやったことのない攻撃を仕掛ければよろしいでしょう。郷、麗美! 」
「「御意!」」
彼らは拳と剣を武器とせずに、地面へ手を伏せた。
これから何が起こるのか……一澤の言っている原理"だけ"であれば普通は分からない。
でも、残念。《追憶の未来視》はそんなに甘くない。
地面に手を伏せて、二人の魔力を地面の中で混同。すると、混ざり合うはずもない魔力が地中で混乱し、大噴火を巻き起こす。それを、何事もなかったかのような表情で薄く笑う一澤が操作して、俺へぶつけるというモノ。となると、一澤は操作系の能力?
思考を回転させていると、早くも地面の中で何かが起きていることは分かった。
小さな地鳴りが小刻みに砂を移動させている。
そしてーー。
大きな轟音と爆発による噴出によって、地面は裂かれた。凄まじい魔力の集合体が柱のように聳え立っている。
「……魔力操作! 」
何らかの形で魔力の柱と接触した一澤は、柱を巨大な龍へと具現化させる。緑と紫が入り混じる混沌の龍は、鋭い牙を持つ大きな口を開いて俺へ襲いかかってきた。
恐らく、ぶつかれば即死。あの魔力にはそれだけの"何か"が込められているようだ。
あの魔力を相殺できる魔法、俺が記憶しているもので一番強力といえばーー。
いや、考えている暇なんかない。
すぐに行動へ移すべきだ!!出来ないとかマイナス思考を考えるな!
成功することだけを考えろ!!
俺はあの熱量と凄まじい魔力による具現化を思い出し、両腕へと記憶を伝える。
彼はどういう表情で"隕石"を落としていた?狂気に満ちた表情だ、戦闘を心から楽しむような表情。
俺は口元を歪めて精一杯狂気に満ちた表情を作る。ここまでのイメージトレーニングは終了、そして完了。
あとは魔法に具現化するだけだ。
最後は渾身の思いを込めて……詠唱で手向けを。
「《星降る夜、業火の元に……流れ星は落下し……目標を撃ち砕かん!地獄の隕石!》 」
俺の詠唱が完了すると、空中で魔法陣が展開される。
巨大で緋色に禍々しく光るソレは、改めて見るとやはり、生き物のように蠢いていると感じた。
そしてーー、詠唱の手向けと魔法陣展開が完成した瞬間。
「嘘でしょう……!?私達が崇拝するあのお方の魔法を何故貴方がッッ!? 」
「ま、まずいわよ!アレは、無数に降り注いでくるパターンのもの! 」
「逃げろぉぉぉおおおお!!! 」
だが、彼らは逃げられない。凍てついた少女の魔力展開によって、大地は冷気に包まれていた。
乾いた音が連続して巻き起こると、いつの間にか六人全員の足は完全なまでに凍結されていた。先程は走っている時の勢いがあったので突破することが出来たが、踏み出すタイミングにそんな勢いはない。
ーー終わりだ。
魔法陣から無数に降り注ぐ隕石によって彼らの僅かな希望の蔦でもあった魔力の龍は消滅し、
泣き叫ぶ彼らを横目に見ながら俺と氷洞は星咲の待つ拠点へと向かったのだった。
一話目を御拝見頂き、誠にありがとうございます!
投稿予定日や更新に関しては、後書きやTwitterなどでお知らせする予定なので、ご了承ください。
TwitterID↓
@sirokurosan2580
今回は星咲の隕石を《追憶の模倣》でコピーするという回でした!
それでは次回予告です!
夜十が六人全員を倒した頃、《平和派》拠点では無数に蔓延る兵を朝日奈が倒し、黒、沖の戦闘狂コンビと須賀元春の対決が行われていた。
ぶつかり合う三人の剣戟、勝負を制すのは!?
次回もお楽しみに!!
【ルール決め】
「どうする?あんたが突っ込んだ時に私が後ろから剣を刺すのだけど、このままでいいかしら? 」
「待て待て、相手が気づくかもしれんだろ?ここは一歩引いて剣を伸ばせばいいんじゃないか? 」
「それ名案ね!!そうしましょう!! 」
※この二人は恋人同士です。
拙い文章ですが、楽しく面白い作品を作っていきたいので、是非、応援よろしくお願いします!!




